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エヌビディア株の保有者が知っておきたいこと

2018/01/17
投資情報部 榮 聡

今回は米国株市場の“出世株”エヌビディア株を保有されているお客さまは、知っていたほうがよいと思われる半導体業界の常識について、お話しします。業界では常識とされるものの、一般にはあまり知られていないと思われることで、やや専門的になりますが、お付き合いください。

図表1:本レポートで言及した半導体銘柄

銘柄 株価(1/16) 52週高値 52週安値
エヌビディア(NVDA) 220.11ドル 227.51ドル 95.17ドル
ザイリンクス(XLNX) 73.77ドル 75.48ドル 54.99ドル
インテル(INTC) 43.14ドル 47.64ドル 33.23ドル
ラティスセミコンダクター(LSCC) 6.22ドル 7.55ドル 5.05ドル
マイクロセミ(MSCC) 57.54ドル 58.60ドル 46.09ドル
アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD) 11.91ドル 15.65ドル 9.42ドル
  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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エヌビディア株の保有者が知っておきたいこと

ここ2年の米国株で最も“出世”した銘柄のひとつと言えば、人工知能のトレーニング用半導体で独自の地位を築いたGPU(グラフィックプロセッシングユニット)のエヌビディアであることは、衆目の一致するところでしょう。

当社の米国株保有人数ランキングでも、15年末には50位以下であったものが、16年末に20位以内に浮上、ソフトバンクによる株式取得で一気に知名度が上がって、17年末には3位、当社WEBサイトで公表している1/12(金)時点の「保有人数ランキング」では2位まで上昇しています。

一方、同ランキングで保有人数1位のアマゾンドットコム、3位のアップル、4位のアルファベット、5位のジョンソン&ジョンソンと比べると、エヌビディアの製品・サービスを日常生活で使用する機会は少なく、なかなか実感をもって理解しづらい面があるでしょう。

そこで今回は、エヌビディアが属する「半導体業界では常識であるけれど、一般にはあまり知られていないこと」で、エヌビディア株を保有する方は知っておいたほうが良いと思われることについてお話しいたします。

それは、半導体による計算能力について、
A. ソフトウェアに依存する割合が大きいほど処理スピードが遅くなること、
(逆に言うと、ハードウェアで処理する割合が大きいほど処理スピードが速くなること)
B. このため、半導体の種類によって処理スピードは、CPU→GPU→FPGA→ASICの順に速いこと(図表2)、です。

半導体のようなハードウェアはソフトウェアがないと動かないというのは、よく知られていますが、ソフトウェアに依存する程度は半導体の種類によってまちまちです。これは、ソフトウェアによる指示に代えて、計算のロジックを半導体の回路にハードウェアとして作り込むこともできるためです。

ハードウェアに作り込むと回路の中を電子が移動するスピードで計算が進むため、いちいちソフトウェアの指示を待って計算するよりも格段に速くなります。

ソフトウェアへの依存が小さくなる順、言い換えると、ハードウェアへの作り込みが大きくなる順に、CPU → GPU → FPGA → ASICと並び、この順番で計算速度が速くなります。反面、半導体の回路を一旦作り込むとこれを変えることはできないため(FPGAでは一部変更が可能です)、用途の広さはこの逆順になります。

人工知能のトレーニングを行うときには、大量のデータを処理する必要があるため、半導体には処理速度が求められます。CPUでは処理に長い時間がかかったため、CPUよりも計算速度が速いGPUが用いられるようになりました。さらに、計算ロジックが確定して変わらないのであれば、ASICを使ったほうが有利となります。

エヌビディアが主力とするGPUは、人工知能のトレーニングにおいてCPUよりも速いものの、FPGAやASICよりは遅いということになります。これを踏まえた上で、過去に出たニュースが何を意味するのか、次節で解説いたします。

ちなみに、ここで取り上げた各種類の半導体を主力事業とする企業を図表3にあげています。ご参考としていただければ、幸いです。

図表2:半導体のCPU、GPU、FPGA、ASICの性質

  • ※各種資料をもとにSBI証券が作成

図表3:プロセッサの種類と主要プレーヤー

プロセッサの種類

主要なプレーヤー

ASIC

幅広い半導体企業が製造。これを主力事業とする半導体大手はない。

FPGA

ザイリンクス(XLNX)、インテル(INTC)[アルテラ社の買収により]
ラティスセミコンダクター(LSCC)、マイクロセミ(MSCC)

GPU

エヌビディア(NVDA)、アドバンストマイクロデバイシズ(AMD)

CPU

インテル(INTC)、アドバンストマイクロデバイシズ(AMD)

  • ※各種資料をもとにSBI証券が作成
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実際のニュースに即して解説します

前段でご説明したことを踏まえて、エヌビディアのGPUに関連するニュースに即して、何を意味しているのか、どう解釈すればよいのか、解説いたします。

〇ニュース[1]・・・「グーグルがAIチップ「TPU(Tensor Processing Unit)」の性能を報告、従来のGPU/CPUより最大30倍速い(日経BP、17年4月6日)」新しいウィンドウで開きます。

記事では、「米Googleは現地時間2017年4月5日、機械学習アルゴリズムの演算に特化した独自開発のプロセッサ「Tensor Processing Unit(TPU)」の性能に関する調査報告を公開した。従来のGPUやCPUより15倍〜30倍速く人工知能(AI)アプリケーションを処理できるという。」としています。

(1)の予備知識なくこのニュースを見ると、「エヌビディアのGPUはグーグルが開発したTPUに、すべて置き換えられてしまうのではないか?」との心配がよぎるかもしれません。

しかし、この記事には書かれていませんが、従来のGPU/CPUより最大30倍速くなったのは、特定用途向け集積回路の「ASIC」にしたからだと考えられます。

「技術的なブレークスルーが起こった」というよりは、処理のロジックが十分に固まった分野があり、「ASIC」を製造してもペイするくらい市場が大きいと判断したという「ビジネス上の判断」と言えます。

グーグルのデータセンターのある分野では、同社のTPUがエヌビディアのGPUと置き替わると考えられます。しかし、そのTPUが適用できる分野がどれくらい広いかというのは、また、別の問題です。

人工知能の応用は始まったばかりであり、計算ロジックはまだまだ変化していくだろうというのが一般的な見方と言えるでしょう。

特定の応用分野ではロジックが固まったものもあるようですが、それが広く使用される可能性は低く、まだしばらくは汎用性の高いGPUが使われていくと考えられます。

〇ニュース[2]・・・「ジェフリーズ(注:米国の証券会社)は、暗号通貨のマイニング市場はエヌビディアとAMDに恩恵大と言っている」(CNBC、17年9月11日)新しいウィンドウで開きます。

昨年にはGPUの用途として仮想通貨のマイニング(「採掘」)(※)向けが大きくなったことも注目を集めました。

初期のマイニングでは、競争もさほど厳しくなく、CPUでも十分採掘できたそうです。しかし、競争が激しくなるにつれ、計算速度の重要性が増し、計算を加速するためにGPUが使われるようになりました。

さらに、マイニング市場が充分に大きくなり、マイニングのロジックも固まった段階では、処理スピードが速いASICを中国企業が製造して、広く用いられるようになったという経緯がありました。

しかし、昨年にはビットコイン以外にも多数の仮想通貨の拡大が注目を集めたほか、ビットコインがビットコインキャッシュと分裂するなどの変化が起きました。

こうなると、マイニングのロジックにも変化が出て、これまで使用されていたASICでは、対応ができないといったことも起こったようです。そのために、ASICよりスピードが劣るものの、汎用性の高いGPUへの需要が再び高まったと見られます。

マイニング市場は、初期のころに比べると非常に大きくなっているとみられ、通常はゲームPC用に主に使われるGPUの「グラフィックボード」は、流通在庫が一時払底するほどのインパクトがあったようです。

「GPU」と「ASIC」間の行きつ戻りつは、これからも起こりそうです。ここにご説明したような背景があることを踏まえると理解しやすいのではないでしょうか。

  • ※「仮想通貨のマイニング」は、取引履歴の記録システムに参加することにより、仮想通貨による報酬を目指すもので、取引履歴の信頼性確保に貢献したことに対して支払われます。報酬は取引履歴を追加するために必要な計算の“正解”に最初に到達したマイナーに支払われるため、高速の計算力をもつコンピュータが有利です。

〇ニュース[3]・・・「NVIDIA、完全自動運転を実現するAIコンピュータ「DRIVE PX PEGASUS」発表。命令処理能力は秒間320兆回」(engadget、17年10月11日)新しいウィンドウで開きます。

エヌビディアの開発者会議(ミュンヘン)で発表されたもので、記事には「自動運転機能を搭載する車に多く採用される「DRIVE PX 2」に対しては15倍の処理能力にあたります。」とあります。

想像の範囲を超える「毎秒320兆回」という計算速度に加え、従来の最先端製品に対していきなり15倍の能力というのは、何があったのかと驚きます。しかし、要は処理速度の速い「ASIC」を組み込んだというのが真相です。

「PEGASUS」の自動運転モジュールは、CPU、GPU、DLA(ディープラーニングアクセラレータ)から構成されていますが、処理能力が大幅に上昇したのは、DLAの部分を「GPU」によるものから「ASIC」に変えたからだとのことです。

「ASIC」に変えたのは、自動運転に関する同社の知見の積み重ねによって、同分野の状況判断に関するロジックは固まったと判断したから、とのことです。

このニュースを見た業界のライバルは、「能力の向上はASICにしたからだな。特定の用途にしか使えず、製造コストが大きいASICを作るとは、自動運転のロジックによほど自信があるのだな。エヌビディアの自動運転に対する知見はそこまで進んでいるのか。」との感想をもったのではないでしょうか。

ニュース[1]と同じく、技術的ブレイクスルーというよりは、ビジネス上の判断の結果と言えるでしょう。

尚、図表4にはエヌビディアの現状の市場別売上と、各市場での事業概要をご紹介しています。

図表4:エヌビディアの事業概要

市場

17年
8-10月期
売上高
(百万ドル)

前年
同期比

事業概要

ゲーム
(GPU)

1,561

25%

ゲーム用PCのグラフィックカードで、新製品の発売とPCゲームの「eスポーツ」化を背景に需要が増加しています。仮想通貨のマイニング向けも含みます。

プロの映像処理
(GPU)

239

15%

映像クリエイターなどプロが使用するPC向けのグラフィックカードです。

データセンター
(GPU)

501

109%

人工知能の「トレーニング」用にデータセンターでの需要が急増しています。

自動車
(GPU)

144

13%

テスラの自動運転用のコンピュータは同社が供給しています。2年程度内には、現在共同開発している各社向けが立ち上がると期待されます。

OEM&IP
(CPU)

191

3%

任天堂「スイッチ」向けのプロセッサはここに含まれます。

合計

2,636

32%

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  • ※会社資料をもとにSBI証券が作成
  • ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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