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“楽観の中でリスクは育つ?”
2019/11/19
提供:フィリップ証券株式会社
リサーチ部:笹木 和弘、増渕 透吾
- 米国株式市場は、ダウ工業株30種平均株価指数(NYダウ)が28,000ドルを超え、ナスダックが8,540ポイントを付けて週末の11/15の終値が過去最高値となるなど、米中貿易協議への期待に対する楽観的な心理が力強く相場を押し上げる展開となった。また、7-9月期決算発表が一巡して8-10月期決算発表が始まる中、個別銘柄の材料が相場を押し上げる面も見られた。アップル(AAPL)やアルファベット(GOOGL)などのGAFA銘柄の一部を始め、ボーイング(BA)、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(WBA)、ユナイテッドヘルス・グループ(UNH)、ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニー(DIS)、ナイキ(NKE)、アプライド・マテリアルズ(AMAT)などの株価が堅調に推移した。S&P500を対象とするオプション取引のボラティリティ(変動率)を元に算出するVIX指数(恐怖指数と呼ばれる)も12%近辺に低下し、投機筋のVIX指数先物ネット建玉も売り残が拡大。相場変動リスクに対する市場の感度が低下している面も見られた。
- 現在認識すべきリスクとしては、先ず、香港情勢が急変した点が挙げられる。10/24のペンス副大統領演説においても「香港の抗議者に当局が暴力を行使すれば、貿易の取引をするのはずっと困難になると繰り返し明言してきた」との言説があり、部分合意が期待されている米中貿易協議が物別れになるリスクに直結するものとして留意が必要だろう。香港区議会議員選挙を11/24に控え、香港での人権や民主主義を支援する「香港人権法案」が米連邦議会の上院で可決する可能性が出てきており、成立すれば中国側からの反発が予想される。2020/1の台湾総統選挙を前にして蔡英文総統が国際社会に向けて「弾圧行為に立ち向かい、行動を起こそう」と呼びかけるなど、香港情勢が年末年始のリスク要因として世界の株式市場に立ちはだかる可能性には要注意だろう。
- 次に、ベネチアでは異常な高潮により歴史的寺院などが水浸しになったり、オーストラリアでも干ばつの影響から森林火災が拡大するなど気候変動リスクとの関連が疑われる異常現象が相次いで発生した。特に中国では内モンゴル自治区で長引く干ばつでネズミが爆発的に増えたことから同地の住民2人が北京で肺ペストを発症したと報じられた。洪水などの水害はその後の住民への感染症の脅威という点でも問題視される。気候変動リスクの健康面に与える影響が強調されれば医薬品関連銘柄などが賑わう可能性はあるものの、楽観的心理が市場を支配する時期こそリスクを明確に認識する必要があると言えよう。(笹木)
- 11/19号では、アプライド・マテリアルズ(AMAT)、DRホートン(DHI)、IHSマークイット(INFO)、PTC(PTC)、ロックウェル・オートメーション(ROK)、ウォルマート(WMT)を取り上げた。
S&P500業種別およびNYダウ構成銘柄の騰落率(11/15現在)
11月19日(火) | ホーム・デポ、コールズ、TJX、トランスダイム・グループ |
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11月20日(水) | ロウズ、ターゲット、Lブランズ |
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11月21日(木) | メーシーズ、ノードストローム、インテュイット、ロス・ストアーズ |
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11月22日(金) | JMスマッカー |
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11月25日(月) | ジェイコブズ・エンジニアリング・グループ、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ、PVH、アジレント・テクノロジー |
11月19日(火) | - ニューヨーク連銀総裁の講演
- 住宅着工件数(10月)
- 欧州新車販売台数(10月)
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11月20日(水) | - FOMC議事要旨(10月29-30日開催分)
- ブルームバーグ・ニューエコノミー・フォーラム(北京、22日まで)、ワールド・ビジネス・フォーラム(ニューヨーク市、21日まで)、
- イエレン前FRB議長らが講演
- 大統領選挙、民主党指名争う候補者による討論会(アトランタ)
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11月21日(木) | - クリーブランド連銀総裁の講演、ミネアポリス連銀総裁の講演
- ECB議事要旨(10月23-24日開催分)、インドネシア中銀が政策金利発表、南ア中銀が政策金利発表
- OECD経済見通し
- 新規失業保険申請件数(11月16日終了週)、景気先行指標総合指数(10月)、中古住宅販売件数(10月)
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11月22日(金) | - 20ヵ国・地域(G20)外相会合(23日まで、名古屋市)
- ラガルドECB総裁の講演
- ミシガン大学消費者マインド指数(11月)
- ユーロ圏総合・製造業・サービス業PMI(11月)、独GDP(7-9月、改定値)
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11月23日(土) | - 日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)失効
- ローマ法王来日(26日まで)
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11月24日(日) | |
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11月25日(月) | - シカゴ連銀全米活動指数(10月)、ダラス連銀製造業活動(11月)
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- 1967年に設立した半導体・ディスプレイ製造装置メーカー。マテリアルズエンジニアリングのリーディング企業として世界中のほぼ全ての半導体チップや先進ディスプレイの製造に寄与している。
- 11/14発表の2019/10期4Q(8-10月)は、売上高が前年同期比0.1%減の37.54億USD、純利益は同7.8%減の6.98億USD。半導体システムはファウンドリやロジック向けを中心に伸びたもののディスプレイ関連が減収。調整後EPSは0.80USDと会社計画の上限で着地。市場予想は0.75USDだった。
- 2020/10期1Q(2019/11-2020/1)会社計画は、売上高が39.5-42.5億USD(中央値で前年同期比約9%増)、調整後EPSが0.87-0.95USD。半導体システム売上を27.75億USD、サービス売上を9.75億USD、ディスプレイ関連売上を3.30億USD見込む。調整後EPS見通しの市場予想は0.75USDだった。ディッカーソンCEOは、AIビッグデータ時代の到来が同社や産業の追い風になると述べた。(増渕)
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- 1978年設立。米国最大の住宅建築会社。「D.R. Horton」のほか「America’s Builder」、「Emerald Homes」、「Express Homes」などのブランドで住宅を手掛ける。モーゲージ・ローンなども提供する。
- 11/12発表の2019/9期4Q(7-9月)は、売上高が前年同期比11.7%増の50.38億USD、純利益が同8.4%増の5.05億USD。年前半の買収なども寄与し、販売件数が同14%増の13,130戸と伸びた。キャンセル率は23%と前年同期の26%から低下。EPSは1.35USDと市場予想の1.25USDを上回った。
- 2020/9期1Q(10-12月)会社計画は、売上高が37-38億USD、受注件数が12,100-12,400戸、粗利益率が21%、住宅建設事業の売上高販管費率が9.5%。2020/9通期会社計画は、売上高が185-190億USD、受注件数が60,000-61,000戸、法人税率が25%、住宅建設事業からの営業CFが10億USD、発行済み株式数が前期比2%減。売上見通しは市場予想の185.5億USDを上回った。(増渕)
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- 米IHS(産業調査を提供)と英マークイット(金融情報を提供)が2016年に合併し英本社の総合金融情報会社として再編。同社提供のPMI(購買担当者景気指数)は経済指標として重要視される。
- 9/24発表の2019/11期3Q(6-8月)は、売上高が前年同期比11.1%増の11.12億USD。純利益は税制改革の一時的影響により同61.6%減の4,010万USDだったが、Non-GAAPの調整後EBITDAは同16.0%増の4.52億USD。特に金融サービスの売上高が同20.8%増だったことが増収に寄与した。
- 2019/11通期会社計画は、売上高が44.00-44.25億USD(従来計画:44.25-45.00億USD)へ下方修正の一方、調整後EPSが2.57-2.59USD(同:2.57USD)へ上方修正。同社は宇宙・防衛産業ラインを約4.70億USDで売却する最終契約書に調印。旧IHSとマークイットの合併後の事業効率化が進展している。フリーキャッシュフロー増に伴い自社株買いなどの株主還元強化が期待されよう。(笹木)
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- 1985年設立。製品ライフサイクル管理(PLM)関連のソフトウェアおよびサービスを手掛け、製造業向けの複雑な製品の設計・運用に使用される。産業用IoTプラットフォームThingsWorkを提供。
- 10/23発表の2019/9期4Q(7-9月)は売上高が前年同期比7.1%増の3.34億USD、営業利益が同3.3倍の3,764万USD、Non-GAAPの調整後営業利益が同6.6%増の7,301万USD。同社が提供する技術の高さが顧客に評価され、年間継続収益(ARR)が為替調整後で同12%増と堅調に伸びた。
- 2020/9通期会社計画は、売上高が14.10-15.10億USD(前期実績:13.11億USD)、Non-GAAPの調整後EPSが1.95-2.60USD(同:1.74USD)。次世代CAD、データ管理、および協働ツールを統合したSaaS型の製品開発ソフトウェア・プラットフォームを提供するOnShape社を4.70億USDで買収。中小企業顧客のSaaS型プラットフォームへの関心の高まりに対応した動きとして評価されよう。(笹木)
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- 1903年にAllen-Bradleyとして創業。1996年の再編に伴い設立。オートメーションおよび産業制御製品、ソリューションのサプライヤー。主要ブランドにはAllen-BradleyとRockwell Softwareがある。
- 11/12発表の2019/9期4Q(7-9月)は、売上高が前年同期比横ばいの17.30億USD、純利益が同97.7%減の810万USD。PTC(PTC)の投資持分の公正価値再評価が響いた。特別項目を除く調整後純利益は同9.3%減の2.35億USD。調整後EPSは2.01USDと市場予想の1.92USDを上回った。
- 4Qと併せて公表した通期会社計画は、売上高が70億USD、オーガニック増収率が▲1.5-1.5%、事業セグメント営業利益率が21.5%、調整後EPSが8.70-9.10USD。調整後EPS見通しの市場予想は8.52USDであった。モレットCEOによると、情報ソリューションおよびコネクテッドサービス事業の2桁成長が見込まれる。シュルンベルジェ(SLB)との合弁会社であるSensiaが事業を開始した。(増渕)
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- 1945年創業、1969年会社設立。「Walmart」や「Sam's Club」を運営。「Everyday Low Price」を理念に、特売を頻繁に行わず毎日安い価格で商品を提供することを基本戦略とする。28ヵ国で展開。
- 11/14発表の2020/1期3Q(8-10月)は、売上高が前年同期比2.5%増の1,279.91億USD、純利益が同92.3%増の32.88億USD。調整後EPSは1.16USDと市場予想の1.08USDを上回った。前年同期のJDドットコム(JD)の投資持分に係る未実現損失が剥落。米国内の既存店売上高は同3.2%増。
- 通期会社計画を上方修正。Flipkartを除く調整後EPSの成長率を従来計画の「1桁台中盤〜後半」から「1桁台後半」へ下限を切り上げた。Flipkartを含むベースでは「微増または微減」から「わずかな増加」に引き上げた。3Qでは、米国のネット通販が前年同期比41%の大幅増収を記録。食品サービスを拡充したほか一部都市で顧客の冷蔵庫に直接、食品を収納するサービスも開始。(増渕)
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