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2025年原油価格見通し
2024/12/9
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
2024年の原油価格は春先に向けて上昇した。年初からの価格上昇はガザで始まったイスラエルとハマスの戦闘継続でアラビア半島近海の石油タンカーの航行に影響が出たことや、最大消費国である米国の個人消費が堅調だったといった需要面が意識された。しかしインフレ抑制のための高金利政策の継続による金融要因や、米ISM製造業指数減速などの需要面が意識されたことで価格が下落、直近では70ドル台前半での推移となっている。
◆2025年の原油価格は下落後上昇がメインシナリオだが...
2025年の原油価格は、世界経済と原油需要を牽引している米景気が年初~春先に掛けて減速、その後、年末にかけて緩やかに回復すると期待されているため、下落後上昇すると考えている。どちらかと言えば景気の循環的な要因が大きいと考えられる。しかし、IMFの世界景気見通しでは2025年の世界経済は+3.2%(今年は+3.2%)と成長ペースは加速せず、米国の景気見通しも+2.2%程度の伸びにとどまると予想されていることや、景気回復局面ではOPECプラスの減産解除(増産)が見込まれることから、価格の上昇は緩やかなものにとどまると予想している。ただし、2025年は上昇・下落両面のリスクが存在するため、かなり変動性の大きな年になる可能性がある。
出所:Bloomberg、ICE、MRA
◆中東情勢悪化のリスク
上昇リスクは需要面では米経済が想定以上に過熱する場合、供給面では中東、ウクライナ・ロシアの地政学的リスクが顕在化し、原油生産及び輸送に障害が出る場合だろう。米景気がトランプ政権に移行した後、減税などの効果で加熱することは有り得る。トランプ次期大統領は基本的に戦争を望まない大統領、と言われているためウクライナ・ロシア、中東の有事が収束するとの期待はある。しかし、あくまで主体はウクライナとロシアであり、中東であればイスラエルとイランだ。これらの国が米国の思い通りに動く保証はない。特にイスラエルがイランとの対立を深めて実際に攻撃を行った場合、同盟国であり、かつ、米国の歴代大統領の中で最も親イスラエルとされるトランプ氏がこれに強力な支援を行う可能性はある。この場合、封鎖までは至らなくてもペルシャ湾の船舶航行が困難になり、価格が上昇するシナリオは有り得る話だ。
◆トランプ政権下で、本当に「掘って掘って掘りまくれる」のか?
市場で話題になっているのが、トランプ政権で原油を「掘って掘って掘りまくる」場合だろう。次期財務長官であるベッセント氏は持論で2028年までに原油を300万バレル/日、増産するとしている。実際、米次期政権はエネルギー企業に対して油田開発、パイプライン敷設、製油所のキャパシティ拡大やLNGの輸出などに制限を設定しない方針とみられ、これらの政策は長期的に原油価格の上昇を抑制すると期待される。現在の米原油の生産コストが60ドル近辺であることを考えると現在のWTIの価格水準でも増産は可能であり、生産開始を待機している待機油田からの増産も、数ヵ月の時間差はあるが可能と言えば可能だ。
しかし、シェール油田の場合、生産が始まると途中で止めることができないため、稼働期間中にWTIが下落して生産コスト割れになることを考えると、政府からの補助金や先物取引を上手く活用して原油価格の下落リスクヘッジをする(なお、先物でヘッジ売りを行った場合、価格には下押し圧力が掛かる)、といった対策がなければ思ったほどの増産にならないのではないか。また、2年後の中間選挙、4年後の大統領選挙でトランプ陣営が敗北して民主党政権が復権した場合、化石燃料の生産に再び制限がかかると予想されることも、企業の増産判断を鈍らせることになろう。
それ以上に原油価格を下押しする可能性があるのが、OPECプラスが原油価格の低迷を受けて、外貨を獲得するために減産ではなく増産して外貨を獲得しようとする方向に舵を切る場合だろう。この数年、OPECプラスは比較的厳格に減産を遵守してきたが、余りに価格の低下が長期にわたると、いわゆる「抜け駆け増産が加速」することがある。実際、景気減速局面で原油価格が下落した場合、途中までは減産を支持するが途中から増産に舵を切ったケースは少なくない。
このように来年は何もなければ原油価格は安定するのだが、上昇・下落両方向のリスクが存在するため、価格安定は消費国である日本にとって、希望的観測に過ぎなくなる可能性も否定できない。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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