中国経済は減速傾向が続いていますが、政府・中央銀行による景気てこ入れによってハードランディング(急速な景気失速)は避けられるとの見方が広がっているようです。産業景気は厳しいものの、所得の大幅な上昇を背景とした消費の拡大から恩恵を受ける企業には注目する向きも増えているようです。また、供給過剰に苦しむ素材産業も協調減産へ乗り出すとの報道があり、最悪期を脱する期待もあるでしょう。そこで今回は、15年央の高値から大幅な調整を経た、中国本土の上海総合指数と香港ハンセン指数について投資の可否を検討しています。中国経済のソフトランディングへの確度の高まりを背景に、中国株式には戻しが期待できるのではないでしょうか。
大幅調整を経て落ち着きを取り戻す中国市場 |
夏以降リスク要因として世界の金融市場の注目を集めた中国株式市場ですが、大幅な調整を経て落ち着きを取り戻しつつあるように見えます。
中国経済の減速は続くものの、国際金融市場で懸念されたハードランディング(急激な景気失速)の可能性は小さいとの認識が広がりつつあるようです。このような認識を受けて日米欧の株式市場も10月以降反発してきたわけですが、今回は中国株式自体への投資について考えてみました。
まず、株価指数の動きを確認しますと、上海総合指数は6/12高値5,178.191ポイントから8/26安値2,850.714ポイントまで44.9%下落、12/8終値3,470.070ポイントは安値から21.7%反発した水準になります。ほぼ半値戻しを達成、8月末以降は下値切り上げの上昇トレンドにあります。直近値も50日移動平均線を上回り、比較的堅調な印象のチャートです。
一方、香港ハンセン指数は、4/27高値28,588.52ポイントから9/29安値20,368.12ポイントまで28.8%下落、12/8終値2,1905.13ポイントは安値から7.5%反発した水準となります。こちらはまだ3分の1戻しにも達せず、10月下旬以降上値切り下げの形です。直近値も50日移動平均線を下回り、下値不安を感じるチャートになっています。
両指数の投資指標と採用企業のEPS増加率を、TOPIXとS&P500指数と比較したのが図表2です。上海総合指数は、15年、16年とも10%を超える増益が見込まれ、業績は堅調です。予想PERはTOPIX並みで、先進国市場と比較しても違和感のない水準です。
香港ハンセン指数では、エネルギーや銀行など大企業の減益の影響を受けて15年は大幅減益見通しです。ただ、予想PERは11倍台、10倍台と低水準になっています。
両指数の株価動向の違いは業績モメンタムの違いを反映したものと考えられ、堅調な推移となっている上海総合指数に注目できそうです。また、香港ハンセン指数は、目先は下値不安が強いものの、16年にかけて業績の回復が確認される場合には、先行きバリュエーションの低さから注目される可能性がありそうです。
中国経済が減速しつつもソフトランディングを達成できるようなら、株価は一層の戻りが期待できそうです。
図表1:上海総合指数と香港ハンセン指数(日足、1年)
図表2:投資指標と業績予想
株価指数 | 直近値 (12/8) |
予想PER (今期)/倍 |
予想PER (来期)/倍 |
PBR /倍 |
予想配当 利回り/% |
EPS増加率 (15年予想)/% |
EPS増加率 (16年予想)/% |
---|---|---|---|---|---|---|---|
上海総合指数 | 3,470.07 | 14.9 | 13.4 | 2.0 | 2.0 | +12.6 | +10.6 |
香港ハンセン指数 | 21,905.13 | 11.0 | 10.4 | 1.2 | 3.6 | -18.6 | +5.3 |
(参考)東証株価指数 | 1,568.73 | 15.3 | 14.0 | 1.3 | 1.8 | +17.7 | +9.0 |
(参考)S&P500指数 | 2,077.07 | 17.6 | 16.1 | 2.8 | 2.1 | +4.8 | +9.0 |
注:S&P500指数は12/7のデータです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
中国経済はソフトランディングへ |
では、中国経済はソフトランディングできるのでしょうか?
中国のGDP成長率は図表3の通り減速が続いています。7-9月期には前年比6.9%増と7%台を割り込みました。月次指標でも、小売売上高は底入れ傾向となっていますが、固定資産投資や鉱工業生産は伸び率の鈍化傾向が続いており中国経済への懸念は継続しています(図表4)
しかし、中国の政府・中央銀行は景気てこ入れ策を継続的に繰り出しているため、ハードランディング(急激な景気失速)は避けられ、ソフトランディングを確保できる可能性が高まっていると考えられるのではないでしょうか。
夏以降の政策を振り返って見ますと、中国人民銀行は、輸出てこ入れに向けて8/11に中国元を切り下げ、8/25と10/23には「政策金利」と「預金準備率」を同時に引き下げました。政府はインフラ整備を中心に財政出動の拡大を打ち出し、8月より財政支出の増加が加速しています。このような措置を受けて、銀行からの新規融資額は前年比で増加となる月が多くなり、経済安定化の兆しと捉えることができるでしょう。
また、10/26〜29開催の5中全会(中国共産党中央委員会第5回全体会議)では、16年から始まる「5カ年計画」の草案に20年のGDPと1人当たり所得を10年比で倍増させる計画が改めて盛り込まれました。20年までの実現に向けて習近平国家主席は「年平均6.5%の成長が必要」として、成長率重視の姿勢が確認されました。
今後については、12月の中央経済工作会議から来年3月の全国人民代表大会にかけて経済政策に対する株式市場の期待が高まりやすいと見られます(図表5)
中国経済のソフトランディングへの確度の高まりを期待して、中国株式への投資を検討してみてはいかがでしょうか。
尚、直近発表の経済指標では、12/8の11月貿易統計が金融市場で悪材料視されたようです。しかし、中国の内需の動向を反映する輸入の前年比マイナス幅は9月、10月から改善となっており、むしろ中国経済の安定化を示唆していると言えるのではないでしょうか(図表4)。
図表3:中国のGDP成長率
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4:中国の主要経済指標
経済指標 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
---|---|---|---|---|---|---|
小売売上高(前年比) | 10.5 | 10.8 | 10.9 | 11.0 | ||
鉱工業生産(前年比) | 6.0 | 6.1 | 5.7 | 5.6 | ||
固定資産投資(除農村部/年初来/前年比) | 11.2 | 10.9 | 10.3 | 10.2 | ||
輸出(前年比) | -8.3 | -5.5 | -3.7 | -6.9 | -6.8 | |
輸入(前年比) | -8.1 | -13.8 | -20.4 | -18.8 | -8.7 | |
製造業PMI(政府版) | 50.0 | 49.7 | 49.8 | 49.8 | 49.6 | |
非製造業PMI(政府版) | 53.9 | 53.4 | 53.4 | 53.1 | 53.6 | |
財新中国PMI製造業 | 47.8 | 47.3 | 47.2 | 48.3 | 48.6 | |
工業部門企業利益(前年比) | -2.9 | -8.8 | -0.1 | -4.6 | ||
先行指数 | 98.41 | 98.53 | 98.29 | 98.36 | ||
海外直接投資(前年比、中国元) | 5.2 | 22.0 | 7.1 | 4.2 | ||
新規融資額(10億中国元) | 1,480 | 810 | 1,050 | 514 | ||
資金調達総額(10億中国元) | 742 | 1,086 | 1,329 | 477 | ||
消費者物価指数(前年比) | 1.6 | 2 | 1.6 | 1.3 | ||
生産者物価指数(前年比) | -5.4 | -5.9 | -5.9 | -5.9 | ||
住宅価格(前年比、主要70都市、新築) | -4.4 | -3.2 | -2.0 | -1.2 | ||
外貨準備(10億ドル) | 3,651 | 3,557 | 3,514 | 3,526 | 3,438 |
- 注:「財新中国PMI製造業」の「財新」はHSBCに替わってスポンサーとなった企業で、中国のメディア企業です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表5:今後の日程
15年12月 | 中央経済工作会議 (2016年の成長率目標や金融・財政方針公表) |
16年1月 | 政府活動報告案の首相発表 |
16年3月 | 全国人民代表大会 (2016年の成長率目標と施策などの決定) |
- ※各種報道をもとにSBI証券が作成
中国株に馴染みのない方のために |
中国株への投資に馴染みのない方のために、中国の証券取引所と主要株価指数について簡単に解説いたします。
図表6の通り、中国株の市場は本土市場と香港市場に分かれています。香港市場は、個別銘柄への投資が可能です。SBI証券でお取引できる中国株は香港市場に上場している銘柄で、1,300銘柄以上をお取扱いしています。
一方、本土市場(上海証券取引所と深セン証券取引所)に上場する個別銘柄は各種の規制があるため、日本の個人投資家にとって基本的に投資対象となりません。日本の個人投資家が中国本土株を買う場合は、ETF(上場投資信託)や投資信託が利用できます。
ETFや投資信託への投資を考える場合には、連動を目指すことの多い主要な株価指数を知っておく必要があるでしょう。中国株式市場を見るための代表的指数として以下があります。
【香港ハンセン指数】・・・香港証券取引所を代表する50銘柄から構成されます。香港の地元銘柄が中心ですが、H株、レッドチップの銘柄も含みます。時価総額上は、テンセント(騰訊)(00700)、HSBC (匯豊控股)(00005)、AIA グループ(01299)、チャイナモバイル(00941)、中国建設銀行(00939)などです。
【香港H株指数】・・・ハンセン中国企業株の指数です。40銘柄で構成されます。時価総額上位は、中国工商銀行(01398)、中国銀行(03988)、中国建設銀行(00939)、ピンアン保険(02318)、チャイナ ライフ(02628)などです。
【香港レッドチップ指数】・・・中国本土系香港企業株の指数です。中国の中央、省または地方政府が30%以上の株式を保有している企業が対象となっています。25銘柄で構成されます。時価総額上位は、中国海外発展(00688)、チャイナモバイル(00941)、中信 (CITIC)(00267)などです。
【CSI300指数】・・・上海証券取引所および深セン証券取引所に上場されているA株のうち、時価総額および流動性の高い300銘柄で構成される指数です。時価総額上位は、ピンアン保険、招商銀行、中国民生銀行、上海浦東銀行、興業銀行などです。
【上海総合指数】・・・上海証券取引所上場のA株およびB株全体のパフォーマンスを示す指数です。12/4の構成銘柄数は1,113銘柄です。時価総額上位は、ペトロチャイナ、中国工商銀行、中国農業銀行、中国銀行、チャイナ ライフなどです。
【深セン総合指数】・・・深セン証券取引所上場のA株およびB株全体のパフォーマンスを示す指数です。12/4の構成銘柄数は1,767銘柄です。時価総額上位は、万科企業、Guangdong Wens Foodstuffs、平安銀行、申万宏源集団、国信証券などです。
図表6:中国の証券取引所
- 注:上場企業数は、上海証券取引所は10月末、深セン証券取引所、香港証券取引所は12/4時点です。
- ※各証券取引所資料をもとにSBI証券が作成
当社で取扱いのある、中国の代表的な指標に連動するETFを以下、ご紹介します。
お客さまのポートフォリオに中国株式を加えてみませんか?
ティッカー | 名称 | 連動指標 | 市場 |
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3110 | ホライズン 高配当利回り ETF | ハンセン高配当利回りインデックス | 香港市場 |
3127 | ホライズン CSI300 ETF | CSI300インデックス | 香港市場 |
3040 | ホライズン MSCI 中国 ETF | MSCI中国インデックス | 香港市場 |
2800 | トラッカー ファンド オブ ホンコン | ハンセン指数 | 香港市場 |
2801 | iシェアーズ MSCI チャイナ インデックス ETF | MSCI チャイナ インデックス | 香港市場 |
2828 | ハンセンH株指数ETF | ハンセンH株インデックス | 香港市場 |
2833 | ハンセン指数ETF | ハンセン指数 | 香港市場 |
FXI | iシェアーズ 中国大型株 ETF | FTSEチャイナ25インデックス | NYSE Arca |
2846 | iシェアーズ CSI 300 中国A株インデックスETF | CSI 300 中国A株インデックス | 香港市場 |
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。