原油価格は2月半ばに底入れして、3ヵ月間上昇相場が続いています。ここからさらに上値が期待できるのか、もしくは、頭打ちないし反落となるのか、気になるところです。そこで、今回は原油価格の基調を動かしていると考えられる、米国の原油生産動向とOPEC(石油輸出国機構)の動向をチェックして今後の原油価格を考えてみました。今回の結論としては、当面上昇一服になりやすいと考えられ、原油関連資産はある程度利食いで良いのではないかというものです。
図表1:原油関連商品
◯国内ETFはこちら
コード | 銘柄 |
---|---|
1671 | WTI原油価格連動型上場投信 |
1690 | ETFS WTI 原油上場投資信託 |
1699 | NEXT FUNDS NOMURA原油インデックス連動型上場投信 |
2038 | NEXT NOTES 日経・TOCOM 原油 ダブル・ブル ETN |
2039 | NEXT NOTES 日経・TOCOM 原油 ベア ETN |
◯海外ETFはこちら
コード | 銘柄 |
---|---|
VDE | バンガード 米国エネルギーセクター ETF |
XLE | エネルギーセレクトセクターSPDRファンド |
IXC | iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF |
- ※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
![]() |
米国の原油生産は減少、債務整理も進む |
5/16(月)の原油相場は、ナイジェリアの生産減少懸念やゴールドマン・サックスが原油価格の見通しを引き上げた(7-12月の予想を50ドルに)ことで3%の上昇となり、WTI価格は48.30ドル(先物6月限)、ブレント価格は48.97ドル(先物7月限)と直近の高値を更新しています。
原油価格は今後も上昇を続けるのでしょうか?または、頭打ちないし反落となるのでしょうか?原油価格の今後について考えてみましょう。
前回の原油に関するレポート「原油価格は既に底入れした可能性が高い!?」(2016/2/24掲載)で、原油価格を動かしている主なドライバーは供給サイドにあることをご説明し、ポイントは米国の原油生産とそれに対するサウジアラビア(およびOPEC)の対応であるとしました。
そのポイントについて、その後の推移を振り返ってみましょう。まず、米国の原油生産動向です。
米国の原油生産は図表2の通り、15年4-6月期の9.5百万バレル/日をピークに減少に転じ、足元8.8百万バレル/日まで低下しています。米エネルギー情報局によれば、今後も減少傾向となる見通しです。また、16年1月時点との比較でも見通しは引き下げられていて、生産減少が徐々に進んでいることがわかります。
その背景の一つとなっているのが、エネルギー企業の破産の増加で、その負債総額の推移を見たのが図表3です。15年来の累計で69社が破産して負債総額は343億ドルに達していますが、その4割に当たる約149億ドルが16年4月に発生しています。
例年4月は銀行の融資条件の見直し時期であることから破産の水準が特に高くなったとみられますが、このデータを集計しているテキサス州の法律事務所「ヘインズ&ブーン」によれば、今後も債務整理の活動は高水準が見込まれるとしています。実際5月に入ってもエネルギー企業破産のニュースが連日出ています。
そもそも14年末からの原油価格下落は、サウジアラビアが米国のシェールオイルの増産を止めてシェアを確保するということが動機として始まっています。その米国の原油生産が減少していることは、原油価格の基調的な上昇に貢献したと考えられます。
ただし、今進んでいる債務整理は、年初のショッキングに低い原油価格を踏まえて進められたもので、業界の中でも生産コストが高く体質の弱い企業が決断したと考えられます。
原油価格がここから50ドル、60ドルと回復する場合には採算が合ってくる企業も増えるはずで、生産はまた回復する可能性もあるでしょう。逆に言うと、今後の原油価格上昇を抑える要因になると考えられます。
図表2:米国の原油生産は徐々に減少(見通しは米エネルギー情報局)

- ※米エネルギー情報局(EIA)のデータをもとにSBI証券が作成
図表3:北米エネルギー企業の破産はこの4月に急増

- 注:破産企業(米連邦破産法チャプター7、11、15に申請した企業)の負債額を集計したものです。
- ※ヘインズ&ブーンの公表資料「Oil Patch Bankruptcy Monitor 2016/5/1」よりSBI証券が作成
![]() |
OPECの動向は読みにくくなった |
OPEC(石油輸出国機構)の動向は、原油の最大生産国サウジアラビアで長年石油相を務めていたヌアイミ氏の退任(5/7公表)で読みにくくなったと言われています。
ヌアイミ氏はOPEC諸国および石油市場関係者の尊敬を集めた人で、ヌアイミ氏が動けば話がまとまるという期待がありました。しかし、後任のファリハ氏(サウジアラムコ会長)がそのような信頼を勝ち取るには時間がかかるとみられるほか、サウジの石油政策の実権を握っているのはサルマン副皇太子であるとされます。
OPEC諸国とロシアによる生産水準凍結に向けた4月の会議では、合意が楽観視されていたにもかかわらず土壇場でひっくり返ったのは、同副皇太子の指示によるとされイランに対する政治的な動機があったと考えられています。
原油市場を読む際にOPECを主導するのが主に経済的な動機で動くヌアイミ氏であれば、米国の生産動向をチェックしてそれに対してどう反応するかを探り、また、推定すれば良く、さほど難しくなかったわけです。
しかし、政治的な要因が加わるとそのような方程式が通用せず、市場参加者もOPECの動きが読みにくくなったと考えられます。これが原油市場の先行きに対して不透明感を高めると考えられます。
OPECの原油生産は、イランの国際市場への復帰による増産を受けて増加傾向となっています。ヌアイミ氏を欠いて求心力が低下すると見込まれる中、無秩序な増産とならないか注意が必要でしょう。足元ではナイジェリアでの石油施設への攻撃による生産低下が抑制要因になっていますが、これがどれほど続くのかは不透明です。
6/2(木)に予定されているOPEC総会では、どのような形で会議がリードされるのか注目されます。
図表4:イランの増産を受けてOPECの生産は増加基調

- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
![]() |
50ドル突破には相当のエネルギーが必要? |
原油相場を動かしている2つのポイント(米国の生産とOPECの動向)をチェックしたところで、今後の原油価格を考えてみましょう。
WTI価格のチャートを見ると、1バレル45ドルから50ドルというのは、昨年9月〜10月にもみ合った水準であり、ここを抜けるには、ファンダメンタルズ面の重大な動き、あるいは、需給面で大きなエネルギーが必要だと言えそうです(図表5)。
原油生産者もそのような見方のようです。図表6は、原油価格と生産者によるヘッジ売りポジションの動向ですが、1バレル40ドル台に乗せてからヘッジ売りのポジションは急拡大しています。
年初に20ドル台の原油価格を見て肝を冷やした状況からすれば、40ドル台後半というのは非常にありがたい水準に見えるであろうことは想像に難くありません。さらに上昇するようであれば、もっと先の生産分までヘッジしておこうとなりやすいでしょう。そういう意味でも、原油価格の上昇は一服となりやすいと見込まれます。
直近でゴールドマン・サックスが原油価格見通しを引き上げたのは、足元の原油需給が供給不足に転じていると推定しているためです。しかし、供給の減少はカナダの火事やナイジェリアでのテロ攻撃など一時的と考えられる要素を含み、17年初には再度供給過剰に戻ると見込んでいるようです。
ご参考に5/17の原油先物市場で成立した将来限月の先物の価格をご紹介しておくと、17年末にかけても50ドル台前半までというのが、5/17時点の情報による市場のコンセンサスとなっています(図表7)。
ここ3ヵ月の原油価格の反発にうまく乗れた方は、ある程度利食ってもよいのではないでしょうか。
図表5:50ドルに近づいてきた原油価格(WTI期近物先物価格)

- ※当社のWEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表6:原油生産業者はヘッジ売りを積み増し

- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表7:原油先物の価格カーブ(5/17)

- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。