民間航空機の安定成長市場をエアバスと二分するボーイングですが、米中通商摩擦と「737MAX」の運航停止を受けて警戒が続いてきました。しかし、米中摩擦が緩和に向かう期待が出てきたことで、残る問題は「737MAX」の運航再開時期に絞られてきたと言えそうです。投資のチャンスを迎えている可能性がありますので検討してみましょう。また、同社と関連の深いサプライヤーもご紹介いたします。
図表1:注目銘柄
銘柄 | 株価(10/15) | 52週高値 | 52週安値 |
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ボーイング(BA) | 370.96ドル | 446.01ドル | 292.47ドル |
ウッドワード(WWD) | 106.88ドル | 119.20ドル | 68.40ドル |
トランス ダイム グループ(TDG) | 523.00ドル | 542.10ドル | 290.25ドル |
ヘクセル(HXL) | 76.77ドル | 87.00ドル | 53.50ドル |
スピリットエアロシステムホールディング A(SPR) | 83.00ドル | 100.34ドル | 64.48ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ボーイングは19年年初には「売上が前年比12%増、調整後EPSが同25%増」の業績ガイダンスを発表、今年最も活躍が期待される銘柄の一つでした。
しかし、3月にエチオピア航空の墜落事故を受けた「737MAX」の運航停止によってシナリオが大きく変わりました。年初来の株価上昇率は10/11(金)終値で18.2%上昇とS&P500指数の18.5%並みを確保していますが、事故前の3/1(金)につけた高値446.01ドルを16%下回り、同社株に対する物色は抑えられてきたと言えそうです。
一方、同社の成長を牽引している民間航空機は引き続き高い成長が見込まれています。米中摩擦が一服となる見込みの中、「737MAX」の問題が解決に向かえば高値更新に向かうことも期待され、投資の好機を迎えている可能性があるでしょう。
そこで今回は、第1節で民間航空機市場の成長見通しを確認し、第2節でボーイングを取り巻く状況についてみていきます。
世界の航空需要は年率4.6%で成長
ボーイング社が毎年公表している「コマーシャル・マーケット・アウトルック 2019-2038」によると、世界の航空需要は2019年から2038年の20年間に年率4.6%で成長すると予想されています。この間の世界のGDP成長率が2.7%と予想されていますので、GDPを大きく上回る成長市場と考えられます。
成長の背景として、以下があげられます。
(1)新興国の中間所得層の増加
新興国の経済成長によって都市部に住む中間所得層が増加しており、旅行支出が高めの層の人口が増えています。今後10年で中国とインドを合わせて3億人以上が中間所得層に加わると予想されています。
(2)格安航空の広がりによる航空運賃の低下
1970年代に英国で始まった格安航空のビジネスモデルは世界中に広がり、航空運賃の低下を促して旅客需要を刺激しています。格安航空は短距離航路で33%の世界シェアを占めていますが、シェアが6割を超える東南アジアの例もあり、まだ拡大の余地があると考えられています。
(3)空港の整備
2012年から2018年に世界で176ヵ所の空港が新設され、空の旅が便利になりつつあることも需要増加の背景としてあげられます。このうち165ヵ所がアジア太平洋地域で、同地域では2030年にかけても17の空港と17の滑走路の追加が計画されています。
地域別の市場成長率の見通しは、中国国内路線が6.2%、アジア太平洋域内路線が5.5%、中東・アジア太平洋間路線が6.2%、南米域内路線が6.0%などで、アジアを中心とする成長が牽引すると見込まれています。
航空機の需要は3.4%で成長
このような航空需要の増加を受けて民間航空機の需要も良好で、世界の航空会社のフリート(保有機材)は2018年末の25,830機に対して2038年に50,660機に増えると見込まれており、これは年率3.4%の成長に相当します(図表3)。
フリートの増加分24,830機に更新分19,210機を加えて、20年間の航空機納入は44,040機の予想です。ナローボディ機(単通路型航空機)が32,420機で74%を占め、ワイドボディ機(2通路型航空機)が8,340機、リージョナルジェット機が2,240機、貨物輸送機1,040機の内訳です。
ナローボディ機とワイドボディ機の合計は40,760機で、単純平均で年間2,038機の需要が見込まれることになります。ボーイングとエアバスの過去5年間の納入機数平均は1,454機のため、十分な成長余地があると言えるでしょう。
成長市場を寡占するボーイングとエアバス
このような民間航空機の市場を寡占しているのが、米国のボーイングと欧州のエアバスです。長期的には中国の民間航空機が市場に参入すると見込まれていますが、当面は2社による寡占の市場構造は変わらないと考えられています。
2014年から2018年の5年間の年間受注平均はボーイングが935機、エアバスが1,025機、納入はボーイングが694機、エアバスが760機、18年末の稼働航空機数はボーイング11,436機、エアバスが9,620機ときっ抗しています。
ボーイングは米国の、エアバスは欧州の重要な輸出産業として国家間レベルでも競争は激しくなっています。しかし、寡占の状況が変わらない限り、価格への圧力も限定的とみられ両社ともに安定した高成長が期待されています。
図表2:世界の旅客輸送需要見通し

- 注:単位は、「有償旅客数×輸送距離(キロ)」によります。
- ※ボーイング社の「コマーシャル・マーケット・アウトルック 2019-2038」のデータをもとにSBI証券が作成
図表3:民間航空機の需要見通し

- ※ボーイング社の「コマーシャル・マーケット・アウトルック 2019-2038」のデータをもとにSBI証券が作成
中期的に安定した高成長が期待されるボーイング(BA)ですが、「737MAX」の運航停止によって業績には甚大な影響が出ており、今後の業績も運航再開の時期が左右する見通しです。状況を確認しておきましょう。
737MAX
ボーイングの737MAXは2018年10月29日と2019年3月10日の2件の墜落事故を起こし、失速を防ぐシステムの不具合が原因と推定され、3月14日のフライトを最後に世界中で運航停止が続いています。
737MAXは座席数が170〜180のナローボディ機で、初号機が納入された2017年5月以来387機が納入されています。ボーイングの9月末民間航空機の受注残は5,705機で、うち737MAXは4,592機で8割に達し、同機種が同社の将来にとって極めて重要だと言えます。
運航停止措置への対応は、失速防止システムのソフトウェアを改良することにより、当初は9月からの運航再開が想定されていました。しかし、追加の課題が明らかとなってずれ込んでいます。現在、米連邦航空局(FAA)と認証飛行の時期を協議中であり、認証にむけた最終段階にあることは確かなようです。24機を保有するアメリカン航空からは2020年1月16日の運航再開見通しを示す動きが出ています。
737MAXの運航停止が長引いていることで、エアバスがこの機を利用してシェアを拡大することが考えられますが、いまのところ動きは限定的と考えられています。
737MAXと競合するのはエアバスのA320で、今年A320シリーズを月産60機に増やす計画ですが、この水準から大きく増やすことはここ数年では難しいと見られているためです。
業績の動向
4-6月期の業績は、737MAXの運航停止を受けて民間航空機部門の納入機数が前年同期比54%減、売上が同66%減となったほか、運航停止や納入遅延の補償金49億ドルを計上したことで49億ドルの営業赤字に転落しています。
一方、防衛・航空&セキュリティ部門の売上が前年同期比8%増、営業利益が同2.6倍、グローバルサービス部門の売上が同11%増、営業利益が同14%増と好調で、問題は737MAXに限られると言えるでしょう。
通期の業績ガイダンスは、737MAXの運航開始時期が見通せないことを理由に7/24(水)の4-6月期決算発表では、公表されていません。後日発表するとしましたが、10/15(火)時点で発表となっていません。
会社は737MAXの運航再開を10-12月期の早い時期に目指しています。ただ、各国航空当局との協議が不透明で年明けまでずれ込むとの見方もあるようです。市場コンセンサスは、会社ガイダンスを基に組み立てられていると見られますので、運航再開が四半期ずれることで、業績は下方修正となる可能性があるでしょう。
20年12月期については、19年12月期の当初会社ガイダンスに近い水準が予想されています。いずれにしても、737MAXの運航再開がポイントになります。19年内あるいは20年初の再開であれば、大事になることはないとみられます。
また、株価動向には米中貿易摩擦の行方も影響を与えます。18年の同社売上で中国向けは14%を占め、米国から中国への輸出品で最も額が大きいのは航空機であるため、攻撃のターゲットになりやすそうなことが要因です。
パイロットや整備士の訓練も関わるため、簡単にボーイングからの購入をやめるというわけにはいかないとみられますが、対等な競合企業としてエアバスがあるため、潜在的なリスクではあります。このため、同社も中国国内に飛行機の組み立て工場をもち、貿易摩擦の影響を回避する方策を採っています。
7-9月期の決算発表は10/23(水)の予定です。
図表4:ボーイング業績の推移

- 注:「19年当初予想」は19年当初の会社予想、「19年現予想」は現在のコンセンサス予想です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ボーイングの業績は中長期で成長が見込まれていますので、これに部品を供給する企業にも業績が伸びていくものが出てくると考えられます。そこで、株価の時価総額が10億ドル以上、ボーイング向けの売上が10%以上で、当社で取り扱いのある企業をご紹介いたします(図表5)。
- 制御機器メーカーで、エネルギー制御システム、航空機部品、工業用エンジンやタービンの設計、製造、サービスを提供します。航空宇宙、発電、石油・ガス処理、鉄道・海上を含む運輸、軽・重工業で利用されます。顧客別売上は、ボーイングが12%のほか、ゼネラルエレクトリック16%、ユナイテッドテクノロジーズ6%、エアバス6%などです。
- 19年12月期はエアロスペース部門は民間航空機、軍事用機とも好調で、売上は前年比約19%増、インダストリアル部門も事業買収に加え、中国の天然ガス車向け事業が好調で、売上は同約35%増が見込まれています。インダストリアル部門の4-6月期オーガニック売上成長率は前年同期比10%増でした。業績は好調が続いていますが、株価は7月下旬に崩れており、ボーイングが7/24(水)の4-6月期決算で通期見通しを発表しなかったことが影響したとみられます。
- 商用・軍用の航空機部品サプライヤーです。独自製品が9割を占めます。多数の子会社で設計から保守までを手掛け、アフターサービスで収益の過半を占めて、高収益を誇ります。2019年3月に同業のエスターライン・テクノロジーズ社の買収を完了しています。顧客別売上は、ボーイングが10%のほか、エアバス11%、ハネウェルインターナショナル4%など、幅広い航空機関連企業に製品を供給しています。
- 4-6月期は、買収の効果で売上は前年同期比69%増、買収費用などを除く調整後純利益が同25%増となりました。買収を除くベースの売上でも、民間航空機向けが前年同期比10%増、民間航空機アフターマーケットが同8%増、防衛向けが同19%増といずれも好調でした。
- 炭素繊維複合材やハニカム構造材などを航空宇宙産業の企業に提供しています。18年の売上は複合材部門が81%、エンジニアード製品が19%を占め、顧客別売上はエアバス41%、ボーイング25%のほか、航空宇宙産業の関連各社が占めます。炭素繊維では東レが世界トップシェアを保有しますが、同社も早くから航空機企業を顧客としてきた歴史から、競争力は保持しているとみられます。
- 4-6月期は737MAX向けの需要減をエアバスのA320型機、ボーイングの787型機などがカバーして民間航空機部門が前年同期比9%増、宇宙・防衛部門もF-35戦闘機向けが牽引して同22%増、インダストリアル部門も風力発電向けが牽引して同12%増といずれも好調でした。19年12月期は、売上が前年比11%増、純利益が同12%増と予想されています。
- 2005年にボーイング社がカンザス州ウィチタおよびオクラホマ州の事業を売却してできた会社です。民間・軍用の機体、推進システム、翼システムなどの 航空機構造の設計・製造を手掛けます。民間航空機の機体の製造では、独立系として世界最大級です。元々ボーイング社の一部であったため、ボーイング向け売上が80%と依然として高い一方、顧客の多角化を進めエアバス向け売上も16%までになっています。
- 4-6月期はボーイング737型機向けの出荷が前年同期比13%減少したものの、777型機、787型機およびエアバスのA320型機向けの増加でカバーして同10%の増収を確保しています。19年12月通期も売上が前年比10%増、純利益が同16%増と予想されています。ボーイング社との合意により、737型機の生産減少に伴う収益性の低下をカバーするためにコスト削減に取り組んでいます。PERが他社に比べて低いのは、技術革新が比較的少ない機体構造の製造を行っていることが要因とみられます。
図表5:ボーイング向け売上が大きいサプライヤー企業
銘柄(コード) | ボーイング 売上比率 (%) | 時価総額 (10/14) (億ドル) | 直近期 売上高 (百万ドル) | 直近期 純利益 (百万ドル) | 株価 (10/14) (ドル) | 予想 PER (倍) |
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スピリットエアロシステムホールディング A(SPR) | 80 | 86.1 | 7,222 | 617 | 83.18 | 12.2 |
ヘクセル(HXL) | 25 | 65.9 | 2,189 | 277 | 77.40 | 21.8 |
ウッドワード(WWD) | 12 | 65.5 | 2,326 | 180 | 105.89 | 21.6 |
トランス ダイム グループ(TDG) | 10 | 276.9 | 3,811 | 957 | 518.70 | 28.5 |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。