日経平均株価は7月、米中貿易戦争の一時停戦や米国の金融緩和観測等を背景に底堅い推移となりました。しかし8月になると、米中通商摩擦を巡り、両国の駆け引きが激しくなり、株価は波乱の展開となっています。足元は、下落スピードが速過ぎた感もあり下げ渋る場面も出てきましたが、今後はどうなるのでしょうか。
日経平均株価(図1)は7月、月足ベースでみると前月比1.2%の上昇となり、6月(+3.3%)から続伸となりました。G20(6/29まで大阪で開催)に併せて開催されていた米中首脳会議で、貿易戦争の一時停戦が決まり、月初から買い先行となったことで勢いがつきました。
米国で大規模な金融緩和に対する期待が強まり、同国の株価が史上最高値更新の動きになったことや、半導体市場の改善期待が強まり、その関連銘柄が買われたことも追い風になりました。ただ、米国で金融緩和期待が高まった分、外為市場では円高・ドル安基調となり、日経平均株価の伸び悩みにつながりました。
そうした中、米国時間7/31(水)に結果が発表されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、市場の予想通り0.25%の利下げが発表されましたが、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が利下げ期間の長期化について否定的な見解を示し、この日のNYダウは333ドル超下げました。8/1(木)には、米トランプ大統領が中国からの輸入3千億ドル分について10%の関税を賦課する方針を示し、NYダウは280ドル超下げました。さらに8/5(月)には中国が米国からの穀物輸入停止を発表し、この日のNYダウは767ドル安と本年最大の下げを演じました。こうして米国株式市場が波乱となり、月替わりの東京市場も波乱のスタートになっています。
7/29(月)から8/6(火)までの日次の動きは以下のようになっています。
7/29(月)41円35銭安・・・重要日程が目白押しの週を迎え、様子見気分が継続しました。実質月内最終商いでした。
7/30(火)92円51銭高・・・下方修正のファナックに一部業績の底入れを示唆する動きが見られました。
7/31(水)187円78銭安・・・米中通商協議への不安から売られました。ソニー、アンリツなど好決算銘柄は買われました。
8/1(木)19円46銭高・・・パウエルFRB議長が利下げ期間長期化に否定的見解を示し一時急落も、円安で買い直されました。
8/2(金)453円83銭安・・・米トランプ大統領が中国からの輸入3千億ドルに課税を表明し、NY株安(8/1)・円高となりました。
8/5(月)366円87銭安・・・中国が米国からの穀物輸入を停止したことや、人民元の11年ぶり安値(対ドル)が懸念されました。
8/6(火)134円98銭安・・・米国が中国を為替操作国に指定しました。ただ、株価は急落後に下げ渋りました。
NYダウ(図2)は7/30(火)〜8/5(月)に5営業日連続安となり、この間1,503ドル61セント(5.5%)の下げとなりました。パウエルFRB議長が利下げ期間長期化に否定的見解を示して下げた直後、ドル・円相場は1ドル109円直前まで円安・ドル高となり、8/1(木)の日経平均株価が買い直される原動力になりました。しかし、米トランプ大統領が中国からの輸入3千億ドルに課税を表明した後は急速に円高・ドル安となり、日経平均株価の下げを加速させる要因となりました。
図1 8月に入り下げ足を速めた日経平均株価
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2019/8/6取引時間中。
図2 NYダウ(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2019/8/5現在。
図3 ドル・円相場(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2019/8/6取引時間中。
7月下旬から8月にかけ、市場は日米の中央銀行の金融政策の結果発表、さらに重要企業の決算発表、海外を中心にした重要経済指標の発表等、重要なスケージュールを消化してきました。
昨年、トランプ大統領は8月上旬から2週間程度夏休みに入りました。昨年通りであれば、そろそろ同氏が夏休みに入るタイミングということになります。一方、中国では習近平国家主席と共産党長老が国の重要課題について議論する「北戴河会議」が開催されている模様で、この間は習近平国家主席が弱腰な姿勢を見せられないという事情もありそうです。
また、市場では夏休みが本格化し、投資家はポジションを落としておきたい局面とみられます。我が国では、上場企業の決算発表が8/6(火)〜8/9(金)に1,471社予定されています。このように目先は波乱の起きやすいタイミングという面もありますので、これらが過ぎれば市場も落ち着きやすくなると考えられます。これらの重要日程を通過した後は、投資家が多少リスクを取りやすくなると考えられます。
表1 今後約2週間の重要スケジュール
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
8/6(火) | 日本 | 6月現金給与総額 | |
日本 | 6月景気一致(先行)CI指数 | ||
日本 | ★決算発表(172社) | キリンHD、ダイキン、三菱地所、NTT他 | |
8/7(水) | 日本 | ★決算発表(230社) | 東芝、MS&AD、ソフトバンクG |
日本 | JPX400定期入替銘柄公表 | ||
日本 | 日銀金融政策決定会合(7/30発表分)おもな意見 | ||
8/8(木) | 中国 | 7月貿易収支 | 市場コンセンサス(前年同月比)は輸出-1.0%、輸入-8.5% |
日本 | 7月景気ウォッチャー調査 | ||
日本 | ★決算発表(378社) | 富士フィルム、資生堂、ユニチャーム他 | |
8/9(金) | 日本 | 4〜6月期GDP | 市場コンセンサス(前期比・年率)は+0.5%増 |
中国 | |||
日本 | ★決算発表(691社)〜最大のヤマ場 | 東レ、ブリヂストン、リクルートHD、日本郵政、東京海上他 | |
8/12(月) | 日本 | ◎東京市場は休場 | 「山の日」の振替休日 |
8/13(火) | ドイツ | 8月ZEW景況感指数 | 350人の市場関係者にアンケート |
米国 | 7月消費者物価指数 | 市場コンセンサス(コア・前年同月比)は2.1%増 | |
8/14(水) | 日本 | 6月機械受注 | 民間設備投資の先行指標 |
中国 | 7月都市部固定資産投資(年初来) | 市場コンセンサス(前年同月比)は5.9%増 | |
中国 | 7月工業生産 | 市場コンセンサス(前年同月比)は6.0%増 | |
中国 | 7月小売売上高 | 市場コンセンサス(前年同月比)は8.6%増 | |
8/15(木) | 日本 | 終戦の日 | |
韓国 | 光復節 | ||
米国 | フィラデルフィア連銀製造業景況指数 | ||
米国 | ☆決算発表 | エヌビディア、ウォルマート | |
8/16(金) | 米国 | 7月住宅着工件数 |
表2 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2019年 | 2020年 | |
日銀金融政策決定会合 | 9/19(木)、10/31(木)、12/19(木) | 1/21(火)、3/19(木)、4/28(火)、6/16(火) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 9/18(水)、10/30(水)、12/11(水) | 1/29(水)、3/18(水)、4/29(水)、6/10(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 9/12(木)、10/24(木)、12/12(木) | 1/23(木)、3/12(木)、4/3(金)、6/4(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表2の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
東京株式市場では日経平均株価の下げが続いています。8/2(金)に453円83銭安、8/5(月)に366円87銭安となった後も、8/6(火)には一時600円超下落し、20,000円割れも意識される状況となりました。米中通商摩擦激化への懸念が強まったこと等を背景に、7/30(火)〜8/5(月)にNYダウが5営業日続落し、計1,500ドル超下げたことに加え、同じ期間にドル・円相場が1ドル108円台半ばから、同105円台半ばまで、円高・ドル安が進んだことが影響していると考えられます。
ただ、目先的には下落ピッチが速すぎる印象が強く、いったんは下げ止まっても不思議ではないと考えられます。8/5(月)現在、RSI(30%以下で「下げ過ぎ」)が34.08%、騰落レシオ(70%以下で「下げ過ぎ」)で84.03%まで下げが進んだため、仮に今後さらに株価下落が続くと、これらが買いシグナル点灯の水準に到達する可能性が強まってくると考えられます。また、図4にもあるように、日経平均株価の25日移動平均からのマイナス乖離率も大きくなっています。これら、値ごろ感の強まりもあり、8/6(火)の日経平均株価は急速に下げ渋る展開になりました。今後はどうなるのでしょうか。
米国トランプ大統領の発言が何回も変わることから、米中関係もたえず、良くなったり悪くなったりしている印象があります。しかし、昨年10/4(木)の「ペンス演説」以降、米国と中国は明らかに覇権争いの局面に入ったとみられ、両国間の通商摩擦は長期化するものと考えておいた方が無難です。
ただ、米中通商摩擦は日本企業にとっては悪い面ばかりではないように思われます。生産してから消費するまでの企業間の世界的なつながりのあり方が変わり、特にグローバル企業は衰退する会社と繁栄する会社に二極化する可能性が大きそうです。今はその痛みの部分を先行して織り込んでいるとみられますが、今後は勝ち組企業として期待される企業の存在も明らかになってくると思われます。
前項でご説明したように、足元はポジションを取りにくい環境となり、相場の波乱を助長した側面もありそうですが、今後は次第に落ち着きを取り戻す可能性がありそうです。
図4 日経平均株価と25日移動平均乖離率
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成