年明けから相場上昇が加速した米株式市場も、さすがに調整局面入りでしょうか。株式需給を要因に相場は短期的に行き過ぎた可能性があり、予想PERは18倍台に達していることから、個別銘柄でもなかなか買いにくいものが多くなっている印象です。そこで今回はアナリストが上値余地ありと見ている銘柄群をスクリーニングによって抽出しました。押し目買いの候補銘柄としてご検討してはいかがでしょうか。
図表1:注目銘柄
銘柄 | 株価(1/30) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
マイクロン テクノロジー(MU) | 41.67ドル | 49.89ドル | 22.64ドル |
デルタ エアーラインズ(DAL) | 56.12ドル | 60.79ドル | 43.81ドル |
アプライド マテリアルズ(AMAT) | 53.38ドル | 60.89ドル | 33.77ドル |
コムキャスト A(CMCSA) | 42.34ドル | 44.00ドル | 34.78ドル |
ハリバートン(HAL) | 54.14ドル | 58.10ドル | 38.18ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
「Melt up(メルトアップ)」した米国株式市場 |
米国市場は18年に入って株価上昇が一段と加速、1ヵ月足らずの間に一時7%以上の上昇となりました。
米メディアでは少し前から、現在の米株式市場は「Fear of Missing Out(好機を逃すことへの不安)」が支配しており、買うから上がる、上がるから買うという「Melt up(メルトアップ、メルトダウンの反対)」の様相だとしていました。
「Melt up」となった理由は、世界経済の同時好況に加え、税制改革による企業業績・米景気の押上げ期待、さらに、ドル安による業績への追い風など、投資環境にポジティブな要因が重なったことと考えられます。
そして、もう一つ重要な背景は、昨年来調整らしい調整がないまま、相場上昇が続いたことだと考えられます。
振り返ってみますと、今回の上昇相場が始まったのはトランプ大統領が誕生した16年11月でした。これ以降のS&P500指数の月次騰落を見ると、実に15ヵ月の間、調整らしい調整がないまま上昇し続けてきたことがわかります(図表2)。
機関投資家を含めて、経験豊富な投資家は「株式投資に好機」と思っても慎重に押し目を待つことが多いと考えられます。しかし、その押し目がないまま上昇を続けたために、株式購入に向けた待機資金が溜まり続けた可能性があるようです。
そして、これが年明けに一気に市場に流入して、相場の「Melt up」となったようです。株式需給を要因に米市場は短期的に行き過ぎとなった可能性があり、調整の可能性が高くなっていそうです。
投資環境は良好であるため、例えば5%を超えるような大きな下落にはならないと見られますが、上昇過熱感を解消するためのスピード調整は必要でしょう。
図表2:米国株(S&P500指数)の月間騰落率
- 注:18年1月は1/26(金)までです。16年11月以降にマイナスとなったのは、17年3月の-0.04%のみです。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
米国株市場のPERはどのような水準にあるのか? |
(1)で見た株式需給による短期的な行き過ぎに加え、米国株式市場の調整の可能性が高い要因として、「株価のバリュエーションが高い」と言われていることがあります。そこで、予想PERがどのような位置にあるか確認しておきましょう。
図表3は、S&P500指数の予想PERを、各年毎に1月から12月にかけてプロットしたものです。
ここから読み取れるのは、まず、年初から年末にかけて予想PERは徐々に上昇する傾向にあることです。
これは、時間の経過とともにその年のEPS予想に対するリスクが低下して、翌年のより高いEPS(増益が見込まれることが多いため)を織り込むことが要因と見られます。
米国株式市場の値動きの特徴として、「時間の経過とともにEPSの増加を織り込んでじわじわ上昇することが多い」と言えると思いますが、それがきれいに出ていると言えそうです。
もう一つは、12年から17年にかけて予想PERの水準が上昇してきたことです。これは08年の金融危機を経て、株式市場の経済に対する自信が徐々に回復してきたことに対応すると考えられます。
12年までは金融危機に逆戻りするリスクが意識されていたと考えられ、予想PERは非常に低く抑えられていました。13年に入ると耐久消費財の販売が増えるなどして、危機への逆戻りはないとの自信が広がったと見え、また、欧州債務危機も乗り越えたことから、PERは大きく上昇して14年も同様のトレンドが続きました。
一方、15年には、世界経済が停滞気味の中、米国経済の回復が顕著となったことでドル高となり、企業業績が停滞したためにPERの上昇が抑えられました。16年の半ば辺りから新興国経済に改善の動きが出始め、17年は「世界同時好況」と言われる環境の中でPERは続伸となりました。17年9月からはトランプ政権による法人税減税への期待が高まりました。
このように見てくると、世界経済の回復、米国経済の復調、リスク要因の減少とともにPERは上昇してきたと言えそうです。足もとの18倍台のPERが歴史的に見て高いことは間違いありませんが、最近急に上昇したのではなく、数年をかけて徐々に上昇してきたことがわかります。
ただ、例年のように年末にかけてPERが上昇して20倍に達するかというと、これは難しいと考えられます。というのは、米国の10年国債利回りが2.6%を超えて、上昇にはずみがつきそうな情勢にあるためです。金利が上昇すると、これに対応する妥当なPERは低下すると考えられます。
投資のリターンを期待するためには、スタートが18倍台というのは厳しい水準と言え、やはりPER面からもある程度調整が必要と考えられます。
尚、足もとのPERが18.8倍と特に高くなっているのは、法人税減税によるEPSの上方修正が進行中であることも理由の一つです。図表3は、18年12月期の予想EPSの推移ですが、10-12月期の決算発表が始まった1月の第2週辺りから上方修正が本格化しています。
1/26(金)時点で152.72ポイントのEPSは、法人税減税と景気浮揚の効果を含めると160ポイント程度まで修正される可能性が高そうです。その場合、1/30(火)の2,822.43ポイントは、PERで17.6倍相当と計算できます。調整完了まであと一歩というところでしょうか。
図表3:S&P500指数の予想PER推移(月次データ)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4:18年12月期予想EPSの昨年からの推移
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
調整局面で押し目買いできそうな銘柄は? |
(1)、(2)で見てきたように、米株式市場は需給を要因に株価上昇が行き過ぎた可能性があり、同時に株価バリュエーションもかなり高く、個別銘柄で見ても、なかなか買いにくいものが多くなっているようです。
そこで今回は、アナリストが上値余地ありと見ている銘柄群をスクリーニングによって抽出しました。
【スクリーニング条件】
・S&P500指数採用企業(REITを除く)で、15名以上のアナリストが投資判断を公表している銘柄。
・アナリストの投資判断による「BUY比率」(※1)が80%以上の銘柄。
・アナリストの目標株価平均による「目標株価乖離率」(※2)が10%以上の銘柄。
・過去4週にEPSが1%以上下方修正されていない。
- ※1「BUY比率」は、「BUYとするアナリストの数」÷「投資判断を公表しているアナリストの数」を計算しています。
- ※2アナリストが公表している「目標株価」の平均値と現在値(1/26(金))の乖離率を計算しています。
条件に合致する銘柄は、図表5の9銘柄となりました。ここから、業種を分散して5銘柄を選んで、ご紹介いたします。
〇マイクロン テクノロジー(MU)
半導体メモリーの専業大手です。メモリー市況の回復を受けて業績は大幅に改善していますが、メモリー市況の変動性が高いために株式市場での織り込みは控え目で、予想PERは非常に低くなっています。1/26(金)までの過去1年で株価は1.9倍(23.52ドル→43.67ドル)となりましたが、18年9月期の予想EPSは3.5倍(2.773ドル→9.645ドル)に上方修正されたため、予想PERは8.5倍から4.5倍まで低下しています。半導体市場の回復が継続すると一気に買われる可能性が高いでしょう。アナリストの目標株価平均は58.8ドルで、PERでは6.1倍が妥当との見方です。
〇デルタ エアーラインズ(DAL)
アメリカンエアライン、ユナイテッドコンチネンタルとともに米国の航空大手の一角です。荷物の紛失率、定時運航率などの運営パフォーマンスで米国の競合企業を大きくリードして、ブランドイメージを着実に改善しています。一方、予想PERは8.8倍と、PERの水準が低い航空業界の中でも特に低く、このためアナリストによる「BUY比率」が高くなっていると見られます。1/11(木)に発表の10-12月期業績は、景気回復を背景に旅客増とビジネス運賃が改善して好調でした。1-3月期も堅調な業績推移が見込まれています。
〇アプライドマテリアルズ(AMAT)
半導体製造装置の世界トップシェアをもつ企業です。抽出された9銘柄のうち4銘柄が半導体関連と、アナリストが評価の余地が大きいと見ている代表的なセクターと言え、同社はその代表銘柄と言えるでしょう。17年11月〜18年1月期の売上ガイダンス中央値は、前年同期比25%増と好調持続が見込まれています。また、1/17(水)に発表された、同業で露光装置大手ASMLの決算では、10-12月期の受注は前年同期比86%も伸びており、半導体製造装置市場が引き続き拡大していることが確認されてます。
〇コムキャスト(CMCSA)
米国のケーブルテレビ最大手で、ビデオ、高速インターネットなどを提供するケーブル事業(売上構成比は62%)、ケーブルTVプログラム、地上波TV、映画、テーマパークなどからなるNBCユニバーサル事業(同39%)を展開しています。1/24(水)に発表の10-12月期決算では、ビデオ顧客が減少に転じたものの、高速インターネット顧客の増加でカバーして、売上は前年同期比4%増、調整後EPSは同9%増と堅調でした。ケーブルTV業界が伸び悩む中でも、安定した売上・利益成長を実現してきたことから、アナリストによる評価が高い企業で、評価の余地があると見られます。
〇ハリバートン(HAL)
シュルンベルジェ、ゼネラルエレクトリックの石油部門とともに石油サービスの世界的大手です。17年12月期の売上は北米が56%、中東・欧州・南米など海外が44%を占めています。1/22(月)に発表の10-12月期決算は、北米のシェールオイル、海外事業とも回復傾向が続いて、売上が7-9月期比9%増、調整後営業利益が同21%増と好調でした。シェールオイルの増産が続く中でもOPEC(石油輸出国機構)による生産調整が維持されているおかげで原油価格の上昇基調が続いており、18年12月期も事業回復の期待が大きくなっていると言えるでしょう。
尚、ご参考に昨年末からの株価上昇率上位銘柄を図表6にリストアップしています。
43%上昇したネットフリックスを筆頭に、アライン・テクノロジー、エヌビディア、インテュイティブサージカルなど、米国を代表する高成長企業がランクインしています。ただ、「目標株価乖離率」を見るとマイナスで、つまり、アナリストによる目標株価の平均を超えているものが多く、現値での新規投資はしにくい水準と言えるでしょう。
図表5:アナリストが上値余地ありと見ている銘柄群
コード |
銘柄 |
株価 |
予想 |
BUY |
目標株価 |
---|---|---|---|---|---|
MU |
マイクロン・テクノロジー |
43.67 |
4.5 |
85.7 |
34.8 |
DAL |
デルタ航空 |
55.26 |
8.8 |
94.7 |
28.1 |
AVGO |
ブロードコム |
250.79 |
12.8 |
96.3 |
26.3 |
ALXN |
アレクシオン・ファーマシューティカルズ |
128.09 |
22.6 |
90.9 |
23.1 |
LRCX |
ラムリサーチ |
202.57 |
12.1 |
89.5 |
21.9 |
AMAT |
アプライド・マテリアルズ |
57.12 |
14.1 |
91.3 |
18.3 |
CMCSA |
コムキャスト |
42.80 |
16.9 |
87.9 |
13.7 |
FB |
フェイスブック |
190.00 |
28.0 |
89.4 |
11.9 |
HAL |
ハリバートン |
55.61 |
21.9 |
89.5 |
11.4 |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表6:昨年末来の上昇率上位銘柄(S&P500指数採用銘柄)
コード |
銘柄 |
株価 |
予想 |
昨年末来 |
BUY |
目標株価 |
---|---|---|---|---|---|---|
NFLX |
ネットフリックス |
274.60 |
87.4 |
43.1 |
60.0 |
-4.8 |
STX |
シーゲイト・テクノロジー |
54.94 |
12.3 |
31.3 |
11.1 |
-19.9 |
ALGN |
アライン・テクノロジー |
283.97 |
77.4 |
27.8 |
83.3 |
-2.0 |
ABBV |
アッヴィ |
123.21 |
17.6 |
27.4 |
45.8 |
-8.4 |
KSS |
コールズ |
68.36 |
16.9 |
26.1 |
34.8 |
-10.8 |
AMD |
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD) |
12.95 |
109.7 |
26.0 |
35.7 |
9.1 |
NVDA |
エヌビディア |
243.33 |
53.9 |
25.8 |
52.9 |
-9.1 |
AAP |
アドバンス・オート・パーツ |
123.64 |
23.7 |
24.0 |
48.1 |
-6.5 |
CAH |
カーディナルヘルス |
74.97 |
13.9 |
22.4 |
10.5 |
-5.0 |
RMD |
レスメド |
102.80 |
31.0 |
21.4 |
27.3 |
-13.7 |
GWW |
WWグレンジャー |
285.26 |
21.0 |
20.7 |
12.5 |
-14.9 |
ISRG |
インテュイティブサージカル |
440.24 |
45.2 |
20.6 |
60.0 |
1.2 |
- 注:昨年末から1/26(金)の株価上昇率が20%を超えた銘柄です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。