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【そうだったのか!ETF徹底解剖】第10回 ETFを選ぶ際に「やってはいけないこと」と「やるべきこと」
2018/03/20
海外上場、国内上場を合わせると日本の個人投資家がアクセス可能なETFは500銘柄を超えると考えられます。そういったなかで投資対象とするべきETFをどのように探せばいいのでしょうか?
やってはいけないこと
ETFを選ぶ際に最もやってはいけないことは「名前」で選ぶことです。とくにスマートベータのような一般的ではない指数に連動するものについては、同じような名前でもそのパフォーマンスがかなり異なることもあります。例えば、「配当成長」や「増配」といった名称やコンセプトをうたったETFの指数のパフォーマンスを比較してみると、以下のように大きく異なっていることが分かります。
米国株式配当成長・増配インデックスの比較(2013年4月11日*〜2018年2月末/米ドルベース)
- (出所:Bloomberg)
- *WisdomTree Quality Dividend Growth Indexの算出開始時点
投資戦略にはいろいろな考え方がありますが、自分が思い描いていたものとは異なったリスク特性のETFを選択してしまった場合、仮にその投資戦略の発想は正しかったとしても実際のETFのパフォーマンスは思ったとおりにならないかもしれません。ETFにはその特徴を際立たせるために様々な名前がつけられますが、重要なのはどのような投資対象をどのような手法(メソドロジー)で選び出す指数およびETFであるのかということです。
また、一般的にETFを選ぶときは「残高」「経費率」「流動性」を見るべきだという議論がされています。これはこれで必ずしも間違いではないのですが、それ以上に「エクスポージャー」(=どういう投資対象及び投資戦略のETFか?)をしっかりと見極めることのほうがはるかに重要です。かつてETFといえば、日本では日経平均やTOPIX、米国ではS&P500などの主要な指数を対象にするものが主でした。そういった状態では、「残高」「経費率」「流動性」がETF選択のキーであったかもしれません。しかし、現在ではETFという形態で多様な投資対象かつ多彩な投資戦略が提供されています。こうなってくると、例えば2つのETFを比較したとして、これらの3つの要素すべてが劣っているETFのほうが投資戦略の違いにより高いリターンを生むケースは十分に考えられます。
やるべきこと
投資家の皆さんの中には、「米国株に投資するETFはどれが一番いいの?」という観点をもたれるケースもあると思います。この状態で、「残高」「経費率」「流動性」の観点でETFを選んだ場合、ほぼ十中八九S&P500(または米国株市場全体)に連動するETFが選択されるでしょう。しかし、本当にそれでよいのでしょうか?
私が考える「ETFを選ぶ前にやるべきこと」とは、「投資アイデアの深掘り」をするということです。なぜあなたは米国株に投資することにしたのでしょうか?例えば配当に着目しつつも、それが、「今後、米国の金利が上昇したとしても、配当も同様に伸びることで金利上昇の影響をあまり受けないような株式に投資したい」というものであれば、ただ「米国株」という投資対象でいいのでしょうか?また、その「配当の伸び」は過去の増配をみればよいのでしょうか?
実は、前述のグラフの灰色と橙色のものは過去の20年、または10年の増配企業を抽出するような指数となっています。一方で水色のグラフは直近のROEやROAおよび利益の予想成長率を元にして配当の成長が期待できる銘柄を選ぶ指数となっています。また、それぞれの指数の銘柄ウェイトも配当利回り、時価総額、配当総額とそれぞれ異なっています。このような指数のコンセプトの違いによって、そのパフォーマンスは大きく異なってきます。
「残高」「経費率」「流動性」といったETFの形態に固有の特徴を見ることは確かに重要ではありますが、それ以上に重要なのは投資戦略に合致したETFを選択することであり、そのためには投資の視点をより突き詰めて、投資のストーリーとETFの投資対象・戦略を一致させることが必要です。前述の例の通り、「①米国株⇒②金利上昇に負けないように配当が伸びる銘柄⇒③過去の増配より今後の配当成長に注目」と3段階程度、当初のアイデアから投資対象への深掘りをしていくことが重要です。これは逆に考えると、現在はETFの多様化によって、深掘りしたストーリーにも合致したETFはほぼ存在しますし、実際に投資可能であるということです。
なぜそのETFを選んだのか?
投資可能な多様なETFの中からなぜその1銘柄を選んだのでしょうか?「コストが低かったから」、というのは一つの答えかもしれません。しかし、成功する投資家になるためには投資戦略の絞込みにこそ最大の手間をかけるべきです。すべてのETFには違いがありますが、「エクスポージャー(投資対象・戦略)」の違いは経費率の違いよりもはるかに大きいものです。ETFのファンドとしての特性である「残高」「経費率」「流動性」を見ることはその次であるべきです。
著者
渡邊 雅史(わたなべ まさふみ)
ウィズダムツリー・ジャパン株式会社 ETFストラテジスト
アクセンチュア株式会社にて金融機関向けコンサルティング業務に携わった後、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック・ジャパン)にて、ポートフォリオマネジャー、ストラテジスト、及びETF部門専任のストラテジストを歴任。金融ベンチャー企業に参画した後、2016年よりWisdomTree JapanのETFストラテジスト。ETF市場の分析、ETFを用いた運用戦略の立案・提案業務などに携わる。
慶應義塾大学総合政策学部卒、早稲田大学大学院ファイナンス修士(MBA)。
著書に『計量アクティブ運用のすべて』(金融財政事情研究会)(共著)