三角保ち合い上放れの様相
「上放れ」をもたらした要因を整理する
東京株式市場では11月15日、日経平均株価終値が、15,165円92銭となりました。終値ベースとしては、5月22日終値15,627円26銭(2013年の年初来高値)以来の1万5千円大台回復となりました。ただ、大台回復という象徴的な出来事以上に重要なのは、日経平均株価が、7月19日高値14,953円を抜け、図1に示された上値抵抗ライン①を上抜けた形になったことです。すなわち、チャート上「三角保ち合い上放れ」の形になっており、セオリー通りであれば、ここから株価は一段高しやすい状況になっています。
実は、チャート上、日経平均株価は11月8日(金)終値14,086円の時点では上記の「三角保ち合い」をわずかながら下放れた形になっていました。しかし、下放れ期間はわずか1日にとどまり、いわゆる「だまし」の形になりました。週明け11日(月)以降は、上昇基調となり、上記のように15日時点で15,000円を回復するに至っています。ここで何が起きたのか整理しておくことは、今後の相場の方向感を図る上でも重要とみられます。
結論から先に申し上げますと、相場が上放れに転じた要因は、①米雇用統計の極端な上振れ、②それによる円高・ドル安圧力の後退、③イエレンFRB次期議長が金融緩和継続に予想以上に前向きだったこと、④日経平均予想一株利益(EPS)が急上昇、等が指摘されるかと思います。(図1)
最初に市場を驚かしたのが米雇用統計です。11月8日以前には、米国の非農業部門雇用者数は8月19.3万人増(前月比・以下同じ)、9月14.8万人増の後、10月は12.0万人増とさらに減速する予定でした。10月半ばまでの政府機関閉鎖の影響が織り込まれたためです。もっとも、8日に発表される雇用統計がこうした流れの延長線上であったとしても、市場は「織り込み済み」と、前向きに捉えたかもしれません。しかし、8日の日本時間夜に発表された雇用統計は、8月が前月比23.8万人増、9月が16.3万人増と上方修正された上、10月は20.4万人増と減速するどころか、逆に加速を示す数字になりました。
これにより「米国の景気拡大は減速している」といった市場の見方は修正を余儀なくされ、米国経済の腰が想定以上に強いことが印象付けられました。その結果、円高・ドル安圧力は後退し、為替も円安・ドル高方向へ反転しました。こうした中、イエレンFRB次期議長が14日、緩和的金融政策長期化に前向きな姿勢を示したことは、あの強い雇用統計の後だけに、驚きとなりました。これを受け、米株式市場でダウが最高値を更新し、それが東京株式市場にも強い追い風になりました。
なお、こうした中、東京株式市場では4〜9月期の決算発表が終盤を迎えていました。トヨタが決算発表を終えた6日時点での日経平均予想EPSは915円で、まだ、5月以降の横ばい圏内にあったと言えます。ただ、この数字はその後急上昇に転じ、15日には962円まで上昇した。銀行をはじめとする金融セクターの決算が予想以上に良好で、予想EPSを押し上げた形です。
このように、11月8日から15日にかけ、想定外の前向きなサプライズが相次いで、起こったことで、株価は一転「上放れ」に転じたと、理解するのが妥当であると考えられます。ファンダメンタルズの変化が背景にあるとみられるので、株価は中期的に、「レンジが上がった」とみるべきかもしれません。ただ、11月18日時点では東証一部の騰落レシオが120%と、過熱域に入っており、日経平均の25日移動平均乖離率も4.68%(通常は7〜8%が上限とされるが、5〜6%での反転も少なくない)となっています。目先は乱高下の可能性もあり、注意が必要です。
図1:日経平均株価・日足
弊社チャート・ツールをもとにSBI証券投資調査部が作成。
図2:日経平均株価(日足)と予想EPS
日経平均株価公表データをもとにSBI証券が作成。
相場急変への備えは有効だったか〜「ストラドルの買い」が生きた局面
11月8日時点で我々はどんな投資行動をとれたでしょうか。ちなみに、11月8日時点の日経平均株価(現物価格)終値は、14,086円80銭でした。同日の同先物12月限・終値は14,090円でした。また、日経平均株価オプションの12月限・権利行使価格14,125円について、コールは305円、プットは355円のプレミアムになっています。これらが、11月18日にどうなっているかを示したのが下表です。
無論、日経平均先物を単純に売買するのであれば、ここは買い方が得をし、売り方が損した形です。また、オプション取引については、コールを買った投資家が925円(=1,230-305)得をし、プットを買った投資家が270円(=85−355円)損をするという形です。なお、話を単純化するために、ここでは先物売りや、オプション売りは実施しないという前提を置いています。
ちなみに、11月8日にこのコールとプットを同時に買っていたらどうでしょうか。買った時点では、コールとプットの買い付け代金が単純に加算され、損益は▲660円(損失)となります。しかし、11月18日時点では、コールで925円の利益が発生し、逆にプットで270円の損失が出ています。この時点で決済すれば、計655円の利益になる計算です。このように、コールとプットの同一行使価格のものを同数量・同時に買う「ストラドルの買い」は、相場が大きく動いたことで利益をもたらしています。
ちなみに、11月18日の日経平均終値は15,164円ですので、コール・プレミアムは理論上1,039円(15,164-14,125円)でも良さそうですが、191円(1,230-1,039円)分、それよりも高い1,230円になっています。同様に、プット・プレミアムは無価値でも良さそうですが、85円の価格が付いており、ゼロにはなっておりません。これは、12月13日(金)のSQまで、4週間近い営業日が残っており、価値を回復する可能性はゼロでないため、期待値が付いていると考えるとわかりやすいでしょう。
従って、仮に日経平均株価が全く変わらなくても、SQが接近すればするほど、コール、プット、ストラドルの買い等のプレミアムは、図3で示された水準に収れんしてゆく計算となります。すなわち、オプションの価格は、時間が経過すると「時間的価値」が減少するので、もし、現物価格が変わらなければ、その分、値下がりする計算となります。オプション取引では「時間は命」と言えるでしょう。
表:主要指標の11月8日から11月18日までの推移(単位・円)
日経平均先物・オプション取引データをもとにSBI証券が作成。税金・手数料は未考慮。
図3:日経平均オプション2013年12月限月行使価格14125円で「ストラドルの買い」(2013年11/8)
SBI証券投資調査部が作成。あくまでも2013年11月18日データを用いたシミュレーションであり、参考データとしてご理解ください。また、オプションのプレミアムは、SQ前では、需給関係や取引最終日までの日数等により、理論どおり価格が形成されないリスクがありますのでご注意ください。なお、通常取引での実際の損益は1単位当たりこの1,000倍になります。