8月相場が終りました。日経平均株価は月足で3ヵ月ぶりの下落となり、3.8%安となりました。米中通商摩擦激化やそれを背景に、企業業績悪化が懸念されました。売買代金も引き続き低迷しました。
9月相場はどうなるのでしょうか。米中通商問題の着地点が見えていないことに加え、9月相場は下げやすいという経験則があり、今の所強気にみる向きは少なそうです。10月からは消費税率の引き上げ(8%から10%へ)が実施され、景気の腰折れも懸念される所です。
しかし、相場格言に「相場は悲観の中に育つ」と言われます。実は、「9月相場は買い場」となる可能性が大きく、今回の「225の『ココがPOINT!』」では、その理由を探ってみたいと思います。
8月相場が終りました。日経平均株価の月末終値は20,704円37銭、前月末比817円16銭(3.8%)安と、月足では3ヵ月ぶりの下落となりました。米トランプ大統領が8/1(木)、中国からの輸入品3,000億ドル分に10%の関税を課すと表明。それに対し、中国が米国からの穀物輸入停止を表明するなど、米中通商摩擦が激化する懸念が強まったことが主要因と考えられます。
こうした中、7月下旬以降、本格化していた2019年4〜6月期決算発表では、企業業績の減速が表面化してきました。日経平均株価の予想EPS(一株利益)は7/16(火)には1,787円ありましたが、8月末には1,764円と低下傾向になりました。今後も、企業の業績見通しは下方修正されるケースが増えそうで、株式相場には逆風となりそうです。
なお、日経平均株価の推移を週足ベースでたどると、8月第1週(8/5〜8/9)に前週比402円34銭(1.9%)安、同第2週(8/13〜16)に同266円01銭(1.3%)安となった後、同3週(8/19〜8/23)は同292円10銭(1.4%)高と反発しました。8/6(火)に日経平均株価が20,110円と2万円近辺まで下げて値頃感が台頭したことや、米国による対中関税の一部先送り(8/13)等があり、それ以降はやや落ち着いた展開になりました。ただ、再度米中通商摩擦激化が懸念される中で、8月第4週(8/26〜8/30)は前週比6円54銭(-0.0%)と小反落で終りました。
なお、8/26(月)〜9/3(火)の日経平均株価の日次の動きは以下の通りです。
8/26(月)449円87銭安・・・米国が中国の報復関税に対抗し、関税率引き上げを示唆。8/23(金)のNYダウが急落。
8/27(火)195円04銭高・・・米中協議継続を好感。為替も円安方向に反転。後半は円安一服で株価も伸び悩みました。
8/28(水)23円34銭高・・・基本的に材料難でした。午後の値幅は28円75銭にとどまりました。
8/29(木)18円49銭安・・・8月権利確定銘柄の配当落ちに加え、大規模売出のリクルートHD下落が響きました。
8/30(金)243円44銭高・・米中当局から通商交渉に前向きな発言が続きました。
9/2(月)84円18銭安・・・9/1(日)から発動の対中関税第4弾を警戒。東証1部売買代金は5年4ヵ月ぶりの低水準。
9/3(火)4円97銭高・・・前日の米国市場が休場のため、終始方向感のない展開。売買代金は連日の1兆3千億円台。
東証1部の売買代金は8/14(水)〜8/29(木)に12営業日連続で2兆円割れとなりました。8月、1営業日当たり売買代金は1.98兆円と3ヵ月連続で2兆円を割り込みました。ただ、7月は1.85兆円であり、それに比べると小幅ながら回復しました。
なお、一部が12月に先送りされた対中輸入関税ですが、1,100億ドル分3,243品目に対する15%の関税は9/1(日)から実施となりました。生活に身近な商品も多く、今後の影響拡大が懸念されます。
図1 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2019/9/3現在。
図2 NYダウ(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2019/8/30現在。
図3 ドル・円相場(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2019/9/3取引時間中。
今週は9/6(金)に米国で8月雇用統計の発表が予定されています。市場コンセンサスは非農業部門雇用者数が前月比15.8万人増、平均時給が前年同月比3.0%増、失業率が3.7%となっています。
米国経済は引き続き「完全雇用」の状態にあり、労働市場は好調で、消費者心理も総じて楽観的な状態を維持しています。家計の借金が多いこともあり、低金利が追い風になっている面もあります。2020/11/3予定の大統領選を控え、こうした好調な米国経済が続くことが、米トランプ政権にとって最重要関心事のひとつであると考えられます。
米中通商摩擦は、企業にサプライチェーンの再構築を迫るという側面があります。米トランプ大統領が望むように、米製造業が国内での生産を増やす方向であれば、引き続き労働市場もひっ迫状態が続くと見込まれます。ただ、すでに「完全雇用」状態であるため、さらなる雇用の拡大は賃金上昇圧力の増大、インフレの高進につながる懸念があり、難しい所です。
もっとも、最近の数字をみる限り、雇用のひっ迫が厳しくなっているという印象はありません。むしろ、米国景気は緩やかにピークアウトに向かっているように見受けられます。
表1 当面の重要スケジュール
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
9/3(火) | 米国 | 8月ISM製造業景況指数 | 市場コンセンサスは51.2 |
9/4(水) | ロシア | 東方経済フォーラム(ウラジオストク) | |
米国 | 7月貿易収支 | ||
米国 | ベージュブック | 米FOMCの判断材料 | |
9/5(木) | 米国 | 8月ADP雇用統計 | 市場コンセンサスは前月比14.6万人増 |
米国 | 8月ISM非製造業景況指数 | 新規受注、雇用など個別指標の動きにも要注目 | |
9/6(金) | 日本 | 7月毎月勤労統計調査 | |
日本 | 7月景気動向指数 | ||
米国 | 8月雇用統計 | 市場コンセンサスは雇用者数が15.8万人増、失業率が3.7% | |
9/8(日) | 中国 | 8月貿易収支 | 市場コンセンサスは輸出(前年比)1.4%増、輸入(同)6.9%減 |
9/9(月) | 日本 | 4〜6月期実質GDP(2次速報値) | 1次速報値は+1.8%。コンセンサスは+1.3% |
日本 | 8月景気ウォッチャー調査 | いわゆる街角景気 | |
9/9〜9/15 | 中国 | 8月資金調達総額 | 市場コンセンサスは1兆8,300億元 |
中国 | 8月新規銀行融資 | 市場コンセンサスは1兆2,400億元 | |
中国 | 8月マネーサプライ | 市場コンセンサスは前年同月比8.2%増 | |
9/10(火) | 中国 | 8月消費者物価指数 | 前回は前年同月比8.2%増 |
9/12(木) | 日本 | 7月機械受注 | 民間設備投資の先行指標 |
日本 | 東京ゲームショウ(〜9/15) | ||
欧州 | ECB理事会 | 前回、2020年前半までは主要金利を維持または引き下げる方針とする | |
9/13(金) | 米国 | 8月小売売上高 | 米個人消費の強弱を占う |
表2 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2019年 | 2020年 | |
日銀金融政策決定会合 | 9/19(木)、10/31(木)、12/19(木) | 1/21(火)、3/19(木)、4/28(火)、6/16(火) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 9/18(水)、10/30(水)、12/11(水) | 1/29(水)、3/18(水)、4/29(水)、6/10(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 9/12(木)、10/24(木)、12/12(木) | 1/23(木)、3/12(木)、4/3(金)、6/4(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表2の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
前項でご説明したように、2020/11/3予定の大統領選を控え、好調な米国経済が続くことが、米トランプ政権にとって最重要関心事のひとつであると考えられます。しかし、米中通商摩擦が長期化すれば、さすがに米国経済への悪影響が拡大し、トランプ大統領の再選が難しくなるケースも想定されます。
米中通商摩擦の長期化による米国経済の減速・悪化は米トランプ大統領のみならず、株式市場にとっても悪材料になるでしょう。株価にさらなる下落リスクが残る可能性を否定することはできません。むしろ、株式市場ではそうした暗い将来を心配する悲観的な見方の方が多いように見受けられます。
しかし、相場格言に「相場は悲観の中に育つ」と言われます。実は、「9月相場は買い場」となる可能性が大きいのではないでしょうか。理由は大きく分けて3つ指摘できます。
(1)平均的に、日経平均株価は8月から10月にかけて底を形成し、反発する傾向があること
(2)日本株が割安であることを示す材料が増えていること
(3)米国による年内2〜3回程度の利下げは織り込みが進み、円高一巡が期待されること
(1)については、図4でご理解いただけるように、日経平均株価の7〜10月は値下がりすることが多く、それに素直に従うのであれば、10月頃が買い場になりそうです。ただ、ここ数年は8月がボトムになり、9月は上昇するケースが増えています(図5)。その意味では、8/6(火)の安値が直近の1番底であった可能性もありそうです。なお、東証1部の売買代金は9/2(月)に1兆3,299億円と5年4ヵ月ぶりの低水準に沈み、9/3(火)も連日で1兆3千億円台に沈みました。ボリューム面では「陰の極」に近いかもしれません。すでに現在が買い場と言えるかもしれません。
(2)については、図6でおわかりいただけるように、日経平均株価のBPS(1株純資産)は20,101円(8月末)となっており、すでに重要な下値支持ラインに届いていると考えられます。このチャートからも、日経平均株価のBPS割れは、仮に実現しても長期化しない傾向にあります。なお、図7に示したように、日経平均株価の予想1株配当はここ数年で大きく増加し、株価もそれにつれて上昇してきました。現在、東証1部で時価総額1千億円以上の企業について、予想配当利回りが4%以上の企業が100社に迫っています。これは「行き過ぎ」ではないでしょうか。
(3)については、米国FRBによる年内2〜3回程度の利下げは市場コンセンサスになっています。短期金融市場からみた確率から年内2〜3回が妥当とみられるためです。現在1ドル106円前後ですが、為替市場はすでに同程度の利下げは織り込んだ可能性があり、円高は一巡している可能性が大きいとみられます。株式市場には追い風となりそうです。
- ※日経平均株価データをもとにSBI証券が作成
- ※日経平均株価データをもとにSBI証券が作成。単位はすべて「円」