先週は中国の景気鈍化懸念、米国の消費鈍化懸念、新型コロナの感染再拡大などを受けて最高値から反落となりました。今週は新型コロナの感染再拡大、ジャクソンホール会合、米国の消費動向などが注目されます。
今回は先週相場全体が調整色を強めた局面でも株価がプラスを維持した銘柄から、セールスフォースドットコム(CRM)、アドビ(ADBE)、マイクロソフト(MSFT)、アクセンチュア(ACN)、ウォルマート インク(WMT)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
公益事業 | 1.8% | 6.0% | 5.7% |
ヘルスケア | 1.8% | 3.5% | 9.5% |
不動産 | 0.5% | 1.5% | 11.0% |
情報技術 | 0.4% | 0.7% | 14.4% |
生活必需品 | 0.4% | 2.2% | 3.4% |
コミュニケーションサービス | -0.4% | 0.1% | 10.0% |
S&P500 | -0.6% | 0.7% | 6.9% |
一般消費財・サービス | -2.2% | -4.4% | 4.6% |
金融 | -2.3% | 3.8% | 0.3% |
資本財・サービス | -2.3% | -1.1% | -0.4% |
素材 | -3.1% | 2.4% | -3.4% |
エネルギー | -7.3% | -6.3% | -11.8% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
ロウズ | 9.3% |
ネットフリックス | 6.0% |
ユナイテッドヘルス・グループ | 4.9% |
マイクロソフト | 3.9% |
ネクステラ・エナジー | 3.4% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
ボーイング | -9.3% |
ゼネラル・モーターズ(GM) | -9.0% |
シェブロン | -7.5% |
フォード・モーター | -7.5% |
キンダー・モルガン | -7.4% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
週前半は、(1)中国の7月鉱工業生産・小売売上高が市場予想を下回って中国経済鈍化の懸念が高まった、(2)米国の8月ミシガン大学消費者マインドが大幅低下、7月米小売売上高が市場予想を下回って消費の先行きに警戒が高まった、(3)新型コロナの感染再拡大で米国の入院患者数が今年2月以来の水準に上昇している、などを受けて景気鈍化懸念が強まり相場も調整色を強めました。
一方、週後半にかけては特段の材料がないまま反発に転じて株式需給の良さがうかがえました。8/20(金)にはテーパリング(FRBによる資産購入の段階的縮小)の早期開始を主唱していたダラス連銀のカプラン総裁が「デルタ株が経済に与える影響を注視しており、自身の見解を多少調整することもあり得る」と発言して、相場を押し上げた可能性もありそうです。
注目されたFOMC議事要旨は、テーパリングの年内開始を示唆しましたが、サプライズとは捉えられず市場への影響は限定的だったようです。大多数のFOMC参加者が年内の開始が妥当とし、価格安定の目標については満足な進展があり、最大雇用の目標に関しても開始の基準に近づきつつあると判断していることが明らかとなりました。
S&P500指数は週間で0.6%、NYダウは1.1%、ナスダック指数は0.7%の下落でした。
業種指数では、米中の景気鈍化懸念から景気敏感業種が大きく売られ、ディフェンシブ業種や配当利回りが高い業種が上昇しました。個別銘柄では、5-8月期決算を発表したホームセンターのロウズ カンパニーズ(LOW)が上昇率トップでした。5-8月期の売上はパンデミックの影響で膨らんだ前年同期に対して1%増を確保、2022年1月期の売上ガイダンスである920億ドルは2020年1月期の前年比28%増に相当することが好感されたとみられます。
経済指標では、米国の7月小売売上高が前月比1.1%減と市場予想の同0.3%減を下回りました。先々週末の8月ミシガン大学消費者マインドが大幅低下となったこともあり、先行き消費の鈍化が警戒されています。
中国の7月鉱工業生産が前年比6.4%増(市場予想は同7.8%増)、小売売上高が同8.5%増(市場予想は同11.5%増)と前月から市場予想以上の鈍化となりました。河南省の洪水による一時的要因も含まれますが、中国の景気鈍化は否めないようです。
今週の米国株式市場
新型コロナの感染再拡大、ジャクソンホール会合、米国の消費動向などが注目されます。
米国の新型コロナ感染者数は1日当たり14万人程度(過去2週間の平均)まで増加、死者数も1日当たり1,000人近くに上昇しています。1月、2月のピーク時の死者数は4,000〜5,000人であったため、増加ペースは鈍いと言えますが、経済活動に再び影響しそうなレベルです。従業員のオフィス復帰時期を延期する企業も増えるなど、一部には実質的な影響が出始めています。
ジャクソンホール会合は中央銀行関係者の経済シンポシウムですが、新型コロナの感染再拡大を受けてオンライン形式となり、会期も3日から8/27(金)の1日に短縮されました。パウエルFRB議長は「経済見通し(The Economic Outlook)」の演題で講演予定です。市場が注目しているテーパリングの開始時期に関して追加の情報があるか注目されています。
米国の消費動向については、8月ミシガン大学消費者マインド、7月小売売上高が市場予想を下回って鈍化懸念が高まったものの、先週大手小売の経営者コメントでは「目立った消費鈍化はみられていない」とされ、「警戒」にとどまっているとみられます。今週のミシガン大学消費者マインドの確報値、来週のコンファレンスボード消費者信頼感などで確認が必要でしょう。
経済指標では、8/23(月)に米国の7月中古住宅販売件数(前月比0.5%減の予想)、8/24(火)に米国の7月新築住宅販売件数(前月比3.3%増の予想)、8/25(水)に米国の7月耐久財受注(前月比0.3%減の予想)。
8/26(木)に米国の4-6月期実質GDP(前期比年率6.7%増の予想)、8/27(金)に米国の7月個人支出物価指数(前月比0.3%増、前年比3.6%増の予想)、8月ミシガン大学消費者マインド確報値(速報値の70.2から70.6に改善の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、メドトロニック、セールフォースドットコム、スプランク、アルタビューティ、ダラーゼネラル、HPなどの決算発表が予定されています。
米国株の強さの要因
米国株式市場の強さが目立っています。基本的な強さの背景は、1-3月期、4-6月期とも市場予想を大きく上回った企業業績の好調で説明できるでしょう。しかし、マクロ的には様々な不透明要因が出る中でも目立った調整がないのは、株式需給が良いことがあるのではないかと考えられます。
というのも「米国家計部門の純資産」(FRBの統計)が、従来の増加トレンドを約9兆ドル(約1,000兆円)上回っており、このうちの一部が株式市場に流入しているとみられるためです。
「米国家計部門の純資産」の増加は、株式市場の上昇、住宅価格の上昇、サービス支出の抑制(海外旅行に行けないなど)、政府からの現金給付などによります。この「約9兆ドル」には多くの評価益も含み、直ぐに使えるお金ではありませんが、かなり余裕ができたと感じている消費者が多いようです。
量的緩和によってFRBの資産額は昨年2月の4.1兆ドルから8.3兆ドルへ4.2兆ドルの増加となっていますが、これと比べても「約9兆ドル」がいかに大きい額かわかるのではないでしょうか。
経済再開が進むとサービスのリベンジ消費に回って、純資産額は一時的に減少に転じると考えられますが、従来の増加トレンドまで戻るには時間がかかるとみられます。6月末の数字は9/24(金)に発表予定ですが、さらに大きく増えている見通しで注目できるでしょう。
今週の5銘柄
今回は全体の相場が調整した局面でも株価がプラスを維持した銘柄をご紹介いたします。
【スクリーニング条件】
・8/12(木)〜8/19(木)の株価騰落率がプラス0.5%以上(S&P500指数は1.2%の下落)
・過去3ヵ月のEPS修正率が3%以上
・S&P100指数採用銘柄
図表4に抽出された銘柄群は、セールスフォースドットコム(CRM)、アドビ(ADBE)、マイクロソフト(MSFT)、アクセンチュア(ACN)など企業向けにソフトウェアを販売している企業やITサービスを提供している企業が目立っています。
企業景況感が改善して企業のIT投資への意欲が高まっていることが背景にあるとみられますが、これは強力なトレンドであり、足もとのちょっとした景気回復の後ずれでは揺るがないと市場で評価されている可能性がありそうです。以上の4銘柄に加え、先週に堅調な決算を発表したウォルマート インク(WMT)を選んでご紹介いたします。
図表3 米国家計部門の純資産の推移
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 調整局面でも株価がプラスを維持した銘柄(S&P100指数対象)
コード | 銘柄名 | 来期予想 増収率 (%) |
来期予想 増益率 (%) |
目標株価 乖離率 (%) |
EPS 修正率 (過去3ヵ月) (%) |
株価騰落 (8/12〜8/19) (%) |
CRM | セールスフォース・ドットコム | 19.3 | 12.5 | 11.1 | 7.2 | 1.9 |
ADBE | アドビ | 15.0 | 14.1 | 0.3 | 3.2 | 0.5 |
MSFT | マイクロソフト | 13.3 | 15.1 | 10.5 | 4.4 | 2.4 |
ACN | アクセンチュア | 9.8 | 11.5 | -2.8 | 3.2 | 2.0 |
COST | コストコホールセール | 7.1 | 8.1 | -4.0 | 3.6 | 2.0 |
CHTR | チャーター・コミュニケーションズ | 5.5 | 39.3 | 3.8 | 5.5 | 1.4 |
LIN | Linde PLC | 5.4 | 10.0 | 10.3 | 4.1 | 1.5 |
DHR | ダナハー | 5.0 | 2.2 | -1.0 | 5.7 | 1.9 |
WMT | ウォルマート | 2.8 | 4.1 | 11.8 | 5.5 | 0.7 |
PFE | ファイザー | -17.4 | -12.5 | -7.3 | 9.0 | 3.3 |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (8/20) |
予想PER (倍) |
ポイント |
---|---|---|---|---|---|
セールスフォースドットコム(CRM) | 256.13ドル | 66.7 | 【企業景況感回復の恩恵が期待される】 ・ 企業向けに販売支援(顧客関係管理)、顧客サービス支援、マーケティング支援などのソフトウェアをクラウドで提供する企業です。顧客関係管理ソフトウェアでは世界最大で、2位企業に売上で5倍以上の大差を付けています。企業のクラウド採用拡大を受けて高成長が続いていますが、保留中のスラック買収が実現すれば、さらに加速すると期待されています。 ・8/25(水)に5-7月期決算を発表の予定です。2-4月期決算は、売上が前年同期比22%増、調整後EPSが同73%増と好調で、2022年1月期の売上ガイダンスを260億ドルへ2.5億ドル引き上げました。CEOは、「26年度に500億ドルの売上に到達するパスにある」と自信を示しました。景気の回復とともに企業のIT投資が回復すると見込まれ、同社は恩恵を受けると期待されます。 | ||
アドビ(ADBE) | 647.34ドル | 46.3 | 【デジタル化投資に欠かせないツールを提供】 ・画像処理・文書編集システムを手がける世界的企業で、画像編集ソフトの「Photoshop」、イラスト・グラフィックデザインの 「Illustrator」、総合PDFソリューションの「Adobe Acrobat」などそれぞれの業界のプロが利用する世界標準のソフトウェアを 多数擁します。また、デジタル広告の管理、WEBサイトの分析、販売キャンペーンの管理など、デジタル・マーケティング分野の サービスにも展開しています。 ・3-5月期の売上は主力2セグメントがけん引して前年同期比23%増で市場予想を上回りました。デジタル・メディアが同25%増、デジタル・エクスペリエンスが同21%増といずれも好調です。6-8月期のガイダンスは、前年比20%増相当の38.8億ドルとしています。CEOは「アドビのクリエイティブ・クラウド、ドキュメント・クラウ ド、エクスペリエンス・クラウドは世界中のすべての顧客セグメントで任務の遂行に必要不可欠なものになった」と自負しています。 | ||
マイクロソフト(MSFT) | 304.36ドル | 34.8 | 【テレワークの増加で幅広い分野に恩恵】 ・世界最大のソフトウェア企業です。幅広い事業を手掛けますが企業向けソフトウェアの事業も大きく、企業のIT投資意欲が強まるときには恩恵を受けることが期待されます。クラウドサービスのインフラ分野ではアマゾンに水をあけられていますが、機能面の差を縮めて急速に追い上げています。ソフトウェア分野を含めたクラウドサービスでは、近々アマゾンを抜いて世界トップになると見込まれています。 ・4-6月期決算は売上が前年同期比21%増、EPSが同49%増と引き続き好調でした。パンデミックが追い風となっていたゲームやノートPCは前年同期比で売上減となりましたが、全体では市場予想を上回って好決算でした。企業向けクラウドの「Azure」は51%増で高成長を持続、7-9月期の売上ガイダンス中央値は3部門とも市場予想を上回りました。 | ||
アクセンチュア(ACN) | 332.65ドル | 33.8 | 【世界有数のコンサルティング企業】 ・世界有数のコンサルティング企業です。企業向けのコンサルティングとIT関連の受託業務が2本柱で、2020年8月期の売上構成比はそれぞれ54.7%と45.3%です。デジタル、クラウド、セキュリティサービスなどのソリューションを中心に、通信、メディア、テクノロジー、金融、医療、公益事業と幅広い産業に提供しています。企業が「攻め」に転じるときに、頼りにされる企業と考えられるのではないでしょうか。 ・2020年8月期の売上は前年比3%増と、パンデミックの影響を受けて低調な伸びになりましたが、景気回復を受けて2021年8月期は同14%増が見込まれています。3-5月期決算は売上が前年同期比21%増と前四半期の同9%増から高まり、新規受注も同39%増となっているため6-8月期も加速が見込まれます。2021年8月期の売上ガイダンスを従来の前年比6.5〜8.6%増から同10〜11%増へ引き上げています。 | ||
ウォルマート インク(WMT) | 151.45ドル | 24.1 | 【米国の既存店売上が前年同期比5.3%増と好調】 ・米国最大の食品を中心とする小売企業です。Eコマースや食品の宅配サービスにも注力して、アマゾンに対抗できる小売企業と考えられています。パンデミックによって家庭での食事が増えたことで恩恵を受けたため、その反動がどの程度か注目されますが、いまのところ予想以上に堅調です。足もとの消費動向についても、CEOは目立った鈍化はみられないとコメントしています。 ・8/17(火)に発表された5-7月期決算は、米国の既存店売上が前年同期比5.3%増、2019年5-7月期との比較では14.5%増と好調でした。Eコマース売上がパンデミックで拡大した前年同期との比較で6%増、2019年5-7月期との比較では109%増とけん引しています。海外事業の一部売却で売上は前年同期比2.4%増にとどまりましたが、幅広い事業の好調により営業利益は同21.4%増でした。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、セールスフォースドットコム、ウォルマートが2022年1月期、アドビが2021年11月期、マイクロソフトが2022年6月期、アクセンチュアが2022年8月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
23(月) | ・じぶん銀行日本製造業PMI(8月) ・マークイットユーロ圏製造業PMI(8月) ・マークイット米国製造業PMI(8月) ・シカゴ連銀全米活動指数(7月) ・米中古住宅販売件数(7月) |
|
24(火) | ・米新築住宅販売件数(7月) | メドトロニック |
25(水) | ・IFO企業景況感(8月) ・米耐久財受注(7月) |
セールスフォースドットコム、イーハンホールディングス スプランク、アルタビューティ |
26(木) | ・米新規失業保険申請件数(8月21日に終わる週) ・米実質GDP(4-6月期、改定値) |
ダラーゼネラル、HP |
27(金) | ・中国工業部門利益(7月) ・ジャクソンホール会合(オンライン形式) ・米個人所得・個人支出(7月) ・米個人支出物価指数(7月) ・ミシガン大学消費者マインド(8月、確報値) |
|
30(月) | ・米中古住宅販売件数(7月) | ズームビデオコミュニケーションズ |
31(火) | ・日本鉱工業生産(7月) ・中国製造業・非製造業PMI(8月) ・S&Pコアロジック住宅価格(6月) ・コンファレンスボード消費者信頼感(8月) |
クラウドストライクホールディングス |
9月 1(水) |
・財新中国製造業PMI(8月) ・ユーロ圏失業率(7月) ・米ADP雇用統計(8月) ・米ISM製造業景気指数(8月) |
オクタ、シースリーエーアイ |
2(木) | ・米新規失業保険申請件数(8月28日に終わる週) ・米製造業受注(7月) |
|
3(金) | ・ユーロ圏小売売上高(7月) ・米雇用統計(8月) ・米ISM非製造業景気指数(8月) |
ドキュサイン、ブロードコム |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成