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米国市場の底入れを買うなら、まずはココから!?「企業のIT投資」関連

2022/6/15
投資情報部 榮 聡

ソフトウェア・サービスセクターの株価は「PERの調整」が厳しく、年初来の株価下落は比較的大きくなりました。しかし、予想PERはパンデミック前の水準まで低下して調整十分とみられる一方、「企業のIT投資」関連を中心に需要は堅調に推移しています。大荒れとなっている米国市場の底入れを買うなら、まず検討すべきはこのセクターではないでしょうか。

図表1 注目銘柄リスト

銘柄 株価(6/14) 52週高値 52週安値
マイクロソフト(MSFT) 244.49ドル 349.67ドル 241.51ドル
アクセンチュア A(ACN) 275.12ドル 417.37ドル 268.17ドル
インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM) 135.72ドル 144.73ドル 114.56ドル
オラクル(ORCL) 70.72ドル 106.34ドル 63.76ドル
サービスナウ(NOW) 444.75ドル 707.60ドル 406.47ドル
  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

1 1-3月期、2-4月期決算で好調が目立った「企業のIT投資」

今回は「企業のIT投資」に関連が深いソフトウェア・サービスセクター(S&P500指数の24業種分類)を取り上げます。

同セクターの株価指数は、年初来6/14(火)までに27.0%下落とS&P500指数の同21.6%下落を上回り、株価調整がきつかったセクターの一つです。この分野の銘柄は成長性が高いものが多く、従ってPERが高く評価されていたため、長期金利の上昇を背景とした「PERの調整」がきつくなりました。

しかし、予想PERは図表2の通りピーク時の36.1倍から24.5倍まで低下、パンデミック前2020年1月末の27.8倍を下回っています。調整は十分進んだと言えそうです。

一方、「企業のIT投資」が堅調に推移していることは、下に掲げる通り、ここ数ヵ月間の決算発表で繰り返し観察されてきました。景気が減速する中でも需要が相対的に堅調に推移する分野と期待されます。

米国株式市場は6/13(月)、6/14(火)とS&P500指数が年初来安値を更新して大荒れの様相ですが、米国市場の底入れを買うなら、まず検討すべきはこのセクターではないでしょうか。

企業のIT投資に関連する決算コメントなど

・アクセンチュアの12-2月期決算発表(3月17日)
需要好調を受けて2022年8月期の売上ガイダンスを前年比19〜22%増から同22〜26%増に引き上げた。

・TSMCの1-3月期決算発表(4月14日)
サーバー用CPUなどを含むHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)の1-3月期売上は10-12月期比26%増となり、全社の同12%増を大きく上回ってけん引、4-6月期も同分野は好調持続の見通し。

・IBMの1-3月期決算発表(4月19日)
クリシュナCEOは、「ソフトウェア、コンサルティングともハイブリッドクラウドとAIが需要をけん引した」と述べた。

・マイクロソフトの1-3月期決算発表(4月26日)
企業向けクラウド「Azure」の売上が10-12月期の前年同期比46%増から1-3月期は同49%増に加速した(為替の影響を除くベース)。

・アルファベットの1-3月期決算(4月26日)
クラウドサービスの売上伸び率は、2021年10-12月期の前年同期比45%増に対して、1-3月期の同44%増と高水準の伸びが維持された。

・アマゾンの1-3月期決算発表(4月28日)
クラウドサービスの「AWS」売上の伸びは、10-12月期の前年同期比40%増から1-3月期は同37%増に鈍化したが、高水準を維持した。

・シスコシステムズの2-4月期決算発表(5月18日)
5-7月期の売上ガイダンスが前年同期比1%減〜5.5%減と低調だが、ロビンスCEOは「(弱い)ガイダンスに需要面の問題があるわけではない」と述べた。

・セールスフォースの2-4月期決算発表(5月31日)
ベニオフCEOは、「パンデミックの時期に加速したDXは、全速力で前進している」と述べた。

・オラクルの3-5月期決算発表(6月13日)
3-5月期の売上は前年同期比10%増と12-2月期の同7%増から加速し(為替の影響を除いたベース)、買収した電子カルテのサーナーを含む6-8月期の売上ガイダンスは前年同期比20〜22%増で市場予想を9%上回った。

今回の決算発表では、パンデミック時に伸びたサービスの反動が表面化したり(ネットフリックスやアマゾンドットコム)、マクロ経済の不透明感を受けてネット広告の伸びが鈍化(メタプラットフォームズやスナップ)、小売企業のマージン悪化(ターゲットやウォルマート)など、主要企業の業績にも悪材料が目立ちました。これらと比べると企業のIT投資関連の安定は顕著だったと言えるでしょう。

図表2 ソフトウェア・サービスセクターの株価と予想PER

注:S&P500指数のソフトウェア・サービスセクターです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

2 IT業界の調査レポートではどうみているか

前節では、企業のIT投資の動向を個別企業の直近決算から確認しました。

企業のIT投資については、全体を網羅する更新頻度の高い指標がありません。このため四半期ごとに明らかとなる企業の決算コメントから業界の動向を探ることになり、株価もこれを見て反応します。

ただ、個別企業では各社が関連する分野に濃淡があるため、当節では調査会社による業界全体を見渡した調査レポートで、企業のIT投資のトレンドをみてみましょう。

ガートナーは2022年にIT支出は4%増加を予想

IT業界の調査会社ガートナーが4/6(水)に公表した資料よると、2022年のIT支出は前年比4.0%増加して、4.4兆ドルに拡大する予想となっています(図表3)。2021年の前年比9.5%増から伸びは鈍化するものの、堅調な増加が想定されていると言えるでしょう。

同社リサーチ部門長のラブロック氏は、「今年はCIO(最高情報責任者)にとって最も騒がしい年の一つになりつつある。地政学的混乱、インフレ、為替変動、サプライチェーン問題などが、CIOの時間と注意の多くを占める問題となっている」として、CIOの判断に対してかく乱要因が多数あることが指摘されています。

「しかし、2020年初頭に起こったことに比べて、CIOは混乱への対応における柔軟性と敏捷性の重要性を理解しているため、IT投資を加速しつつある。」として、様々なかく乱要因があったとしても、IT投資は増加することが示唆されています。

分野別には、ソフトウェアとITサービスが相対的に高い伸びが予想されているのに対して、デバイスやコミュニケーションサービスの伸びは限定的となる見通しです。

次に、米国のソフトウェア企業フレクセラのIT支出に関する調査「2022 Tech Spend Pulse」をみてみます。欧米のグローバル企業501社に対して行ったIT支出に関するアンケートの結果です。

71%の企業がIT支出を増やす意向(フレクセラ調査)

同調査レポートによると、調査対象企業の71%が今後12ヵ月にIT投資を増やす意向と回答しており、減らす意向と答えた企業の12%を大きく上回っています。また、米州と欧州地域を分けても、この傾向は変わらないようです。

ただし、同調査はロシアによるウクライナ侵攻前の2022年2月に実施されましたが、侵攻後に行われたフォローアップ調査ではIT投資を増やす意向とした比率は64%に落ち、減らす意向と答えた比率は16%に増えています。劇的な変化とは言えませんが、地政学的なリスクはIT支出に影響を与えているとみられます。

最優先課題はDX、サイバーセキュリティ、クラウド/クラウド移行(フレクセラ調査)

「IT投資をするにあたって優先課題5つは?」との問いに対して、74%がDX(デジタルトランスフォーメーション)、73%がサイバーセキュリティ、65%がクラウド/クラウド移行と答えています。企業のCIOが重視しており、IT支出の中でも特に売上の伸びが期待できる分野として参考になりそうです。

個別ではマイクロソフトの強さが目立つ

図表5は各企業が利用するITベンダーについて、トップ3を尋ねたアンケートです。回答企業の58%がマイクロソフトを最大ベンダーと答えており、同社が非常に強いポジションにあることがわかります。

クラウドサービスでは、同社はアマゾンドットコムのAWSとグローバルトップを競っていますが、ITサービスの総合力ではかなり差が開いているとみることもできそうです。昨年との比較ではオラクルとSAPが最大ベンダーの比率を上げており、AWSとの差を縮めていると報告されています。

図表3 ガートナーのIT支出予想(前年比伸び率、%)

2021年実績 2022年予想 2023年予想
データセンターシステム 6.7 5.5 5.4
ソフトウェア 15.9 9.8 11.8
デバイス 16.1 1.9 1.6
ITサービス 10.6 6.8 8.5
コミュニケーションサービス 3.4 0.3 2.0
IT支出合計 9.5 4.0 5.5

※ガートナー社の公表資料をもとにSBI証券が作成

図表4 IT予算の見通し(欧米のグローバル企業501社を対象とするアンケート)

※フレクサ社の公表資料もとにSBI証券が作成

図表5 調査対象企業のITベンダートップ3

※フレクサ社の公表資料をもとにSBI証券が作成

3「企業のIT投資」で注目の銘柄群

図表6に抽出したソフトウェア・サービスセクターの主要構成銘柄(時価総額上位15銘柄)から、企業のIT投資に関連性が高い銘柄を選んで以下にご紹介いたします。

・ビジネスソフトの「Office」、パソコンOSの「Windows」、メールの「Outlook」などを擁しソフトウェアで世界最大、クラウドでも世界最大級です。世の中で進むDXの恩恵を最も大きく受ける企業の一つです。成長をけん引するクラウドでは、既存事業で企業IT部門とのコンタクトがあることから、アマゾンやグーグルなどのライバルに対して新規開拓で優位性をもっています。リモートワークを契機に拡大したコラボレーションツール「Teams」の伸びも注目されます。

・1-3月期決算は、売上が前年同期比18%増、調整後EPSが同14%増で、いずれも市場予想を上回る好決算でした。部門別の売上は、インテリジェントクラウドが前年同期比26%増、プロダクティビティ&ビジネスプロセスが同17%増、モアパーソナルコンピューティングが同11%増で、いずれも市場予想を上回りました。成長をけん引している「Azure」およびクラウドサービスの売上は同46%増と10-12月期と同レベルの伸びを確保、為替の影響を除くベースでは同49%増と加速しました。一方、4-6月期のガイダンスは為替の影響を除くベースで同47%増と、1-3月期から2%ポイント減速のガイダンスを示していますが、高水準持続と言ってよいでしょう。

・事業戦略、事業経営、テクノロジーに関するコンサルティング部門と顧客企業のITシステムや事業運営の一部を請け負うアウトソース部門が2本です。パンデミックの時期に消費者側で進んだDXに対して企業側が追いつこうとしているとみられ、コンサルティング、アウトソースとも好調が続いています。先回り投資が得意で成長投資にも積極的であることから、市場平均を上回る成長継続が期待されます。

・3-5月期決算の発表が、来週6/23(木)に予定されています。市場コンセンサスの売上は前年同期比21%増の予想です。12-2月期は売上が前年同期比24%増、調整後EPSが同28%増で、市場予想を上回って好調でした。分野別にはコンサルティングが同29%増と好調で、アウトソースも同19%増でした。2022年8月期の売上ガイダンスを、前年比19〜22%増から同24〜26%増へ引き上げています。

・同社はレガシーシステムの大手であったことから、企業のIT投資が拡大しても売上が伸びにくい時期が続きましたが、インフラサービス事業を2021年11月にキンドリルとして分離して売上の伸びが高まっています。図表6の今期予想売上成長率は18.9%減となっていますが、これはキンドリル分離の影響を含んだ数字です。キンドリルを除いたベースでは、「一桁台半ばの高いほう」の伸びが想定されています。

・1-3月期売上は、分離したキンドリルを除いたベースで前年同期比8%増(為替の影響を除いて同11%増)と市場予想を3%ポイント上回り、調整後EPSは同25%増と好調でした。ハイブリッドクラウドとAIへの需要拡大を背景に、ソフトウェアが前年同期比12%増、コンサルティングが同13%増とけん引して、インフラストラクチャーの同2%減をカバーしました。株価は年初来1.5%上昇となっています。これまで成長していなかったことから、PERが低くしか評価されていなかったことが奏功した形です。

・マイクロソフトに次ぐ、世界第2位のソフトウェア企業。法人向けデータベース管理システムでは世界トップ。SaaSなどクラウド関連が収益の柱に成長しています。昨年12月に電子カルテ大手のサーナー社を283億ドルの巨額で買収しました。同買収は当初市場からは評価されなかったものの、長期的にはアプリケーション事業を拡大するための正しい戦略とみられます。

・3-5月期の売上は前年同期比10%増と12-2月期の同7%増から加速し(為替の影響を除いたベース)、買収した電子カルテのサーナーを含む6-8月期の売上ガイダンスは前年同期比20〜22%増で市場予想を9%上回りました。3-5月期のクラウド売上(IaaS+SaaS)が同19%増、インフラストラクチャー・クラウド売上が同36%増と伸びて全体をけん引しています。

・企業向けにデジタルな業務のタスク管理を助け、ワークフローを効率化できるソリューションを提供、ITサービス、人材管理、カスタマーサービスなどの分野で利用されます。企業では事務処理の自動化ニーズが高く、これに応える同社は高成長が続いています。7,400社以上の顧客企業は、「フォーチュン500」の80%を含みます。同社は2021年の売上実績59億ドルに対して、2024年110億ドル、2026年に160億ドルへの拡大を目指しています。

・1-3月期のサブスクリプション収入(売上の95%を占める)は前年同期比26%増で、同ガイダンスは4-6月期が同26%増、2022年12月も前年比26%増と高い伸びが続く見通しです。株式報酬などを除いた調整後営業利益は同25%増加、売上に対する比率も25%に達します。顧客の契約更新率も98%と引き続き良好でした。同社CEOは、「企業は正しい成果が迅速に得られる技術に対して、切迫感をもって投資している。企業が元の習慣に後戻りできないことは明白だ。われわれはいまや、競争するためのテックの世界にいる。」とコメントしています。

図表6 ソフトウェア・サービスセクターの主要銘柄(時価総額上位15銘柄)

ティッカー 銘柄名 株価
(6/14)
(ドル)
予想PER
(倍)
年初来
株価騰落
(%)
予想売上
成長率
(%)
予想EPS
成長率
(%)
アナリスト
目標株価
平均値
(ドル)
MSFT マイクロソフト 244.49 24.1 -27.3 14.1 6.5 357.37
V ビザ 193.52 25.4 -10.7 14.8 16.2 266.24
MA マスターカード 322.14 30.3 -10.3 16.4 21.3 432.14
ADBE アドビ 370.82 26.3 -34.6 13.3 9.2 551.43
ACN アクセンチュア 275.12 24.4 -33.6 20.9 18.4 386.95
ORCL オラクル 70.72 13.4 -18.9 15.0 6.5 87.81
CRM セールスフォース 164.45 32.5 -35.3 21.5 -30.5 250.15
IBM IBM 135.72 13.2 1.5 -18.9 -1.0 142.61
INTU インテュイット 364.78 27.0 -43.3 -8.4 -50.1 519.83
NOW サービスナウ 444.75 57.1 -31.5 29.9 9.4 631.90
PYPL ペイパル・ホールディングス 72.46 17.7 -61.6 9.0 -24.8 115.78
ADP オートマチック・データ・プロセシング(ADP) 204.13 27.1 -17.2 8.2 21.5 233.59
FISV ファイサーブ 89.89 13.5 -13.4 6.6 13.9 125.00
FIS フィデリティナショナルインフォメーションサービシズ 95.25 12.5 -12.7 5.7 7.8 133.56
SNPS シノプシス 295.16 34.7 -19.9 16.1 12.7 382.09

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