「株式市場は今週のSQ(エスキュー)に向けて不安定な値動きとなるでしょう」
といった相場解説を耳にしたことがあるかもしれません。では、SQにはどんな投資行動が予想されて、どういう風に相場全体の値動きに影響を与えているかという点に関しては、曖昧な説明が多いように思われます。そこで、過去の値動きからどういう株価アノマリー(特異現象)がありそうなのか調べてみました。
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SQ算出日はなぜ注目される?
SQとはSpecial Quotationの略で、「特別清算指数」と呼ばれる株価指数先物や上場株価指数オプションの清算に使われる値の事です。株価指数先物の清算は3月、6月、9月、12月の第2金曜日と決まっていて、それらの応答日にSQが算出されるので、その日は「メジャーSQ」と呼ばれます。
一方、上場株価指数オプションは毎月清算されるのですが、これも各月の第2金曜日です。メジャーSQ以外の年8回のSQ算出日は、取引量が多い先物の清算がないオプションだけのSQということで「マイナーSQ」と呼ばれます。
これだけだと、「先物や上場オプションは使わないから自分には関係ない」と思ってしまいがちですが、そうではありません。日本で最も取引されている株価指数先物や上場株価指数オプションの対象となっている株価指数は日経平均で、これは225銘柄の株価から算出されています。先物や上場オプションも実際には需給で価格が動くので、短期的に実際の株価指数よりも割高になったり、割安になったりする状況が生じます。この時、例えば先物が割高になっていたとしたら、先物を売る(ショートする)と同時に株価指数を構成する225銘柄を構成比どおりに買えば、理論上は無リスクで収益を得ると考えることができます。
逆に、先物が割安だったら、先物を買って(ロングする)同時に現物を貸し株で借りてきて、やはり構成比どおりにショートすればよい訳です。こういった取引は株価指数先物の裁定取引と呼ばれます。
ここで問題となるのは、裁定取引で出来上がったポジションは、割高・割安が解消された時点で反対売買しなければ利益が確定しないことです。これを最も簡単にできるのが、先物の清算価格が現物株の価格と確実に一致するSQなのです。SQの計算には、各構成銘柄の寄り付き値(最初に取引された価格)を用います。このため、裁定取引で先物売り・現物買いのポジションを持っていたら、SQ当日の朝に保有している現物株をまとめて成り行きで全部売ればよいと考えられます。ここで現物株の価格がいくらになっても関係がないことも重要です。仮に、現物株が暴落してSQ値が下がっても、先物の清算で使われるSQも定義上必ず下がって一致するからです。
逆に先物買い・現物売りのポジションを持っていたら、ショートポジションになっている分だけ成り行きで現物株を買い戻して貸し株を返済するだけです。ここで現物株が急騰しても、やはり裁定取引には関係ありません。先物の清算に用いられるのがSQ値で必ず一致するからです。
同様に、上場株価指数オプションも裁定取引ができます。プットとコールを組み合わせれば、先物を買っているのと同じ効果を得られる合成ロングポジションや、先物を売っているのと同じ合成ショートポジションが構築できます。このため、マイナーSQでも裁定取引の解消にともなう売買が出てきます。
さらに、日経平均は算出方法にやや難があるため、株価が高い一部の銘柄の影響を受けやすくなっています。特にファーストリテイリング、ファナック、ソフトバンクの上位3銘柄だけで構成比が2割もあり、こういった一部の構成銘柄の価格が動くだけで先物や上場オプション取引の清算に用いられるSQ値が大きく動いてしまいます。このため、SQ当日の日経平均構成上位銘柄には様々な思惑をもった売買も出やすくなります。だから、SQ当日の寄り付きは、裁定取引解消のための売買と思惑売買で波乱が起こりやすく、その日の値動きも荒れやすいのです。また、先回り取引があればSQの数日前も値動きが荒くなると考えられます。
SQ関連の株価アノマリーはどういったものがある?
「SQ当日、あるいはSQの週は相場が荒れる」といっても、何がどう動くのかはっきりしないと投資戦略を建てることができません。そこで、2000年1月から2015年5月までの期間において、「メジャーSQ」、「マイナーSQ」と「メジャーSQがある週の月曜日から金曜日」、「マイナーSQがある週の月曜日から金曜日」について、下記の3点を調べてみました。
◎前日比:「株価は上がるのか、下がるのか」
◎前日比の値動きの大きさ:「上下に拘わらず、値動きが大きいのか」
◎日中の値動き:「当日高値÷当日安値で測った当日中の値動きは他の日と差があるのか」
これらの組み合わせのうち、統計的に意味がある結果となったのは以下の3つでした。
1. メジャーSQの日は日経平均が上がりやすい(信頼度90%)
(解説)3月、6月、9月、12月のSQ算出日(第2金曜日)は日経平均が0.33%程度高くなる傾向が認められました。これは日経平均を2万円とすると66円となり、かなり大きな数字です。SQ当日の平均騰落率を年ごとに示したのが図1です。2002年、2004年、2008年、2011年、2014年と相場が膠着状態にある場合には逆方向に動く事もある点には要注意ですが、総じて「メジャーSQは高い」とはいえそうです。
図1:SQと平均騰落率(前日比)
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
2. マイナーSQがある週(月〜金)は日経平均が下がりやすい(信頼度99%)
(解説)メジャーSQ当日とは逆に、マイナーSQがある週の月曜日から金曜日は日経平均が0.22%程度下げやすい傾向があることが分かりました。日経平均を2万円とすると44円程度の金額となります。このアノマリーは信頼度が99%と高く、図2をみてもほぼ例外なく全期間に比べて日経平均が下げやすいということが見てとれます。
図2:SQと平均騰落率(前日比)
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
3. マイナーSQのある週(月〜金)は日中の値動き(高値÷安値)が大きくなりやすい(信頼度97%)
(解説)マイナーSQがある週は、(2)の終値ベースで前日より安くなりやすいということに加えて、当日の値動きが大きくなる傾向が確認されました。平均して1日当たり0.087%で、日経平均が2万円とすると17円程度となります。それほど大きくは無いのですが、(2)と同様にこれも信頼度が97%と高い点が注目されます。
図3は年ごとの平均値を示したものです。2001年、2005年と2010年が例外といえますが、それ以外の年はマイナーSQの週は1日当たりの日中の値動きが大きかったといえます。
図3:日中の値動き(高値/安値)とマイナーSQの週
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
SQアノマリーを活かした投資戦略
今回観察されたSQのアノマリーが今後も継続するのであれば、リスクを抑えた投資機会にできる可能性があります。
まず「メジャーSQ当日に日経平均が上昇しやすい」なら、メジャーSQ前日にレバレッジが大きめの日経平均コールや日経平均プラス5倍トラッカーを購入して翌日に手仕舞う、または前日に翌限月の日経平均先物をロングしてSQ当日に売却する(反対売買を行う)ことが考えられます。ただし、相場が膠着状態にある時には見送った方が良いかもしれません。
Q. コール/プットの違いとは?
日経平均が上がると予想するなら → コール
日経平均が下がると予想するなら → プット
eワラント利用例:日経平均コール873回(権利行使価格18,500円、満期2015/7/8)、日経平均プラス5倍トラッカー16回(満期2015/9/9)
「マイナーSQの週には日経平均が下がりやすい」なら、マイナーSQの前週の金曜日に日経平均マイナス3倍トラッカーや相対的に時間経過に強い日経平均プットを購入してマイナーSQ当日(金曜日)に手仕舞う、または前週末に翌限月の日経平均先物をショートしてマイナーSQ当日に買い戻す(反対売買を行う)ことが有効と思われます。
eワラント利用例:日経平均マイナス3倍トラッカー15回(満期2015/9/9)
日経平均プット667回(権利行使価格21,000円、満期2016/2/17)
「マイナーSQの週は日中の値動きが大きくなりやすい」は、日中の値幅が大きくなる傾向があるといっても1日当たり17円程度だけなので、投資機会にするにはアノマリーの程度が少ないように思われます。ただ、日計り売買を行うならマイナーSQの週を狙うと勝率を上げやすいとは言えそうです。
(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)
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