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【そうだったのか!ETF徹底解剖】第14回 ETFは倒産するのか?
2018/5/16
株式市場で取引されるETFは、市場における取引についてはほぼ株式と同様の手法が利用できます。一方で、株式の場合は企業の倒産によっていきなりその価値が0になる可能性もあります。株式と同様にETFが「倒産」することはあるのでしょうか?
ETFは上場している投資「信託」
ETFは株のように取引することが出来ますが、法律上は一般的には「投資信託」(国によって異なります)とされます。そして、所謂カストディアン(保管機関)に保有証券は預けられます。そして、保有証券は通常、分別管理が義務付けられるので、仮に保管機関やファンドの管理会社(運用会社)が破綻したとしても、その保有証券は受益者の資産として保護されます。そういった意味で、ETF自体が「倒産」して価値が0になるということは一般的にはありません。
もし、保有しているバスケットの証券の価値がすべて0になれば、純資産価額(NAV)も0になりますが、これはETF自体が倒産したわけではありません。
「倒産」はないが「償還」と「上場廃止」はありえる
ETFは投資信託、すなわちファンドである以上、「償還」されることはあります。残高があまりにも少なすぎて運用目標が達成できなかったり、発行体として維持することがコスト的に難しかったりするなど理由はさまざまです。重要なのは、償還は倒産ではないということです。すなわち、「信託」をするのをやめて、現在の資産を投資家に返還するということです。もちろん、償還されるということは、そのETFが存在しなくなるわけですから、上場市場での取引も出来なくなる(=上場廃止になる)ということです。ただし、償還されるまでの間も市場で売買できる期間が設けられるのが一般的ですし、また償還まで保有していたとしても最後までファンドに保有されていた資産は大抵の場合現金化されて投資家に返還されます。
また、複数の取引所(例えば、米国と日本)に上場されているETFが、片方の取引所から単に上場廃止だけされるケースも考えられます。この場合は、もう片方の取引所ではまだ売買されている状態のはずですから、そちらの取引所で引き続き取引を行うことが可能です。
このように、ETFの場合は「償還」と「上場廃止」はありえますが、「倒産」という事態は基本的にないと考えてよいといえます。
ETNやスワップ型のものには注意が必要
一方で、ETFに似た商品としてETN(Exchange Traded Note)というものがあります。こちらは投資信託ではなく「債券」ですので、その債券を発行している会社の倒産リスクを負っていることになります。ですので、ETNについては発行体が安全かどうかを見極める必要があります。また、商品によっては純資産価額が大きく下落した場合に強制的に償還になるようなものも存在します。
また、ETFの中でもインデックスのリターンをスワップ契約によって得ているケースが存在します。この場合はスワップの相手方の倒産リスクを負うことになります。ただし、なんらかの担保を取ることによってこの手のリスクを抑制する手法が取られるのが一般的です。他にもETFの中で、ある発行体のリンク債をもっているだけで、実質的にはその発行体の倒産リスクを負っているものなども存在します。ただし、技術的に言えば、ETNと違い、ETF「自体」が倒産するわけではなく、保有資産が大きく毀損するリスクをもっているETFが一部存在するという表現が正しいといえます。
ETFはあくまで「箱」
ETF自体は、投資対象を入れておく箱ですので、重要なのは投資対象のリスクです。ETF自体が倒産することはなくても、保有証券の発行体はもちろん倒産する可能性はあります。それは投資対象が債券であろうが株式であろうが同様です。ETFの目論見書でETFの仕組みなどについて理解することはもちろん重要ですが、もっと重要なのはどんな投資対象にどのような方法で投資するETFなのかということです。また、ETFではなくETNについては、そもそも債券であることを念頭においておく必要があるでしょう。
- ※本稿は一般的な事象について説明したもので、すべての事象について必ずしも網羅しているわけではありません。個別のETFやETNのリスクなどについては、それぞれの目論見書等をよくお読みください。
著者
渡邊 雅史(わたなべ まさふみ)
ウィズダムツリー・ジャパン株式会社 ETFストラテジスト
アクセンチュアにて金融機関向けコンサルティング業務に携わった後、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック・ジャパン)にポートフォリオマネジャーとして入社。その後、ETF部門のストラテジストを務める。金融ベンチャー企業に参画した後、2016年より現職。ETF及びETF市場の分析や、機関投資家及び個人投資家に対するETFを用いた運用戦略の立案・提案業務などに幅広く携わっている。慶應義塾大学総合政策学部卒、早稲田大学大学院ファイナンス修士(MBA)。著書に『計量アクティブ運用のすべて』、『ロボアドバイザーの資産運用革命』(ともに共著、金融財政事情研究会)、訳書に『ETFハンドブック』(金融財政事情研究会)がある。