先週はFRBの金融引き締め前倒しに対する懸念から不安定な相場が続き、実際にFOMCではFRBが市場想定以上にタカ派であることが判明しました。一方、企業決算は好調で、相場の下支えになりました。今週の材料として、ピークを迎える10-12月期決算発表、企業景況感と雇用統計などの重要経済指標、緊張が続くウクライナ情勢、などが注目されます。
今回は先週好決算を発表した主要銘柄から、アップル(AAPL)、マイクロソフト(MSFT)、インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM)、テキサス インスツルメンツ(TXN)、ビザ A(V)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数のローソク足(日足、6ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
エネルギー | 5.0% | 18.4% | 14.8% |
情報技術 | 2.3% | -9.4% | -2.4% |
金融 | 1.3% | -1.0% | -3.8% |
S&P500 | 0.8% | -7.0% | -3.8% |
ヘルスケア | 0.7% | -7.5% | -2.5% |
コミュニケーションサービス | 0.5% | -8.6% | -11.1% |
不動産 | -0.2% | -9.7% | -1.8% |
生活必需品 | -0.4% | -2.0% | 6.4% |
素材 | -0.9% | -8.2% | -2.1% |
一般消費財・サービス | -1.0% | -13.0% | -11.6% |
公益事業 | -1.4% | -5.1% | 1.6% |
資本財・サービス | -1.5% | -5.8% | -4.6% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
アメリカン・エキスプレス | 11.5% |
ビザ | 10.7% |
シュルンベルジェ | 9.1% |
コノコフィリップス | 7.9% |
マスターカード | 7.7% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
ネクステラ・エナジー | -12.2% |
テスラ | -10.3% |
インテル | -8.3% |
ボーイング | -7.2% |
キャタピラー | -6.0% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
1/24(月)はFRBによる金融引き締めに加え、ウクライナ情勢への懸念からS&P500指数で前日比4.0%安と急落する場面がありました。しかし、この下げを「セリングクライマックス」と捉える投資家からの押し目買いが入ったとみえ、前日比プラスで引けました。1/25(火)は翌日にFOMCの結果発表を控えて上下に振れる不安定な相場が続きました。
1/26(水)は米大手証券のゴールドマンサックスやシティから「押し目買いの好機」との強気の見方が出て、FOMCの結果発表までは前日比で上昇していました。しかし、米東部時間14時半にパウエルFRB議長の会見が始まってからは下落に転じ、前日比マイナスで引けました。同会見では、「年内に4〜5回の利上げ」を否定せず、FRB資産は「大幅に圧縮する必要がある」という見方を示して、市場想定よりもタカ派的との印象が強まりました。
1/27(木)は10-12月期の実質GDPが予想以上となって上昇して始まるも、金融引き締め前倒しに対する不安が根強く、終値ベースで直近の安値を更新して引けました。1/28(金)は小安く始まったものの売り込む動きは限定的となったことから、次第に押し目買いの勢力が優位となって大幅高で引けました。
S&P500指数は週間で0.8%、NYダウは1.3%、ナスダック指数は0.01%の上昇でした。
業種指数では、原油価格が直近の高値を更新したことで「エネルギー」が続伸、過去1ヵ月の上昇率は18%に達しました。週末の上昇で「情報技術」「金融」もプラスに浮上しました。個別銘柄では、アメリカン エキスプレス(AXP)、ビザ A(V)、マスターカード A(MA)とクレジットカード関連の上昇が目立ちました。いずれも旅行関連の利用が改善して、市場予想を上回る決算を発表しました。
経済指標では、米国の10-12月期実質GDPは前期比年率6.9%増となり、市場予想の同5.5%増を上回って良好でした。米国の12月個人消費支出物価指数(コア)は、前年比4.9%増と市場予想の同4.8%増を上回りました。引き続きインフレの動向には警戒を促す数字となりました。
今週の米国株式市場
今週の株価材料として、ピークを迎える10-12月期決算発表、企業景況感と雇用統計などの重要経済指標、緊張が続くウクライナ情勢、などが注目されます。
10-12月期決算発表のピーク週を迎えます。アルファベット、エクソンモービル、AMD、ペイパルホールディングス、アッヴィ、メタプラットフォームズ、クアルコム、アマゾンドットコム、ユニティソフトウェア、フォードモーターなどを含む、S&P500指数採用企業の100社以上が発表の予定です。
ここまでの結果は、S&P500指数採用企業のうち1/28(金)までに決算発表が終わった169社の集計で、売上は前年同期比16.1%増、EPSは29.9%増、市場予想比では売上が2.8%、EPSが5.0%上回って、堅調な結果となっています(Bloombergによる集計)。決算発表が進むことによって、企業業績は堅調であることが確認でき、また、自社株買いを再開できる企業も増えるため、相場を落ち着かせる要因になると期待されます。
重要景気指標については、企業景況感は製造業、非製造業とも前月から低下、雇用統計は前月比15万人の増加と、市場コンセンサスでは弱めの数字が予想されています。さらに弱い数字が出るとFRBの金融政策に対するスタンスに影響する可能性が注目されるでしょう。また、企業景況感の価格に関する指標や雇用統計の平均時給もインフレを占ううえで注目されます。
ロシアがウクライナ国境に昨年11月から10万人規模の軍隊を終結させていることから、ウクライナに侵攻する可能性があると緊張が高まっています。ロシアは北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に危機感をもっています。かつてのソビエト連邦を構成していた主要メンバーがNATOに加盟することは許容できず、これを阻止することが軍事的圧力をかけている背景です。
一方、米国が1/24(月)に8,500人規模の部隊をウクライナ周辺のNATO加盟国に速やかに派遣できるよう備えるとしたことから緊張が高まり、同日米国株式市場が急落する一因となりました。また、ウクライナ情勢の緊迫は原油価格の上昇につながるため、インフレ高進を気にしている市場には、この面からもネガティブ材料と捉えられています。
ロシアにとって盟友の中国が冬季オリンピックを控えているため、このタイミングで軍事衝突となる可能性は低いと考えられていますが、注視していく必要があるでしょう。
経済指標では、1/31(月)にユーロ圏の10-12月期実質GDP(前年比4.6%増の予想、7-9月期は同3.9%増)、2/1(火)に米国の1月ISM製造業景気指数(前月の58.8から57.5に悪化の予想)、2/2(水)に米国の1月ADP雇用統計(前月比20万人増の予想)、3/3(木)米国の1月ISM非製造業景気指数(前月の62.3から59.0に悪化の予想)、2/4(金)に米国の1月非農業部門雇用者数(前月比15万人増の予想)、1月平均時給(前年比5.2%増、前月は同4.7%増)、12月製造業受注(前月比0.2%減の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、IBM、ジョンソン&ジョンソン、3M、マイクロソフト、テスラ、AMD、AT&T、アップル、ビザ、キャタピラーなどの決算発表が予定されています。
米国株は、やはり、買い場到来!?
先週の米国株式市場は、S&P500指数の高値÷安値で計算した日々の変動率が1/24(月)〜1/28(金)の平均値で3.4%に達する大荒れの相場展開でした。
先週の当レポートでは、(1)FOMCがタカ派の方向でサプライズになることはなく、イベント通過は相場を落ち着かせる要因になる、(2)企業決算の発表が進むことで相場を落ち着かせる要因になる、と想定していました。
しかし、(1)は正反対の結果となり、相場の不安定要因として残ることとなりました。一方、(2)についてはマイクロソフトやアップルなどの超大手企業の決算が好調で相場を支える要因となりました。
今後については、FRBの金融政策は不透明要因として残るものの、企業決算は全体としては市場予想を上回る好調で着地する可能性が高くなっているとみられ、相場は徐々に落ち着きを取り戻していくとみられます。
年初来の株価調整の主因はバリュエーション(PER)の調整と考えられ、過去の経験から考えてバリュエーションの調整が深刻な下げ相場につながる可能性は小さいというのが基本観です。
S&P500指数の予想PERは、予想EPS235ポイント(2022年予想と2023年予想の平均値)を基準にすると、2021年末には20.3倍でしたが、1/24(月)安値の4,222.62ポイントは18.0倍、1/28(金)終値は18.9倍です。
米10年国債利回りがまだ2%以下の低水準にある環境では、PERはやや高めを維持する可能性が高く、市場全体としてはバリュエーションの調整はかなり進んだと考えて良いのではないでしょうか。
今週の5銘柄
今回は先週好決算を発表した主要銘柄から、アップル(AAPL)、マイクロソフト(MSFT)、インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM)、テキサス インスツルメンツ(TXN)、ビザ A(V)を選んでご紹介いたします。
図表3 好決算銘柄の決算概要
銘柄(コード) | 前年同期比成長率 | 事前予想比サプライズ | ||
売上増加率 (%) |
EPS増加率 (%) |
売上増加率 (%) |
EPS増加率 (%) |
|
アップル(AAPL) | 11.2 | 25.0 | 4.1 | 10.5 |
マイクロソフト(MSFT) | 20.1 | 22.2 | 1.7 | 7.1 |
IBM(IBM) | 6.5 | 61.8 | 4.4 | 3.6 |
テキサス インスツルメンツ(TXN) | 18.6 | 26.1 | 9.2 | 16.5 |
ビザ A(V) | 24.1 | 27.5 | 3.9 | 6.3 |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (1/28) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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アップル(AAPL) | 170.33ドル | 28.2 | 【サプライチェーン問題の影響を予想以上に上手くかわす】 ・10-12月期決算は売上が前年同期比11%増、EPSが同25%増と、市場予想を大きく上回りました。サプライチェーン問題の影響を受けて売上は伸び悩むと見込まれていましたが、予想以上に上手く対応できました。購買力が非常に大きいため、市場で部品が不足している中でも優先的に回してもらえる立場にあるようです。 ・製品別の売上は、iPhoneが前年同期比9%増、Macが同25%増、iPadが同14%減、ウェアラブル、ホーム&アクセサリーが同13%増、サービスが同24%増でした。1-3月期の業績見通しは示されませんでしたが、「10-12月期と比較して売上高の伸び率は減少するものの、堅調なものになる」とのコメントがありました。主力のiPhoneには入手しにくいことによるペントアップ需要があると考えられており、サプライチェーン問題が改善すれば、売上の伸びが高まる可能性があるとみられます。 | ||
マイクロソフト(MSFT) | 308.26ドル | 32.5 | 【クラウドの需要は世界的に堅調】 ・10-12月期の売上は前年同期比20%増(為替の影響を除くベース)、EPSは同22%増となり、市場予想を上回る好決算でした。売上の予想超過の比率は、モア・パーソナル・コンピューティング部門が最も大きく、ゲーム機の「Xbox」やノートPCの「Surface」の供給が想定されていたよりも順調に進んだことが要因とみられます。 ・成長をけん引しているクラウド事業に対する需要は堅調のようです。企業向けクラウドの「Azure」の10-12月期売上の伸び(為替の影響を除いたベース)は前年同期比46%増と7-9月期の同48%増をやや下回りました。しかし、会社は足もとの受注動向から世界的に同分野の需要は強いとし、1-3月期の売上高成長率は10-12月期よりも高いものとなるだろうと自信を示しています。 | ||
インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM) | 134.50ドル | 13.5 | 【低成長分野を分離して売上成長が改善】 ・10-12月期は事業分離の影響を除いたベースで、売上は前年同期比7%増、EPSは同62%増で、市場予想を上回って好調な決算となりました。部門別には、10-12月期売上の44%を占めるソフトウェアが前年同期比8%増、同28%を占めるコンサルティングが同13%増、同26%を占めるインフラストラクチャが同0.2%増でした。 ・同社は昨年11月4日に低成長のITインフラ事業(メインフレームと同サポートサービス)をキンドリル(KD)として分離し、残るIBMは「ハイブリッドクラウドとAIを中心とする企業に進化する」計画です。キンドリル分離後の売上成長率は1桁台前半に改善すると期待されていましたが(これまでは売上の増加を達成するのに苦労していました)、今回の決算はこれを超過して実現したことが好感されました。 | ||
テキサス インスツルメンツ(TXN) | 177.29ドル | 19.2 | 【半導体不足から恩恵を受ける】 ・世界最大のアナログ半導体の会社です。10-12月期は売上が前年同期比19%増、EPSが同26%増で、市場予想を上回る好決算でした。売上の7割以上を占めるアナログ半導体が前年同期比20%増と好調のほか、組み込み半導体も同6%増と堅調でした。インダストリーおよび自動車向けがけん引しており、世界の半導体不足から恩恵を受けているとみられます。 ・2022年12月期もインダストリーと自動車向けの強い需要が続き、一桁台後半の売上の伸びが期待されます。買収によって生産設備を拡張したことも有利に働くと考えられます。1-3月期の売上は45〜49億ドル(前年同期比5〜14%増)、EPSは2.01〜2.29ドル(前年同期比9〜24%増)の堅調なガイダンスを出しています。 | ||
ビザ A(V) | 228.00ドル | 32.0 | 【カード利用の基調は改善傾向が続く】 ・10-12月期決算は、売上が前年同期比24%増、EPSが同28%増となって、市場予想を上回る好決算でした。クレジットカードの決済額が7-9月期の前年同期比17%増から同20%増へ、旅行関連の利用に関係するクロスボーダー決済額が同38%増から同40%増へ改善しました。 ・1-3月期については、2021年1-3月期に米国政府から国民に対して政策支援があったために、前年同期比の伸びは低下する見通しです。米国のカード決済額は10-12月期に前年同期比20%増以上でしたが、2022年1月1日〜21日までの米国のカード決済額は前年同期比10%台まで低下しています。しかし、パンデミックによる凸凹を排除する目的で2019年実績と比較すると、1月の伸び率は10-12月期よりも高く、基調は強いとみられます。そのような判断が1/28(金)に株価が10.6%上昇した背景と考えられます。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、アップルが2022年9月期、マイクロソフトが2022年6月期、その他は2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
先週発表された主要企業の決算概要
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
31(月) | ・中国旧正月休暇(〜2月6日) ・ユーロ圏実質GDP(10-12月期、速報値) |
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2月 1(火) |
・日本鉱工業生産(12月) ・米自動車販売台数(1月、2日までに発表) ・米ISM製造業景気指数(1月) ・米求人労働異動調査(12月) |
アルファベット、アドバンストマイクロデバイセズ エクソンモービル、ペイパルホールディングス スターバックス、ゼネラルモーターズ、UPS エレクトロニックアーツ、ギリアドサイエンシズ |
2(水) | ・OPECプラス閣僚級会合(オンライン) ・米ADP雇用統計(1月) |
アッヴィ、メタプラットフォームズ アリババグループ、クアルコム、アラインテクノロジー |
3(木) | ・ユーロ圏小売売上高(12月) ・ECB主要政策金利 ・米新規失業保険申請件数(1月29日に終わる週) ・米ISM非製造業景気指数(1月) ・米製造業受注(12月) |
アマゾンドットコム、ユニティソフトウェア、メルク フォードモーター、イーライリリー、エスティローダー アプティブ、アクティビジョンブリザード、フォーティネット |
4(金) | ・中国・北京で冬季五輪開催(〜20日) ・米雇用統計(1月) |
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7(月) | ・米NFIB中小企業楽観指数(1月) ・米貿易統計(12月) ・米3年債入札 |
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8(火) | ・日本工作機械受注(1月) ・中国資金調達総額(1月、15日までに発表) ・米10年債入札 |
ファイザー、ドクシミティ エンフェーズエナジー |
9(水) | ・米消費者物価指数(1月) ・米新規失業保険申請件数(2月5日に終わる週) ・米30年債入札 |
ウォルトディズニー |
10(木) | コカ・コーラ、アファームホールディングス、データドッグ ツイッター、フィリップモリスインターナショナル、イルミナ マーチンマリエッタマテリアルズ、ペプシコ |
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11(金) | ・米ミシガン大学消費者マインド(2月) | ブリティッシュアメリカンタバコ |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。 ※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成