米中のIPO(新規公開)銘柄を振り返った前回レポートでは、2018年の米国銘柄は小粒であったとご報告しました。しかし、2019年については大型のIPOが複数あると見込まれています。そこで今回は、米国市場で注目されているIPO予備軍をご紹介するとともに、今年IPOした銘柄のその後を追跡してご紹介いたします。
図表1:注目銘柄
銘柄 | 株価(12/24) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
ドキュサイン(DOCU) | 37.48ドル | 68.28ドル | 35.06ドル |
セリディアン HCM ホールディング(CDAY) | 31.97ドル | 44.87ドル | 28.65ドル |
Zスケーラー(ZS) | 35.55ドル | 48.24ドル | 24.78ドル |
ピボタル ソフトウェア A(PVTL) | 14.99ドル | 31.22ドル | 14.45ドル |
ガーダント ヘルス(GH) | 32.53ドル | 49.51ドル | 27.04ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
12/12(水)掲載の「今年の米中IPO銘柄を振り返り、注目銘柄をご紹介!」では、2018年の米中IPO(新規公開)銘柄を振り返りました。今年の特徴として、時価総額の上位は中国銘柄が占め、米国銘柄は小粒なものが多かったことをご報告しました。
しかし、2019年については、米国企業の大型IPOが複数あると見込まれています。そこで今回は、市場で注目を集めているIPO予備軍をご紹介し、次節では前回レポートで紹介がもれた米国企業(前回は中国企業の紹介に絞りました)について、その後を追跡しています。
まず、2019年のIPO予備軍ですが、各種報道から来年の上場が噂される銘柄の一覧が図表2になります。スマホの普及を背景としてインターネットを介した各種サービスが過半を占めていることが特徴で、その他クラウド関連のソフトウェア、コミュニケーションツール、AI(人工知能)を利用したサービスなどのテクノロジー企業が目立っています。
この中から時価総額が大きいものについて、以下でご紹介いたします。
Uber(ウーバー)
ウェブサイトやスマホのアプリを通じて配車サービスを運営する米国企業です。同社のサービスは世界65ヵ国、600都市で利用可能で、7,500万人の乗客、300万人のドライバーが登録するサービスに成長し、既に16,000名の従業員を擁する大企業になっています(2017年時点、同社WEBサイトより)。ゴールドマンサックスとモルガンスタンレーが9月に会社側に提出したレポートでは、「時価総額は最大1,200億ドルの可能性がある」としたとされます。トヨタ自動車やソフトバンクグループが資金を拠出していることでも注目されています。同社CEOは2019年後半のIPOを考えていると発言しています。
Lyft(リフト)
米国でUberに次ぐ配車サービスの大手です。元々は長距離のライドシェアのサービスを営んでいましたが、都市の近距離のサービスにも展開し、現在米国の300都市で利用可能となっています。報道によるとIPOに向けてJPモルガンチェースがアドバイザー契約を交わしたとされ、時価総額は150億ドル程度が検討されているとしています。ゼネラルモーターズ、Waymo(ウェイモ、アルファベット傘下の自動運転開発企業)などとの提携が注目されています。2019年の早い時期に上場を考えているとされ、Uberの先を越すと見込まれています。
Didi(滴滴、ディディ)
中国の配車サービス大手です。中国の400都市で4億人以上のユーザーに対して交通サービスを提供しているほか、日本など海外への展開も進めています。ソフトバンクグループから50億ドルの出資を受け入れたほか、中国のインターネット巨人企業3社(アリババ、テンセント、百度)全てから投資を受けた唯一の企業となったことでも注目を集めています。一方、2018年に殺人事件が2件発生し、2014年〜2018年9月に強姦事件が19件発生するなど、運転手による犯罪の多さおよび会社側の犯罪に対する対応の不十分さが問題となっており、上場に向けての課題と見られます。
Airbnb(エアービーアンドビー)
2008年創業の宿泊施設・民宿を貸し出す人向けのサイトを運営しています。世界192ヵ国の33,000の都市で80万人以上の宿を提供しています。主な収益源は宿の予約の手数料から成り、予約料金に応じて6から12%の範囲です。17年の売上が26億ドル、営業利益は4.5億ドル、純利益は0.9億ドルです。同社のCEOは、「当社は来年のIPOの準備はできているが、そうするかは決めていない」と発言して、他社よりもあやふやです。
Bytedance(字節跳動、バイトダンス)
中国のインターネットテクノロジーの会社で、ニュースアプリの「Toutiao(今日頭条)」を含む、機械学習の機能を備える複数のプラットフォームを運営している企業です。15秒程度の短い動画を共有する「TikTok」が8億人のアクティブユーザーを集め、中国初のグローバルアプリとなったことが注目を集めているほか、日本でも利用されている「BuzzVideo」を運営しています。世界で最も時価総額が大きいユニコーンの一つと考えられています。ソフトバンクグループやアリババグループからの出資も受けており、米国市場への上場を志向しているとされます。
Palantir(パランティア)
ビッグデータの分析ソフトウェアを提供している企業で、防衛活動向けの「Palantir Gotham」(オサマ・ビン・ラディンの追跡に使用されて有名になりました)、金融機関向けの「Palantir Metropolis」を擁します。当初の顧客は米国防総省の諸機関でしたが、地方政府や金融機関などの民間企業に顧客を広げつつあります。18年の売上は7.5億ドル程度が見込まれています。2019年前半の上場を検討していると、18年10月にWSJ紙が報道しています。
図表2:2019年に米国市場への新規公開が噂されている企業群
企業名 |
事業内容 |
最近の資金調達時の |
---|---|---|
Uber(ウーバー) |
配車サービス |
18年8月 760億ドル |
Bytedance(バイトダンス) |
機械学習プラットフォーム(中国) |
18年10月 750億ドル |
Didi(ディディ) |
配車サービス(中国) |
18年7月 560億ドル |
Airbnb(エアビーアンドビー) |
民泊向けサイト運営 |
17年3月 310億ドル |
Palantir(パランティア) |
ビッグデータ分析のソフトウェア |
15年 200億ドル |
Lyft(リフト) |
配車サービス |
18年前半 151億ドル |
Pinterest(ピンタレスト) |
写真共有サイト |
17年6月 123億ドル |
Instacart(インスタカート) |
食料品配達サービス |
18年12月 76億ドル |
Slack(スラック) |
グループチャットのWEBサービス |
18年夏 71億ドル |
Robinhood(ロビンフッド) |
個人向け金融サービス |
18年5月 56億ドル |
Rackspace(ラックスペース) |
クラウドサービス提供 |
16年8月 43億ドル(買収) |
Cloudflare(クラウドフレア) |
ネットワークセキュリティ |
18年3月 32億ドル |
Postmates(ポストメイツ) |
物品配達サービス |
18年9月 12億ドル |
Zoom(ズーム) |
遠隔会議サービス |
17年1月 10億ドル |
- ※各種報道をもとにSBI証券が作成
- ※当社のWEBサイトを通じてSBI証券が作成
電子署名市場のトップ企業
・2003年に創業した米国の電子署名ソリューション企業です。電子署名とは、電子ファイルに付与する電子的な徴証で、紙文書における印章やサインに相当する役割を果たします。同社は電子署名サービスの世界トップ企業で、35万社を顧客とし、世界トップのテクノロジー企業の10社に7社、製薬企業の20社に18社、金融サービス企業の15社に10社を含むとしています。
・目論見書によると、同社では電子署名の対象市場は、250億ドル(約2.8兆円)に達すると想定しています。世界の企業の年間契約額に同社が顧客企業から徴収しているサービス対価の割合を適用して計算したもので、大きな市場となる可能性があります。一方、電子署名の市場には多数の企業が参入しており、国・地域や産業分野に特化した競合先もあるとしています。グローバルに展開している競合企業ではアドビ(ADBE)が強豪で、同社は2011年にEchoSign社を買収によって参入しています。
・顧客企業の獲得と顧客企業の採用拡大により、売上は順調に拡大しており、19年1月期は営業黒字への転換が見込まれています(図表3)。同社は29ドルで公募増資後、4/27(金)に新規上場しています。直近の株価急落で上場直後の水準まで調整しています。
図表3:売上と営業利益の推移
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※当社のWEBサイトを通じてSBI証券が作成
人材管理ソフトウェアのニューカマー
・米国の人材管理ソフトウエアの開発を手掛ける企業で、人材募集、従業員のモニタリング、給与計算、従業員エンゲージメント、および人材管理技術サービスを提供しています。元々は人材管理業務を請け負っていた会社でしたが、2012年に主力プラットフォームの「Dayforce」を買収して、クラウド関連の売上が過半を占めるようになっています。
・人材管理ソフトウェアの市場は、企業と従業員の関係の変化を受けて市場が拡大しつつあります。かつて従業員は雇用を所得を得る機会としてしか見ていませんでした。しかし、現在では就業時間の柔軟性、キャリアグロース、ワークライフバランス、人材管理データへのリアルタイムのアクセスなどを求めるようになり、企業側も優秀な人材を確保するために、この要望に答えようとして同分野のシステムへの需要が拡大しています。競合企業は、業界最大手で業務請負やオンプレミスソフトウェアからクラウドに展開しつつあるADP、クラウドの能力をもつUltimate Software、同社同様にクラウドを中心に展開するWorkdayなどがあります。
・同社は22ドルで公募増資後、4/26(木)に新規上場しました。一時公募価格の2倍まで上昇しましたが、テクノロジー株の調整に沿って下落しています。EPSは19年12月期に黒字化する見通しで、市場コンセンサスでは0.46ドルが見込まれています。
図表4:同社の顧客企業数
- ※会社資料をもとにSBI証券が作成
- ※当社のWEBサイトを通じてSBI証券が作成
クラウド時代に有利なウェブセキュリティサービスを提供する企業
・米国のITサービス・ソフトウェア企業です。企業のITシステムがクラウド化するに伴って、オフィスだけでなく出先からノートPCやスマホで業務を行うことが可能になりつつありますが、そのような場合に有利となるウェブセキュリティのサービスを提供しています。同社のセキュリティゲートウェイは、グローバルに100ヵ所以上ある同社のデータセンターで提供されており、5大陸をカバーしているため、ユーザーはもっとも近いデータセンターを経由してアプリケーションを利用可能です。
・一般的にSaaSなどクラウド上のアプリケーション利用をコントロールするため、外部から一度社内のネットワークを介してアクセスさせる、といった運用をしている企業は多くなっています。この運用方法では、外部から接続するためのネットワークインフラを整備するために、多くのコストがかかるだけではなく、通信速度などに影響されてパフォーマンスにも制限が出ます。しかし、同社のサービスを利用すれば、クラウド上にある同社のセキュリティゲートウェイを経由するので、社内ネットワークに接続することなくアプリケーションに接続することができます。
・同社は16ドルで公募増資後、3/16(金)に新規上場しています。今期は赤字が継続するものの、来期に黒字化が見込まれています。
図表5:売上と営業利益の推移
- ※会社資料をもとにSBI証券が作成
- ※当社のWEBサイトを通じてSBI証券が作成
クラウド時代のソフトウェア開発をリードする企業
・企業がソフトウェアの開発を行うためのプラットフォームを提供する企業です。同社のプラットフォーム(「Pivotal Cloud Foundry」)は「クラウドネイティブ」なソフトウェアを開発するためのもので、「クラウドネイティブ」とは、クラウドでの利用を前提とするという意味です。同社のプラットフォームを利用することで、ソフトウェア開発を単純化してスピードアップが図れます。
・個人向けのソフトウェア企業ではないため一般的な知名度は低いものの、企業のクラウド利用が広がることで、同社サービスへの需要が拡大しています。自動車・運輸ではフォード、ボーイング、アメリカン・エアラインなど、産業機器・サービスではGE、フェデックスなど、金融ではシティ、モルガン・スタンレーなど、ヘルスケア・保険ではマニュライフ、アリアンツなど、幅広い産業の大企業が顧客で、Fortune500企業の50社以上が同社システムを利用しているとしています。
・調査会社のガートナーによると、同社の主力事業となるクラウドでのアプリケーションに関するインフラ・サービスの市場規模は、2018年の160億ドルから2021年に290億ドルへ、年平均成長率22%で成長すると見込まれています。同社もこれに沿った業績拡大が期待されます。同社は15ドルで公募増資後、4/20(金)に新規上場しています。
図表6:売上と営業利益の推移
- ※会社資料をもとにSBI証券が作成
- ※当社のWEBサイトを通じてSBI証券が作成
血液検査によってがんの治療法の選択・早期発見に取り組む
・2013年に設立された米国のヘルスケアテクノロジーの会社で、独自開発の血液検査、膨大なデータ、先進的な分析技術によって精密がん治療(precision oncology)に取り組んでいます。臨床における治療法の選択や製薬企業が薬の開発に利用する「Guardant 360」、製薬企業がゲノム情報を得るために利用する「Guardant OMNI」、がんの再発を調べる「Luanr-1」、開発中の早期発見に役立てるための「Lunar-2」などを擁します。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが32%を保有する最大株主です。
・主力サービスの「Guardant 360」は、血液サンプルの検査によって、がんの治療法の選択を助けようとするものです。がん組織ではなく血液サンプルからがんを発見する非侵襲的(生体を傷つけない)検査手法の開発に取り組んでいます。従来は、がんの生体検査は、内視鏡や針によってがん組織を採取する必要がありましたが、患者は危険で費用の高い生体検査を受けずに済みます。2014年に投入されて以来、5,000名以上の医師、40社以上の製薬企業、27の各国がんセンターによる使用実績があります。
・7-9月期決算は売上が前年同期比95%増の21.7百万ドル、営業赤字が24.2百万ドルです。臨床検査が7,027件で同14%増、製薬企業による検査が2,505件で同67%増でした。同社は19ドルで公募増資後、10/4(木)に新規上場しています。
図表7:売上と営業利益の推移
- ※会社資料をもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。