カーニバルの3-5月期決算で、経営が「クルーズ需要の強さは歴史的で、この状況は来年も継続する見通し」とコメントしたことから、6/25(火)に同社株価は8.8%、ロイヤル カリビアン クルーズは4.0%、ノルウェージャン クルーズ ラインは5.2%の上昇となりました。中長期の成長市場と捉えることができる業界で、依然として上昇余地は大きいと考えられます。
図表1 主な言及銘柄
銘柄 | 株価(6/25) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
カーニバル(CCL) | 17.82ドル | 19.74ドル | 10.84ドル |
ロイヤル カリビアン クルーズ(RCL) | 160.73ドル | 157.58ドル | 78.35ドル |
ノルウェージャン クルーズ ライン(NCLH) | 18.29ドル | 22.75ドル | 12.71ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回はクルーズ業界を取り上げます。同業界は2020年のパンデミックで大きな打撃を受けましたが、感染が収束した2022年頃から回復が始まり、足もとまで回復基調が継続しています。
大手3社の株価は図表2の通り、ロイヤル カリビアン クルーズがパンデミック前の水準を回復しているものの、カーニバルとノルウェージャン クルーズ ラインの2社は出遅れが顕著で、回復の余地が大きいと考えられます。
6/25(火)にはカーニバルの3-5月期決算で、経営が「クルーズ需要の高さは歴史的で、需要の強さは来年も継続する見通し」とコメントしたことから、同社株価は8.8%、ロイヤル カリビアン クルーズは4.0%、ノルウェージャン クルーズ ラインは5.2%の上昇となって市場の注目を集めています。
まず、クルーズ業界の銘柄に投資する場合に知っておくべき、注目点とリスクを確認しておきましょう。
〇クルーズ業界の注目点
クルーズは中長期の成長市場
クルーズは、各種レジャーの中で相対的に価格が高い「高級財」と考えられますが、世界的な所得水準の上昇と中間所得層の増加を背景にレジャー消費の中でシェアが拡大傾向にあり、「成長市場」と考えられています。「モノ消費からコト消費へ」の流れに乗っているうえ、船上での様々なアクティビティを工夫することで魅力を高めることができ、また、富裕層に対するラグジュアリー商品の提供も可能な業界です。
寡占化が進み、熾烈な価格競争は起きにくい
図表3の通り世界のクルーズ船業界は、上位3社のキャパシティシェアが75%に達して寡占化が進んでいることから、熾烈な価格競争が起きにくい市場構造と考えられます。現在のように需要が供給を上回っている状況では、価格も引き上げやすいと考えられます。
消費減速でも中高所得層は堅調
米国の消費は徐々に鈍化しつつあるため、「裁量消費」の典型であるクルーズには注意が必要な局面であると一般的には考えられます。しかし、米国の消費は低所得者の窮状と中高所得者の堅調という2極化が観察されているため、消費減速のインパクトはさほど大きくない可能性があります。
〇クルーズ業界のリスク
新型コロナのパンデミックのようなこと
新型コロナのパンデミックでは、最も打撃が大きくなった業界の一つでした。クルーズでは船内に一定期間滞在するため感染のリスクが大きくなり、また、航海に出ると高度な医療措置が受けにくくなる、などが要因とみられます。
地政学リスクの高まり
地政学的リスクの高まりもネガティブな影響を及ぼす傾向があります。クルーズ船の寄港地周辺の治安の悪化は直接的な影響がありますし、クルーズの乗船地まで航空機で向かうケースも多いため、地政学リスクの全般的な高まりからも影響を受ける可能性があります。
原油価格の上昇
燃油費はクルーズ船運航の主な費用の一つであるため、原油価格の上昇は利益にネガティブな影響を及ぼします。最大手カーニバルのケースでは、2023年11月期に営業費用に占める燃油費用の割合は10.4%でした。
図表2 クルーズ3社の株価推移(週足)

注:最後のデータは、6/25(火)です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3 クルーズ3社のキャパシティシェア(2022年)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ここでは図表2で確認したクルーズ3社の株価動向の違いについて、(1)ロイヤルカリビアンクルーズの株価好調の背景、(2)カーニバル、ノルウェージャン クルーズ ラインも今後は株価回復が期待できるか、について考えてみます。
〇ロイヤルカリビアンクルーズの株価好調の背景
図表4は、3社の主要な経営指標について、パンデミック前の2019年度と直近実績の2023年度を比較したものです。
経営指標のうち、「ネットイールド」は乗客1日当たりの売上から販売手数料やクルーズ運営費用などを差し引いた利益で、クルーズ事業の収益性を最も端的に示す指標となっています。また、クルーズの「キャパシティ」は、業界でAPCD(Available Passenger Cruise Days)と呼ばれ、{販売可能な宿泊客数×航海日数}で算出します。
これらの指標を確認すると、ロイヤルカリビアンクルーズの株価が好調な理由は、業績回復が3社の中で最も進んでいるからだということがはっきりします。ネットイールドは2019年度比13.2%増まで回復し、2024年度のガイダンスは前年度比9〜10%増の見込みです。キャパシティも2019年度比13.3%増まで回復し、2024年度も前年度比8.5%増の見込みです。
同社の収益性が高く、いち早く回復に転じた要因として、燃費性能の高い船の保有、テクノロジーへの投資、販売店との条件交渉、コールセンターの統合などによるコスト削減が効いたと言われています。また、業界が落ち込んだ2020年に高級ラインの「シルバーシー」を子会社化したこともプラスに働いているとみられます。
〇カーニバル、ノルウェージャン クルーズ ラインの回復見込みは?
カーニバルについては、パンデミック時のネガティブインパクトが大きく、財務的に厳しい状況が続いたことが業績回復の遅れにつながったとみられます。資金繰りのために運航船舶を2019年度末の105隻から2022年度末に91隻に減らしました。財務の厳しさは、支払利息の増加が飛びぬけて大きいことからもうかがえます。
一方、足もとでは業績の回復で2023年11月期の営業キャッシュフローは42.8億ドルの黒字に転換、財務危機からは脱したとみられます。また、今年度のキャパシティも回復基調に転じていることから、業績回復の継続が期待されます。
ノルウェージャン クルーズ ラインは、ネットイールド、キャパシティともに2019年度の水準を超えており、支払利息の増加率は3社の中で最も低くなっています。このため、ロイヤルカリビアンクルーズほどではなくとも、もう少し株価は回復しても良いと思えます。他の2社に比べて規模が小さいことが株価のディスカウントにつながっているとみられますが、業界全体が市場の注目を集めると割安さが目立つ可能性がありそうです。
図表4 主要経営指標の比較

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
〇カーニバル(CCL)
クルーズ世界最大手。主力の「カーニバル」のほか、「プリンセス」「コスタ」(欧州)、「AIDA」(ドイツ)、高級ラインの「シーボーン」「キュナード」(「クイーン・エリザベス」が有名)、などのブランドを展開します。2023年度末に92隻を保有、2024年度から2027年度にかけて4隻の納入を受ける予定です。2023年11月期の地域別売上構成比は、北米61%、欧州30%、オーストラリア&アジア6%、その他3%です。
3-5月期決算は、売上が前年同期比18%増、調整後EPSは前年同期の0.32ドルの赤字から0.11ドルの黒字に転換しました。「2024年中の予約状況は、稼働率、価格動向とも過去最高」、「さらに、2025年は稼働率、価格動向とも2024年を上回ると見込まれる」とコメントしています。2024年11月期のガイダンスは、ネットイールドを従来の前年比9.5%増から同10.5%に引き上げました。同社が拠点とするボルチモア港の事故(3月26日に発生)による営業への影響は限定的であることが確認されました。
〇ロイヤル カリビアン クルーズ(RCL)
世界2位のクルーズ会社。手頃な「ロイヤル・カリビアン」から高級な「セレブリティ・クルーズ」まで幅広いブランドを展開します。2023年度末に65隻を保有し、8隻を発注しています。2023年12月期の地域別売上構成比は、北米59%、欧州21%、アジア・太平洋16%、その他4%。
1-3月期の売上は前年同期比29%増、調整後EPSは前年同期の0.23ドルの赤字から1.77ドルの黒字に転換しました。クルーズに対する強い需要を背景にロードファクター(宿泊ベッドの利用率)が107%、ネットイールドが同20%増と好調でした。通期ネットイールドのガイダンスを従来予想の前年比5.25〜7.25%増から同9.0〜10.0%増に引き上げています。予約動向については、「需要、価格環境とも引き続き非常に強い」とコメントしています。
〇ノルウェージャン クルーズ ライン(NCLH)
大手クルーズ会社の一角。「ノルウェージャン」のほか、高級な「オーシャニア」「リージェント・セブンシーズ」の3つのブランドを展開します。2023年末に32隻を保有し、2025年から2036年の間に13隻が引き渡しの予定です。2026年にかけての業績目標として、調整後EBITDAマージン約39%、調整後EPSは約2.45ドル(2024年から年平均成長率30%以上)、ネットレバレッジ4倍台半ば、調整後ROIC(投下資本利益率)12%をかかげています。
1-3月期の売上は前年同期比20%増、調整後EPSは前年同期の0.30ドルの赤字から0.12ドルの黒字に転換しました。ロードファクター(宿泊ベッドの利用率)が105%、ネットイールドが同16%増と好調でした通期のガイダンスは、ネットイールドを従来予想の前年比5.4%増から同6.4%増へ、調整後EPSを1.23ドルから1.32ドルに引き上げました。予約状況については、歴史的な強さであるとコメントしています。財務状況の改善を受けてS&Pグローバルの発行者信用格付が「B+」に引き上げられています。
〇投資判断
3社の投資魅力度は、アナリストの目標株価平均値との乖離率を基準に、カーニバル、ノルウェージャン クルーズ ライン、ロイヤル カリビアン クルーズの順に高いと考えられます。
なお、6/25(火)のカーニバル決算発表を受けてアナリストが目標株価を上方修正する可能性にご留意ください。
図表5 クルーズ3社の業績推移(単位:百万ドル)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表6 クルーズ3社の投資指標

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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