半導体製造装置大手のアプライドマテリアルズが、業界の先行きについて明るい見通しを表明しています。停滞が続いている半導体業界の売上は先行き上方修正が期待できそうです。半導体セクターの株価はアプライドマテリアルズの受注急増のニュースが出た5月以降、市場平均を安定してアウトパフォームしており、個別企業でも株価の上昇が目立ちます。本年後半の物色の柱として注目できるでしょう。
図表1:注目銘柄リスト
銘柄 | 株価 (8/23) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
アプライド マテリアルズ(AMAT) | 29.95ドル | 30.15ドル | 14.25ドル |
エヌビディア(NVDA) | 62.91ドル | 63.49ドル | 20.00ドル |
テキサス インスツルメンツ(TXN) | 69.98ドル | 72.58ドル | 43.49ドル |
クアルコム(QCOM) | 63.09ドル | 63.69ドル | 42.24ドル |
ヴァンエック ベクトル 半導体 ETF(SMH) | 66.11ドル | 66.45ドル | 43.53ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
半導体業界の売上予想は上方修正へ!? |
半導体製造装置の最大手、世界シェア20%を有するアプライドマテリアルズ(以下、AMAT)の受注が急増しており、半導体業界の先行きに対する期待が高まっています。
AMATの受注額は図表2の通り、2Q(2-4月期)に34.5億ドルで前年同期比37%増、3Q(5-7月期)に36.6億ドルで同26%増と大幅増です。前年同期比で高い伸びとなっているのは、有機EL向けの需要が急増している「ディスプレイ等製造装置」の貢献ですが、半導体製造装置も高水準となっています。
決算説明会で同社は、「われわれは半導体業界、ディスプレイ業界ともに劇的な技術進歩が起こりつつあるのを目撃している。現在複数年に渡る大きな業界の転換点の初期段階にあって、これが当社の成長を促し、将来の事業機会を創出しつつある。」としています。
業界最大手のトップが「劇的な技術進歩」(dramatic advances in technology)とはそうそう言うことではないと思われますので、大きな変化として注目できるでしょう。
技術進歩の中身の一つは、「3次元(3D)NANDフラッシュメモリ」です。記憶装置として使われる半導体で、技術進歩は「3次元」(3D)の部分にあります。従来平面的に作られていたメモリ素子を垂直方向に積み上げることで、素子密度を大幅に向上させることができます。
もう一つは、ロジック半導体メーカーやファウンドリー(半導体の受託生産者)が10および7ナノメートルの技術で革新を遂げつつあるとしています。16年の量産に使われている最先端技術は14ナノメートルですが、微細化が順調に進んでいることは業界の拡大に繋がると期待できるでしょう。
また、技術進歩ではないものの、中国の半導体業界が立ち上がりつつある点も重要だとしています。中国の半導体生産に占める世界シェアは3%程度ですが、数年前から国を挙げての強化が進められており、いよいよ成長が加速しようとしているようです。
半導体の需要見通しでは、スマートフォンの高機能化による搭載量増加、ソーシャル・メディア、4Kテレビ、IoTによるデータの爆発的増加、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、AI(人工知能)、スマートカーなど強力な計算機能が必要なプラットフォームの構築などが半導体需要を牽引するとしています。
図表3は世界の半導体売上高の月次推移ですが、14年末辺りをピークにここ1年半以上停滞してきたことが分かります。AMATが言うように「複数年に渡る大きな転換点の初期段階」(the early stages of large, multi-year industry inflections )とすると、今年の前半を底に売上高は増え、前年比も先行きプラスに転じることが期待されます。
図表4は半導体市場の統計を世界でまとめているWSTSによる16年6月時点の市場予想です。16年は前年比2.4%減、17年は2.0%増の予想となっています。しかし、アプライド マテリアルズは16年が15年比で増加、17年も増加を見込んでいます。WSTSの予想も今後上方修正となることが期待されるでしょう。
図表2:アプライド マテリアルズの受注が急増!
- 注:アプライドマテリアルズの四半期受注額推移です。同社10月決算のため、3Qは5-7月になります。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:半導体売上は今後増加へ!?
- 注:世界の半導体売上高の推移で、最後のデータは16年6月です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4:半導体の売上予想も今後上方修正へ!?
- 注:世界の半導体売上の推移です。予想はWSTS(世界半導体市場統計)によります(16年6月時点)。
- ※WSTS公表データをもとにSBI証券が作成
本年後半の物色の柱として期待!! |
半導体業界の株価の動きを見てみましょう。
半導体セクター指数の動きをS&P500指数と比べたものが図表5です。16年5月にアプライドマテリアルズの2-4月期受注が急増したことをきっかけに半導体セクター指数の上昇傾向が強まり、それ以降S&P500指数を安定してアウトパフォームしていることが確認できます。
AMATが言うように「大きな業界の転換点の初期段階」にあるとすれば、半導体セクターの株価パフォーマンスの好調は続く可能性が高いでしょう。本年後半の物色の柱の一つとして注目できるでしょう。
図表6は個別銘柄の動向で、半導体セクター指数採用の時価総額上位10銘柄の年初来株価騰落率です。時価総額トップのインテルはパソコン市場の不振が続いていることが響いてS&P500指数を下回っていますが、それ以外の多くの銘柄が市場平均を大幅に上回っていることが分かります。
個別企業の四半期売上の動向が図表7です(ブロードコムは大規模なM&Aがあったため掲載していません)。株価が年初来88.9%上昇のエヌビディア、同じく58.8%上昇のアプライド マテリアルズは、やはり右肩上がりの角度が大きくなっています。
クアルコムは15年に大きく落ち込みましたが、足元では従来の成長軌道を取り戻しつつあるようです。インテル、テキサス インスツルメンツは停滞感がありますが、今後業界全体の成長が高まるとすれば、改善が期待できるでしょう。
主要企業のポイントは以下の通りです。
アプライド マテリアルズ(AMAT)・・・・世界最大の半導体製造装置メーカーで、半導体、フラットパネルディスプレイ向けを主に手掛けます。5-7月期決算は、売上が前年同期比13%増、純利益は同53%増で、2-4月期のそれぞれ0%増、12%減から大きく改善しました。8-10月期のガイダンスは、売上が前年同期比37%-42%増相当、調整後EPSは前年同期比2.2−2.4倍相当の0.61-0.69ドルと5-7月期から大幅加速が見込まれています。17年10月期の予想EPS2.21ドルに対する予想PERは13.6倍に過ぎず、上昇余地が大きいと見られます。
エヌビディア(NVDA)・・・画像処理に使われるグラフィック・プロセッサ(GPU)を得意とする半導体メーカーです。5-7月期はゲーム、プロ向け画像処理PC、データセンター、自動車の主力4分野とも好調で、8-10月期の売上ガイダンスはさらなる加速が見込まれています。VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、AI(人工知能)など、画像処理を得意とする同社が活躍できる市場の拡大が期待されます。また、17年3月にリリース予定の任天堂「NX」に同社のTegraプロセッサ採用が噂されるなど、株価材料も豊富です。
テキサス インスツルメンツ(TXN)・・・・米国の半導体大手です。アナログ半導体で世界シェア1位のほか、マイコン、コネクティビティ半導体も手がけます。自動車向けが引き続き好調で、業績の足を引っ張っていた産業向けおよび通信インフラ向けがプラス成長に戻りつつあり、業績モメンタムが改善基調にあります。センサーが捉えた信号を処理するアナログ半導体やマイコンの売上構成比が高く、幅広い電子機器メーカーと取引関係があることから、「モノのインターネット(IoT)」との関連性が高く中期的な成長が期待されます。
クアルコム(QCOM)・・・スマホのアプリケーションプロセッサ(パソコンのCPUにあたる半導体)で約4割のシェアを保有し、3G・4Gの通信規格の特許で世界トップシェアをもつ通信用半導体の企業です。13年末に中国で独占禁止法違反に問われて以降、業績は停滞が続いていましたが、中国メーカーとの新契約にこぎつけ業績は正常化に向かいつつあります。4-6月期決算は市場予想を大きく上回りましたが、7-9月期のガイダンスは業績モメンタムがさらに加速する見通しです。同社CEOは決算後のインタビューで「まだこれは始まりにすぎない」としています。
ヴァンエック ベクトル 半導体 ETF(SMH)・・・同ETFは、「マーケット・ベクトル米国上場半導体25インデックス」への連動を目指すETF(上場投資信託)です。組入れ上位銘柄は、インテル、TSMC(台湾の世界最大のファウンドリー)、クアルコム、ブロードコム、テキサス インスツルメンツなどです(8/22時点)。
図表5:半導体セクター指数はアウトパフォーム傾向に
- 注:8/19(金)時点です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表6:株価の上昇が目立つ半導体関連企業
- 注:S&P500指数の「半導体・同製造装置指数」採用の時価総額上位10銘柄です。8/19(金)時点です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表7:主要半導体関連企業の四半期売上推移
- 注:アプライド マテリアルズは1Qに2-4月期、2Qに5-7月期、3Qに8-10月期、4Qに11-1月期をプロットしています。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。