6/16-6/23の香港市場は反発しました。米国の大幅利上げによる世界景気後退懸念で世界同時株安が続いたなか、中国の景気支援措置が中国株に対する投資家センチメントの改善につながりました。出遅れのヘルスケアや生活必需品に加え、政策支援を手掛かりに自動車株も上昇しました。一方、世界景気後退懸念で資源価格の低迷が続き、資源関連株は続落しました。
今回は、中国の「目玉政策」の恩恵が期待できるEV関連銘柄を取り上げ、過去の経験を踏まえながら株価動向を探ってみたいと思います。
図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
注:6/23(木)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。
図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)
注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(6/24(木)までの騰落率)
ハンセン指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00175 | 吉利汽車 [ジーリー・オートモービル] | 15.7% | 23.5% | 23.5% | 大手自動車メーカー。中国国務院が自動車の販売促進に向け、一段の支援策を打ち出すと表明し、自動車株が堅調。同社は合弁会社が新エネルギー車の初モデルを発表したことも、買い材料となった。 |
06098 | CG SERVICES | 13.4% | 4.1% | 4.1% | 不動産大手カントリーガーデン(02007)傘下の不動産サービス会社。地方政府による不動産支援措置を手掛かりに、不動産関連株が買われた。不動産管理サービスでは業界トップの同社に買いが集まった。(SBI証券取り扱いなし) |
00291 | 華潤ビール [チャイナリソーシズビール] | 10.4% | 16.1% | 16.1% | ビール大手。夏の繁忙期の前に新型コロナの感染状況が落ち着いてきたことは、ビール大手にとってプラス材料だと、大手証券会社が指摘した。 |
02628 | 中国人寿保険 [チャイナ・ライフ] | 8.7% | 16.6% | 16.6% | 大手保険会社。出遅れの保険株が総じて買われた。同社は1-5月の保険料収入が前年同期比12.9%増となり、上昇率が業界首位だった。 |
01093 | 石薬集団 [CSPCファーマシュ-ティカル] | 8.1% | -4.2% | -4.2% | 医薬品大手。出遅れのヘルスケアが全般的に買われたなか、同社は新薬の上市(市場に出ること)申請が受領されたことが好材料となった。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02382 | 舜宇光学 [サニーオプチカル] | -5.6% | -4.1% | -4.1% | 大手光学機器メーカー。5月の携帯端末用レンズセット出荷量が前年同月比9%減となった。会社側は2022年通年の世界スマートフォン出荷台数予測を年初の予測から引き下げた。 |
00883 | 中国海洋石油 [CNOOC] | -5.7% | -11.5% | -11.5% | 中国石油・天然ガス大手。米国の大幅利上げによる世界景気後退懸念で原油先物価格の低迷が続き、売り材料となった。 |
09999 | 網易 [ネットイース] | -7.5% | -7.5% | -7.5% | ゲーム大手。6/23に予定していたゲームのリリースが延期され、売り材料となった。会社側は、複数の最適化調整を行っていると説明。 |
00857 | 中国石油天然気 [ペトロチャイナ] | -9.5% | -6.1% | -6.1% | 中国石油・天然ガス最大手。米国の大幅利上げによる世界景気後退懸念で原油先物価格の低迷が続き、売り材料となった。 |
00002 | 中電控股 [CLPホールディングス] | -11.4% | -17.3% | -17.3% | 電力会社。香港で火災による大規模停電を引き起こし、売り材料となった。 |
ハンセンテック指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02015 | 理想汽車[リーオート] | 24.8% | 67.3% | 44.3% | 新興EVメーカー。中国国務院が今年末に期限を迎える新エネルギー車購入税の免除について延長を検討していると伝わり、EV関連銘柄が買われた。(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場のLIとなっています。) |
09868 | 小鵬汽車[シャオペン] | 24.4% | 39.8% | 13.3% | 新興EVメーカー。中国国務院が今年末に期限を迎える新エネルギー車購入税の免除について延長を検討していると伝わり、EV関連銘柄が買われた。 |
09866 | 蔚来汽車 [ニオ] | 18.6% | 39.1% | 6.5% | 新興EVメーカー。中国国務院が今年末に期限を迎える新エネルギー車購入税の免除について延長を検討していると伝わり、EV関連銘柄が買われた。 |
00909 | Ming Yuan Cloud Group | 17.9% | 27.5% | 8.7% | 不動産会社向けソフトウェア大手。大手証券数社が投資判断「アウトパフォーム」でカバレッジを開始。中国当局による不動産市場への支援で業績回復が見込まれるとした。(SBI証券取り扱いなし) |
09698 | 万国数拠服務 | 10.2% | 12.1% | -21.8% | データセンターを運営。個別材料はなく、中国株に対する投資家センチメントの改善を背景とした需給要因のもよう。大手投資ファンド数社が持ち株比率を引き上げた。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02018 | 瑞声科技 [AACテクノロジーズ] | -3.0% | 1.0% | -10.8% | 音響部品メーカー。スマートフォン市場の需要鈍化懸念で売られた。 |
01347 | 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] | -3.2% | -12.0% | -26.4% | 半導体受託生産(ファウンドリー)大手。大手証券会社が米国上場の半導体株の見通しに不透明感があるとし、いくつかの半導体株の目標株価を引き下げた。半導体株が総じて軟調に推移し、つれ安した。 |
02382 | 舜宇光学 [サニーオプチカル] | -5.6% | -4.1% | -22.7% | 大手光学機器メーカー。5月携帯端末用レンズセット出荷量は前年同月比9%減となった。会社側は2022年通年の世界スマートフォン出荷台数予測を年初の予測から引き下げた。 |
00020 | SenseTime Group Inc | -6.2% | 12.1% | -17.8% | AIソフトウェア大手。特段材料はなく、6/30のロックアップ解除を控えた売り圧力が警戒されたもよう。 |
09999 | 網易 [ネットイース] | -7.5% | -7.5% | -5.9% | ゲーム大手。6/23に予定していたゲームのリリースが延期され、売り材料となった。会社側は、複数の最適化調整を行っていると説明。 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
今週の中国株市況
6/16-6/23の香港市場は、ハンセン指数が2.1%上昇、ハンセンテック指数は2.4%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数は、5.4%上昇しました。米国の大幅利上げによる世界景気後退懸念で世界同時株安が続いたなか、中国の景気支援措置が中国株に対する投資家センチメントの改善につながりました。
業種別では、出遅れのヘルスケアや生活必需品が堅調でした。ヘルスケアは、バイオ医薬品開発受託大手の薬明生物(02269やバイオ医薬品大手の百済神州(06160)、ザイ・ラボ(09688)(SBI証券取扱なし、米国上場のザイラボ ADR(ZLAB)は取扱銘柄)が上昇をけん引しました。
薬明生物は、6/16に実施したインターネット経由の投資家説明会の内容が好感されました。それによると、子会社の米UVL入り(注)や上海ロックダウンなどの逆風にもかかわらず、1-4月の新規プロジェクトの獲得状況や業績動向は前年同期を上回りました。また会社側は、米UVL入りについて、早ければ8-9月に少なくとも1社がリストから外れることを目指していると説明しました。百済神州は、新薬の上市(市場に出ること)申請が受領されたことが好材料となりました。米国と香港に重複上場しているザイ・ラボは、6/27から香港市場もプライマリー上場市場(主たる市場)になることが買い手掛かりとなりました。
(注:米商務部は2022年2月に、出荷後の検証を十分に実施できないことを理由に、薬明生物の子会社2社を「未検証者リスト(UVL)」に追加しました。なお、UVLは取引禁止リストや禁輸リストとは異なります。)
生活必需品は、乳業大手のモウギュウ乳業(02319)やビール大手の華潤ビール(00291、青島ビール(00168)が買われました。モウギュウ乳業の反発はテクニカル要因のようで、RSIが売られすぎサインとされる30を下回った後に買い戻されました。ビール大手2社は、夏の繁忙期の前に新型コロナの感染状況が落ち着いてきたことは、ビール大手にとってプラス材料だと大手証券会社が指摘し、買い手掛かりとなりました。
一般消費財は、一段の政策支援が期待される自動車株が上昇を主導しました。中国国務院は今年末に期限を迎える新エネルギー車購入税の免除について延長を検討しているほか、自動車の販売促進を通じ、自動車セクターでの消費を2,000億元押し上げることを目指すと表明しました。それを受け、新興EV3強のシャオペン(09868)、ニオ(09866)、リーオート(02015)(SBI証券取扱なし、米国上場のリーオートADR(LI)は取扱銘柄)、自動車大手の吉利汽車(00175)は大きく上昇しました。新エネルギー車最大手のBYD(01211も反発しました。BYDは前週に上場来高値の挑戦に失敗し、高値警戒感から利益確定売りに押されていました。
一方、米国の大幅利上げによる世界景気後退懸念で資源価格の低迷が続き、エネルギーや素材は続落しました。原油先物価格の下落を嫌気し、CNOOC(00883やペトロチャイナ(00857)が利益確定売りに押されました。銅先物価格が一時15カ月ぶりの安値を付けたことが響き、コウセイコパー(00358やツージンマイニン(02899も続落しました。
今回のトピックス
今回は、中国の「目玉政策」の恩恵が期待できるEV関連銘柄を取り上げ、過去の経験を踏まえながら株価動向を探ってみたいと思います。
過去の動画資料(YouTubeに移動します)やレポートでも触れましたように、今回の中国の景気支援策は自動車の販売促進が一つの「目玉政策」になっています。外需の見通しが悪化するなか、中国当局は内需(「投資+消費」)によって景気回復を狙おうとしています。そのうち、消費は裾野の広い自動車産業への支援が重点となっています。
中国の最高政策決定機関である国務院は6/22に、自動車消費を支援する政策の拡大を決めました。国務院は5/31に、既に乗用車を購入する際の税率を引き下げると発表しましたが、6/22は電気自動車(EV)を含む新エネルギー車への支援を明確に打ち出しました。その一環として、新エネルギー車の購入税免除措置の延長を検討していることも明らかにしました。
2020年に新型コロナの感染が急拡大した時、中国当局は新エネルギー車の補助金政策を延長しました。それを受け、EV各社の販売は回復し(図表4)、一時倒産のリスクが取り沙汰されていた新興EVメーカーのニオ(09866)も業績が持ち直しました。販売回復を好感し、EV関連銘柄の株価も大きく上昇しました(図表5)。ただしその後、2020年末に中国当局が新エネルギー車の補助金を2021年に削減すると表明し、EV関連銘柄は利益確定売りが進みました。
図表4 主要EVメーカーの販売台数(万台、四半期ベース)
※各社資料をもとにSBI証券が作成。
図表5 主要EVメーカーの株価推移(BYD以外の新興EV3社は上場期間がより長い米国上場銘柄となる)
注:BYDとニオは2018年12月31日=100として指数化、リーオートとシャオペンは上場日の株価=100として指数化。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
このようにみると、中国当局による政策支援は、EV各社の販売状況や株価動向に大きく影響を与えています。足元の政策動向を確認してみると、中国当局は新エネルギー車の販売促進に向け、支援措置を打ち出しているところです。したがって、政策面での支援材料は続く可能性が高いです。EV各社の販売は上海のロックダウンの影響で鈍化していますが、ロックダウン解除と政策支援を支えに下期は持ち直す可能性があります。
他方、株価動向を確認してみると、EV関連銘柄の多くは足元でRSIが買われ過ぎサインを示す70に達しており、短期的には利益確定売りの圧力も高まっているようにみえます。目先は高値警戒感から調整するかもしれませんが、政策支援が当面続く可能性が高いことを考えると、調整時は押し目買いのチャンスとなりそうです。他方、2020年末-2021年の経験からすると(図表5)、中国当局が政策の支援から撤退に転じる際は、株価調整を引き起こす可能性があります。したがって、より中長期的には政策の転換点に留意する必要があるでしょう。