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GAFAの独占禁止法調査開始、「深刻になりうる会社」と「そうでもない会社」

2019/6/26
投資情報部 榮 聡

米当局がITプラットフォームのGAFAを独占禁止法で調査するとしています。この発表を受けて下落した株価はほどなく発表前の水準まで戻っていますが、同調査の影響が小さいということではないでしょう。中長期には深刻な影響を受ける可能性のある会社もあると見られるため、各社の状況について確認しておきましょう。

図表1:言及した銘柄

銘柄 株価(6/25) 52週高値 52週安値
アルファベット A(GOOGL) 1,087.58 1,296.98 977.66
アマゾン ドットコム(AMZN) 1,878.27 2,050.50 1,307.00
フェイスブック A(FB) 188.84 218.62 123.02
アップル(AAPL) 195.57 233.47 142.00
  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

1GAFAの独占禁止法調査開始、株価は戻ったが・・・

6/3(月)に米議会がGAFA(※)の独占禁止法違反に関する調査を始めるとし、アップル、グーグルの調査は司法省が、アマゾン、フェイスブックの調査は米連邦取引委員会(FTC)が担当することが決まったと発表されました。

※GAFA:巨大ITプラットフォーマーとされる、グーグル(会社はアルファベット)、アマゾンドットコム、フェイスブック、アップル4社を総称するために各社の頭文字をとってGAFAとしています。プラットフォーマーは、自社や他社が事業を行う基盤(プラットフォーム)を提供する企業です。

これを受けてGAFAの株価は、フェイスブックが前日比-7.5%、アルファベットが同-6.1%、アマゾンが同-4.6%、アップルが同-1.0%といずれも下落しました。しかし、同ニュースにネガティブに反応したのは1日に限られ、翌日から概ね戻り歩調となっています(図表2)。

6/21(金)終値は5/31(金)終値に比べて、アップルが13.5%、アマゾンが7.7%、フェイスブックが7.7%、アルファベットが1.7%となっています。同期間のS&P500指数は7.2%の上昇でしたから、アルファベットを除いて市場平均以上の上昇となっています。

株価がこのような反応になった理由として、(1)GAFAに対する独禁法調査は昨年から広く言われていたため、リスク要因としてPERの水準を抑える形で株価に織り込みが進んでいたと見られる、(2)独禁法の調査には時間がかかると見られ、業績への影響が出るとしてもかなり先のことになるとの判断がある、と考えられます。

(2)については、足もとでアップルを除く3社の売上は10%台後半を超える売上の伸びを示しています。四半期決算に株価が反応していく中で、独禁法で違法となる可能性があるとしても、いつになるかわからない業績への影響を織り込みにくいということがあるでしょう。

しかし、このような株価の反応をもって、独占禁止法違反の調査がGAFAのファンダメンタルズに重要でないということにはならないでしょう。中長期の成長を考える上では重大な影響が及ぶ可能性があるため、2節で米国の独占禁止法について、3節で各社の状況についてご報告いたします。

図表2:GAFAの株価推移

  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

2米国の独占禁止法とは?基本の基

筆者は法律の専門家ではないので、米国の独占禁止法について投資家の皆さんにアドバイスできることは少ないのですが、まず、知っておくべきこととして以下の2点があげられます。

(1)基本的なこととして、独占禁止法は市場シェアが高い状態自体を禁じるものではない、ということでしょうか。高シェアを利用して不当な条件の契約を強要したり、高シェアがイノベーションの妨げとなって消費者に不利益が生じているなどのケースが問題となります。このようなことがあるのかないのか、これから調査しようというわけです。

(2)もう一つ米国の独占禁止法の特徴として、「3倍罰の規定」があることです。これは、違法な行為によって被った損害の3倍まで罰金として請求できるというものです。一般に株式は経常的な収益の変動によって動き、一時的な損益への反応は限定的です。しかし、罰金が多額になって経営に支障が出る場合には注意を要するでしょう。

次に過去の事例を見ておきましょう。独占禁止法が米国の企業活動に大きな影響を与えた事例として以下があります。

〇スタンダード・オイル・・・ジョン・ロックフェラーを中心に1870年に設立された会社で、1878年には米国の石油精製能力の90%を保持していました。同社の独占による弊害を防ぐため、1890年に連邦議会が制定したのがシャーマン法です。1911年に連邦最高裁から解体命令が出され、34の新会社に分割されました。

〇AT&T・・・1877年にグラハム・ベルが設立した会社が前身です。1913年に連邦政府との協定で「規制下の独占」と言われる独占権を認められ、1939年には通話シェアが90%に達していました。独占は何度か問題になりつつ決定的な影響は避けていましたが、結局1984年に長距離部門と地域電話会社に分割されました。

同社は長距離部門だけをもつ会社になりましたが、2005年には分離された地域電話会社の1社がAT&Tを買収して、結局は長距離部門と地域電話部門は同じ会社で運営されることになっています。技術の変化によって過去問題となったことも問題でなくなることがあるという例と言えるでしょう。

〇マイクロソフト・・・1998年にブラウザー分野での他社の締め出しが問題になりました。2000年には連邦地裁からOS(基本ソフト)部門とアプリケーション部門の分割命令が出ましたが、2001年には連邦最高裁がこれを差し戻して、司法省との和解にこぎつけています。会社の分割は免れたものの、その後のネットやモバイルでの活動は限定的となり、同分野でグーグルが台頭するきっかけとなったと考えられています。

最後に、米国の独占禁止法(反トラスト法)の概要です。主に3つの法律からなり、それぞれ以下のような点を規定しています。

(1)シャーマン法(1890年制定) ・・・カルテルなど取引制限、独占化行為など
(2)クレイトン法(1914年制定) ・・・競争を阻害する価格差別の禁止、不当な排他的条件付取引の禁止、企業結合の規制、3倍罰損害賠償など
(3)連邦取引委員会法(1914年制定) ・・・公正な競争方法、不公正又は欺瞞的な行為又は慣行を禁止など

制定年を見るといずれも100年以上前で、インターネットの時代に対応できない部分が出てくる可能性もありそうです。米下院の司法委員会は、この点について現行法の規則を改定する必要があるかどうか独自に調査を進めると発表しています。

司法委員会は今後1年半ほどかけて公聴会を開き、IT業界幹部などへの聞き取り調査や証言を求めるとしています。今回の調査をもとに新たな規定が追加される可能性も考えられ、こちらの動きも注目です。

3各社の状況、「深刻になりうる会社」と「そうでもない会社」

独占禁止法に関して調査が始まることは決まりましたが、各社の何が調べられるのかは当局から発表されていません。ここでは一般的に考えて独占力が発生しやすいと考えられる分野について検討しています。

最も深刻な影響が出る可能性があるのがフェイスブック、その次に懸念が大きいのがアルファベット(グーグル)、さほど大きな影響が出ないだろうと考えられるのがアマゾンとアップルと言えそうです。

〇フェイスブック
同社は「フェイスブック(Facebook)」、写真共有SNSの「インスタグ ラム(Instagram)」、メッセージアプリの「メッセンジャー(Messenger)」、「ワッツアップ(WhatsApp)」などを運営して、中国を除く世界の SNSサービスで圧倒的なシェアを保有しています。4 つのアプリ合計では、月1回以上利用する人が約27億人、いずれかのアプリを毎日利用する人が約21億人に達しています。

(1)世界のSNS利用者数トップ5のうち、4つのサービスを同社が提供していること(図表3)
(2)2012年にインスタグラム、2014年にワッツアップと、強力な競合となり得る企業を買収してシェアを高めてきた過去があること
(3)SNSはネットワーク効果が特に高く、独占力が強くなりやすい分野でもあること(ネットワーク効果は、利用者が増えれば増えるほどネットワークの価値が高まり、利用者の便益が増すことを指します)

このような点を考えると、同社は独占禁止法の調査で4社中最も深刻な結果を招く可能性があると言えそうです。最悪のケースとしては、会社を分割すべきだとの議論もあります。同社の株価は6/17(月)の仮想通貨「Libra(リブラ)」の構想発表が好感されて上昇しました。これがなければ、アルファベット同様に市場平均を下回っていたと考えられます。

〇アルファベット(グーグル)
ネット検索とスマホのOS(基本ソフト)で世界シェアが高くなっています。ネット検索ではアウンコンサルティングの調査によると、中国、ロシアを除く各国のネット検索で市場シェアは80%以上を超え、多くのケースで90%以上となっています(図表4)。また、スマホのOS(基本ソフト)では、「アンドロイド」の世界シェアが72%で2位のアップルの20%を大きく引き離しています。

シェアが高い状態自体が違法となるわけではありませんが、この高いシェアを利用した違法な行為がないか厳しくチェックされやすいと言えるでしょう。

欧州では既に巨額の罰金が課せられています。17年6月にネット検索で自社ショッピングサイトを優遇したとして24億ユーロ、18年7月には「アンドロイド」OSを使う携帯端末に自社アプリを事前インストールするよう義務付けたことが独占禁止法違反として43億ユーロの罰金支払いを命じられています。

一時的な影響にとどまる罰金の支払いに対して株価の反応はこれまで限定的だったと言えます。しかし、このようなことが重なると事業展開にも影響が出ていると考えられ、徐々に成長期待が低下していく可能性に注意が必要でしょう。

〇アマゾンドットコム
eMarketerの調査によるとアマゾンの米国ネット通販の市場シェアは49%、小売業全体では5%と推定されています。主力のネット通販でのシェアは高いものの、小売業界全体では問題になるほどシェアは高くないと言えるでしょう。ネット通販だけを切り取って問題とする可能性は低く、ここについては心配はいらないと言えそうです。

ただし、強力な配送センター網を背景とした「サードパーティ・セラー・サービス」では強い交渉力が問題になる可能性もありそうです(図表5)。商品の保管と配送を第3者に替わって請け負うもので、同事業者は配送センターを持つことなくネット通販事業が可能となります。同社の収益の伸びを牽引する事業の一つとなっています。

日本の新聞でも、アマゾンの強力な交渉力のために取引条件は言いなりになるしかないというような記事を見ることがあります。この点については、是正措置がある可能性がありそうです。ただ、これで会社が傾くというようなことではないでしょう。

〇アップル
同社が主力事業とするスマホのiPhoneについては、世界の市場シェアが2位の14.9%で、この市場は競争が非常に激しいこともあり、独占禁止法上問題になることはないでしょう(図表6)。

一方、アプリのダウンロードサービスを提供するApp Storeでは、取引条件が問題になる可能性がありそうです。販売金額の3割をプラットフォームの利用料として徴収しているとされますが、アプリを販売する事業者に対する交渉力が非常に強く、不満が強いとの報道はたびたび目にします。何らかの是正措置がとられる可能性がありそうです。

現在同社は成熟したiPhoneへの依存度を下げてサービスやその他のハードウェアの事業比率を高めようとしていますので、その構想に対しては打撃となる可能性があるでしょう。ただ、屋台骨が傾くような事態にはならないと考えられます。

図表3:ユーザー数5億人以上のSNS(19年3月末)

  • ※会社資料、各種報道をもとにSBI証券が作成

図表4:グーグルの検索シェア(19年3月、ネット人口上位10ヵ国)

PC
(%)
モバイル
(%)
ネット人口
(百万人)
中国 - - 721
インド 95.8 97.6 462
米国 82.3 94.7 287
ブラジル 96.2 99.4 139
日本 95.1 99.0 115
ロシア 42.8 51.6 102
ナイジェリア 95.9 98.6 86
ドイツ 91.8 98.5 71
イギリス 85.8 97.7 60
フランス 90.7 97.7 56
  • ※アウンコンサルティングの公表データをもとにSBI証券が作成

図表5:アマゾンの倉庫・店舗・オフィス面積

  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

図表6:スマートフォンの出荷台数シェア

  • ※IDCの公表データをもとにSBI証券が作成
  • ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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