東京株式市場が軟調な動きとなっています。米トランプ政権での一部の国の人々の入国を制限する大統領令を巡る混乱や、外為市場での円高・ドル安が背景とみられます。
こうした中、2/10(金)に米国で安倍首相とトランプ大統領が会談します。無論、仮に会談がうまくいかず、円高・株安となるリスクはあります。しかし日米金利差が拡大しやすいという投資環境に大きな変化はなく、極端な円高・ドル安は進みにくいと予想されます。むしろ、会談が終わり、何らかの合意が形成されれば、外為相場は日米金利差の変化に素直な従来の姿を取り戻し、外為相場は安定し、株価も上昇に転じる可能性が大きいと考えられます。
トランプ大統領の政策への不安と円高が逆風 |
東京株式市場が軟調な動きとなっています。日経平均株価は1/27(金)に19,486円まで上昇し、1/5(木)の取引時間中に付けた昨年来高値である19,615円の奪回も視野に入っていましたが、翌週末の2/3(金)には18,918円と水準を下げてしまいました。米国株の上昇を追い風に2/6(月)は反発しましたが、2/7(火)は再び売りが先行する展開となっています。
(1)米国で一部の国の人々の入国を制限する大統領令に対して政府内でも反対の声が増え、不協和音が拡大したこと
(2)我が国の10年国債利回りが一時0.15%まで上昇し、外為市場で円高・ドル安が進んだこと
(3)雇用統計(1月)で賃金の伸びが予想よりも鈍く、早期利上げ観測が後退し、外為市場で円高・ドル安が進んだこと
等が株価下落の要因と考えられます。このうち(1)については、1/30(月)にトランプ大統領の出した大統領令に反旗を翻したサリー・イエーツ司法長官代理が解任されるという出来事がありましたが、2/3(金)にはシアトルの連邦地方裁判所がこの大統領令を一時差し止める仮処分を決定するなど、混乱は広がりを見せています。東京市場では1/31(火)に日経平均株価が前日比327円も下落しましたが、こうした混乱が大きく影響したものと考えられます。
また(2)については、2/2(木)に10年国債の入札が不調に終わったことが契機になりました。日銀は2016/9/21(水)に発表した金融政策の「新しい枠組み」の中で、10年国債の利回りをおおむねゼロ近辺にすると説明していましたが、新年の同国債利回りは終始プラス圏で推移していました。トランプ米大統領が日銀の金融政策を「為替操作」と非難していることもあり、「日銀は動きにくい」との懸念もありましたが、2/3(金)にはオペ通知後も金利が上昇し、10年国債利回りは一時0.15%を付けました。日本の金利上昇は日米金利差を縮小させる要因となるため、外為市場(図3)では円高・ドル安が進み、それを嫌気する形でこの日の日経平均株価は一時18,830円まで下落する展開となりました。
さらに(3)については、1月の非農業部門雇用者数が前月比22万7千人増(市場コンセンサスは17万人増)となったものの、時間当たり賃金(前年同月比)が+2.5%と市場予想(2.7%増)を下回り、早期利上げ観測の後退につながりました。その余波が残る中、米10年国債利回り(図2)はジリジリと低下を続け、2/6(月)にはドルの対円レート(図3)が1ドル111円台半ばと11月下旬以来の円高・ドル安水準まで下げ、株式市場には逆風となりました。
図1は過去3ヵ月間の日経平均株価の推移を日足チャートとして示したものです。今年に入り全般的に上値の重さが感じられるようになってきた同株価ですが50日移動平均が下値支持ラインとなり、下放れを防いできました。しかし、ここにきて同移動平均線の効き目が弱くなり始めており、日経平均株価は波乱含みの様相を呈しています。
図1:日経平均株価(日足)〜円高が逆風となり「下放れ」の危機
- ※当社チャートツールもとにSBI証券が作成。データは2017/2/7取引時間中。
図2:米10年国債利回り(日足)・過去3ヵ月
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2017/2/6(現地時間)現在。
図3:ドル・円相場(日足)・過去3ヵ月
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2017/2/7取引時間中。
当面のタイムスケジュール〜決算発表は今が佳境 |
上場企業の決算発表が佳境を迎えています。決算発表では会社側から発表される利益額や業績予想が事前の市場コンセンサスを上回れば株価が上昇しやすくなり、逆に下回れば株価が下げやすくなります。機関投資家を中心に、株価が大きく変動しやすいこの時期は様子見を決め込んでいる向きも多いと考えられます。
ただ、我が国で時価総額最大企業であるトヨタ(7203)の決算発表が2/6(月)に終わった他、メガバンクの三菱UFJ(8306)なども決算発表を通過しました。2/8(水)にはソフトバンク・グループが決算発表を予定していますが、主力企業の発表はだいぶヤマを越してきた感じです。2/10(金)には500社超の企業が決算発表を予定しており、社数ベースではここがピークです。これらを通過してくれば、ポジションを取りやすくなる投資家も増えてくると考えられます。
なお2/10(金)に米国で安倍首相とトランプ大統領が会談します。トランプ大統領は日本の貿易政策や為替政策を批判していますが、この会談を前にした駆け引きである可能性もあります。この会談を通じて、日本がトランプ大統領の米国とうまく付き合えるとの確信が持てれば、2/13(月)以降の株価が上昇する可能性も大きそうです。しかし、会談が失敗に終わった場合は株価が波乱に転じる可能性もあり、株式市場は重要な分岐点を迎えていると考えられます。
表1:当面の重要なタイムスケジュール〜決算発表は社数ベースで2/10(金)がヤマ場
月日(曜日) |
国・地域 |
予定内容 |
ポイント |
---|---|---|---|
2/7(火) | 日本 | ☆決算発表(180社) | 旭化成、住友商事他 |
米国 | 12月貿易統計 | 市場コンセンサスは450億ドルの赤字 | |
2/8(水) | 日本 | 日銀会合「おもな意見」 | |
日本 | ☆決算発表(181社) | 鹿島、ダイキン、ソフトバンクG、三井物産他 | |
インド | IoT見本市(ニューデリー) | ||
2/9(木) | 日本 | 12月機械受注 | 設備投資の先行指標 |
日本 | 1月都心オフィス空室率 | 16/3の4.34%から16/12には3.61%まで低下 | |
日本 | ☆決算発表(231社) | 東レ、資生堂、日産自、住友不他 | |
米国 | シカゴ自動車ショー | ||
2/10(金) | 日本 | ☆決算発表(532社) | 三井不、東急、NTT他。発表社数ベースで決算発表がピーク |
中国 | 1月貿易収支 | 輸出、輸入の増減に注目 | |
米国 | 米国で日米首脳会談(予定) | ||
米国 | 2月ミシガン大学消費マインド指数 | コンセンサスは97.8 | |
2/13(月) | 日本 | 10〜12月期GDP(前期比・年率) | コンセンサスは+1.1%、前期は+1.3% |
☆決算発表(220社) | リクルートHD、ニコン他 | ||
2/14(火) | 日本 | ☆決算発表(252社) | 日本郵政G各社、第一生命、東京海上他。決算発表一巡 |
中国 | 1月消費者物価 | コンセンサスは+1.1%、前期は+1.3%前年同月比+2.4%。 | |
独 | 10〜12月期GDP | 7〜9月期は前期比+0.2% | |
独 | ZEW景況感指数 | アナリストや機関投資家等350人の6ヵ月後の景気見通し | |
米国 | イエレンFRB議長半期議会証言(上院) | 米金融政策に関して何らかの示唆はあるのか | |
2/15(水) | 日本 | 1月訪日外客数 | 2016年は2,403万人(前年比+21.8%)。12月は前年比+15.6%。 |
米国 | 1月消費者物価 | コンセンサスは前年同月比+2.2% | |
米国 | 1月小売売上高 | コンセンサスは前月比+0.2% | |
米国 | NY連銀製造業景況指数 | ||
米国 | イエレンFRB議長半期議会証言(下院) | 上院の証言から大きな変化は少ない可能性 | |
2/16(木) | 米国 | 1月住宅着工件数 | コンセンサスでは前月比横ばい |
米国 | フィラデルフィア連銀製造業景況指数 |
表2:日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(2017年以降)
2017年 | |
---|---|
日銀金融政策決定会合 | 3/16(木)、4/27(木)、6/16(金)、7/20(木)、9/21(木)、10/31(火)、12/21(木) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 3/15(水)、5/3(水)、6/14(水)、7/26(水)、9/20(水)、11/1(水)、12/13(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 3/9(木)、4/27(木)、6/8(木)、7/20(木)、9/7(木)、10/26(木)、12/14(木) |
※各種報道、日米欧中銀Webサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。
【ココがPOINT!】日米金利差は拡大しやすく、円安・株高が基本シナリオ |
為替相場はドル・円相場の場合、日米金利差の影響を強く受けていると考えられます。図4に示したように、10年国債利回りを例にとった場合、トランプ氏が米国大統領選挙に当選した後、同氏の規制緩和や減税、社会インフラ投資等の経済対策に期待する形で米10年国債利回りが上昇(矢印1)しました。この間、日本の10年国債利回りもわずかに上昇しましたが米国ほどではなかったため、図5の矢印1に示したように「日米金利差」は急拡大しました。日米金利差の拡大は円安・ドル高要因であるとみられ、この間の外為市場では円安・ドル高が進む展開になっています。
ただ、トランプ政権の経済対策に期待する流れは昨年12月半ばまでで一巡し、図4の矢印2で示したように米10年国債利回りはやや低下しました。この間、図5で示したように日米金利差は縮小し、外為相場では円高・ドル安が進みました。しかし、1月中旬以降は図4の矢印3で示したように米10年国債利回りは緩やかに上昇に転じ、図5の矢印3にもあるように日米金利差も拡大傾向をたどりました。ただ、外為相場の反応はやや通常と異なり逆に円高・ドル安圧力の強い展開となりました。トランプ大統領が日銀の金融政策について「為替操作」と批判したことが効いていると思われます。また、2/3(金)に発表された米雇用統計で賃金の伸びが予想以下だったため、10年国債利回りが低下し、日米金利差が縮小し、直近の所では円高・ドル安が加速する展開になっています。
しかし今後について過度の懸念は不要とみられます。すでに米国経済は「完全雇用」状態であり、雇用の拡大を目指すトランプ政権の経済対策は期待インフレ率の上昇を招き、金利を上向きにすると予想されるためです。足元で日本の金利上昇が気になりますが、10年国債利回りをゼロ近辺に誘導するという枠組みで金融政策を進めている以上、日米金利差を急縮小させるような場面までは考えにくいと思われます。
無論、2/10(金)の安倍・トランプ会談が成功せず、円高・ドル安が進み、株価が下がるリスクは残ります。しかしその場合でも、日米金利差が拡大しやすいという投資環境に大きな変化はなく、極端な円高・ドル安は進みにくいと予想されます。むしろ、会談が終わり、何らかの合意が形成されれば、外為相場は日米金利差の変化に素直な従来の姿を取り戻し、外為相場は安定し、株価も上昇に転じる可能性が大きいと考えられます。
図4:日米の10年国債利回りの推移
図5:日米金利差とドル・円相場
- ※Bloombergデータを用いてSBI証券が作成。日米金利差はここでは、米国の10年国債利回りから日本の10年国債利回りを引いたもの。データは2017/2/6現在。
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