11月の東京株式市場はおおむね堅調な値動きです。米国株式市場で主要株価指標が軒並み過去最高値を更新しており、その恩恵を受けています。衆議院選挙で与党が勝利したうえ、決算発表も順調に進捗しており、市場を覆ってきた“霧”は次第に晴れつつあるように思われます。
日経平均株価は11〜12月に、3万円回復、年初来高値更新と進み、さらに上値を目指す可能性が大きくなってきました。
日経平均株価の11月第1週(11/1〜11/5)終値は29,611円57銭となりました。前週末(10/29)比で718円88銭(2.5%)高、週足ベースでは続伸となりました。
11/1(月)に日経平均株価が754円39銭の大幅高。衆議院選挙(10/31)において、自民党が単独で国会安定運用に必要な絶対安定多数を確保し、政治不安が後退したことが好感されました。しかし、図表1にあるように、日経平均株価が3万円手前まで上昇すると、利益確定売りが増加し、11/5(金)〜11/9(火)は続落しました。
一方、NYダウは11月第1週(11/1〜11/5)終値が前週末比1.4%高、週足ベースで5週続伸となりました。進捗中の決算発表では、業績の上ぶれが目立ち、それを好感する買いが継続しています。11/3(水)のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、市場予想通り、11月からのテーパリング(量的緩和縮小)開始が発表されましたが、FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げに慎重姿勢を示したことが好感されました。11/5(金)には、米インフラ法案が可決され、経済拡大への期待が維持されました。
なお、主要指数の中では10/25(月)〜11/8(月)に11日連続高したナスダック指数(同期間に+5.9%)の上昇が目立ちました。FOMCに続き、11/4(木)にはイングランド銀行が、利上げ予想に反して政策金利据え置きを発表。米10年国債利回りは10/21(木)に付けた1.700%をピークに、11/5(金)には1.451%まで急低下となりました。ナスダック指数の中心となるグロース株は金利低下で買われやすく、足元は強い追い風を受ける展開になりました。
図表1 日経平均株価の値動きとその背景
日経平均株価 | 株式市場の動き | ||
終値 | 前日比 | ||
11/2(火) | 29,520.90 | -126.18 | 反落。前日に754円高した反動に加え、FOMCを控えていたこともあり、この日は利益確定売りが先行しやすかった。ただ、岸田首相の経済対策や、経済正常化への期待もあり、大きく売り込む向きも少なかった。業績予想を上方修正した京セラ(6971)とTDK(6762)が買われ、日経平均株価を63円分押し上げた。 |
11/3(水) | - | - | 休場(文化の日) |
11/4(木) | 29,794.37 | 273.47 | 反発。FOMCを経てNYダウが5営業日続伸となった流れを引き継いだ。時価総額トップのトヨタ(7203)が業績予想の上方修正と自社株買い実施を発表し、株価が上昇したことも安心感を与えた。日経平均株価は取引時間中としては9/28(火)以来の高値水準を回復し、3万円回復も意識されたが、その後は伸び悩んだ。 |
11/5(金) | 29,611.57 | -182.80 | 利益確定売りから反落。この週は前日まで日経平均が900円余り上昇し、3万円も意識される水準となったことや、米雇用統計の発表を控えていたこと、高水準な決算発表社数(338社)等があり、リスク許容度が低下した面もありそう。 |
11/8(月) | 29,507.05 | -104.52 | 買い先行も続落。強い雇用統計を受けた米株高を好感して買いが先行した。しかし、決算発表社数ピークの週を迎える中、この日はソフトバンクG(9984)の発表を控えていることもあり、次第に利益確定売りが増えた。前週末に業績予想を下方修正したホンダ(7267)や、この日に下方修正の大手建設株が売られるなど、市場マインドの弱さが感じられた。ファイザー社のコロナ向け飲み薬が入院・死亡リスクを9割減らせるとの治験結果が伝わり、空運・海運等が買われた。 |
- ※日経平均株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図表2 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとに作成。データは2021/11/9 10:00時点。
図表3 NYダウ(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとに作成。データは2021/11/9 10:20時点。
図表4 ドル・円相場(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとに作成。データは2021/11/9 10:30時点。
図表5 主な予定
月日 | 国・地域 | 予定 | 備考 |
11/9(火) | 日本 | 10月景気ウォッチャー調査 | |
★決算発表 | 大和ハウス工業、出光興産、日産自動車 | ||
米国 | 10月生産者物価 | コア指数の市場コンセンサスは前年同月比6.8%増 | |
11/10(水) | 日本 | 10月マネーストック | |
★決算発表 | 日本電信電話、三菱地所、アサヒグループHD | ||
中国 | 10月生産者・消費者物価 | ||
米国 | 10月消費者物価指数 | (E)コア指数は前年同月比4.3%増 | |
新規失業申請件数 | |||
★決算発表 | ウォルトディズニー、マルケタ、ロイヤルティファーマ、アフォームホールディングス | ||
11/11(木) | 日本 | 10月国内企業物価 | 市場コンセンサスは前年同月比6.9%増 |
10月都心オフィス空室率 | |||
★決算発表 | ブリヂストン、ENEOSホールディングス、スズキ | ||
中国 | 独身の日 | ||
11/12(金) | 日本 | オプションSQ | |
★決算発表〜発表件数ベースでピーク(700件) | 三井住友フィナンシャルG、日本郵政、東京エレクトロン | ||
MSCI定期見直し | 5月は新規採用なしで除外29銘柄。今回も日本株ウェイトダウンか | ||
米国 | 9月JOLT求人件数 | ||
11月ミシガン大学消費者マインド速報値 | 予想インフレ率にも注目 | ||
11/15(月) | 日本 | 7〜9月期GDP | (E)前期比・年率-0.7% |
中国 | 10月小売売上高 | (E)前年同月比3.5%増 | |
10月工業生産 | (E)同3.0%増 | ||
1〜10月都市部固定資産投資 | (E)6.2%増 | ||
米国 | NY連銀製造業景況指数 | ||
11/16(火) | 米国 | 10月小売売上高 | (E)(自動車・ガソリンを除く)前月比1.1%増 |
10月鉱工業生産・設備稼働率 | |||
11月NAHB住宅市場指数 | |||
11/17(水) | 日本 | 10月貿易統計 | |
9月機械受注 | 民間設備投資の先行指標 | ||
米国 | 10月住宅着工件数 | ||
新規失業申請件数 | |||
11/18(木) | 日本 | 10月首都圏マンション発売 | |
米国 | 11月フィラデルフィア連銀製造業景況指数 | 米国企業のマインドは? | |
11/19(金) | 日本 | 10月消費者物価 |
- ※各種報道、WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「E」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
2021年 | 2022年 | ||
日銀金融政策決定会合 | 12/17(金) | 1/18(火)、3/18(金)、4/28(木)、6/17(金)、7/21(木)、9/22(木)、10/28(金)、12/20(火) | |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 12/15(水) | 1/26(水)、3/16(水)、5/4(水)、6/15(水)、7/27(水)、9/21(水)、11/2(水)、12/14(水) | |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 12/16(木) | 1/20(木)、3/10(木)、4/14(木)、6/9(木)、7/21(木)、9/8(木)、10/27(木)、12/15(木) |
- ※日米欧中銀WEBサイトを基にSBI証券が作成。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。
- なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しています。日付は現地時間を基準に記載しています。
図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位
コード | 銘柄 | 業種 | 株価(11/8) | 株価(11/1) | 騰落率(11/1〜11/8) |
3436 | SUMCO | 金属製品 | 2,427 | 2,197 | 10.5% |
4689 | Zホールディングス | 情報・通信業 | 785.0 | 718.2 | 9.3% |
8233 | 高島屋 | 小売業 | 1,169 | 1,074 | 8.8% |
3659 | ネクソン | 情報・通信業 | 2,117 | 1,949 | 8.6% |
9202 | ANAホールディングス | 空運業 | 2,891 | 2,668 | 8.4% |
6762 | TDK | 電気機器 | 4,435 | 4,125 | 7.5% |
6479 | ミネベアミツミ | 電気機器 | 3,140 | 2,946 | 6.6% |
3402 | 東レ | 繊維製品 | 757.4 | 715.7 | 5.8% |
8002 | 丸紅 | 卸売業 | 1,037.5 | 984.0 | 5.4% |
6971 | 京セラ | 電気機器 | 7,150 | 6,789 | 5.3% |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
- ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
図表8 日経平均株価採用銘柄の下落率上位
コード | 銘柄 | 業種 | 株価(11/8) | 株価(11/1) | 騰落率(11/1〜11/8) |
7003 | 三井E&Sホールディングス | 機械 | 441 | 593 | -25.6% |
5411 | ジェイ エフ イー ホールディングス | 鉄鋼 | 1,500 | 1,803 | -16.8% |
7951 | ヤマハ | その他製品 | 6,520 | 7,440 | -12.4% |
5301 | 東海カーボン | ガラス・土石製品 | 1,361 | 1,532 | -11.2% |
5406 | 神戸製鋼所 | 鉄鋼 | 609 | 685 | -11.1% |
2768 | 双日 | 卸売業 | 1,722 | 1,918 | -10.2% |
4902 | コニカミノルタ | 電気機器 | 515 | 570 | -9.6% |
1802 | 大林組 | 建設業 | 900 | 996 | -9.6% |
6674 | ジーエス・ユアサ コーポレーション | 電気機器 | 2,264 | 2,505 | -9.6% |
9107 | 川崎汽船 | 海運業 | 5,130 | 5,610 | -8.6% |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
- ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
米国主要株価指数が軒並み過去最高値を更新する中、日経平均株価上昇の勢いは3万円手前で止まっています。11/9(火)の東京株式市場でも、目立ったニュースが見られない中、急落する場面があり、不安定な部分が残っています。
しかし、東京株式市場を覆う“霧”は次第に晴れつつあり、今後年末にかけて日経平均株価は3万円を回復し、年初来高値を更新し、さらに上値を追っていく可能性が出てきたと「225の『ココがPOINT!』」では考えています。理由を箇条書きにすると以下の通りです。
(1)我が国の新型コロナウイルスの感染が急速に収束。
(2)政治不安が衆議院選挙を経ていったん解消。
(3)米金融政策について、早期の利上げ観測が後退。
(4)企業業績に対する不透明感が後退。
・新型コロナウイルスの感染拡大や半導体不足を背景とする供給不足はピークアウトの兆し。
・原油高や商品市況高を背景とするコスト高は上記要因もあり、ピークアウトする可能性。
(5)中国市場の波乱で不安視されたソフトバンクG(9984)が決算発表・自社株買いで11/9(火)に株価上昇。
(1)〜(3)については、各種報道等ですでに明らかだと思います。(4)についても、東南アジア等における挽回生産の本格化等が報じられており、供給不足解消が企業業績の改善に寄与してくると思われます。逆に、資源・エネルギー高で今期に利益が膨らんだ企業は、来期以降の反動減に注意であると思われます。
(5)については、日経平均株価の予想EPSに大きく影響するとみられるソフトバンクG(9984)の、日経予想業績が、第2四半期の業績を織り込んで引き下げられた模様で、アク抜けにつながると考えられます。
11/8(月)現在、日経平均株価の予想EPSは2,179円まで上昇。仮に株式市場が、日経平均株価の予想PERについて、かつてのように15倍程度まで上昇することを許容するならば、図表9で示したように、32,685円まで上昇しても不思議ではありません。その場合、9/14(火)に付けた年初来高値(終値ベース)30,670円は「通過点」になると考えられます。
図表9 日経平均株価(月足)とPER・PBR
- 日経平均株価データをもとにSBI証券が作成。2011/9〜2021/11(月終値)のデータをもとに作成。ただし、2021/11は11/8(月)現在。なお、計算のベースになる日経平均株価の予想EPSや、BPSは日々変動し、時には大きく変わることもあるので注意が必要です。