最近、新聞や雑誌で見かけることが増えてきた「フィンテック(FinTech)」という言葉ですが、どのような内容を指しているのか、いまひとつはっきりしないという方も多いのではないでしょうか?そこで今回は、フィンテックについて身近な事例や欧米を中心に立ち上がりつつあるサービスについてご紹介いたします。
様々なサービスが興っているフィンテックですが、いまのところ投資対象として中心になるのは電子決済関係と考えられます。そして電子決済で注目できるのは、新サービスの広がりから恩恵を受けるビザとマスターカードと考えます。両社に関して詳しくは、当社WEBサイトにて11/11掲載の「「ビザ、マスターカードに再び脚光!!「スクエア」上場で」」をご参照ください。また、積極的な買収で事業を拡大しているペイパルにも注目できるでしょう。
また、IT技術を駆使する融資関係の新サービスでは、レンディング クラブ、オン デック キャピタルなどが投資対象となります。
図表1:注目銘柄リスト
銘柄 | 株価(12/1) | 予想PER | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|---|
ビザ(V) | 79.91ドル | 27.9 | 81.01ドル | 60.00ドル |
マスターカード(MA) | 97.93ドル | 25.2 | 101.76ドル | 74.61ドル |
ペイパル ホールディングス(PYPL) | 35.17ドル | 23.4 | 42.55ドル | 30.00ドル |
レンディング クラブ(LC) | 12.09ドル | 50.4 | 29.29ドル | 10.28ドル |
オン デック キャピタル(ONDK) | 9.01ドル | 23.7 | 28.98ドル | 7.75ドル |
注:予想PERの計算対象となる予想EPSは、ビザが16年9月期、その他は16年12月期です。
※ブルームバーグデータよりSBI証券が作成
フィンテックってどういうこと? |
最近、新聞や雑誌で見かけることが増えてきた「フィンテック(FinTech)」という言葉ですが、どのような内容を指しているのか、いまひとつはっきりしないという方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、フィンテックについて身近な事例や欧米を中心に立ち上がりつつあるサービスなどをご紹介いたします。アクセンチュアの調査によるとフィンテック関連ベンチャーへの投資は、13年の40億ドルから14年の120億ドルに3倍に増えたとされます。
まず、フィンテックという言葉ですが、これはファイナンス(Finance)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語です。
金融とテクノロジー(技術)の融合と言えば、いまでは当たり前となってるネット証券やネット銀行などがそのはしりと言えるでしょう。スイカ、パスモ、イコカなどの電子マネーサービスもそのひとつです。従来の金融サービスにIT技術を加えることで、便利なサービスを創出することと考えて間違いないでしょう。
ただ、最近言われている「フィンテック」の中身は、もう少し新しいサービスを指していることが多いようです。そこで次に、消費者に近い代表的なフィンテックをご紹介いたします。
図表2:フィンテックとは? 金融とITの融合
- ※各種資料よりSBI証券が作成
図表3:フィンテック・ベンチャーへのグローバルな投資
- ※アクセンチュアの公表資料よりSBI証券が作成
身近なフィンテックの事例 |
日常生活の中で利用するなど、ふれる機会があると思われる身近なフィンテックについてご紹介します。
【アップルペイ】
アップル(AAPL)のiPhoneやアップルウォッチに保有しているクレジットカードをアプリの形で入れることができ、指紋認証しながらリーダーにかざすだけで決済ができるサービスです。カードを探すことなく、サインや暗証番号の入力なしで決済できることから利便性が高まります。14年10月から米国でサービスが始まっています。
尚、通信各社が提供する「おサイフケータイ」も似ていますが、これは電子マネーをスマホに取り込んだもので、クレジットカードを取り込んだアップルペイとは異なります。
【スマートフォンでカード決済】
スマホに簡単なカードリーダー部品を差し込むことで、カード決済が可能になるサービスです。これまではカードによる支払いを受け入れたくてもできなかった、個人事業主や小規模事業者が簡単にカード決済を導入できるようになります。
日本では、「スクエア」(スクエア(SQ))、「PayPal Here」(ペイパル(PYPL))、「楽天スマートペイ」(楽天(4755))などのサービスが提供されています。スクエアはこのサービスの専業で、11/18ニューヨーク市場に新規上場しています。
【ペイパルを挟んでカード決済】
インターネットで買い物をするときに、カード番号を入力することにためらわれる方もいらっしゃると思いますが、カード決済の仲介業者を間に挟むことによって、個々のネット販売事業者へカード番号を渡すことなくカード決済ができるため、安全性が高まるとして人気のサービスです。カードを受け入れる販売事業者側でも、仲介業者を挟むことで従来よりも手続きが簡便になるために採用が広がっています。
米国のペイパル(PYPL)が世界的な大手ですが、同様のサービスは日本で「Yahoo!ウォレット かんたん決済」(ヤフー(4689))、「SPIKE」(メタップス(6172))、米「Stripe」(未上場)、WebPay(LINEの子会社)なども行っています。
いすれも、インターネットの普及、高機能な携帯端末の普及、機器の小型化、セキュリティ技術の向上などの技術進歩を踏まえて新たに出てきたサービスと言えます。
欧米を中心に立ち上がりつつある様々なフィンテック? |
一般の消費者に近いサービスの事例をご紹介しましたが、欧米を中心にフィンテックは幅広い分野で新サービスが立ち上がりつつあります。いまのところ上場している企業は多くないものの、今後はこのような分野でも上場企業が出てくることが期待されるでしょう。
【融資仲介・融資(Lending)】・・・ネット上でお金を借りたい人や企業と、貸したい人や企業を、さまざまな方法で結びつけるサービスです。ネット上で行われる上、ビッグデータを利用するなど、銀行による伝統的な融資と異なる方法や視点で行われる点が注目されています。
ネットを使った融資仲介は、米国のレンディング クラブ(LC) 、PROSPER(未上場)、日本の「マネオ」(未上場)、「クラウドクレジット」(伊藤忠商事(8001)が出資)、「SBI Social Lending」などが提供しています。また、オン デック キャピタル(ONDK))は、伝統的な銀行融資基準を満たしていない中小企業に対して、IT技術を駆使した情報収集によって融資を可能にするサービスです。
【クラウドファンディング(Crowd Funding)】・・・ネットで不特定多数から資金を集めるサービスです。これまで難しかった中小企業や個人事業主の資金調達が従来よりも容易になります。
米国の「GoFundMe」(未上場)、「Kickstarter」(未上場)、「Indiegogo」(未上場)などがあります。
【個人間送金(Remittance)】・・・個人間などでスマホなどを使ってネットで送金できるサービスです。
米国のペイパル(PYPL)が開拓して成長した市場で、その後米「Venmo」、米「XOOM」などのサービスが出てきましたが、いずれもペイパルが買収して傘下に収めています。ほかに英「Azimo」(未上場)などがあります。
【個人向け金融サービス(Personal Finance)】・・・資産管理などのサービスをネットで提供します。
クレジットスコア情報を提供する米「Credit Karma」(未上場)、オンライン会計システムの豪州「ゼロ」(豪州市場上場)、日本では家計簿アプリの「マネーフォワード」(未上場)、金融関係の情報をまとめるサービスの「マネーツリー」(未上場)などがあります。
これらのほか、個人投資家や機関投資家向けの金融サービス、金融リサーチ情報などをネットで提供するサービスもフィンテックと言われています。
投資先として注目できるのは? |
いまのところ、フィンテックとして事業規模が大きく投資先として注目できるのは、決済・送金の分野と見られます。
そして特に注目できるのは、決済ネットワークを運営するビザ(V) とマスターカード(MA)と考えられます。なぜなら、いまフィンテックとして出てきている決済関連のサービスのほとんどが、両社が提供する決済ネットワークの使用を促進するためです。
ビザとマスターカードはクレジットカードの会社なので金融セクターに属していると思われるかもしれませんが、株式市場でのセクター分類は「テクノロジー」です。まさに、金融とテクノロジーの融合を体現した企業と言えるでしょう。
電子決済市場が有望でなぜビザとマスターカードが注目できるかについて、当社WEBサイトにて11/11掲載の「ビザ、マスターカードに再び脚光!!「スクエア」上場で」に詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
最後に、「ビットコイン」などの仮想通貨についてふれておきましょう。
送金や決済に関して、ここにご紹介したサービスは、基本的に従来からある銀行またはクレジットカードの決済ネットワークを土台にしたサービスです。そこに付加価値を加えて、使いやすくしたり、安全性を高めたりというものです。
一方、このような従来のインフラを使わないサービスもあります。「ビットコイン」や「リップル」などの仮想通貨です。これらの使用が社会に広がると上記のようなサービスを一部置き換える可能性があります。
日本では13年2月のマウントゴックス(ビットコインの交換所)事件で、一時ビットコインへの関心が薄れましたが、世界的にはその後も取引件数が増加しています。ビットコインについてイングランド銀行が論文を発表するなど、社会的な認知も進んでいることが窺えます。
また、新たな決済手段として注目する企業も出てきています。米国のネットオークション大手のイーベイは、ペイパル子会社の「Braintree」を通じてビットコインを受け入れることを表明していますし、ゴールドマンサックスは、ビットコインのサービス企業に投資したことが明らかになっています。
ビットコインの1日当たりの取引件数は10万件と言われています。いまのところビザの1.5億件に比べると1500分の1に過ぎません。しかし、送金コストがゼロであるため、社会に広く価値が認められるようになると新たな決済手段として成長する可能性もあり、その動向が注目されるでしょう。