東京株式市場は10月に入って以降、システム障害に伴う売買の終日停止や、トランプ米大統領の新型コロナウイルス感染など、波乱を予感させる出来事が続いています。後者については、日本時間10/6(火)朝に、トランプ米大統領は退院し、大事に至らなかったことから、株式市場では安心感による買いが広がっているようです。
とはいえ、トランプ米大統領の退院はさすがに、リスクを先送りしたことに過ぎない行為と批判されそうです。11/3(火)の大統領選挙が終わっても混乱は続く可能性がある上、米経済指標の回復局面は当面終盤に向かっているとの指摘もあり、10月の株式相場は米国発の波乱に巻き込まれる可能性に注意です。
9月第5週(9/28〜10/2)の東京株式市場は、買い先行となりました。米国株式市場でIT株の見直しが進んだことに加え、9月に配当や株主優待などの権利が確定する銘柄の権利付最終日を迎え、9/28(月)の日経平均株価は前週末比307円00銭高となり、約1ヵ月半ぶりの高値水準回復となりました。続く9/29(火)は、推定で142円台の配当落ちが影響し、売り先行となりましたが、次第に買い直され、日経平均株価は27円48銭高と上昇を維持しました。
しかし、その後は売り優勢となりました。米国時間9/29(火)に、米国で実施された大統領選候補者によるテレビ討論会は、誹謗中傷に終始する中身の乏しい展開となり、バイデン氏優位の趨勢に変化は生じませんでした。この様子を確認する形で日本時間9/30(水)の東京株式市場は後場より、バイデン氏が当選した場合の法人増税を懸念とした利益確定売りに押されました。大引けの日経平均株価は4営業日ぶりの反落で、前日比353円98銭安の23,185円12銭となりました。
なお、この日をもって9月相場は終了し、日経平均株価は月足ベースで0.2%上昇と、続伸(8月は6.6%上昇)しました。3月末終値に比べ、上半期としては33年ぶりに高い上昇幅となる4,268円(22.6%)の上昇となりました。同じ期間、TOPIX(東証株価指数)の上昇率は15.9%にとどまりましたので、上半期のNT倍率(日経平均株価/TOPIX)は5.8%上昇し、同倍率の長期的な上昇基調が継続しました。
そうした中、下半期に入り、初の営業日となった10/1(木)の東京株式市場は、システム障害で全銘柄の取引が停止されるという異例の事態となりました。全銘柄の取引が停止されたのは2005/11/1以来ですが、終日の取引停止は初めてのことです。なお、この日の日経平均株価は9/30(水)終値が適用されることとなりました。
取引再開後初の営業日となった10/2(金)の東京株式市場では、トランプ米大統領が新型コロナウイルスに感染したことが報道され、それを嫌気する形で、日経平均株価は155円22銭安と、10/1を除けば続落となりました。結局9月第5週(9/28〜10/2)の日経平均株価は前週末比174円72銭安と、週足ベースでは3週続落となりました。
週明けの10月第1週(10/5〜10/9)は買い先行となっています。トランプ米大統領の病状が快方に向かい、日本時間10/6(火)朝に退院となるなど、「安心感」が広がりました。もっとも、米大統領選挙を控えて、早期の退院はやや強引な判断だった可能性も強く、ホワイトハウスがクラスターとなっている可能性も指摘され、リスクを先送りした形とみられます。
表1 日経平均株価の値動きとその背景(2020/9/29〜2020/10/6)
日経平均株価 | 日米株式市場等の動き | ||
終値 | 前日比 | ||
9/29(火) | 23,539.10 | +27.48 | 米株高の押し上げ効果を配当落ちで相殺。「NTTドコモ完全子会社化」が追い風か。 |
9/30(水) | 23,185.12 | -353.98 | 米大統領選のTV討論後、下げ加速。レオパレスに米投資ファンドが支援と報道。 |
10/1(木) | 23,185.12 | +0.00 | システムトラブルで東京市場は終日取引停止。9/30の終値を10/1の株価に。 |
10/2(金) | 23,029.90 | -155.22 | トランプ米大統領のコロナ陽性を受けて続落。大統領選の先行きに不透明感高まる。 |
10/5(月) | 23,312.14 | +282.24 | トランプ米大統領の早期退院報道により、米政治混乱に対する警戒感が和らぐ。 |
10/6(火) | 23,433.73 | +121.59 | トランプ米大統領が現地時間5日夕に退院し、買いが優勢。 |
- ※日経平均株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図1 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2020/10/6現在。
図2 NYダウ(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2020/10/6現在。
図3 ドル・円相場(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2020/10/6取引時間中。
表2 当面の重要スケジュール
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
10/6(火) | 日本 | ★決算発表(14件) | サンエー、U.S.M.H、イオンモール |
米国 | 8月貿易収支 | ||
10/7(水) | 日本 | 8月景気動向指数 | |
日本 | ★決算発表(20件) | ファミリーマート、ウエルシアHD、イオン、ベルシステム24 | |
米国 | 9月15・16日開催のFOMC議事録 | ||
米国 | 副大統領候補テレビ討論会(ユタ州) | ||
10/8(木) | 日本 | 9月都心オフィス空室率 | |
日本 | 9月景気ウォッチャー調査 | ||
日本 | ★決算発表(26件) | ローソン、セブン&アイ・ホールディングス、久光薬 | |
10/9(金) | 日本 | 8月家計調査 | |
日本 | 8月毎月勤労統計調査 | ||
日本 | ★決算発表(72件) | 竹内製作所、安川電、ビックカメラ、島忠、吉野家 | |
10/12(月) | 日本 | 9月国内企業物価 | |
日本 | 8月機械受注 | ||
日本 | 「大阪都構想」の是非を問う2度目の住民投票告示 | ||
日本 | ★決算発表(34件) | コスモス薬品、コーナン商事、タマホーム | |
- | IMF・世界銀行年次総会(〜18日バーチャル形式) | ||
10/13(火) | 日本 | 9月マネーストック | |
日本 | ★決算発表(47件) | Jフロント、東宝、イズミ、アークス | |
米国 | 9月消費者物価 | ||
ドイツ | 10月ZEW景況感指数 | ||
中国 | 9月貿易収支 | ||
10/14(水) | 日本 | ★決算発表(58件) | いちご、コメダ、サイゼリヤ、S FOODS、ABCマート |
米国 | 9月生産者物価 | ||
- | G20財務省・中央銀行総裁会合 | ||
10/15(木) | 日本 | 8月第三次産業活動指数 | |
日本 | ★決算発表(72件) | ウエストHD、日本国土開発、MrMaxHD、ファーストリテ | |
米国 | 10月NY連銀製造業景気指数 | ||
米国 | 9月輸出入物価 | ||
米国 | 10月フィラデルフィア連銀製造業景況感指数 | ||
米国 | 米大統領選挙の大統領候補討論会2回目 | ||
中国 | 9月生産者物価 | ||
中国 | 9月消費者物価 | ||
- | 英、EUとの自由貿易協定(FTA)締結交渉の妥結期限 | ||
- | EU首脳会議(〜16日) | ||
10/16(金) | 日本 | ★決算発表(2件) | ゲンダイエージェンシー、ベクター |
米国 | 9月小売売上高 | ||
米国 | 9月鉱工業生産・設備稼働率 | ||
米国 | 10月ミシンがン大学消費者マインド指数 |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。
表3 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2020年 | 2021年 | |
日銀金融政策決定会合 | 10/29(木)、12/18(金) | 1/21(木)、3/19(金)、4/27(火)、6/18(金)、7/16(金)、9/22(水)、10/28(木)、12/17(金) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 11/5(木)、12/16(水) | 1/27(水)、3/17(水)、4/28(水)、6/16(水)、7/28(水)、9/22(水)、11/3(水)、12/15(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 10/29(木)、12/10(木) | 1/21(木)、3/11(木)、4/22(木)、7/22(木)、9/9(木)、10/28(木)、12/16(木) |
- ※日米欧中銀WEBサイトを基にSBI証券が作成。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。 なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しています。日付は日本時間(ただし、ECBの結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
トランプ米大統領は10/2(金)、自身とメラニア夫人が新型コロナウイルスに感染したことを明らかにし、入院しました。しかし、その後は症状が軽いことをアピールし、自動車での外出や、支持者に手を振るなどのパフォーマンスを行い、米国時間10/5(月)に退院しました。日米の株式市場では、トランプ米大統領が「大事」に至らず、混乱が回避されたことを「好感」し、買いが先行する展開になっています。
しかし、トランプ米大統領が仮に完全に回復したとしても、入院後3日で外部との接触を持つことは相当な感染リスクを伴うと考えられます。現実にホワイトハウスでは関係者の新型コロナウイルス感染が相次ぎ報道され、クラスター化している可能性が広がっています。普通に考えれば、今後の米大統領選挙でのトランプ米大統領の活動は相当制約されるとみられます。
第1回目の大統領候補テレビ討論と今回の入院騒動を経て、バイデン候補優位で、トランプ米大統領が劣勢という世論調査上の格差はさらに拡大しています。仮にこのままバイデン氏の優勢が崩れず、大統領に当選した場合、トランプ米大統領が選挙結果を認めないという前代未聞の状況が生じる可能性が指摘されます。仮にそのような事態に陥った時は、米国の民主主義のイメージが相当のダメージを受けると危惧されます。
そもそも、株価は経済の変動を織り込みながら推移していくと考えられます。市場予想を上回る米経済指標が多いと上昇し、逆に市場予想を下回る米経済指標が多いと下落する「米経済サプライズ指数」は、米国株の動きと関係しながら推移しています。足元も、同指数はリーマンショック以来の低水準まで低下した後、過去最大級の上昇を演じましたが、それとほぼ連動するように、株価(S&P500)も急落後、急上昇の展開となっています。
この「米経済サプライズ指数」は現在、ピークアウトの様相になっています。10/2(金)に発表された米雇用統計(9月)では、雇用者数が予想を下回った上、労働参加率の低下が観測され、経済指標回復の局面が終わりつつあることを印象付けています。大統領選挙をめぐる混乱に加え、米経済回復に不透明感が強まることにより、10月相場は米国発で波乱含みの展開になることが警戒されます。
図4 米国S&P500指数と同国経済指標サプライズ指数(週足)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
- ※米経済サプライズ指数が高いほど市場予想を上回る米経済指標が多い(低いときはその逆)と理解されています。