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新型コロナウイルスが金市場に与える影響を考える
提供元:森田アソシエイツ
新型コロナウイルスの勢いがなお止まらない。金市場への影響は当然気になるところである。まず、マイナス面としては、需要の半分近くを占める宝飾需要が減少することが考えられる。特に宝飾需要の約30%を占め、新型コロナウイルスの震源地でもある中国において、消費者心理の悪化や外出控えによって、宝飾店の売り上げが一時的に大きく落ち込むことは避けられない。また、グローバルベースで経済活動のレベル低下が見込まれるため、産業用需要の一部も減少する可能性が高い。
一方、プラス面としては、新型コロナウイルスの感染拡大によって、株価だけでなく、政治・経済情勢の先行きに対する懸念が高まり、マクロ環境の不確実性が増幅されるため、リスクヘッジやセーフヘブンを求めて、金に目を向ける投資家は増加する。また、短期の価格形成に大きな影響を与えるETFなどの投資需要が旺盛になるのに伴い、金価格が上昇している。実際、ここに来て、金価格は高騰している。
しかし、新型コロナウイルスの押さえ込みに長期間を要する場合、金市場に与える影響はもっと複雑になる。消費者心理の悪化や外出控えに加え、金価格が持続的に上昇した場合、宝飾需要がさらに低迷を深める可能性がある。なぜなら、価格が上昇する局面において、一般的に、消費者は様子見の姿勢を取り、金の購入を一時的に遅らせる行動パターンがしばしば観察されているからである。逆に、金価格が急下落する場面では、消費者は金を前倒しで購入する傾向にありる。したがって、金価格の急上昇は宝飾需要の減少スパイラルを招く恐れがある。また、価格が高止まりした場合、全需要の約10%を占める産業用材料としての金のコスト競争力が低下することも考えられる。
確かに金価格が上昇すると、ETFや中央銀行などからの投資需要がさらに増加する可能性がある。なぜなら、価格が上昇する局面において、一般的に、投資家はモメンタム買いを含め、金の購入を加速させる傾向があるからでにある。逆に、金価格が急下落する場面では、金を売却する投資家が多く存在する。
しかしながら、投資需要は全体の25%ほどしかなく、過半を占める消費者需要の落ち込みを持続的に補うえるには力不足である。したがって、堅調な需要を伴わない金価格の上昇持続力は、自ずと限界があると言わざるを得ない。むしろ、価格が反転するリスクも考えるべきである。
新型コロナウイルスはまだ進行中であるため、現地点で金市場に対する影響の全体像を予測することは困難であるが、2003年に流行したSARSが一つのヒントになる。中国南部で発生したSARSは、約8カ月で終焉を迎え、中国の宝飾需要に10%?15%ほどの落ち込みをもたらしたと推測されている。一方、価格面に対する影響は、最盛期だった2003年第2四半期において、最高で16%、通期では3%ほどの上昇であった。注意すべき点しなといけないのは、当時の中国が世界経済や消費者金需要に占める割合はそれぞれ3%および8%程度しかなく、現在の15%と30%とほど遠い規模であったことである。そのため、中国がグローバル金市場に与える影響は、SARSの時に比べ、遥かに大きくなる可能性がある。新型コロナウイルスの早期収束を願うばかりである。
森田アソシエイツ 森田 隆大(もりた たかひろ)
ニューヨーク大学経営大学院にてMBA取得。1990年にムーディーズ・インベスターズ・サービス本社(ニューヨーク)にシニア・アナリストとして入社。2000年に格付委員会議長を兼務。2002年に日本及び韓国の事業会社格付部門の統括責任者に就任。2010年にワールド・ゴールド・カウンシルに入社、翌年、日本代表に就任。金ファンダメンタルズおよび投資における金の役割に関する調査・研究の提供、および投資家との直接対話を通して、金投資の普及活動に取り組む。
2016年に森田アソシエイツを設立、ワールド・ゴールド・カウンシル顧問を兼務。現在、埼玉学園大学大学院客員教授、特定非営利活動法人NPOフェアレーティング代表理事、MSクレジットリサーチ取締役兼評価委員会議長も兼任。立命館大学金融・法・税務研究センターシニアフェロー、法政大学大学院兼任講師を歴任。
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