東京株式市場では、日経平均株価が乱高下を繰り返しています。「森友問題」に絡む国内政治不安で上値が重くなっていた上に、米国と中国の間で「貿易戦争」の不安が高まり、日経平均株価は一時20,000円が意識される水準まで下落してしまいました。しかし、米中に歩み寄りの空気が出てきたことや、「森友問題」に絡む佐川前国税庁長官の証人喚問が終わり、日経平均株価は再び2万1千円台を回復してきました。
まさに「春の嵐」と言える展開でした。ただ、本来であれば年後半に下落リスクの大きかった日経平均株価がリスク要因を「前倒し」で織り込んだと理解することも可能です。「円高」も一旦、企業の業績予想に織り込まれてしまえば、悪材料出尽くしになりそうです。日経平均株価の予想PERは3/23(金)に12.22倍と「アベノミクス相場」での最低水準まで下落しており、依然株価の割安感も強いとみられます。日経平均株価が反発局面となる可能性が大きそうです。
<今週のココがPOINT!>
一時昨年9月末以来の安値水準まで下落も切り返す |
東京株式市場は先週(3/19〜3/23)下落基調となりましたが、今週は反発に転じています。
日経平均株価は3/19(月)に、「森友問題」の再燃が逆風となり、安倍内閣への支持率が低下したことから前週末比195円61銭安となりました。さらに、フェイスブックの顧客情報を英データ会社が不正利用した疑いが強まり、同じ日の米国市場ではNYダウが335ドル安となり、3/20(火)の日経平均株価は前日比99円93銭安と続落しました。その後3/22(木)には211円02銭高と反発したものの、3/23(金)には前日比974円13銭安の急落となり、結局、この週は前週末比1,058円65銭(4.9%)安の20,617円86銭で取引を終えました。終値としては昨年10/3(火)以来の安値水準になります。
米国のトランプ大統領は3/22(木)、中国からの輸入に最大600億ドルの関税を課す大統領令に署名しました。米国の貿易赤字(2017年)7,962億ドルのうち、対中国が3,752億円と47%を占めています。米国は中国が米国の知的財産を侵害しているとの理由で、約1,300品目の輸入製品に25%の関税を課す方針です。この発表があった日の米国市場ではNYダウが前日比724ドル下げる急落となり、上記したように、3/23(金)の東京株式市場は波乱となりました。
中国は米国からの輸入製品に対して関税引き上げを準備していると伝えられ、市場では「貿易戦争」の拡大が懸念されました。ただ、中国が外資系金融機関の資本規制緩和や半導体購入額の増額を検討しているとの報道もあり、「貿易戦争」への懸念が後退し、3/26(月)の米国市場では、NYダウが前週末比669.40ドルと急反発に転じました。この上昇幅は2008/10/28以来9年5ヵ月ぶりの大きさとなります。
日経平均株価は3/26(月)に一時20,347円49銭(昨年9月末以来の安値水準)まで下落するなど、下値模索の展開になりましたが、その後は反発に転じました。特に、NYダウが669.40ドル高した翌日の3/27(火)は前日比551円22銭の上昇となり、終値も3営業日ぶりに2万1千円台を回復しました。この日行われた「森友問題」に関する佐川前国税庁長官に対する証人喚問で、安倍首相を含む政治の関与が否定されたことで、政治不安が後退したことも株価上昇に拍車をかけました。
図1:日経平均株価(日足)〜20,000円が意識される水準まで下落し、その後反発に転じる
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2018/03/27現在
図2:NYダウ(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2018/03/26現在
図3:ドル・円相場(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2018/03/27取引時間中
当面のタイムスケジュール〜市場の関心はファンダメンタルズへ |
米国と主要国の間に勃発した貿易問題は、この秋に実施される米国中間選挙をにらんでの、トランプ大統領による有権者対策という側面もありそうです。このため、トランプ米大統領が今後も「危険球」を投げてくる可能性は残り、株価の上値がそれにより抑えられる場面もありそうです。ただ、米国にとって最大の貿易赤字対象国である中国への対応が明示されたことで、この問題の最初のヤマ場は越したと考えることができそうです。
そうした中、市場の関心は再びファンダメンタルズに移ると予想されます。その意味で、4月第1週は重要な経済指標が目白押しであり、目が離せない状況が続くとみられます。
4/2(月)には日銀短観(3月調査)が発表されます。前回(2017年12月調査)、大企業・製造業の業況判断指数が+25で、先行き見通しは+19でしたが、これに対し、数字がどのように変化してくるかが注目されます。なお、2017年度に企業が想定する前提為替レート(12月時点)は1ドル110円18銭でした。ドル・円相場は昨年末、1ドル112円台後半でしたが、ここにきて一時104円台後半まで円高・ドル安が進んでいます。こうした「円高」が企業の業況判断にどう影響してくるのか、前提為替レートはどう変化してくるのか、注目点の多い日銀短観になりそうです。
表1:当面の重要なタイムスケジュール〜4/2(月)発表の「日銀短観」が重要
月日 |
国・地域 |
予定内容 |
ポイント |
---|---|---|---|
3/27(火) | 日本 | ☆3月決算銘柄の権利付最終日 | |
米国 | 1月S&PコアロジックCS住宅価格指数 | コンセンサス(20都市)は前月比+0.6% | |
米国 | 3月CB消費者信頼感指数 | ||
3/28(水) | 米国 | 2月中古住宅販売仮契約 | |
3/30(金) | 日本 | 2月失業率・有効求人倍率 | コンセンサスで有効求人倍率1.60倍、失業率は2.6% |
米国 | ★米国、香港、ロンドン他多くの市場が休場 | 聖金曜日 | |
3/31(土) | 中国 | 3月製造業PMI | コンセンサスは50.7 |
4/1(日) | 米国 | 米韓合同軍事演習開始 | ※この日は「イースター」 |
4/2(月) | 日本 | 3月調査日銀調査 | コンセンサス(大企業・製造業)では25 |
- | ★ロンドン、フランクフルトなど休場 | イースターマンデー | |
米国 | ISM製造業景況指数 | 米企業マインドを示す最重要指標 | |
4/3(火) | 米国 | 3月新車販売債数 | |
4/4(水) | 米国 | 3月ADP雇用統計 | コンセンサスでは+20万人 |
米国 | 2月製造業受注 | コンセンサスは前月比+1.7% | |
米国 | 3月ISM非製造業景況指数 | 雇用や新規受注などの個別指標にも注意 | |
4/5(木) | 中国 | ★中国市場等が休場 | 清明節(〜6日) |
4/6(金) | 米国 | 3月雇用統計 | コンセンサスは平均時給(前年同月比)+2.7% |
表2:日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2018年 | |
---|---|
日銀金融政策決定会合 | 4/27(金)、6/15(金)、7/31(火)、9/19(水)、10/31(水)、12/20(木) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 5/2(水)、6/13(水)、8/1(水)、9/26(水)、11/8(木)、12/19(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 4/26(木)、6/14(木)、7/26(木)、9/13(木)、10/25(木)、12/13(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀Webサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表2の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
【ココがPOINT!】「悪材料出尽くし」から、日経平均株価は反発局面へ!? |
そもそも、本当に貿易戦争は起きるのでしょうか、また、米中双方ともに貿易戦争を望んでいるのでしょうか、答えは「否」だと思います。米中双方ともに自国の利益の保護のために貿易戦争を仕掛けても、双方にとって最終的にメリットがないことはお互いに百も承知です。それではどうして今回のような事態になっているのでしょうか。
トランプ大統領の保護貿易政策への懸念は就任当初から指摘されてきました。米国の貿易赤字は2017年に7,962億ドルに達していますが、うち3,752億ドルが対中貿易から生じています。大統領として公約した同国との貿易赤字縮小への具体的な手段を、FOMCによる政策金利の上昇を無事に通過したタイミングで、今回実行したのではないでしょうか。その背景には今年11月に行われる米国の中間選挙があるのではないかと考えられます。
中間選挙とは大統領任期4年の中間年に、2年任期の下院435の全議席と、6年任期の上院100議席のうち3分の1にあたる33議席の改選が行われことを指します。見方によっては大統領への信任投票の側面があります。これまでは上下両院ともトランプ大統領の属する共和党が過半数を占めており安定的な政策運営が可能でしたが、大統領としては残りの2年の任期での政策運営と、その後の自身の大統領再選を考慮すればぜひとも勝ちたい選挙です。既に3月6日のテキサス州を皮切りに各州での予備選挙は開始されており、6月頃にピークを迎えます。
今回のトランプ大統領の対中制裁の発動は、貿易戦争の開始というよりは、この中間選挙へ向けての支持固めのための一環と考えることができるように思われます。最初の保護貿易策として公表されたアルミ、鉄鋼製品への課税もその後の対中制裁課税も当初の想定より実際に実行されている内容はマイルドなものになっています。交渉術として最初に強硬姿勢を見せ、相手から有利な条件を引き出そうというふうに理解することもできます。市場がこれを織り込むのにはやや時間がかかると思われますが、悪材料はとりあえず「出尽くし」状態になっていると考えられます。
なお、3/27(火)には「森友問題」に関し、佐川前国税庁長官の証人喚問が行われました。安倍首相を含む政治の関与については否定され、この問題についても大きなヤマ場を越えた可能性がありそうです。
まさに「春の嵐」と言える展開でした。ただ、本来であれば年後半に下落リスクの大きかった日経平均株価がリスク要因を「前倒し」で織り込んだと理解することも可能です。「円高」もいったん、企業の業績予想に織り込まれてしまえば、悪材料出尽くしになりそうです。日経平均株価の予想PERは3/23(金)に12.22倍と「アベノミクス相場」での最低水準まで下落しており、依然株価の割安感も強いとみられます。日経平均株価が反発局面となる可能性が大きそうです。
図4:日経平均株価(日足)と予想PER12.5倍、14.0倍、15.5倍相当ライン
- 日経平均株価データをもとにSBI証券が作成
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