先週は「テーパリング」の開始を決定したFOMCを無難に通過、雇用市場の良好な指標や新たな経口新型コロナ治療薬への期待から大幅続伸となりました。今週は米国の10月物価指標、インフラ投資法案成立の相場インパクト、気候変動の国際会議「COP26」関連の報道、などが注目されます。
今回は先週発表の好決算銘柄から、ファイザー(PFE)、クアルコム(QCOM)、エスティ ローダー A(EL)、ブッキング ホールディングス(BKNG)、アンシス(ANSS)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
一般消費財・サービス | 5.0% | 14.7% | 15.3% |
情報技術 | 3.3% | 9.9% | 7.8% |
素材 | 3.2% | 8.2% | 4.4% |
生活必需品 | 2.4% | 4.5% | 3.3% |
S&P500 | 2.0% | 7.0% | 5.9% |
資本財・サービス | 1.8% | 5.4% | 2.8% |
コミュニケーションサービス | 1.4% | 2.4% | 1.3% |
エネルギー | 1.3% | 2.9% | 18.1% |
不動産 | 0.8% | 8.0% | 3.2% |
公益事業 | 0.4% | 3.7% | -0.4% |
金融 | -0.6% | 2.5% | 5.8% |
ヘルスケア | -0.7% | 4.6% | 0.0% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
クアルコム | 22.5% |
エヌビディア | 16.4% |
サイモン・プロパティー・グループ | 16.3% |
デュポン・ド・ヌムール | 15.5% |
フォード・モーター | 12.9% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
メルク | -7.3% |
ネットフリックス | -6.5% |
ダナハー | -6.3% |
オールステート | -5.3% |
アボットラボラトリーズ | -3.5% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
堅調な企業決算を背景にS&P500指数は10/28(木)から7連騰となり、年初来の上昇率は25.1%に達しています。企業決算のほかにも、ISM非製造業景気指数、雇用統計の非農業部門雇用者数などが市場予想を上回ったこと、また、ファイザーが経口の新型コロナ治療薬の良好な臨床データを発表したことが相場を押し上げました。
注目されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、11月からの「テーパリング」開始が市場予想通りに決定されました。FRB(米連邦準備制度理事会)による1,200億ドルの債券購入を毎月150億ドルずつ減らして、2022年6月に完了する見込みです。一方、FRBはインフレ高進は一過性との判断を堅持、早い時期に利上げが必要となる公算は小さいとの認識を示して市場金利の上昇をけん制しました。
米10年国債利回りは11/3(水)には1.6%台へ0.05%ポイントの上昇となりましたが、11/4(木)には0.07%ポイントの反落となりました。さらに、11/5(金)の1.455%への低下は、先進国で最初の利上げを行うとみられていたバンク・オブ・イングランドが予想外に政策金利を維持したことが影響したとみられます。
S&P500指数は週間で2.0%、NYダウは1.4%、ナスダック指数は3.1%の上昇でした。また、先週は小型株指数のラッセル2000が6.1%の上昇となっています。同指数は今年3月に高値を付けて以降、横ばいが続いていましたが、動意がみられます。
業種指数では、自動車の上昇が効いた「一般消費財・サービス」がトップ、「メタバース」関連銘柄への物色が目立った「情報技術」が2位です。一方、米10年国債利回りの低下を受けて「金融」は下落しました。
個別銘柄では、「メタバース」関連で注目されたエヌビディア(NVDA)の上昇が目立ちました。仮想空間の利用が広がる場合に、コンピュータの画像表示能力の増強が必要となり、グラフィックプロセッサー市場でAMDと2強の同社が恩恵を受けるとのシナリオです。ウェルズファーゴのアナリストは、メタバースによって100億ドルの売上機会が追加されたとして、目標株価を320ドルに引き上げています。
経済指標では、米国の10月雇用統計の非農業部門雇用者数は前月比53.1万人増となり、9月の同31.2万人増から改善、市場予想の同45万人増も上回りました。また、米国の10月ISM非製造業景気指数が66.7と前月の61.9から大幅に改善して市場のセンチメントを押し上げました。デルタ変異株による影響から回復しつつあることが確認されました。
今週の米国株式市場
米国の10月物価指標、インフラ投資法案成立の相場インパクト、気候変動の国際会議「COP26」関連の報道、などが注目されます。
物価指標については、11/9(火)の生産者物価指数が前月の前年比8.6%から横ばいの予想ですが、11/10(水)の消費者物価指数は前月の前年比5.4%増から同5.9%増へ上昇する見通しとなっています。FRBは物価上昇は一過性とのスタンスを維持していますが、市場の反応に要注目でしょう。
米議会下院は11/5(金)の夜、バイデン大統領が主導する5年間で総額1兆ドル(約113兆円)規模のインフラ投資法案を可決しました。過去の財政支出の効果が低下する「財政の崖」の影響を緩和して、経済回復を確かなものにするために必要な措置と考えられていました。同法案は8月に上院で可決してから下院での交渉が難航していましたので、株式市場にはポジティブに作用すると期待されます。
ただし、先々週に気候変動・社会保障関連歳出法案を3.5兆ドルから1.75兆ドルに縮小した時点で、インフラ投資法案の成立の可能性が高まっていましたので、市場への織り込みはある程度進んでいるとみられます。
10/31(日)に始まった「COP26」は岸田首相やアメリカのバイデン大統領など100人を超える首脳たちが演説を行って前半が終了しました。11/12(金)まで開催される後半では、閣僚級などによる詰めの交渉が始まり、温室効果ガスの排出削減量を取り引きできる国際ルールについて合意できるかなどが焦点となります。
決算発表は社数ベースで約9割まで進み、S&P500指数採用銘柄のEPS(発表済み企業の実績と未発表企業の予想の混合)は、前年同期比39.1%増まで伸びました(FactSet社の集計、11/5時点)。6月末時点の予想は同27.5%増でしたので11.6%ポイントの上方修正です。
経済指標では上記の物価指標以外に、11/12(金)に米国の11月ミシガン大学消費者マインド(前月の71.7から72.5へ改善の予想)などの発表が予定されています。
企業イベントでは、ペイパルホールディングス、バージンギャラクティック、AMCエンターテインメント、パランティアテクノロジーズ、ユニティソフトウェア、コインベースグローバル、ドクシミティ、ウォルトディズニー、マルケタ、ロイヤルティファーマ、アファームホールディングス、ビヨンドミートなどの決算発表が予定されています。
高値目標は4,700ポイントで維持
筆者は8月初に「S&P500指数の2022年予想EPSが年末までに235ポイントまで上昇修正されると想定して、PER20倍の4,700ポイントを年内の高値目標とする」としてきました。
しかし、2022年予想EPSの上方修正は図表3の通り緩慢で、235ポイントまで到達するのは難しそうです。このため、4,700ポイントに到達しましたが、高値目標は4,700ポイントで維持します。
株価がさらに上昇したとしても、その分株価の割高感が強まりやすく、株価は不安定となりやすいでしょう。当面は指数ベースでの上値は限定的と考えられ、銘柄の選別が重要な局面に入っているとみられます。
S&P500指数の予想EPSについては、7-9月期決算が堅調となったことから、予想期間を1四半期残すのみの2021年の予想EPSは2.6%上方修正されたのに対して、予想期間が長い2022年の予想EPSの上方修正はいまのところ1.6%にとどまっています。
2022年の予想EPSの上方修正が緩慢となっている理由としては、(1)原材料高、サプライチェーンの混乱、半導体不足、労働者不足などの影響が今後の業績についても懸念材料となっている、(2)7-9月期の業績好調に一時的な上振れ要因が含まれている、などが考えられます。
今週の5銘柄
今回は下掲のスクリーニング条件を満たす、図表4に抽出した先週の好決算銘柄から、ファイザー(PFE)、クアルコム(QCOM)、エスティ ローダー A(EL)、ブッキング ホールディングス(BKNG)、アンシス(ANSS) を選んでご紹介いたします。
【スクリーニング条件】
(1)7-9月期決算で売上が市場予想を3%以上上回る、EPSが市場予想を10%以上上回る
(2)7-9月期決算が前年同期比増収増益
(3)時価総額が300億ドル以上のS&P500指数採用銘柄
図表3 S&P500指数の予想EPSの推移、2022年予想EPSの上昇修正が緩慢
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 先週発表の好決算銘柄(S&P500指数採用銘柄が対象、時価総額順)
銘柄(コード) | 売上高 市場予想比 (%) |
EPS 市場予想比 (%) |
売上高 前年同期比 (%) |
EPS 前年同期比 (%) |
ファイザー | 6.2 | 24.2 | 98.6 | 86.1 |
クアルコム | 5.2 | 12.8 | 43.4 | 75.9 |
CVSヘルス | 4.7 | 10.5 | 10.1 | 18.7 |
エスティローダー | 3.2 | 11.8 | 23.3 | 31.3 |
ゾエティス | 3.0 | 13.2 | 11.4 | 13.6 |
ブッキング・ホールディングス | 8.8 | 17.0 | 77.1 | 207.3 |
リジェネロン・ファーマシューティカルズ | 22.3 | 56.1 | 50.5 | 83.9 |
イルミナ | 5.9 | 21.2 | 39.6 | 42.2 |
バーテックス・ファーマシューティカルズ | 6.6 | 15.1 | 29.2 | 34.9 |
プルデンシャル・ファイナンシャル | 43.6 | 37.7 | 47.4 | 17.8 |
パーカー・ハネフィン | 3.1 | 14.9 | 16.5 | 38.8 |
エレクトロニック・アーツ | 5.1 | 35.3 | 103.4 | 3060.0 |
アンシス | 7.6 | 17.7 | 20.7 | 16.9 |
Corteva Inc | 16.2 | 55.1 | 27.3 | 64.1 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (11/5) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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ファイザー(PFE) | 48.61ドル | 12.2 | 【新型コロナ飲み薬が新たな注目材料に】 ・同社は開発中の新型コロナ飲み薬「パクスロビド(PAXLOVID)」が発症後3日以内の投与により入院や死亡するリスクを89%減らせたとの臨床試験データを11/5(金)に公表して、新たな注目材料となっています。緊急使用許可を得るためFDAに詳細なデータを提出する予定で、早ければ年内に米国で投与が始まる可能性があります。米メルクなどが開発した「モルヌピラビル」は、発症後5日以内に投与した場合の入院・死亡リスクを約50%減らす効果があるとしていました。 ・7-9月期決算は、新型コロナワチンの売上拡大によって市場予想を上回り、通年の売上ガイダンスも3%引き上げました。新型コロナワクチンの売上は360億ドルに達する見通しです。ただし、新型コロナワクチンを除く売上は4-6月期の前年同期比10%増から同7%増に減速していたため、決算発表を受けて上昇した株価はその後利食いに押されていました。 | ||
クアルコム(QCOM) | 163.03ドル | 16.0 | 【10-12月期ガイダンスが市場予想を上回る】 ・サプライチェーン問題の影響が懸念されていましたが、10-12月期の売上ガイダンスのレンジ中央値が前年同期比26%増、市場予想を7%上回ったことで安心感が広がっています。5G端末の普及によるモデムチップの需要増に加え、高周波部品でのシェア拡大により2022年にかけても高い売上の伸びが続くと期待されます。 ・7-9月期の売上は、GAAPベースでは前年同期比12%増ですが、前年同期の売上に含まれる一時的要因(ファーウェイとのライセンス契約に関係する一時金)を除くと同43%増です。部門別の売上は半導体のQCTが同56%増、ロイヤリティのQTLが同3%増でした。QCTはハンドセットが同56%増のほか、高周波部品、自動車、IoTともに同40%を超える伸びとなっています。 | ||
エスティ ローダー A(EL) | 349.50ドル | 46.8 | 【パンデミックによる打撃から順調に回復】 ・グローバルなスキンケア市場の拡大を背景に成長している企業です。パンデミックでは主にメークアップ分野で打撃を受けましたが、今後は経済再開による恩恵が期待できます。2022年6月期の売上成長は、市場平均の前年比6-8%増を上回る前年比9-12%増を目標としています。 ・7-9月期のオーガニック売上成長は前年同期比18%増で、分野別にはスキンケアが同12%増、メークアップが同18%増、フレグランスが同48%増などとなっています。原材料費などのコストアップ分は製品価格への転嫁を行い、利益率の悪化は回避できています。10-12月期の売上ガイダンスは、前年同期比11〜13%増、オーガニック成長率は8〜10%増を見込んでいます。 | ||
ブッキング ホールディングス(BKNG) | 2618.97ドル | 26.5 | 【旅行規制解除の恩恵が期待される】 ・グローバルに展開するホテル予約の大手です。パンデミックによる打撃が大きくなりましたが、需要は徐々に回復しつつあり、世界的な経済再開の恩恵が期待されます。新型コロナワクチンの接種進展や経口治療薬の開発により、新型コロナ克服の確度が高まっていると考えられます。 ・旅行規制が徐々に緩和されていることから、7-9月期の売上は前年同期比77%増、2019年7-9月期との比較でも93%の水準まで回復、2021年4-6月期比では2.2倍となっています。同社は欧州を中心とする海外売上の比率が89%%と高く(2020年12月期)、欧州での規制解除による回復が効いています。 | ||
アンシス(ANSS) | 406.69ドル | 51.0 | 【企業景況感の回復から恩恵】 ・設計支援システムのCAE関連ツールの大手。流体解析や構造解析のシミュレーションなどに使われ、顧客は電機・自動車・航空関連などの製造分野が中心です。パンデミックの終息で企業の製品開発意欲が回復しているとみられることから、業績拡大基調の持続が期待されます。 ・7-9月期の売上は会社のガイダンスである396〜421百万ドルを上回る441百万ドルで前年同期比21%増、調整後EPSは同17%増と好調でした。北米のテクノロジー企業、半導体企業向けの売上が伸びて米州の売上が同44%増となって、全体をけん引しています。10-12月期の売上は前年同期比2%減〜4%増に相当する609〜649百万ドルのガイダンスです。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、クアルコムが2022年9月期、エスティローダーが2022年6月期、その他は2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
8(月) | ペイパルホールディングス、バージンギャラクティック AMCエンターテインメント |
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9(火) | ・中国資金調達総額(10月、15日までに発表) ・ドイツZEW景気指数(11月) ・米NFIB中小企業楽観指数(10月) ・米生産者物価指数(10月) |
パランティアテクノロジーズ、ユニティソフトウェア、 コインベースグローバル、ドクシミティ バイオエヌテック、アップスタートホールディングス |
10(水) | ・日本工作機械受注(10月) ・中国生産者・消費者物価指数(10月) ・米消費者物価指数(10月) ・米新規失業保険申請件数(11月6日に終わる週) |
ウォルトディズニー、マルケタ、ロイヤルティファーマ アファームホールディングス、ビヨンドミート コインベースグローバル |
11(木) | ||
12(金) | ・ユーロ圏鉱工業生産(9月) ・米求人労働異動調査(9月) ・ミシガン大学消費者マインド(11月、速報値) |
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15(月) | ・日本実質GDP(7-9月期、速報値) ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(10月) ・中国調査失業率(10月) ・ニューヨーク連銀製造業景気指数(11月) |
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16(火) | ・ユーロ圏実質GDP(7-9月期、速報値) ・米小売売上高(10月) ・米鉱工業生産(10月) ・米NAHB住宅市場指数(11月) |
ウォルマート、ホームデポ |
17(水) | ・日本機械受注(9月) ・米住宅着工・建設許可件数(10月) |
エヌビディア、シスコシステムズ、ターゲット、ロウズ |
18(木) | ・EU27ヵ国新車登録台数(10月) ・米新規失業保険申請件数(11月13日に終わる週) ・フィラデルフィア連銀製造業景気指数(11月) |
アプライドマテリアルズ |
19(金) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成