半導体ファウンドリー大手の台湾セミコンダクター(TSMC)が同社の売上は4-6月期に底入れしたとして半導体株がにわかに注目を集めています。米中貿易摩擦の行方はリスク要因として残るものの、世の中の進歩に欠かせない半導体業界の中期的成長力への信頼は揺るいでいないようです。半導体業界全体の動きを反映する企業を中心に注目銘柄をご紹介いたします。
図表1:注目銘柄リスト
銘柄 | 株価(7/23) | 52週高値 | 52週安値 |
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ASML ホールディングス NYRS(ASML) | 230.21ドル | 231.33ドル | 144.50ドル |
アプライド マテリアルズ(AMAT) | 51.03ドル | 51.32ドル | 28.79ドル |
台湾セミコンダクター ADR(TSM) | 44.42ドル | 45.64ドル | 34.21ドル |
ザイリンクス(XLNX) | 127.28ドル | 141.60ドル | 66.35ドル |
ヴァンエック ベクトル 半導体 ETF(SMH) | 120.11ドル | 120.71ドル | 80.71ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
半導体関連株は米中貿易摩擦が再燃した5月に大きく売り込まれ、投資対象として警戒感をもって見られてきたと考えられます。
しかし、台湾セミコンダクター(TSMC)が7/18(木)に発表した4-6月期決算で売上の底入れ見通しを発表したことから、同セクターへの物色意欲が急速に高まっています。
同社の決算リリースでは、「4-6月期の我々の事業は、グローバル経済の全般的な軟調、顧客の在庫調整、高級モバイルの季節性などの影響を受けた。しかし、我々の事業サイクルのボトムは過ぎ、需要の増加が見られる。」
「高級スマートフォンの新製品投入、5G展開の加速、ハイパフォーマンスコンピューティングの分野で7ナノメートル技術の採用増加などが牽引して、7-9月期の売上は改善すると見込んでいる。」としています。
7-9月期の売上見通しを91〜92億ドルとして、19年1-3月期の前年同期比11.8%減、4-6月期の同3.3%増から7-9月期は同7〜8%増への回復を見込んでいます(図表2)。実際、TSMCの6月売上は、5月比6.8%増、前年同月比21.9%増となっています。
半導体業界の株価も意外に堅調です。半導体株のパフォーマンスをフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)で見たのが図表3になりますが、米中貿易摩擦が浮上した18年以降でも比較対象としているS&P500指数に見劣りしていません。
SOX指数の変動性は非常に高く市場平均以上に大きく下落する局面はあるものの回復も素早く、7/23(火)にはテキサスインスツルメンツの決算や7/29(月)から対面での米中交渉再開が好感されて、史上最高値を更新しています。
世界景気の減速や米中貿易摩擦の影響が大きい半導体株には懐疑的な見方が強かったと見られますが、見直しの必要があるのかもしれません。
図表2:台湾セミコンダクター(TSMC)は四半期売上の回復を予想
- 注:19年3Q(7-9月期)以降は、Bloombergのコンセンサス予想によります。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:意外に堅調な半導体株のパフォーマンス
- 注:フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数とも呼ばれる)は、米国のフィラデルフィア取引所が発表している、米国に上場する半導体メーカー、半導体製造装置メーカーで構成される単純平均株価指数です。最後のデータは7/23(火)です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
前節で見たようにTSMCは売上が底入れしたと言い、セクターの株価も意外に堅調ですが、実際、世界の半導体市場はどうなっているのか確認してみましょう。
図表4は世界の半導体月次売上の推移で、確かに19年2月〜5月は32〜33億ドルで下げ止まる兆しがあるように見えます。TSMCだけでなく、半導体市場は世界的にも底入れとなる可能性がありそうです。
16年の半ばから始まった今回の半導体サイクルについて、「シクリカル」な回復なのか、シクリカルな回復を超える「スーパーサイクル」なのかという議論がありましたが、18年11月の41.1億ドルをピークに売上は大幅に減少して、「シクリカル」な回復だったと言うこともできるかもしれません。
しかし、19年3月の32.3億ドルがボトムになると仮定すると、回復が始まった16年4月の25.9億ドルを23%上回っており、「いってこい」となった2000年前後のITバブルの時とは違って、やはり「スーパーサイクル」的な面があると考えられます。
また、半導体売上を種類別に見ると、16年から18年の売上拡大を牽引して19年の落ち込みを大きくしたのは、メモリーであることが分かります(図表5)。メモリーは他の半導体に比べて「コモディティ」的な性格が強いため価格の変動性が大きく、このような結果をもたらしたと見られます。
一方、メモリーを除く半導体の19年の落ち込みは3%と予想されており、世界景気が減速する中でもこの程度の落ち込みは軽微と言えるでしょう。さらに、メモリーは19年に前年比31%の大幅減少となるものの、20年には同7%増に回復する予想です。半導体市場全体としても19年比5%増へ市場回復が見込まれています。
まさにTSMCが言うように、5Gネットワークの世界的な展開、これによって可能となるIoT(モノのインターネット)など様々なアプリケーション、自動運転コンピュータの立ち上がり、ITシステムのクラウド化の進展など、先端的なアプリケーションの増加がシクリカルな景気減速の効果を相殺することが見込まれていると言えそうです。
世界経済が減速して、米中貿易摩擦が続く中ではありますが、世の中の進歩に欠かせない半導体業界の中期的成長力への信頼は揺るいでいないようです。投資対象として注目できるでしょう。
図表4:世界の半導体売上にも下げ止まりの兆し!?
- 注:世界の半導体の月次売上高の推移です。最後のデータは19年5月分です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表5:半導体売上の山・谷の主因はメモリー
- 注:19年6/4(火)に公表されたデータによります。
- ※WSTS(世界半導体市場統計)の公表データをもとにSBI証券が作成
半導体セクターでどの銘柄が注目できるか考えるために、フィラデルフィア半導体株指数を構成する30銘柄のうち時価総額が大きい15銘柄について、投資指標、株価騰落率、アナリストの目標株価などを表にしています(図表6)。
これを眺めてみると、株価は既に目標株価に近い、または、これを超えているものも散見され、決して割安感が強いというわけではないようです。米国で独占禁止法違反の判断が出たクアルコム(QCOM)やCPUでシェア喪失の懸念があるインテル(INTC)のように個別の懸念材料がないものについては、かなり買われてきたという印象です。
たとえば、インテルに対してCPUでシェア拡大が期待されているアドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD)の高パフォーマンスは注目に値しますが、予想PERは今期予想で51.5倍、来期予想でも32.9倍に達し、アナリストの目標株価を10%近く上回っていて手が出しにくい面もあるでしょう。
また、このところ株価の回復が著しいメモリー大手のマイクロン テクノロジー(MU)ですが、来期の予想EPSが2.59ドルと今期予想の6.19ドルから大幅な低下が予想されています。日本の輸出管理強化によって韓国勢の苦戦が予想されることが株価上昇の一因ですが、一時的に終わるリスクもありそうです。
以上のように個別に銘柄を選択するのはなかなか簡単ではないと言えるでしょう。そこで今回は半導体産業全体の地位向上に着目して、これを幅広く享受できる分野として半導体製造装置とファウンドリーを中心に注目銘柄を以下にピックアップしました。
ASML ホールディングスNYRS(ASML)
・半導体の回路焼付けに使われる露光装置に特化する、オランダの半導体製造装置メーカーです。半導体の露光装置では世界シェアが9割を超えると言われ、最先端のEUV(Extreme Ultra-Violet:極端紫外線)露光技術に対応できる唯一の露光装置メーカーとなっていることから中期的にも安定的な業績拡大が期待されています。
・EUV露光装置はロジック半導体(スマホのチップセットやパソコンのCPUなど)の微細化に使用され、2025年まで市場は10〜15%のペースで拡大する見通しです。さらに、いずれはメモリーでも使用されると想定され、同社の成長を牽引すると見込まれます。半導体の前工程装置の市場シェアは、現在アプライドマテリアルズがトップで19.6%、ASMLが17.8%の2位となっていますが、半導体の微細化が進むことで露光装置の重要性が高まると、トップが逆転する可能性もありそうです。
アプライド マテリアルズ(AMAT)
・世界最大の半導体製造装置メーカーで、液晶、有機ELなどのフラットパネルディスプレイ製造装置も手掛けます。18年の半導体製造装置の世界シェアは21%でトップを維持、半導体業界の拡大に連れて成長が期待されます。ただ、17年までシェアの拡大が続いてきましたが、18年の売上拡大は業界平均を下回って、前年から低下となっています。
・四半期売上は19年5-7月期に底入れして、前年同期比ではマイナスが続くものの、前四半期比では徐々に回復していくと見込まれています。19年10月の売上は前年比16%減と予想されていますが、20年10月期は同9%増への回復が見込まれています。最近発表されたKOKUSAI ELECTRIC(前身は日立国際電気)は3D NANDに強く、売上を10〜11%程度押し上げると見込まれています。
台湾セミコンダクター ADR(TSM)
・半導体の受託生産の世界最大手で、時価総額はインテルと並んで業界最大級です。アップル、ファーウェイ、クアルコム、エヌビディアなどが主要顧客で、受託生産で5割近い世界シェアを保有しています。スマホやパソコン、サーバーなど幅広い機器向けの半導体を生産していることから、半導体業界の動きを幅広く反映する企業として注目できるでしょう。
・足もとでは半導体の性能向上のカギとなる微細化で回路線幅を7ナノメートルに狭めた製品の売上比率が上昇しています。次世代の5ナノメートル品では4月に試験生産を始め、20年上半期には量産への移行を計画しています。低価格でファウンドリー事業への攻勢を強めるサムスン電子がライバルとなっていますが、微細化の先行によって直接的な競合を回避する方針です。
ザイリンクス(XLNX)
・FPGAと呼ばれる種類の半導体の世界最大手です。FPGAはfield-programmable gate arrayの略で、計算ロジックが固まっている部分は回路に作り込み、変化する可能性のある部分を「プログラマブル」(後から変更できる)にしたもので、仕様が完全に固まっていない新技術が普及するときに需要が高まる傾向があります。現在、5G、IoT、AI、自動運転などの開発が活発化していることから、今後2〜3年は業績の好調が期待されます。
・19年3月期の業績を牽引した5Gやデータセンター向けの需要は20年3月期にも伸長が期待されます。1-3月期の売上成長が前年同期比74%増となった通信向けは引き続き高い売上成長が期待されるものの、当面は全体の利益率を低下させる方向で作用する見込みです。データセンター向けは1-3月期に前年同期比7%減となりましたが、クラウドサービス各社の伸びを考えると低迷は一時的と見られます。
ヴァンエック ベクトル 半導体 ETF(SMH)
・個別銘柄のリスクを取りたくないという方には、半導体企業の株価に連動するETF(上場投資信託)も利用できます。同ETFは、「マーケット・ベクトル米国上場半導体25インデックス」への連動を目指すETF(上場投資信託)で、フィラデルフィア半導体株指数に近い値動きとなることが期待できます。
・組入れ上位銘柄は、台湾セミコンダクター、インテル、マイクロンテクノロジー、テキサスインスツルメンツ、エヌビディア、ASMLホールディングス、アプライドマテリアルズなどです。純資産総額が11.8億ドル、経費率が0.35%、直近配当利回りが1.38%です(7/22(月)時点)。
図表6:半導体セクターの主要企業
銘柄(コード) | 株価 (7/22) (ドル) |
予想 PER (倍) |
今期 予想EPS (ドル) |
来期 予想EPS (ドル) |
株価騰落 過去1年 (%) |
株価騰落 年初来 (%) |
株価騰落 過去3ヵ月 (%) |
目標株価 (ドル) |
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台湾セミコンダクター ADR(TSM) | 44.60 | 21.5 | 64.31 | 77.13 | 9.50 | 20.83 | -1.22 | 45.55 |
インテル(INTC) | 51.35 | 12.0 | 4.28 | 4.49 | -1.08 | 9.42 | -12.70 | 51.74 |
ブロードコム(AVGO) | 296.15 | 13.8 | 21.44 | 23.72 | 40.80 | 16.47 | -5.98 | 305.52 |
テキサス インスツルメンツ(TXN) | 118.18 | 22.1 | 5.34 | 5.90 | 2.77 | 25.06 | 2.81 | 116.85 |
エヌビディア(NVDA) | 171.32 | 32.2 | 5.32 | 7.03 | -31.72 | 28.33 | -9.10 | 179.18 |
ASML ホールディングス NYRS(ASML) | 227.74 | 33.2 | 6.13 | 8.55 | 3.61 | 46.34 | 10.82 | 212.67 |
クアルコム(QCOM) | 75.95 | 20.1 | 3.78 | 5.05 | 29.59 | 33.46 | -7.34 | 85.09 |
マイクロン テクノロジー(MU) | 47.19 | 7.6 | 6.19 | 2.59 | -14.23 | 48.72 | 8.73 | 46.26 |
アプライド マテリアルズ(AMAT) | 50.73 | 17.1 | 2.97 | 3.68 | 8.49 | 54.95 | 15.85 | 51.58 |
アナログ デバイセズ(ADI) | 117.71 | 22.5 | 5.23 | 5.56 | 20.35 | 37.14 | 3.61 | 114.90 |
アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD) | 32.85 | 51.5 | 0.64 | 1.00 | 99.09 | 77.95 | 16.57 | 29.90 |
NXP セミコンダクターズ(NXPI) | 98.74 | 12.6 | 7.83 | 9.18 | -4.46 | 34.74 | 0.27 | 115.20 |
ザイリンクス(XLNX) | 124.23 | 28.8 | 4.31 | 4.85 | 82.24 | 45.86 | -7.59 | 126.00 |
ラムリサーチ(LRCX) | 207.21 | 14.5 | 14.28 | 14.50 | 16.53 | 52.17 | 6.14 | 217.90 |
マイクロチップ テクノロジー(MCHP) | 93.56 | 15.4 | 6.08 | 7.15 | -0.86 | 30.09 | -4.14 | 105.89 |
- 注:フィラデルフィア半導体株指数の主要構成銘柄(時価総額上位15銘柄)です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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