ビヨンドミートの株価が急騰したことで「人工肉」市場への注目が再び高まっています。これは株式市場に限ったことではなく、成長市場に向けて産業界でも大きな資金が動き始めています。注目の成長市場に参加する意外な関連銘柄も含めてご紹介いたします。
図表1:人工肉関連銘柄
銘柄 | 株価(1/28) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
ビヨンド ミート(BYND) | 120.12ドル | 239.71ドル | 45.00ドル |
インターナショナルフレーバーフレグランス(IFF) | 135.45ドル | 152.95ドル | 104.86ドル |
ケロッグ(K) | 68.98ドル | 71.05ドル | 51.34ドル |
コナグラ ブランズ(CAG) | 33.32ドル | 35.59ドル | 20.85ドル |
タイソンフーズ A(TSN) | 84.57ドル | 94.24ドル | 58.20ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
〇ビヨンドミートの株価が急騰
昨年の新規公開銘柄で、植物ベースの人工肉を提供するビヨンドミートの株価が動意づいています。
同社は公募価格25ドルで19/5/2に上場、19/7/26に高値239.70ドルをつけて市場の注目を大いに集めました。その後大幅に反落して80ドル前後でもみ合っていましたが、年初から株価が出来高を伴って急騰しています。
株価上昇のきっかけは1/8(水)にマクドナルドがビヨンドミートの“牛肉パテ”をカナダの一部店舗で試験採用するとしたことでした。
その後も1/14(火)に同社CEOの発言から中国進出が観測され、1/21(火)にはスターバックスが朝食メニューに代替肉の採用を検討しているとしたことから大幅な株価上昇となりました。
競合のインポッシブル・フード(未上場)も2020年に上場するのではとの観測があり、株式市場での注目は継続しそうです。
〇産業界でも大きな資金が動いている
一方、人工肉に注目しているのは株式市場だけではなく、産業界でも大きな資金が動き始めています。
19/12/15に米国の香料メーカー、インターナショナルフレーバー&フレグランスがデュポン傘下で食品添加物・原料の製造を手掛ける「ニュートリション&バイオサイエンス」を262億ドル(約2兆8,600億円)で買収する、とのニュースが出ました。
これはIFFとデュポンの食品関連事業が両社の強みを持ち寄って、成長が期待される「人工肉」市場に対して原材料の供給者になるべく体制を整えるための経営統合と考えられます。
〇中国市場も有望
また、「人工肉」市場はベジタリアンが多い欧米で盛り上がっているだけでなく、中国でも有望のようです。
19/11/23のロイター記事「焦点:中国の人工肉市場に熱気、米中メーカーが火花」では、「アフリカ豚コレラ(ASF)の拡大や米中貿易戦争による食肉価格の上昇などを背景に、中国で植物由来の人工肉の人気が高まり、ここ数ヵ月、スタートアップから老舗まで幅広い企業の参入が続いている」としています。
ユーロモニターの調査によると、中国の「菜食主義」市場は2014年から33.5%拡大して97億ドルとなり、23年までに119億ドルに達する見通しとされます。
筆者は昨年9月に中国・西安へのパッケージツアーに参加しましたが、案内されたある日のランチは精進料理レストラン(京都の精進料理店の技術らしい)で、当地で人気店になっているとのことでした。中国は長年、豆腐や「肉もどき」を食べてきた文化があり、潜在的な市場は意外に大きいようです。
図表2:ビヨンドミートの株価推移(日足)

- ※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
〇植物ベースの食品は成長市場
肉や魚を食べない「ベジタリアン」や卵、乳製品なども食べない完全菜食主義者の「ビーガン」などの生活スタイルは、世界中で新たなトレンドになり、肉や魚を食べない日をつくる「フレキシタリアン」は手軽なため、広く受け入れられているようです。
このようなトレンドを背景に、欧米では植物ベースの食品の需要が伸びています。図表3は米国の小売市場で植物由来の食品と動物由来の食品の伸びを比較したものですが、幅広い食品にわたってこのような動きがあります。
動物由来の食品を消費することに伴う、(1)健康にネガティブな影響があるとの認識、(2)家畜飼育による環境へのインパクト、(3)動物福祉への関心などが植物由来の食品に対する消費者の需要を喚起しているとされます。
植物由来の食品による代替の歴史が長い米国の「ミルク」市場では、豆乳やアーモンドミルクなど植物由来の「ミルク」が13%を占めるようになっています。
ビヨンドミートが対象市場とする食肉市場は、2017年に米国が2,700億ドル(約2.9兆円)、世界では1.4兆ドル(約150兆円)あり、このうちの一部でも植物由来の製品にシフトすれば大きな市場になる可能性があります。
〇ビヨンドミートの取り組み
ビヨンド ミート(BYND)は、2009年にカリフォルニア州で創業した企業で、植物を材料に味、噛み応え、香りなどを動物由来の肉に似せた牛肉、 豚肉、鶏肉を製造します。19年5月にナスダック市場に新規上場し、三井物産も出資しています。
主力製品は「Beyond Burger」で、食品スーパーのクローガー、セイフウェイ、レストランのTGI FRIDAYSなど約3万の小売店舗で販売されています。
牛肉の場合は、ベース成分はエンドウ豆のたんぱく質、脂分はココナッツオイルなど、肉の赤い色は野菜のビーツで再現しています。
売上拡大とともに粗利率が拡大傾向にあり(図表4)、売上の拡大が続くことで営業費用をカバーして黒字化が進んでいます。四半期では19年4-6月期に営業利益で黒字化、19年7-9月期に純利益段階でも黒字化して、年度でも19年12月期に営業黒字が予想されて います。19年10-12月期決算は、2/14(金)前後に発表の見込みです。
図表3:米国の小売市場では植物由来の食品が伸びている(2018年)

- ※ニールセンの公表データよりSBI証券が作成
図表4:ビヨンドミートの四半期売上と粗利率

- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ビヨンドミート以外に「人工肉」市場の成長を取り込もうとしている関連銘柄をご紹介いたします。
同社は食品用香料(フレーバー)と化粧品香料(フレグランス)を手掛ける香料メーカーで、スイスのジボーダンに次ぐ世界的大手です。買収を発表したデュポンの「ニュートリション&バイオサイエンス(N&B)」は従業員が1万人、IFFが約1万3,000人ですから、ほぼ同規模の会社を統合することになります。
IFFは味覚、香りなどに強く、N&Bは食品原料とバイオサイエンスの技術を擁し、統合会社は「味覚」「歯ごたえ」「香り」「栄養」「酵母」など食品向けの幅広い高付加価値添加成分でトップまたはナンバー2のポジションを確保することができるとしています。
植物由来の食品需要が増えている中で、ビヨンドミートのような会社や“牛肉パテ”を自社で開発しようとするハンバーガー企業などに原材料や各種ソリューションを提供することが経営統合の動機と考えられ、「人工肉」の関連企業として注目できるでしょう。
統合の完了は21年3月末の見込みで、合弁企業の業績は試算ベースで、売上が110億ドル、EBITDAマージンが約23%(シナジー効果を含めて26%)、長期の売上成長率は1桁台半ばとしています。IFFは年間3億ドルのコストシナジー、年間4億ドルの売上シナジーを目標とするとしています。
プリングルズやチーズイットなどのスナック類、コーンフレークなどのシリアル類、冷凍食品などを提供する食品企業で、傘下の「MorningStar Farms」が植物を材料とした“牛肉パテ”を生産しています。
同製品はスーパーのターゲットなどで販売されており、植物由来の“牛肉パテ”では米国トップシェアとされます。同事業の売上は開示されていませんが450百万ドル程度と推定され、ビヨンドミートの倍の規模とみられます。
ビヨンドミートの株価は19年12月期予想売上に対して27倍に評価されていますが、これを適用するとケロッグの人工肉事業は121億ドルと計算されます。売上の3%程度に過ぎない事業ですので、235億ドルにとどまる時価総額には評価の余地がありそうです。
北米最大規模の食品加工会社で、一般消費者向け食品では肉類からデザートまで40超のブランドを展開、冷凍食品に強みをもちます。
2018年10月に同業大手のピナクル・フーズを買収していますが、その傘下に肉代替食品を手掛ける「Gardein」があります。同社は、鶏肉、牛肉、豚肉などの肉代替食品を冷凍加工食品の形で提供しています。
食肉加工大手で、「Tyson」「Jimmy Dean」「Hillshire Farm」などのブランドを擁し、世界17ヵ国で製品を販売しています。鶏肉と牛肉の取扱量は米国トップクラスです。
16年から17年にかけてビヨンドミートに出資した時期もありましたが、上場前の19年4月に同社株式を売却、自社で肉代替食品の事業を立ち上げる決断をしました。「Raised & Rooted」のブランドで展開、肉を含まない「チキン・ナゲット」や牛肉と大豆プロテインによる“牛肉パテ”などを生産・販売しています。
図表5:人工肉関連銘柄の投資指標
銘柄(コード) |
株価 |
予想PER |
今期予想売上 |
今期予想EPS |
時価総額 |
---|---|---|---|---|---|
ビヨンド ミート(BYND) |
124.75 |
327.4 |
477 |
0.4 |
76.7 |
インターナショナルフレーバーフレグランス(IFF) |
133.98 |
20.8 |
5,310 |
6.4 |
143.1 |
ケロッグ(K) |
69.03 |
17.1 |
13,351 |
4.0 |
235.5 |
コナグラ ブランズ(CAG) |
32.53 |
15.4 |
10,712 |
2.1 |
158.4 |
タイソンフーズ A(TSN) |
84.15 |
12.5 |
45,652 |
6.7 |
307.5 |
- 注:売上とEPSは、コナグラブランズが20年5月期、タイソンフーズが20年9月期、その他は20年12月期です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。