6/9-6/16の香港市場は反落しました。米国の大幅な利上げによる景気後退懸念で世界同時株安の様相となり、投資家はリスク回避姿勢を強めました。ただし、中国株主要指数の下げ幅は世界主要株価指数に比べると限定的でした。中国の経済指標の改善に加え、米国や欧州中央銀行(ECB)が利上げを実施しているなか、中国は金融緩和の過程にあることが中国株を下支えしました。
今回は、オンライン教育関連銘柄の急騰とその背景を確認してみたいと思います。
図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
注:6/16(木)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。
図表2 香港市場の業種別指数騰落率(6/16(木)までの騰落率)
注:業種別騰落率はハンセン総合指数が母集団です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(6/16(木)までの騰落率)
ハンセン指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00981 | 中芯国際 [SMIC] | 1.8% | 13.7% | 7.8% | 半導体受託生産(ファウンドリー)大手。6/13から正式にハンセン指数入りした。米国での投資家による民事訴訟を裁判所が棄却したことも、買い手掛かりとなった。 |
02628 | 中国人寿保険 [チャイナ・ライフ] | 1.8% | 12.1% | 7.8% | 大手保険会社。5月の保険料収入が回復し、買い手掛かりとなった。大手証券会社がバリュエーションの修正が期待できるとし、保険株を推奨した。 |
00011 | 恒生銀行[ハンセン・バンク] | 1.7% | -0.4% | -3.4% | 香港の大手銀行。米国の大幅な利上げが買い材料となった。米国の利上げは、米国の金融政策に追随する香港で事業を展開する銀行にとってプラス材料となる。 |
02388 | 中国銀行(香港) [BOCホンコン] | 1.7% | 2.6% | 9.4% | 中国4大銀行の一角である中国銀行の香港子会社。米国の大幅な利上げが買い材料となった。米国の利上げは、米国の金融政策に追随する香港で事業を展開する銀行にとってプラス材料となる。 |
02318 | 平安保険 [ピンアン・インシュアランス] | 1.3% | 6.2% | -1.2% | 大手保険会社。5月の保険料収入が回復し、買い手掛かりとなった。大手証券会社がバリュエーションの修正が期待できるとし、保険株を推奨した。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02319 | 蒙牛乳業 [モンニュウ・デイリ] | -10.5% | -10.6% | -18.9% | 乳業大手。配当落ち後に、大手投資ファンドによる持ち株比率の引き下げがみられた。 |
00960 | 龍湖集団 [ロンフォー・グループ] | -11.9% | -15.4% | -4.7% | 中国不動産大手。1-5月の不動産販売額が前年同期比64%減となり、売られた。5月は前月比で23%増となり、回復もみられた。 |
00267 | 中国中信 [シティック] | -12.5% | -6.2% | -5.4% | コングロマリット。資源関連事業も手掛ける。足元の資源価格の軟調が売り材料となったもよう。大手投資ファンドによる売り買いが交錯した。 |
02313 | 申洲国際 [シェンジョウインター] | -12.7% | -11.5% | -3.7% | ニット衣料メーカー。ナイキやアディダス、ユニクロのサプライヤー。米国の5月の小売売上高が予想に反して減少し、売り材料となったもよう。 |
00669 | 創科実業 [テクトロニック・インダストリーズ] | -14.7% | -15.2% | -28.5% | 大手電動工具メーカー。大手証券会社が需要軟化を予想し、目標株価を引き下げた。同社の地域別売上高構成比(2021年)は北米が77%、欧州が15%となっている。 |
ハンセンテック指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00285 | 比亜迪電子 [BYDエレクトロニック] | 8.1% | 36.8% | 8.8% | BYD(01211)傘下のスマートフォン部品・受託製造メーカー。アップルのOEM業者である仁宝電脳がApple watchやiPadの生産から撤退。代わりにBYDやフォックスコンが請け負うことになったと報じられた。 |
02015 | 理想汽車[リーオート] | 5.5% | 45.1% | 32.9% | 新興EVメーカー。6/21に発表予定の新車種に対する期待が続いた。中国当局が新エネルギー車に関連する税制優遇措置の延長を検討していることも、好材料となった。(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場のLIとなっています。) |
03888 | 金山軟件 [キングソフト] | 4.6% | 23.1% | 23.3% | ゲーム・ソフトウェア大手。夏休み期間中に新しいゲームの大型プロモーションを実施する予定。同プロモーションが下期の業績を押し上げる可能性があると、大手証券会社がコメントした。 |
00268 | 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] | 4.5% | 20.3% | 9.5% | ソフトウェア会社。大手証券会社が投資判断「買い」を維持した。短期的には上海ロックダウンの影響を受けるものの、中長期的には大企業のIT投資から恩恵が期待できるとした。 |
06618 | 京東健康(JD Health) | 3.5% | 18.9% | 27.7% | JDドットコム(09618)傘下のインターネットヘルス大手。親会社のJDドットコムが主催する大型ECセール「6.18」に対する期待で買われたもよう。全般的にネット大手が利益確定売りに押されたなか、JD系企業が底堅い。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
01024 | 快手(Kuaishou Technology) | -8.0% | 17.6% | 6.3% | ショート動画大手。投資家のリスク回避姿勢の強まりを受け、ネット大手が利益確定売りに押された。新東方在線の新しいライブコマースによる競争激化懸念も売りを誘ったもよう。 |
06060 | 衆安在線財産保険 | -9.6% | -8.0% | 10.3% | オンライン保険大手。投資家のリスク回避姿勢の強まりを受け、ネット大手が利益確定売りに押された。 |
09698 | 万国数拠服務 | -11.6% | 3.6% | 0.9% | データセンターを運営。パフォーマンスが芳しくない中国の大手ヘッジファンドが保有する銘柄トップ10に同社株が入っていると報じられた。売り圧力が警戒されたもよう。 |
09961 | 携程旅行網 [トリップドットコム゚] | -12.0% | 1.6% | -1.8% | オンライン旅行サービス大手。投資家のリスク回避姿勢の強まりを受け、ネット大手が利益確定売りに押された。(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場のTCOMとなっています。) |
09626 | ビリビリ | -13.1% | 29.5% | 12.7% | 動画プラットフォーム大手。投資家のリスク回避姿勢の強まりを受け、ネット大手が利益確定売りに押された。新東方在線の新しいライブコマースによる競争激化懸念も売りを誘ったもよう。(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場のBILIとなっています。) |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
今週の中国株市況
6/9-6/16の香港市場は、ハンセン指数が4.7%下落、ハンセンテック指数は4.3%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数は、3.7%下落しました。米国の大幅な利上げによる景気後退懸念で世界同時株安の様相となり、投資家はリスク回避姿勢を強めました。
ただし、中国株主要指数の下げ幅は世界主要株価指数に比べると限定的でした。たとえば、6/9-6/16にS&P500指数とナスダック指数がそれぞれ8.7%下落、9.4%下落したのに対し、ナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数は3.7%の下落にとどまりました。5月の中国の鉱工業生産と小売売上高が市場予想を上回って回復したことに加え、欧米の利上げに反して中国は金融緩和の過程にあることも中国株を下支えしました。
業種別では、エネルギー、不動産、情報テクノロジーが軟調でした。エネルギーはペトロチャイナ(00857)やCNOOC(00883)など石油メジャーが下げを主導しました。米国の急速な利上げが米国および世界経済の下押し要因になりかねないとの懸念から原油先物価格が下落し、売りを誘いました。石炭大手のチャイナシェンハ(01088)とヤンクアン(01171)は石炭価格の上昇余地をめぐる不透明感から売られました。両銘柄はいずれも株価が買われ過ぎサインとされる70まで上昇したこともあり、利益確定売りが進みました。
不動産は、5月の主要70都市の新築住宅価格が前月比で下落が続いたことが、嫌気されました。ただし、下げ幅は4月より縮小しました。不動産デベロッパーの利払い日が今後1-2カ月間に集中していると報じられたことも、警戒を誘いました。不動産大手のカントリーガーデン(02007)や龍湖集団(00960)が大幅安となりました。
情報テクノロジーは、アリババ(09988)やテンセント(00700)、美団(03690)がそろって反落しました。これらの銘柄はネット大手に対する規制強化の早期終了期待で前週に大きく買われたこともあり、投資家のリスク回避を受け、利益確定売りに押されました。なお、前週のレポート(中国株 ココがPOINT! 〜アリババと海運株の下落要因とインプリケーション〜)で取り上げましたように、軟調な外需見通しを受け、中国当局は内需支援に動き出しています。ネット大手に対する締め付けの緩和や自動車の販売促進などがその一環です。
今後の見通しについては、前週のレポートで示したものと同様で、下記に再掲します。「ネット大手への締め付けが一段と緩和されれば、業績回復にもつながるとみられます。ネット大手は短期的な急反発で一旦利益確定売りに押される場面も想定されますが、中長期にみて見直しの余地はまだあると考えられます。また、中国当局は内需支援策の一環として、電気自動車(EV)を含む自動車の購入促進を実施しています。EV関連銘柄も調整時は押し目買いが入りやすいかもしれません。」
今回のトピックス
今回は、オンライン教育関連銘柄の急騰とその背景を確認してみたいと思います。
6/9-6/16はほぼ全面安となるなか、オンライン教育関連銘柄の急騰が目立ちました。主にニューオリエンタル(新東方)系が上昇をけん引しました。オンライン教育大手のニューオリエンタルエデュケーションADR(EDU)傘下の新東方在線(01797)(SBI証券取扱なし)の株価は6/9-6/16に6倍も上昇しました。きっかけは、新東方在線が運営する新しいライブコマース「東方甄選」が6/15までの1週間で約158万人のフォロワーを獲得したからです。「東方甄選」はバイリンガルによるライブコマースが特徴で、買い物をしながら英語が学べることで人気を博しています。
オンライン教育関連銘柄は中国当局の締め付けで過去1年間で株価が暴落しましたが、足元では見直し買いがみられています。6/9-16の動きからすると、新東方在線の新しい取り組みを消費者が評価している点がきっかけのようにみえます。しかし、ニューオリエンタルエデュケーションをはじめ、同じくオンライン教育銘柄であるGaotuテクエデュADR(GOTU)やTAL エデュケーション ADR(TAL)の株価動向を確認してみると、上昇トレンドは5月末から始まりました。
5月末というと、中国当局が一連の景気支援策を発表し、アリババ(09988)や百度(09888)が市場予想を上回った決算を発表した時期と重なります。その後、6/8に中国当局は新しいゲームを認可しました。市場ではネット大手に対する締め付けの緩和を示唆するものとして受け止められました。中国当局が最も規制を強化したオンライン教育分野にとってもポジティブ材料となり、オンライン教育関連銘柄は上昇を続けました。
オンライン教育関連銘柄は、ここ1-2年で中国株のなかで不動産に次ぐ不人気銘柄と言えます。中国当局がネット大手のうち、オンライン教育分野に対して特に厳しい規制強化(たとえば「非営利化」)を実施したからです。特定業務の「非営利化」が求められた後、オンライン教育関連銘柄をめぐっては破綻のリスクも浮上しました。今のところ、多くのオンライン教育関連銘柄は破綻を回避し、主力業務の転換で生き残りを図っています。今回の新東方在線の「東方甄選」もまさにその取り組みとなっています。
「東方甄選」が人気を博していることで、投資家にオンライン教育関連企業の生き残りや業績回復に対する期待が芽生えました。これはアリババや百度など一部のネット大手が市場予想を上回った業績を発表したことと共通点があります。それはつまり、1年余り続いた規制強化を受け、投資家はネット大手やオンライン教育関連企業に対し、過度に悲観的な予想を行った可能性があることを示します。ここにきて、「ちょっとした好材料」でネット大手やオンライン教育関連銘柄に見直し買いが入っているのは、このような投資家センチメントが背景にあると考えられます。
また、中国株全般に対する見通しの改善も、見直し買いを支えていると考えられます。ネット大手に対する締め付けの緩和期待を除けば、以下3つの要因が中国株の見通し改善につながっていると考えます。
1)経済見通しの乖離:世界経済に減速懸念が強まるなか、中国は下期に経済回復が見込まれています。
2)金融・財政政策の乖離:米国や欧州中央銀行(ECB)が利上げを実施しているのに対し、中国は経済支援措置として金融緩和や財政支援を行っています。
3)米中対立懸念の後退:ロシアがウクライナに侵攻してから米中対立激化への懸念が強まっていましたが、足元では米バイデン政権がインフラ抑制のために対中関税を見直す可能性が出てきています。
上記のうち、3)については不透明感もあり、今後の動向には留意が必要ですが、1)と2)は引き続き、中国株を下支えすると思われます。世界株式市場が荒れ模様の展開となるなか、中国株は相対的な強さを発揮する可能性があります。
図表4 主要中国株ETF
銘柄 | 株価(6/16) | 52週高値 | 52週安値 |
iS MSCIチャイナ(02801) | 22.40 | 35.50 | 18.36 |
ハンセンH株指数(02828) | 73.94 | 110.45 | 61.32 |
Tracker Fund香港(02800) | 21.16 | 29.76 | 18.44 |
iS FTSE A50(02823) | 15.63 | 20.80 | 14.02 |
iS CSI300(02846) | 32.38 | 41.48 | 29.00 |
※BloombergをもとにSBI証券が作成。