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ADR(米国預託証券)でグローバル投資を!!

2017/01/25
投資調査部 榮 聡

みなさんは、米国市場に上場して株式と同じように取引されている「ADR(米国預託証券)」をご存じでしょうか?米国の投資家が海外企業に投資するために発達した仕組みですが、日本の投資家にも有用と考えられます。今回はADRへの理解を深めて有効に利用することで、グローバル投資が身近になるというお話をいたします。

図表1:注目銘柄のリスト

銘柄 株価(1/24) 52週高値 52週安値
ASML ホールディングス NYRS(ASML) 122.55ドル 125.87ドル 80.24ドル
阿里巴巴集団(アリババ グループ)ADR(BABA) 101.43ドル 109.87ドル 59.25ドル
ヴァーレ ADR(VALE) 10.76ドル 10.96ドル 2.13ドル
HDFC銀行 ADR(HDB) 66.64ドル 74.04ドル 51.11ドル
HSBC ホールディングス ADR(HSBC) 42.11ドル 43.07ドル 28.62ドル
  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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ADR(米国預託証券)とは?

ADRはAmerican Depositary Receiptの略で、日本語では「米国預託証券」です。米国の投資家が海外企業に投資するために発達した制度ですが、日本の投資家にも有用と考えられます。

ADRの仕組みは、図表2の通りです。

ブラジルのA社のADRを米国のB銀行が発行する例です。米国のB銀行がブラジルの証券取引所でA社の株式を取得し、現地のC銀行に保管を依頼します。この保管された株式を裏付けとしてB銀行がA社のADR(預託証券)を発行し、米国の証券取引所に上場します。

ADRそのものは「預かり証」に過ぎず株式とは言えませんが、裏付けとなる株式から生じる経済的権利の全てを含む有価証券であるために、株式を保有するのとほぼ同じ経済効果を得ることができます。このため、証券取引所でも株式と同じように取引されます。

この制度によって米国の投資家は、取引ルールに疎いブラジルの証券取引所に注文を出さなくても、ブラジル企業の株式をドル建てで自国市場にて取引できるのです。

16年12月のデータによれば、ニューヨーク証券取引所では226のADR銘柄が、ナスダック市場では17年1月24日時点で107のADR銘柄が上場されています。日本の証券取引所にも外国部がありますが、上場企業は数社に過ぎず、制度の充実は比べものにならないと言えるでしょう。

尚、米国市場ではADRとは別に外国企業が「普通株」を上場しているケースもあります。著名企業では、ドイツのドイツ銀行、イタリアの高級車メーカーのフェラーリ、ノルウェー(登録はマーシャル諸島)のオイルサービス企業のシードリル、カナダの金鉱会社のバリックゴールドなどがあります。

図表2:ブラジルのA社のADRが米国市場に上場する仕組み

  • ※各種資料をもとにSBI証券が作成
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日本の投資家がADRに注目できる理由

日本の投資家が米国に上場するADRに注目できる理由として、以下の2点があげられます。

[1] 米国の投資家がグローバル投資をする場合に、ニーズが高い、あるいは、見どころがある銘柄が選別されていると考えられるため、日本の投資家にも参考になる銘柄群である。

[2]情報開示や取引ルールが米国の法律に従うため、米国企業の株を買うのに近い水準の安心感がある。特に新興国の企業に投資する場合に、重要な要素と見られる。

[1]については、下掲のADRのある日本企業のリストを見ればよくわかるでしょう。米国の投資家が日本株への投資を考えた場合に、真っ先に思い浮かぶ、日本を代表する企業群だと言えるでしょう。他国のADRについても、各国でこれらの日本企業に相当する銘柄群が選ばれていると期待できます。

【ADRのある日本企業】(ニューヨーク証券取引所)
LINE(3938)、ソニー(6758)、京セラ(6971)、トヨタ自動車(7203)、本田技研工業 (7267)、キヤノン(7751)、三菱UFJFG(8306)、三井住友FG(8316)、みずほFG(8411)、オリックス(8591)、野村HLDG(8604)、日本電信電話 (9432)、NTTドコモ(9437) の13社。

[2]については、企業の情報開示や株式の取引ルールの質は世界各国で一様ではありません。世界で最も高い水準にあると見られる米国市場を利用することで、現地の取引所を利用するよりも安心なことが多いと考えられます。

ですから、ADRは日本の投資家が海外企業に投資する場合にも活用する価値があると言えるのではないでしょうか。

これから良くなるのではないかと注目している国や企業がある場合に、まず、米国上場のADRがないかチェックしてみるのが良いでしょう。当社の「ADR銘柄一覧」はこちらになります。

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注目のADR銘柄は?

当社では米国市場に上場するADR銘柄のうち、中国企業37、イギリス企業18、ブラジル企業16、インド企業8など合計109銘柄を取り扱っています(17年1月24日時点)。

この中から、グローバルなセクターで時価総額の上位にある企業、あるいは、その国の成長を代表するような主要企業をリストアップしています。

さらに、現在の投資環境から注目できる銘柄を、冒頭の図表1に注目銘柄として掲載しています。中国が国策として進める半導体工場への投資から恩恵が期待されるASML ホールディングス NYRS(ASML)、中国の消費堅調とeコマースの成長が期待される阿里巴巴集団(アリババ グループ)ADR(BABA)、世界経済の改善と資源価格の底入れから注目される鉄鉱石大手のヴァーレ ADR(VALE)、インドの経済成長から恩恵を受けると期待されるHDFC銀行 ADR(HDB)、アジアの成長を取り込むことが期待されるHSBC ホールディングス ADR(HSBC)の5銘柄です。


【イギリス】
ロイヤル ダッチ シェル ADR B(RDSB)
エネルギーセクターで、エクソンモービルに次ぐ世界2番手の企業です。石油の探鉱・生産から、精製・各種石油製品生産、ガソリンスタンド運営まで総合的に手掛けます。オランダに本拠地を置き、ユーロネクストとロンドン証券取引所に上場しています。

HSBC ホールディングス ADR(HSBC)
銀行セクターで時価総額世界上位のイギリスの銀行です。香港上海銀行が母体になっていることから、香港を中心としたアジアが収入の約4割を占め、イギリスの収入は3割弱にとどまるなど、特徴ある地域収入構成をもちます。

ユニリーバ ADR(UL)
日用品セクターで米国のP&Gに次ぐ世界大手企業です。スキンケア、ヘアケア、洗剤や食品・飲料などに展開、ダブ、ラックス、クリア、アックス、モッズヘア、ワセリン、ドメスト、リプトンなどのブランドを擁します。環境負担の削減に熱心な企業としても知られています。

リオ ティント ADR(RIO)
金属鉱業セクターでBHPビリトンと並ぶ世界大手です。鉄鉱石を主力にアルミニウム、銅、ダイヤモンド、石油などをオーストラリアを中心に世界各地で生産しています。イギリスとオーストラリアの二元上場の企業です。

ディアジオ ADR(DEO)
蒸留酒メーカーです。アルコール飲料全体では、アンハイザーブッシュインベブが飛びぬけた大企業ですが、蒸留酒に限ると同社が最大です。蒸留酒の世界販売上位100のうち20ブランドを保有、ジョニー・ウォーカー、スミノフ、キャプテン・モルガン、ベイリーズなどが主力です。

インターコンチネンタルホテルズ ADR(IHG)
ホテルセクターの世界大手の一角で、欧州のホテル企業ではフランスのアコーホテルズに次ぐ規模です。インターコンチネンタル、ホリデイ・イン、クラウン・プラザなどのブランドで世界で約5,000ホテル、約75万室を運営します。

【中国】
阿里巴巴集団(アリババ グループ)ADR(BABA)
中国最大のeコマースサイトを運営します。中国のインターネット市場は米国の世界大手が進出していないため、別市場が形成されています。中国のeコマースの発展は世界有数と見られますが、これをリードしています。また、ネット動画でも「Youku Tudou(優酷・土豆)」を買収して、バイドゥの「iQiyi(愛奇芸)」に次ぐポジションを確保しています。

百度(バイドゥ) A ADR(BIDU)
中国最大のネット検索エンジンを運営する企業です。中国にはグーグルが事業展開していないため、同国のネット検索で約6割のトップシェアをもっています。米国の著名研究者を擁して、自動運転など人工知能の分野にも意欲的に進出しています。

携程旅行網(C トリップ ドットコム) ADR(CTRP)
オンライン旅行代理店でプライスライングループに次ぐ世界大手です。ホテル予約、航空券販売、パッケージツアー、法人旅行管理などを手掛けます。

ニューオリエンタル エデュケーション ADR(EDU)
教育サービスの上場企業として世界最大手です。外国語習得プログラム、学校入学試験や査定評価用のテスト対策プログラム、小中教育プログラムなどを提供します。中国では所得上昇を受けて子弟への教育投資が盛んで、成長が期待されます。

【インド】
HDFC銀行 ADR(HDB)
1994年にインド中央銀行から分離独立した商業銀行で、インド最大手です。企業や中高所得者向け金融サービスに重点を置き、ムンバイを本拠地として国内約4,500ヵ所の支店、約12,000ヵ所のATMでサービスを提供しています。インド経済の拡大とともに成長が期待されます。

インフォシス テクノロジー ADR(INFY)
インドのソフトウェア受託開発最大手です。50ヵ国に事業展開して、インドの成長を牽引する企業の一つとして期待されています。米国でトランプ大統領が打ち出している移民抑制の方針が、同社にどのように影響するか注目されます。

タタ モータース ADR(TTM)
インドの自動車メーカーで、トラック・バスなどの商用車で高シェアを誇ります。インドを代表する製造業の企業と言えるでしょう。ただ、収益の主力は買収したジャガーランドローバーとなっています。

【ブラジル】
イタウ ウニバンコ ホールディング ADR(ITUB)
ブラジル最大手の総合銀行です。リテール、商業、法人向け銀行サービス、プライベート・バンキングなど幅広い業務を手掛けます。ブラジル国内に約3,900の支店を展開するほか、南米各国でも事業展開しています。ブラジル経済の改善から恩恵が期待されます。

ペトロレオ ブラジレイロ ADR(PBR)
ブラジルの総合石油・ガス会社で、南米最大の事業会社です。ブラジル政府が株式の50.3%を保有しています。「ペトロブラス」とも呼ばれ、日本語では「ブラジル石油公社」とされます。主にブラジル沖の油田で生産し、深海での掘削技術も保有しています。

ヴァーレ ADR(VALE)
金属鉱業でBHPビリトン、リオティントに次ぐ世界的大手です。売上の6割超を占める鉄鉱石に加え、ニッケル、銅、肥料などを生産します。鉄鉱石とニッケルの生産では世界最大企業です。売上の6割以上がアジア向けです。

【その他の国】
BHP ビリトン ADR(BHP)
金属鉱業セクターでリオティントと並ぶ世界最大手です。鉄鉱石、原料炭、銅、ウランなどを生産するほか、石油・ガス、燃料炭などの比較的大きな権益も保有しています。オーストラリアとイギリスの二元上場の企業です。

ASML ホールディングス NYRS(ASML)
半導体製造装置で世界最大のオランダ企業です。米国のアプライドマテリアルズや日本の東京エレクトロンは様々な分野の製造装置を扱いますが、同社は露光装置(ステッパー)に特化して、同分野ではニコン、キャノンを抑えて圧倒的な高シェアを確保しています。

図表3:主要ADR銘柄の投資指標

銘柄(コード) 国籍 株価
(1/23)
(ドル)
予想
PER
(倍)
総資産
純利益率
(%)
時価総額
(億ドル)
ロイヤル ダッチ シェル ADR B(RDSB) イギリス 57.99 28.5 1.0 2,300
HSBC ホールディングス ADR(HSBC) イギリス 41.88 15.1 0.2 1,664
ユニリーバ ADR(UL) イギリス 42.31 21.2 9.2 1,263
リオ ティント ADR(RIO) イギリス 43.81 16.6 0.0 806
ディアジオ ADR(DEO) イギリス 108.71 20.9 8.3 684
インターコンチネンタルホテルズ ADR(IHG) イギリス 46.33 23.9 34.3 92
阿里巴巴集団(アリババ グループ)ADR(BABA) 中国 98.41 30.1 8.4 2,456
百度(バイドゥ) A ADR(BIDU) 中国 175.97 38.1 22.2 610
携程旅行網(C トリップ ドットコム) ADR(CTRP) 中国 43.29 105.8 -2.2 215
ニューオリエンタル エデュケーション ADR(EDU) 中国 48.19 27.0 10.4 76
HDFC銀行 ADR(HDB) インド 64.34 26.3 1.9 548
インフォシス テクノロジー ADR(INFY) インド 14.09 15.0 18.9 324
タタ モータース ADR(TTM) インド 39.05 14.5 4.3 250
イタウ ウニバンコ ホールディング ADR(ITUB) ブラジル 12.00 11.4 1.7 730
ペトロレオ ブラジレイロ ADR(PBR) ブラジル 11.33 - -6.3 706
ヴァーレ ADR(VALE) ブラジル 10.51 11.3 -5.9 539
BHP ビリトン ADR(BHP) オーストラリア 40.32 16.3 -5.2 1,027
ASML ホールディングス NYRS(ASML) オランダ 122.17 28.0 9.7 537
  • ※会社資料、BloombergデータもとにSBI証券が作成
  • ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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