第45代大統領に就任するトランプ氏が選挙中から、「ロシアのプーチン大統領を尊敬している」「ロシアとはうまく付き合っていきたい」など、これまでの米国の政治家では考えにくい発言をして注目されています。真意はまだはっきりしないものの、ウクライナ問題以降、国際社会での居場所を失っているロシアは失地挽回のきっかけとして期待しているようです。そこで今回は今後事態が進展する可能性に備えて、ウクライナ紛争と対ロシア経済制裁を整理して、ロシア経済と株式市場の現状を確認しています。
ロシアへの投資を考えるにあたり、市場全体を買うロシア株式のETF(上場投資信託)と同国の時価総額上位の代表的企業を下記(図表1)にてご紹介しています。対ロシア経済制裁で直接的に対象となっている企業を含みます。
図表1:注目銘柄のリスト
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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トランプ大統領で国際社会へ復帰!?
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第45代大統領に就任することとなったトランプ氏が選挙中から、「ロシアのプーチン大統領を尊敬している」「ロシアとはうまく付き合っていきたい」など、これまでの米国の政治家では考えにくい発言をして、秘かに(?)世界の投資家の注目を集めているようです。
トランプ氏の政策WEBサイトの「外交政策およびISIS(イスラム国)の打倒」ページには、個別にロシアを取り上げた項目はなく、同氏が構想する外交政策の中でどの程度重要な位置を占めているのか不明です。しかし、本日の日経新聞1面には「ロシアと関係改善一致」との見出しで、14日のプーチン大統領との電話会談後もその姿勢に変化はないようです。
一方、ロシア側でもプーチン大統領がトランプ氏を魅力的な人物だと評したり、トランプ氏の大統領選挙勝利を受けてロシア議会で歓声が沸いたとの報道があり、これに呼応する動きがあるようです。
ウクライナ問題以降、国際社会で立場がなかったロシアが、国際社会に復帰するきっかけとなるのか注目できるでしょう。米ロ関係の改善から事態が進展する可能性に備えて、現在のウクライナ情勢とそれに対する欧米の経済制裁の現状を確認しておきましょう。
◯ウクライナ問題の経緯
ウクライナ問題は、14年2月にウクライナの親EU派市民の抗議デモを発端に親ロシアのヤヌコビッチ大統領が解任されたことに始まります。
これに対してロシアがウクライナの自国権益を守るためにクリミア半島を編入すると宣言しました。また、ロシア系住民が多い南東部のドネツク州、ルハンスク州はそれぞれ、「ドネツク人民共和国」「ルハンスク人民共和国」と自ら称して、ウクライナ政府軍との軍事衝突が始まりました。
14年9月にミンスク和平合意(ミンスク1)が調印されましたが停戦は実現せず、15年1月に全面的な戦闘が再開されます。この事態を受けて、ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領、ロシアのプーチン大統領、ウクライナのポロシェンコ大統領が協議に参加して合意にこぎつけたのが、ミンスク和平合意(ミンスク2)です。
ミンスク2では以下の点について、ドイツ、フランスがウクライナ側の保証人、ロシアがドネツク州・ルハンスク州側の保証人となって履行することが合意されました。しかし、いまだに履行されておらず、ロシアに対する経済制裁が継続しています。
【ミンスク2の合意事項】
・即時停戦、捕虜の交換、重火器の撤去
・自治領を認めるためのウクライナの憲法改正
・ドネツク州・ルハンスク州での選挙と自治領の地位確保
・ウクライナによるロシア国境管理の回復
◯欧米諸国による経済制裁
米国・EUともミンスク合意(ミンスク2)の履行が経済制裁解除の条件として、16年7月にオバマ大統領は合意が履行されるまで制裁を続けることを確認、EUは制裁を17年1月まで延長することを発表しています。
米国が課している主な制裁措置は、以下のようなものです。
・指定した個人へのビザ発給停止
・指定した個人・団体の資産凍結
・金融、エネルギー、防衛セクターで指定する大企業との取引禁止
経済制裁の影響として具体的な例では、エクソンモービルがロシアの石油企業ロスネフチと共同で発見した北極の巨大油田では、この経済制裁を理由に開発がストップしています。厳しい開発条件のため、エクソンモービルの協力がないと開発が進まないと言われています。
また、一般的に米国・EUから経済制裁を受けていることで、ロシアやその企業が国際的に事業を展開するうえで非常にマイナスに作用していることは言うまでもないでしょう。ここに進展があれば、ロシアやロシア企業にとって大きなメリットになると考えられます。
図表2:ウクライナ紛争の経緯
14年2月 |
ウクライナで反政府デモ、親ロシアのヤヌコビッチ大統領が解任 |
14年3月 |
ロシアがクリミア半島の編入を宣言 |
14年6月 |
ウクライナで現ポロシェンコ大統領が就任 |
14年夏 |
ウクライナ軍と親ロシア住民が多く住む南東部ドネツク州、ルハンスク州反政府勢力の戦闘 |
14年7月 |
マレーシア航空機撃墜事件 |
14年9月 |
ミンスク和平合意(ミンスク1) |
15年1月 |
全面的な武力衝突が再開 |
15年2月 |
ミンスク和平合意(ミンスク2) |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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ロシア経済、ロシア株式市場はどのような状況にあるのか
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ロシアのファンダメンタルズについて、確認してみましょう。
まず、図表3の実質GDPの成長率は、経済的に結びつきの深い欧州経済の低迷を受けて13年に大幅低下、14年もウクライナ問題による経済制裁の影響も受けて低迷が続き、15年からは原油価格下落の影響を受けて大幅なマイナス成長となりました。
一方、16年からは原油価格が反発したことを受けて前年比のマイナス幅は縮小が続き、最悪期の脱出が確認されたと言えるでしょう。17年にかけては、Bloomberg集計のコンセンサス予想でプラス成長に回帰することが見込まれています。
一方、月次指標で産業景気の動向を見ると(図表4)、鉱工業生産、ビジネスコンフィデンスとも年初からの改善の動きは夏場に頭打ちになっています。原油価格反発による国内産業への波及が一巡している可能性もあり、再び改善の動きを後押しする材料がほしいところと言えるでしょう。
ロシアの株式市場は、年初来上昇基調となっています(図表5)。
ロシアの代表的な株価指数には、ルーブル建のMICEX指数とドル建のRTS指数があります。通貨ルーブルが対ドルで下落したため、14年半ば〜15年には大きく乖離しましたが、16年からは概ね平行して動いています。
ロシア株式について特筆すべきは、そのバリュエーションの低さで、株価指数ベースの予想PERはMICEX指数ともRTS指数が6.2倍と非常に低くなっています。もちろん、経済制裁を受けている国の株式であるということがディスカウントの大きな要因と考えられます。
このため経済制裁に関して何か進展があれば、ディスカウントの幅は小さく、つまり、株価は上昇すると期待されます。
図表3:GDPの前年比マイナスは縮小
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4:産業景気は夏場に足踏み
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表5:ロシアの株価は上昇基調
- 注:週足で直近値は11/15です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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ロシア株式への投資を考える
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ロシアの株式というと普通はなかなかなじみがないため、まず、株式市場全体を買えるETF(上場投資信託)での投資が考えられるでしょう。
当社では冒頭の図表1にリストアップしたロシアの株式市場への連動を目指すETF(上場投資信託)を取り扱っています。連動を目指す対象指数はいずれもルーブル建ですが、ETFはドル建のためドルに対する通貨ルーブルの反発も併せて狙うことができます。
また、当社ではロシアの個別株式も取り扱っています。ロシアの各産業を代表する企業をご紹介いたします。この中には、経済制裁で直接的なダメージを受けた企業も含まれています。
ロシアを代表するエネルギー企業のロスネフチ(ROSN)、ロシア最大の商業銀行のズベルバンク(SBER)、ニッケルの世界トップ企業であるノリリスク ニッケル(GMKN)、ロシア三大鉄鋼メーカーの一角セヴェルスタリ製鉄(CHMF)、ロシア最大の小売チェーンのマグニト(MGNT)です。
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- 原油・ガスの生産および石油製品の精製に従事するロシアの代表的なエネルギー企業で、シベリア西部、サハリン、コーカサス北部、ロシアの北極地域で石油を生産します。ロシアの原油生産の38%、石油精製の30%を占め、原油埋蔵量はエクソンモービルを上回り、現在の上場企業では世界最大です。同社株式の約70%をロシア連邦、約20%をイギリスのBP社が保有しています。
- 売上は海外向けの原油および石油製品が約7割、国内向け原油および石油製品が約2割、ガスの販売他が約1割を占めています。17年12月期は原油価格の回復により、売上は26%増、EPSは47.7ルーブルへ63%の増加が見込まれています。
- 米国の経済制裁により、14年にエクソンモービルとの共同事業で発見した北極カラ海の巨大油田(掘削した1抗の井戸が10億バレルの石油の賦存を確認した)の開発がストップしています。仮に経済制裁が解除されれば開発が再開され、同社に大きな恩恵が期待されます。
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- ロシアおよび中東欧で最大の商業銀行です。1841年に設立されロシア国内に約16,500ヵ所の支店・営業所を保有します。個人預金では45%、個人向け貸出で38%、企業向け貸出で32%の市場シェアを有します。中東欧中心に22ヵ国に展開して、収益に占める海外比率は14%まで増加しています。
- 15年12月期決算は、金利収入が3%、非金利収入が28%増えて収入は12%増でしたが、信用コストが25%増えたため、純利益は8%減でした。信用コストの増加は、ルーブル下落の影響が出ている外貨建の借入れがある企業に対する引当金の増加によります。
- 当社は金融セクターの最大企業で、米国の経済制裁の対象となっています。経済制裁が解除される場合には、恩恵が期待できます。
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- ニッケルとパラジウムで世界シェアトップ、銅、プラチナ、コバルト等の生産も手掛ける非鉄金属生産企業です。ニッケルの世界シェアは13%、パラジウムは44%です。売上構成比(14年)は、ニッケル43%、銅23%、パラジウム21%、プラチナ8%、その他5%です。金属鉱業セクターの時価総額では、BHPビリトン、リオ・ティント、グレンコアに次ぐ世界的大手で、ロシア市場のほか、ニューヨーク市場、ロンドン市場にも上場しています。
- 主力のニッケルはステンレス鋼が主用途で建設資材に多く使用される金属です。中国のステンレス鋼の生産は16年1-6月に前年同期比8%増に改善、ニッケル在庫の減少も進んでいることから今後の需要回復が期待されます。米国のインフラ投資拡大でも、間接的ながら恩恵が期待されます。
- 16年1-6月期決算はニッケル相場の下落と一部事業の再編の影響を受けて22%減収、EBITDA(利払い、税金、償却前利益)は34%減と厳しいものですが、ニッケル事業のEBITDAマージンは47%と世界の同業でトップレベルが維持されています。
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- モスクワとサンクトペテルブルクにほぼ等距離にある、ヴォログダ州チェレポヴェツに本社を置く、ロシアの3大製鉄所の一角です。
- 世界の鉄鋼業の中で規模は2番手グループになりますが、ホットコイル(圧延鋼板)の生産コストは世界で最も低いレベルにあり、また、国内シェアを拡大している点など、見どころのある企業です。
- 16年1-6月期決算は需要・市況とも低迷して売上は前年同期比20%減、EBITDA(利払い、税引き、償却前利益)は同32%減と厳しいですが、16年4-6月期は1-3月期比で売上が44%増、EBITDAが93%増と業績底入れの形となっています。
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- 94年創業のロシア最大の小売チェーンです。16年9月末時点で13,364店(コンビニ10,138、ハイパーマーケット228、ファミリー・ストア179、ドラッグストア2,819)を展開、店舗数は過去5年で3倍に拡大しています。
- 16年1-9月期決算は、売上が14%増、EBITDA(利払い、税引き、償却前利益)が7%増、既存店売上の伸びは1.2%増でした。ロシアの産業景気は夏場に足踏みとなりましたが、実質小売売上高、実質賃金など消費関連の月次指標は改善の動きが続いて事業環境は堅調と見られます。
- 16年はコンビニ900-950店、ハイパーマーケットとファミリー・ストア80店、ドラッグストア1,200店と引き続き積極的な出店が予定されています。
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- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。