米国で「ロボ・アドバイザー」による個人投資家向けの資産運用サービスの利用が急拡大しています。パソコンやスマートフォン経由で従来よりも格安にサービスを受けることができるため、今後巨大市場に成長すると見込まれています。「フィンテック」の一分野として株式市場での注目も高く、これに取り組んでいる企業や恩恵を受ける企業など関連銘柄は投資対象としても有望でしょう。また、この動きは日本にも広がりつつあります。SBI証券でも「WealthNavi(ウェルスナビ)」社との提携でロボ・アドバイザーの運用サービスを提供予定です。ご期待ください!!
図表1:注目銘柄のリスト
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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米国で人気爆発のロボ・アドバイザー
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米国で「ロボ・アドバイザー」による個人投資家向け資産運用サービスが急拡大しています。
「ロボ・アドバイザー」はPCやスマートフォンなどを通じて個人投資家に資産運用サービスを提供するもので、典型的な例では、年齢、年収、資産額などいくつかの質問にオンラインで回答し、個々人の状況に合わせてどのようなポートフォリオが適切かアドバイスを受けられるものです。自動化の度合いはさまざまで、電話・メールによる問い合わせサポートが付いているもの、ファイナンシャル・アドバイザーの助言が付いているものもあります。
同サービスは5年ほど前にベターメント、ウェルスフロントなどのスタートアップ企業が提供を開始しました(図表2)。当初は注目されず運用資産も伸びませんでしたが、2年ほど前から大手金融機関がこれら「ロボ・アドバイザー」企業と提携したり、自社開発でサービスを展開するようになって市場の拡大に弾みがついてきました。
資産運用大手ブラックロック社の会社説明会資料によれば、2016年から2020年にかけて「デジタル/ロボ・アドバイス」分野の年平均成長率は62%に達する見通しです。同期間に資産運用業界全体の伸びは年平均2%しか見込まれておらず、突出した成長分野と考えられています。
また、デロイト・コンサルティングでは、ロボ・アドバイザーの運用資産は14年末の190億ドル(約2兆円)から10年以内に5~7兆ドル(最大約850兆円)という驚異的な額になると予想しています。米国の個人投資家金融資産が25兆ドル超であるのに対して、約2割から3割弱を占める規模です。
同社はロボ・アドバイザーが拡大する要因として、(1)圧倒的な手数料の低さのほか、(2)若い世代へのアピール力、(3)アドバイス内容を広げるために運用会社が開発投資していること、(4)多くの大手金融機関が新たに導入を予定していること、(5)テクノロジーによる資産運用業界への参入障壁の低下、などを挙げています。
運用アドバイスを行ってきた金融機関やファイナンシャル・アドバイザーにとっては、一部業務の手数料に低下プレッシャーが生じるため、世の中の流れがそうだと考えても積極的に推進できなかった面があると考えられます。しかし、何も手を打たないでいると将来の打撃が大きくなるため、米国ではもう動かざるを得ないタイミングに達したと考えられます。
日本でも昨年あたりからロボ・アドバイザー業界に参入するスタートアップ企業やそれら企業と提携して参入する金融機関が現れています。SBI証券でも、ロボ・アドバイザーのWealthNavi(ウェルスナビ)社と提携してサービスを開始する予定です。ぜひ、ご期待ください。
尚、ウェルスナビ社と当社の提携については、10/12当社リリース「ウェルスナビ社との業務提携契約締結のお知らせ」、ウェルスナビ社の運用サービスについては、同社WEBサイトをご覧ください。
「ロボ・アドバイザー」はインターネットやスマホの普及が背景にあります。インターネットの本質は、「企業や専門家に対する一般消費者の情報武装」と言えます。例えば、個別銘柄への株式投資を考えてみても、ネット時代の個人投資家は運用のプロと遜色ない情報が取れる時代になっています。このような大きな流れが資産運用における、資産配分の分野にも及んできたと言えるでしょう。
図表2:「ロボ・アドバイザー」を提供する米国企業
サービス提供企業 |
サービス開始年 |
運用資産(億ドル) |
販売チャネル |
手数料 |
ベターメント |
2010 |
40.4 |
直販、フィデリティ |
0.15-0.35% |
ヘッジャブル |
2010 |
0.5 |
直販 |
0.30-0.75% |
フューチャーアドバイザー |
2010 |
8.1 |
ブラックロックが買収 |
0.50% |
ウェルスフロント |
2011 |
30.6 |
直販 |
0.25% |
パーソナル キャピタル |
2012 |
21.3 |
直販、BNY Mellon |
0.49-0.89% |
エイコーンズ |
2012 |
0.7 |
直販 |
月1ドル |
チャールズ シュワブ |
2015 |
53.0 |
提携する登録投資顧問 |
なし |
バンガード |
2015 |
310.0 |
提携する登録投資顧問 |
0.30% |
図表3:ブラックロックは「デジタル/ロボ・アドバイス」の急成長を予想(16年から20年にかけての分野別成長見通し)
- 注:予想はマッキンゼーおよびブラックロック社によります。
- ※ブラックロック社の会社説明会資料をもとにSBI証券が作成
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投資対象としても注目!上場各社の取り組みは?
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高成長が期待されるロボ・アドバイザー業界は投資対象としても注目できますが、残念ながら図表2に挙げた企業の多くが未上場です。しかし、上場企業の中にもチャールズ シュワブのように比較的早くから取り組んで成果を出している企業もあります。ロボ・アドバイザーに取り組んでいる企業、同業界の成長から恩恵を受ける企業など関連銘柄を探ってみました。
チャールズシュワブ(SCHW)
預かり資産2.71兆ドル(約280兆円)を誇る米国最大のリテール証券会社です。オンライン証券で先駆した1社で、現在はフルサービスを含む幅広いサービスを提供しています。16年8月の残高は前年同期比10%増、うち5%相当が新規資金からなり、顧客資産の流入が続いて好調です。
ロボ・アドバイザーは、15年第1四半期に「シュワブ・インテリジェント・ポートフォリオ」としてサービス開始、預かり資産は15年末に53億ドル(約5,500億円)に拡大しています。同社のサービスは手数料ゼロが特徴ですが、組入れるETFの信託報酬の一部を受け取る形で収益を確保しています。
ブラックロック(BLK)
世界最大の独立系運用会社で、運用資産残高は4.9兆ドル(約500兆円、16年6月末)を誇ります。ロボ・アドバイザーでは運用対象として経費率が低いETF(上場投資信託)が使用されることが多く、「iシェアーズETF」シリーズを擁して世界のETF資産残高で38%を占める(16年3月)同社への恩恵が期待されます。同社の運用資産残高に占める「iシェアーズETF」は25%に達し、収益にも少なからず貢献があります。また、同社自身もロボ・アドバイザー企業のフューチャーアドバイザー社を16年8月に買収しており、同サービスの提供を考慮しているとみられます。
LPLフィナンシャル ホールディングス(LPLA)
米国の独立ファイナンシャル・アドバイザー及び金融機関のファイナンシャル・アドバイザー向けに仲介・投資顧問サービスのプラットフォームを提供している企業です。1万4,000名超のファイナンシャル・アドバイザーが同社のサービスを利用、アドバイス下にある資産は4,880億ドル(約50兆円)になります。
15年からロボ・アドバイザーのサービスを展開しているほか、16年4月にはブラックロックが買収したフューチャーアドバイザーと共同でサービス開発に乗り出すことを発表しています。
イートレード ファイナンシャル(ETFC)
チャールズ シュワブ、TD アメリトレードに次ぐ、米国の3大ネット証券の一角で、個人投資家、トレーダー及び独立系登録投資顧問(RIAs)向けに金融サービスを提供しています。ロボ・アドバイザーには16年6月から参入しています。
バンク オブ ニューヨーク メロン(BK)
世界最大の信託銀行で、投資資産の管理と投資サービスの提供を事業の柱としています。同社グループ企業のPershingは金融機関に対して様々なソリューションを提供するテクノロジー企業で、登録投資顧問向けにロボ・アドバイザーのプラットフォームを提供しています。
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ご参考 − ロボ・アドバイザーがやってくれること
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ロボ・アドバイザーが実際に何をして、どんなアドバイスをしてくれるのかご説明いたします。
サービスにより細かな違いはあると見られますが、ロボ・アドバイザーによるアドバイスの核になるのは、「現代ポートフォリオ理論」を使った顧客の状況に合わせた資産配分(例えば、「株30%、債券70%」といった配分)の提案です。
ロボットだから人間とは違ったアドバイスが受けられるというわけではありません。アドバイス自体は標準的な金融理論に即して、機関投資家による長年の実用に耐えてきたものになります。
もちろん、将来的には人工知能で編み出した投資アイデアという可能性もありますが、いまのところはあくまで人間が考えた理論です。「ロボ・アドバイザー」とすることで、コストのかかる人手を介する部分を減らし、低コストでサービスが提供できることがポイントです。
やや専門的になりますが、「現代ポートフォリオ理論」を使った資産配分がどのようにして決定されるか、以下に解説いたします。個人でなかなかここまで行うことは難しく、ロボで低コストなら利用価値が高いと言えるでしょう。
(1)効率的な資産配分の組み合わせを計算する(「有効フロンティア」を求める)・・・さまざまな性質をもつ資産をさまざまな比率で組入れることで、「リスクとリターン」の組み合わせに関して無数のポートフォリオをつくることができますが、その中で効率的なもの(同じリスクなら、最もリターンが高いもの)を取り出したものが「有効フロンティア」になります。
(2)顧客の資産状況、収入、年齢などから「リスク許容度」を判定する・・・資産運用に対してどの程度のリスクを取れる状況にあるかを客観的な情報から判定します。一般に高いリスクを取るほど高いリターンが期待できます。しかし、リスクを取り過ぎると資産運用の途中で断念せざるを得ないという可能性もあります。これを防ぐために取れるリスクの範囲を限定することが目的です。
(3)「有効フロンティア」に「リスク許容度」をあてはめて対応する資産配分を提案する・・・ここで示した例は非常に単純な代表的4資産による配分ですが、実際には数十の資産クラスから組入資産を選択して配分するようなものもあるようです。また、これは一度配分すればそれで良いというものではなく、投資家を取り巻く状況や市場の変化に合わせてリバランス(組入比率の調整)を行っていく必要もあり、これが組み込まれているサービスもあります。
図表4:ロボ・アドバイザーが提案する資産配分はどのようにして決まるのか
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。