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2024-10-15 17:45:40

金価格下落のリスクを警戒

2024/8/28
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

2024年の金価格は高値圏での推移を続けている。このコラムでは金価格を実質金利要因、クレジットリスク要因、その他の要因に分解して分析してきたが、2022年以降は総じて実質金利要因、クレジットリスク要因は金価格を下押しする方向に寄与している。しかしその間、金価格は上昇を続けており、その他の要因が金価格を決定していることはほぼ間違いがない。その他の要因には、1.ドル離れ、2.地政学的リスク、3.リスクオン・オフ、が影響していると考えられる。1.のドル離れには、欧米がロシアに対して行った制裁と金融引き締めが強化される中で、米国債の価値の目減りを回避するための他資産へのシフトが含まれる。2.はロシアとウクライナの戦争、ハマスのイスラエル攻撃に対するイスラエルの報復(いわゆるガザ紛争)発生時に顕著に顕在化している。3.はその他の要因で株などの下落・上昇を受けたファンドなどが、各アセットクラスに対する投資比率を一定にするための売買、などが該当する。

しかし、この2年間は価格上昇が続いた。価格上昇の背景にはBRICS諸国、特に中国が外貨準備の投資比率を見直す目的で金を物色した影響が小さくないと考えられ、同国の金準備の水準増加に歩調を合わせて金価格は上昇している。しかしこの3ヵ月、中国政府は金準備を積み増ししていない。この積増しの見送りは金価格が2,200ドルを上回ったあたりから発生しているが、恐らく中国人は非常に価格に対して敏感であるため価格上昇を受けて一旦様子を見ることにしたものと見られる。また、米国の利下げの可能性が高まっていることも、外貨準備のリアロケーション意欲を低下させたとみられる。政策金利が引き下げられ、金利が低下する中では米国債の価格が上昇するからだ。この両要因が、中国に買いを止まらせたと考えられるが、公的セクターの買いによる下値は2,200ドル程度の可能性があり、心理的な下値として意識されるということだろう。

なお、これまで価格を押し上げてきた中国勢の買いによる上海スプレッドの上昇は、中国人民銀行が人民元高誘導方針を示したことで縮小している。中国政府は国内の景気減速に伴う人民元安が、自国からの資金流出の加速に繋がる事を懸念していると考えられる。自国通貨の価値目減りを補うために金を物色していた市場参加者(恐らく個人も含まれる)は、当局の通貨高方針を受けて、人民元→金へのシフトを一時的に止めた可能性はあろう。また、これまで価格を押し上げてきた各国の量的緩和によるマネタリーベースも、QT(Quantitative Tightening:量的引き締め)の進捗で減少しており価格にはマイナスに寄与することが予想される。

足下、金価格の押し上げに寄与していると考えられるのが、金先物の投機筋動向。ネットロングの増加とともに価格が上昇している。またこれまで現物需要が高まる中で「在庫減少と価格上昇」が同時に発生していたETFも僅かではあるが再度積み増しの動きが見られており、価格にプラスに作用する通常の状態に戻っている。上述の様にこれまで金価格を押し上げてきた材料の価格押し上げヘの寄与が低下している状況で、足下「投機の動向」が価格に影響していると考えられる。結果、投機の主戦場である株式市場で株価が下落する、といったことが起きれば、同時に金価格も下落する可能性は有り得る。足下、急速な減速が懸念されていた米国の景気はソフトランディング期待が再び高まっており、株式市場もやや落ち着きを取り戻しているため直ちにこのシナリオが顕在化する可能性は後退しているが、このリスクには目配せをしておく必要があるだろう。なお、中国当局の買いが2,200ドル程度で発生する可能性があることを勘案すると、下落があったとしても当面2,200ドル程度が下値として意識されることになるのではないか。

出所:CFTC、CME

新村 直弘

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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