米国の若者に人気の「スナップチャット」を運営する「スナップ(SNAP)」が3/2(木)ニューヨーク証券取引所に新規上場します(当社では3/2 10:30頃から注文受付中)。米国では良く知られたサービスであることから市場の注目を集めています。オンラインコミュニティ業界でどう位置づけられるのか、昔のフェイスブックと比べてどうなのか、また、同社の会社概要およびIPOの株価評価について検討していきます。
図表1:オンラインコミュニティの大手企業
銘柄 | 株価 (2/28) | 52週高値 | 52週安値 |
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スナップ(SNAP) | IPOの仮条件は14-16ドル。公募価格は17ドルに決定(3/2)。 | ||
フェイスブック(FB) | 135.54ドル | 137.18ドル | 102.74ドル |
テンセント(騰訊)(00700) | 207.00HKドル | 220.80HKドル | 139.60HKドル |
ツイッター(TWTR) | 15.70ドル | 25.25ドル | 13.72ドル |
微博(ウェイボー)ADR(WB) | 50.52ドル | 58.79ドル | 14.10ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
「スナップチャット」の「スナップ(SNAP)」が米市場に新規上場へ! |
写真共有アプリの「スナップチャット(Snapchat)」を運営する「スナップ(SNAP)」が3/2(木)ニューヨーク証券取引所に新規上場します。比較的大きいIPOであることに加え、米国の消費者には良く知られたサービスであるため、株式市場での注目が高まっています。
世界のオンラインコミュニティ業界(SNSとメッセンジャーサービス)でどのような位置づけになるのか確認してみましょう。
まず、株式の時価総額です(図表2)。グローバル市場を席巻するフェイスブック、中国市場を席巻するテンセントが2大プレーヤーで、それ以外は大きく規模が異なっています。
これだけ規模が違うとフェイスブックを保有しているファンドマネージャーが入れ替えの対象にスナップを検討するということは少なそうです。それでも、ツイッターを抜いてグローバルで業界3番手となることから、幅広い投資家にフォローされる銘柄になると見込まれます。
世界のSNSとメッセンジャーを合わせたオンラインコミュニティの利用者数では、上位のサービスは7位までフェイスブックとテンセントがおさえて、「スナップチャット」は10位前後になります(図表3)。
これを見るとさほど注目できる企業には見えませんが、それでもスナップが市場の注目を集める背景として、
(1)34歳までの利用者が80%超を占めて若者層に人気が高い、
(2)送った画像や動画が自動的に消える「消滅系メッセンジャーアプリ」である、
との特徴があげられます。これまでの一般的なオンラインコミュニティと違った展開があるかもしれないとの期待があるようです。また、フェイスブックが保有する写真共有サイトでやはり若者に人気の「インスタグラム」との競合関係も注目される要因です。
図表2:オンラインコミュニティ企業の時価総額で世界3位に、米国では2位に
- 注:オンラインコミュニティセクターで同売上が過半を超える企業、および、同セクターに属してはいないものの、オンラインコミュニティが収益を誘導するために重要な役割を果たしているテンセントを加えて、時価総額50億ドル以上の企業をリストアップしています。時価総額は2/24(金)です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:世界のオンラインコミュニティ(SNSとメッセンジャー)の利用者数
- ※会社資料等をもとにSBI証券が作成
昔のフェイスブックと比べてどうなのか? |
様々な報道によるとウォール街での同社に対する評価は割れているようです。フェイスブックのような成功を期待する向きと、成長が鈍化してしまうのではとの懸念をもつ向きに分かれているようです。まだ赤字であるため、株価評価が難しいことも評価が割れる要因でしょう。
そこで、昔のフェイスブックと比べて同社にはどのような特徴があるのか検討してみました。
現在スナップは11年の創業から5年を経たところで、デイリーアクティブユーザーは16年末に158百万人です。一方、フェイスブックは04年の創業で5年経った09年のデイリーアクティブユーザーは185百万人でした。ユーザー数が近い時点で、両社の業績がどのように違うかを比較しています(図表4)。
これを見ると、フェイスブックが当時黒字化していたのに対して、スナップはまだ売上高を上回る営業赤字を計上しています。(1)ユーザー当たりの売上高が小さく事業の収益化が遅れている、(2)営業費用はフェイスブックの5億ドルに対してスナップは9億ドルと費用水準が高い、ことが要因です。収益面でフェイスブックに劣っていることは否めません。
利用者数の拡大については、スナップは図表5の通り、16年3Q(7-9月期)、4Q(10-12月期)に伸びが鈍化していて、投資家には気になるところです。上場後初の1-3月期決算での注目点になりそうです。米国の若者層ではかなり普及率が高まっているため、米国以外でのユーザー獲得がポイントとなりそうです。
フェイスブックは図表6の通り、創業5年目からも利用者を順調に延ばし、16年末のDAUは12億人にまで拡大しました。スナップもこのような推移を辿ることができるか注目されます。
図表4:創業5年目のフェイスブックとの比較
- 注:ユーザー当たり売上高は、当該年の売上高を四半期アクティブユーザー数の平均値で割って算出しています。
- ※会社資料、各種報道をもとにSBI証券が作成
図表5:スナップのデイリーアクティブユーザー(DAU)
- ※会社資料をもとにSBI証券が作成
図表6:フェイスブックのデイリーアクティブユーザー(DAU)
- ※会社資料をもとにSBI証券が作成
スナップの会社概要とIPOの株価評価 |
【企業概要】
「スナップ」は、スタンフォード大学の学生だった現CEOのシュピーゲル氏(26歳)とチーフ・テクノロジー・オフィサーのマーフィー氏(28歳)が2011年に創業した会社です。
主力事業は写真共有アプリの「スナップチャット」で、閲覧後数秒で自動的に削除される機能が組み込まれた写真や動画を送りあって、チャットを楽しむことができます。すぐ消えるために(自分用には保存もできます)プレッシャーなく送れ、スムーズなコミュニケーションが取れるとされます。また、昨年末よりカメラ付きのサングラス「スペクタクルズ(Spectacles)を発売して、ハードウェアにも進出しています。
【スナップチャット事業】
「スナップチャット」では、写真に「絵文字」、「手書き文字」を入れたりできるほか、以下のような機能が人気です。
「レンズ」・・・アプリが顔を認識して、虹を吐き出したり、舌を出したりといった、面白いエフェクトをかけて撮影する機能です。
「ストーリー」・・・複数のスナップをまとめる機能です。数秒でなく24時間見ることができます。
「Bitmoji」・・・自分の顔のアバターを作成すると、これを使ったスタンプが作成される機能です。LINEやフェイスブックでも使われますが、開発したBitstrips社は16年にスナップが買収しています。
デイリーアクティブユーザーは16年末に158百万人(北米68百万人、欧州52百万人、その他世界39百万人)で、1日当たり25億枚の写真が投稿されています。利用者には18-25歳の若者が最も多く、34歳以下の比率が80%を超えており、同比率が50%弱のフェイスブックとの違いが際立っています。
実際に使ってみると、アプリを立ち上げてサイトの「ホームページ」にあたるところがスマホのカメラアプリを立ち上げた状態に近く、同社が自身を「カメラ・カンパニー」と称しているのも理解できます。
【収益化】
売上は企業からの広告によります。「ストーリー」のスナップの中に企業が作成したスナップを挟み込む、あるいは、企業が自社製品に関係ある「レンズ」を作成して、利用者に使ってもらうなどします。図表7はその一例で、20世紀フォックス社が同社の「X-MEN」をモチーフにした「レンズ」です。
上場目論見書には過去には「レンズ」の有料化を試した経緯が書かれています。通常のディスプレイ広告に満足しないスタンスがうかがえ、これまでにない収益化モデルが生まれる可能性に注目できるでしょう。
【株価評価】
IPOに際しての株価評価(仮条件は1株当たり14-16ドル)は、フェイスブックが上場したときに似た水準です。
赤字企業のためPSR(株価売上高倍率)で比較すると、フェイスブックが12年5月に上場した当時のIPO価格は38ドル、1株当たり売上高は2.1ドル(12年売上高50.9億ドル、12年末発行済株式数23.7億株)で、PSR(株価売上高倍率)は18倍でした。
一方、スナップの1株当たり売上高は0.80ドル(ブルームバーグによる17年予想売上高11.3億ドル÷発行済株式[潜在株式等を含む]14億株)で、仮条件の上限16ドルでのPSRは20倍になります。
(2)で検討したようにフェイスブックに比べて収益性は低いものの、フェイスブックの上場時より成長段階が若いことが高いIPO価格が付与された要因と考えられます。オンラインコミュニティセクターで盤石の基盤を築いているフェイスブックにどこまで挑戦できるか注目されます。
図表7:スナップチャットのロゴ(左)と企業広告の事例(右)
- 注:右は、20世紀フォックス社が作成した「X-MEN」をモチーフにした「レンズ」の使用例です。
- ※会社資料より抜粋
図表8:スナップの四半期業績推移
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。