4月中旬以降、米国や欧州の早期経済活動再開への期待から株式市場は持ち直しの動きが見られます。前回のレポートでもご紹介したように、投資家の視点も「総悲観」状態を脱し、「アフターコロナ(又はウィズコロナ)」における株式市場の回復に移りつつあると考えられます。
一方で、株式市場に更なる波乱をもたらす可能性がある「リスクの種」はいたるところに転がっています。代表的な例として挙げられるのは原油相場でしょう。産油国は協調減産の再開を決めたものの、減産幅を上回る需要の減退が想定されることから、WTI原油先物(5月限)が史上初めてマイナスを記録するなど、大きく下落をしています。これらのリスク要因が大きく弾けた際には、持ち直しの動きが見られる株式相場が二番底を迎える可能性も否定できません。
eワラントとは?
そもそもワラントってなに?3,000円程の少額から始められる「eワラントの魅力」をご紹介いたします。
保有株の下落にプットで「保険」をかける
相場の下落に備えるのであれば、保有する株式等を売却することが考えられます。しかし、予想に反して相場が上昇した場合には、株価の上昇で獲得できたはずの収益(機会収益)を手放すことにもつながります。また、安値で売却した株式を高値で買い戻すというのは投資家心理としても受け入れがたいという方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、相場の下落による評価額の下落を限定しつつ、株価上昇による収益獲得を狙う方法として、個別株とその株式を対象とするプット型eワラントを併せて保有するという投資法があります。具体的には、保有している株式数に相当するプット型eワラントを買い付けるという方法です。
プット型eワラントは一般的に対象となる相場(株式や為替など)が下落することで価格の上昇が見込まれるという性質を持っています。逆に、相場が上昇する、もしくは相場があまり動かない状態が続けば価格は下落してしまいますが、最大損失は投資元本までに限定されています。その性質を活かして、相場下落時には、保有株の損失をプット型eワラントの利益で相殺し、損失を限定させることができます。相場上昇時にはプット型eワラントの購入金額だけ利益は縮小することになりますが、上昇幅が大きくなればそのぶんだけ利益は拡大していくことになります。オプション戦略でいうところのプロテクティブ・プットと呼ばれる投資戦略で、プット型eワラントを株価下落に対する「掛け捨て保険」のように使うことができます。
プロテクティブ・プットの実践例〜日本航空の例〜
今回は株主優待が人気で長期保有されている方も多いと思われる日本航空(9201)を事例として紹介します。今回の新型コロナウイルスによる外出の自粛や渡航制限による業績悪化懸念から、ピークに比べて大きく株価が下落しています。
前提として、日本航空の株式を3,000円の時に400株買い付けていたとします。中国・武漢での新型コロナウイルス被害拡大が報じられていた2月3日の取引終了時点で、さらなる株価下落を懸念してプット型eワラントを買い付けることを想定します。なお、株式保有に生じた手数料は考慮していません。
前提
対象株式:日本航空(9201)
株価:3,037円(2月3日終値)
買付単価:3,000円
保有数量:400株
買い付けるプット型eワラントの選び方については以下の点をポイントに選ぶとよいでしょう。保険商品のように手厚い補償を必要とすれば、そのぶん保険料=eワラントの買付価格は高くなります。
①満期日≒保険期間(他の条件を同じとした場合、期間が長いもののほうが保険料は高くなります)
②権利行使価格≒補償範囲(他の条件を同じとした場合、権利行使価格が高いほど保険料は高くなります)
今回は少なくとも株主優待の権利付き最終日までの株価下落に保険を掛けたいと考え、満期日が権利付き最終日(3月27日)より先の銘柄を選んでいたとします。本来であれば保険料はできるだけ安く抑えたいところですが、今回は新型コロナウイルスという未知の脅威をリスクと捉え、やや補償内容を厚めに設定しています。
買い付けるプット型eワラント
日本航空 プット 第55回
満期日:2020年5月13日 権利行使価格:3,500円
買付単価(売気配値):23.03円(2月3日取引終了時点) ※1
1ワラント当たり原資産数:0.05 ※2
対象株式400株に対して必要な買付数量:8,000ワラント ※3
買付金額:184,240円
※1 eワラントの価格(気配値)は市場動向によって変化します。
※2 全てのeワラントに予め定められている小口化のための係数です。
※3 必要な買付数量=株式保有数量(400)÷1ワラント当たり原資産数(0.05)
保有株の全てに保険をかけるのであれば上記の式にあるように8,000ワラント必要となります。保有株の評価損益と上記プット型eワラントの評価損益の推移は以下のようになります。
コロナショックで航空業界の業績悪化が懸念される中、日本航空株は大きく下落し、株式だけを400株保有していた場合、4月21日終値時点で40万円を超える損失が発生していたことになります。一方で、株価の下落を受けてプット型eワラントは大きく上昇し、逆に40万円近い利益が出ていたことになります。これらを合計したポジションの評価損益は約4万円の損失にとどめることができていたことになります。
満期保有or途中売却?
この保険効果はプット型eワラントの満期まで継続します。仮に満期(5月13日)まで保有していた場合の損益は以下のようになります。仮に株価が4月21日現在の水準1,900円程度で満期を迎えた場合は44,240円の損失でとどめられることになります。
満期日の株価 | 株式評価額 | 株式評価損益 (A) | eワラント 満期決済単価 | eワラント 満期決済損益 (B) | 合計損益(C) =(A)+(B) |
---|---|---|---|---|---|
4,500 | 1,800,000 | 600,000 | 0 | -184,240 | 415,760 |
4,000 | 1,600,000 | 400,000 | 0 | -184,240 | 215,760 |
3,500 | 1,400,000 | 200,000 | 0 | -184,240 | 15,760 |
3,000 | 1,200,000 | 0 | 140,000 | -44,240 | -44,240 |
2,500 | 1,000,000 | -200,000 | 340,000 | 155,760 | -44,240 |
2,000 | 800,000 | -400,000 | 540,000 | 355,760 | -44,240 |
1,500 | 600,000 | -600,000 | 740,000 | 555,760 | -44,240 |
1,000 | 400,000 | -800,000 | 940,000 | 755,760 | -44,240 |
以上のようにプット型eワラントを下落に対する保険として活用することによって、現物株を手放すことなく最大損失を確定させることができます。ただし、これはあくまで満期まで保有した場合です。満期日より前であればeワラントは買い取ってもらえるため、株価が上昇していて保険を掛ける必要性がなくなったらeワラントを売却してしまってもかまいません。
(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 投資情報室長 多田 幸大
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