今回は再び株価が乱高下となっている半導体株を取り上げます。半導体株の今後を占ううえでポイントになりそうな来週のエヌビディア決算を中心にご報告いたします。
図表1 注目銘柄
銘柄 | 株価(8/20) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
エヌビディア(NVDA) | 127.25ドル | 140.76ドル | 39.23ドル |
アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD) | 156.40ドル | 227.30ドル | 93.12ドル |
ブロードコム(AVGO) | 165.95ドル | 185.16ドル | 79.51ドル |
マイクロン テクノロジー(MU) | 107.99ドル | 157.54ドル | 62.63ドル |
台湾セミコンダクター ADR(TSM) | 172.04ドル | 193.47ドル | 84.02ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回は最近値動きが激しくなっている半導体株を取り上げます。
半導体株は4月から7月初めまでは全般相場の上昇をけん引、一方8月初めまでの相場急落場面では下げを主導、その後の反発場面では上げをけん引と、目まぐるしい動きとなっています。
来週には半導体株物色の中心的銘柄となっているエヌビディアの5-7月期決算発表を控えて注目が高まっています。引き続きポジティブな投資姿勢を維持してよいか検討してみましょう。
〇来週のエヌビディア決算を見るうえで参考になる事柄
エヌビディアの5-7月期決算は8/28(水)引け後に発表予定で、売上は287億ドル(前年同期比112%増)、EPSは0.64ドル(同2.6倍)、8-10月期の売上は316億ドル(同75%増)の予想です。
どのような結果が出るかヒントになる事柄として、エヌビディアのAIコンピュータをサーバーシステムに組んでデータセンターに納めているスーパー マイクロ コンピューター(SMCI)の決算とエヌビディアから半導体の製造を受託している台湾セミコンダクターの8月売上があげられます。
〇AI市場に非常にポジティブなスーパー マイクロ コンピューター(SMCI)の売上ガイダンス
SMCIは2025年6月期の売上ガイダンスについて、前年比74〜100%増に相当する260〜300億ドルを提示しました。決算発表時の市場予想は236億ドルでしたので、AIコンピュータ市場の先行きについて非常に大きなポジティブサプライズでした。
市場コンセンサスでは、8/19(月)時点で279億ドルとガイダンスレンジの中央値近辺での予想となっています。この水準でも前年比87%増ですから、高い伸びが続く見通しと言えるでしょう。
これをエヌビディアのデータセンター売上の予想と比べてみます(図表2)。決算期がややズレますが、2023年8月〜2024年7月の売上予想が804億ドルに対して2024年8月〜2025年7月の予想が1273億ドルで、伸び率は58%増と計算できます。
もし、SMCIの市場予想が妥当なら、エヌビディアの売上予想は上方修正の余地を残している可能性が高いと判断できそうです。
なお、同社の株価は決算発表後に一時ネガティブな反応となりましたが、これは4-6月期のEPSが市場予想を大きく下回った個別要因によるもので、AIサーバー市場の見通しとは別の要因でした。
〇台湾セミコンダクターの7月売上も好調を示唆
台湾セミコンダクターの7月売上は前年比+44.7%となって5月の同+30.1%、6月の同+32.9%から加速、6月売上からも23.6%となって過去最高の売上を記録しました。半導体株市場全体にポジティブな影響をもたらしました。
さらに、同社は従来より売上はAI関連がけん引しているとコメントしていることから、伸び率が高まったのはAI関連の可能性があり、エヌビディアの決算に対してポジティブと考えられます。
〇「ブラックウェル」の量産遅延の状況
ここ数週間、エヌビディアが2024年下期に投入すると公表していた新製品「ブラックウェル」の量産出荷が遅延するとの観測が市場で言われています。この点についてはっきりするかも、今回の決算発表での注目点になります。
遅延の理由は設計上の不備とされ、大規模な出荷は2025年1-3月期までないとの見方が出ています。アナリストによれば、AIコンピュータの需給は引き続きひっ迫しているため、同社の売上への影響は大きくないとの見方が出ています。
図表2 スーパーマイクロコンピューターの売上とエヌビディアのデータセンター売上比較

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
半導体株については、2024年5月1日付外国株式特集レポート「株価乱高下の半導体は強気維持でよいのか?」でご報告しました。その後の株価変動要因と個別銘柄の動向を整理します。
〇半導体株指数乱高下の要因とインプリケーション
今年5月以降に半導体株相場を動かしたと見られる材料を以下にあげました。
【相場上昇】
5/10(金)台湾セミコンダクターの4月売上 前年比+59.6% ➡ 伸び率が高まってポジティブ
5/22(水)エヌビディアの2-4月期決算 ➡ 2-4月期実績、5-7月期ガイダンスとも市場予想を上回ってポジティブ
6/12(水)ブロードコムの2-4月期決算 ➡ 2-4月期実績、5-7月期ガイダンスとも市場予想を上回ってポジティブ
6/26(水)マイクロンテクノロジーの3-5月期決算 ➡ 3-5月期実績、6-8月期ガイダンスとも市場予想を上回ってポジティブ
【ピークアウト〜下落】
7/10(水)台湾セミコンダクターの6月売上 前年比+32.9% ➡ 伸び率は横ばい圏でニュートラル
7/16(火)米国の対中半導体規制強化の報道 ➡ ネガティブ
7/18(木)台湾セミコンダクターの4-6月期決算 ➡ 通期売上見通しを上方修正してポジティブ
7/23(火)アルファベットの4-6月期決算 ➡ AI投資による収益貢献が十分でないとAI市場に対してネガティブに捉えられた
【底入れ】
8/6(火)スーパーマイクロコンピューターの4-6月期決算 ➡ 売上見通しが市場予想を大幅に上回ってポジティブ
8/9(金)台湾セミコンダクターの7月売上 前年比+44.7% ➡ 売上の伸び率が高まってポジティブ
〇個別銘柄の年初来騰落はどうだったのか?
半導体相場のけん引役となっているAI関連銘柄と大幅な下落となっているインテルについてコメントします。
引き続きAI関連の中心銘柄としてエヌビディア(NVDA)の好調が目立っています。年初来では群を抜いた+152%で、3カ月、1ヵ月でも騰落率の上位に位置しており、好パフォーマンスは安定していると言えるでしょう。
年初来で2位の台湾セミコンダクター ADR(TSM)は、AIコンピュータを手掛けるエヌビディア、AMDともに主要顧客としており、AIコンピュータの需要拡大の恩恵を受けています。
ブロードコム(AVGO)は、グーグルやメタプラットフォームズなど特定顧客向けのAI半導体の製造を担当しており、これもAI関連と言えます。また、仮想化ソフトウェアのVMウェアを無事に買収できたことがポジティブに評価されたとみられます。
マイクロン テクノロジー(MU)は、AIコンピュータで取り扱うデータが大きくなっていることでメモリーの需要が拡大していることから恩恵を受けています。
マーベルテクノロジーグループ(MRVL)は、ネットワーキング関連とストレージ関連の半導体を柱とする半導体メーカーです。データの高速伝送技術に強く、エヌビディアに技術を提供していることが注目されます。
アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD)は、AIコンピュータ市場への参入が順調に進んでいるとみられます。8/19(月)にはサーバーシステム企業を買収して、AIコンピュータ市場でのシェア拡大に向けた施策を打ちました。
一方、インテル(INTC)は年初来-58%と不振が目立ちます。同社は製造技術の遅れを取り戻すため2021年に技術畑出身のCEOに交代し、製造技術を磨くために他社の半導体製造を請け負うファウンドリ事業を始めましたが、その成果が業績に表れるのが遅れています。
また、主力のPC、サーバー向けCPUではアドバンストマイクロデバイシズが市場シェアを拡大しており、データセンターではAI計算の比重が高まることで、計算需要はCPUからGPUに移りつつあるなど、難しい状況に陥っていることが市場で嫌気されているとみられます。
図表3 フィラデルフィア半導体株指数

注:最後のデータは8/19(月)です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 半導体銘柄の株価騰落率(S&P500のフィラデルフィア半導体株指数の時価総額上位15)

注:データは8/16(金)時点です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
半導体株のファンダメンタルズをマクロ統計で確認しておきましょう。
〇世界の半導体売上は回復中
世界の半導体売上は、通常の季節性に沿って回復の動きが継続していると考えられます(図表5)。
年初の1月、2月、3月と前月比で売上が減少しましたが、半導体の製造・出荷に関しては季節性があり、年初は低下しやすいことが知られています。2019年〜2023年について、いずれの年も年末から翌年1月、2月にかけて売上が減少していることが確認できます。
一方、閑散期を経て4月、5月、6月と前月比で増加しています。年末商戦に向けて製品の作り込みが行われる夏から秋にかけて生産がさらに増加するのが通常の季節性です。このパターンに沿って増えるか注目されます。
〇台湾セミコンダクターの売上も増加傾向
エヌビディア、AMD、アップル、クアルコムなどを主要な顧客として最先端の半導体を多く製造する台湾セミコンダクターの売上動向も半導体市場の動向を把握する上で重要視されています。
米国半導体工業会(SIA)による世界の半導体売上よりもデータの公表が約1ヵ月早く、また、AIコンピュータ関連の売上が占める比率が高いことから、AI関連の物色を考える上では特に重要とみられています。
顧客企業の動向に左右されるため、世界の半導体売上高ほどなめらかではありませんが、台湾セミコンダクターの売上も2023年から増加トレンドを継続しています。
主要顧客であるエヌビディアが下期にAIコンピュータの新製品「Blackwell」を投入すること、また、AIコンピュータ市場に参入しつつあるAMDは、下半期に売上が加速するとのガイダンスを公表しているため、台湾セミコンダクターの売上も高水準となることが期待され、今後もますます動向に注目が高まりそうです。
8月の売上高は9/10(火)に発表予定です。
図表5 世界の半導体月次売上

※米国半導体工業会(SIA)データをもとにSBI証券が作成
図表6 台湾セミコンダクターの月次売上

※会社資料をもとにSBI証券が作成
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