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“リスクの向こう、身近となりつつある大きな変化・好機”
“リスクの向こう、身近となりつつある大きな変化・好機”
2023/5/16
提供:フィリップ証券株式会社
リサーチ部:笹木 和弘
“リスクの向こう、身近となりつつある大きな変化・好機”
- 米国のインフレ指標が揺れている。10日発表の4月の消費者物価指数(CPI)は前年比の伸び率が4.9%と2年ぶりに5%を下回った。米FRB(連邦準備制度理事会)が注目する住宅以外のコアサービス価格の伸びも鈍化し、6月の利上げ停止が示唆された。
- その一方、ミシガン大学が12日発表の5月の消費者信頼感指数(速報値)における5-10年先のインフレ期待が3.2%と2011年以来の高水準となった。3.2%超えは2008年6月(3.4%)まで遡ることとなる。FRBの物価目標である2%とのこれ以上の乖離は許容されにくく、FRBが再びタカ派スタンスを強める可能性があるだろう。4月CPIが示唆する早期の利上げ停止と年内の利下げ開始期待が高PER(株価上昇率)グロース銘柄の株価を支え、ナスダック総合指数およびS&P500指数の年初来の堅調な推移を正当化していた面がある。雇用統計の強さから見てもその前提が危うくなる懸念はあるだろう。
- 他方、11日発表の4月の卸売物価指数(PPI)は総合で前年比2.3%上昇と21年1月以来の低水準にとどまった。ニューヨーク連銀が算出する「グローバル・サプライチェーン指数」は4月、約14年ぶりの低水準と、物価高の一因だった供給制約問題はほぼ解決しているとみられる。自動車メーカーをはじめとして半導体不足などが生産の足枷となる問題が解消してきていることは、製造業を中心に企業業績を押し上げる要因になると考えられる。
- マイクロソフト(MSFT)が出資するオープンAI社が開発した生成AI(人工知能)の「ChatGPT」が急速に私たちの間でも身近になりつつある。アルファベット(GOOGL)傘下のグーグルも会話型AIの「Bard」を発表。アマゾン・ドット・コム(AMZN)もクラウドサービスのAWSで生成AIの対応を強化し、テキスト、画像、音声などまで生成できる新サービス「Amazon Bedrock」を発表。アドビ(ADBE)も商用利用に特化した画像生成AI「Adobe Firefly」を発表した。
- 振り返れば、「デジタル化」に伴ってソフトウエアが世界を席巻した。ソフトウェアを動かすにはプログラム・コードが必要だった。この「生成AI」は、普通の言葉による「プロンプト」の入力によってソフトウェアのコードを自ら知的に生成することができる特殊な技術と捉えることができるだろう。その意味では、生成AIとソフトウェアが融合した製品・サービスが急速に広まることが想像される。身近となりつつある世の中の大きな変化が株式市場に投影される可能性も高いと見込まれる。金融システム不安や利上げ・景気後退懸念、債務上限問題などのリスクの向こう側に見える好機・商機を見据えるべきだろう。(笹木)
- 5/16号では、ファースト・トラスト・ナスダック・サイバーセキュリティETF(CIBR)、クラウドストライク・ホールディングス(CRWD)、ダイナ・トレース(DT)、アルファベット(GOOGL)、パランティア・テクノロジーズ(PLTR)、ソーラーエッジテクノロジー(SEDG)を取り上げた。
S&P500業種別およびダウ平均構成銘柄騰落率(5/12現在)
5月16日(火) | キーサイト・テクノロジーズ、ホーム・デポ |
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5月17日(水) | テイクツー・インタラクティブ・ソフトウエア、シノプシス、シスコシステムズ、TJX、ターゲット |
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5月18日(木) | アプライド・マテリアルズ、DXCテクノロジー、ロス・ストアーズ、ウォルマート、バス&ボディワークス |
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5月19日(金) | ディア |
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5月22日(月) | ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ、ノードソン
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5月16日(火) | - 米クリーブランド連銀総裁がダブリンで講演、米ニューヨーク連銀総裁がバージン諸島の大学のイベントで公開討議、米アトランタ連銀総裁とシカゴ連銀総裁がアトランタ連銀主催の会合で公開討論、米上院小委員会で人工知能(AI)巡る公聴会
- 米小売売上高 (4月)、米NAHB住宅市場指数 (5月)、米企業在庫(3月)
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5月17日(水) | |
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5月18日(木) | - 「Bitocoin2023」(マイアミ、20日まで)
- 米新規失業保険申請件数 (5月13日終了週)、 米フィラデルフィア連銀製造業景況指数(5月)、米景気先行指標総合指数(4月)、米中古住宅販売件数(4月)
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5月19日(金) | - G7広島サミット(21日まで)、米ニューヨーク連銀総裁がワシントンの会合で基調講演、パウエルFRB議長とバーナンキ元FRB議長がワシントンの会合で討論会に参加
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5月20・21日(土・日) | - 世界保健機関(WHO)第76回世界保健総会(WHA)(ジュネーブ、30日まで)
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- NASDAQ CTAサイバーセキュリティ・インデックスに連動する投資成果を目指す。同インデックスはテクノロジー・産業セクターのうちサイバー・セキュリティ事業を展開する企業のパフォーマンスを測る。
- 5/12時点で時価総額が44.9億USD、過去1年間の分配金単価合計は0.0987 USD(昨年9月と今年3月は無配)。組入れ上位6社はフォーティネット(FTNT)、ブロードコム(AVGO)、パロアルトネットワークス(PANW)、シスコシステムズ(CSCO)、印インフォシス(INFY)、アカマイ・テクノロジーズ(AKAM)。
- 昨年末から5/12終値までの騰落率(インカムゲインを除く)は、同ETFが+4.5%に対し、ダウ工業株30種平均が+0.5%、S&P500株価指数が+16.5%、ナスダック100が+21.9%。ChaGPTのような生成AI(人工知能)のチャットボットはハッカーらによって悪用され、なりすまし攻撃の強化に使われるほかディープフェイクや偽情報の拡散に用いられる等のリスクへの対応が今後重要性を増してこよう。
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- 2011年設立。エンドポイントのセキュリティ・クラウドサービス「ファルコン」を提供。人工知能(AI )を搭載したプラットフォームを通じて侵入情報を顧客と共有し集団で防衛することに特徴がある。
- 3/7発表の2023/1期4Q(11-1月)は、売上高が前年同期比43.9%増の6.37億USD、非GAAPの調整後EPSが同56.7%増の0.47USD。毎年繰り返し得られる見通しの売上高を示す年間経常収益(ARR)が同48%増の25.6億USD、その内4Qの純増分が2.21億USDに達するなど足元で成長が加速。
- 2024/1通期会社計画は、売上高が前期比33.6-35.7%増の29.95-30.14億USD、調整後EPSが同43.5-55.2%増の2.21-2.39USD。生成型AIの普及とともにサイバー攻撃も高度化することが想定され、セキュリティ対策側もより高度なAIを活用して「侵入後の迅速な検知と対処」をリアルタイムで適切に実行する需要が高まることが想定される。同社クラウドサービス「ファルコン」の成長拡大に繋がろう。
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- 2005年設立のSaaS(Software as a Service)企業で、マルチクラウド環境上の様々なアプリケーションのパフォーマンス管理・運用監視をリアルタイムかつ一元的に行うツールの「Dynatrace」を提供。
- 2/1発表の2023/3期3Q(10-12月)は、売上高が前年同期比23.5%増の2.97億USD、非GAAPの調整後EPSが同38.9%増の0.25USD。企業のデジタル変革(DX)を追い風に、継続課金に係る年間経常収益(ARR)が同29%増の11.63億USDと堅調に推移。調整後営業利益率が同2ポイント上昇。
- 通期会社計画を上方修正。ARRを前期比22-23%増の12.16-12.21億USD(従来計画11.64-11.72億USD)、調整後EPSを同28-29%増の0.87-0.88USD(同0.81-0.83USD)とした。同社のソフトウェアは人工知能(AI)を中核として導入から監視・検証・分析まで全て自動化。急速に普及する生成型AIとの間でデータ連携させることで生産性向上をより高め、企業のDX化およびクラウド化へ貢献しよう。
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- 2015年にGoogleの持株会社として設立。検索、YouTube等に係る主力の広告収入およびAndroid等を含むGoogle Services、クラウド基盤のGoogle Cloud、新規事業のOther Betsの3部門を展開。
- 4/25発表の2023/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比2.6%増の697.87億USD、EPSが同4.9%減の1.17USD。主力ネット広告事業の内、広告効果が見えやすい検索連動型広告が同1.9%増に対し動画共有YouTubeは同2.5%減。クラウド・コンピューティング事業は同28%増収かつ営業黒字化。
- 同社は生成AI(人工知能)の実用化でChatGPTのオープンAIおよびその提携先であるマイクロソフト(MSFT)に先行を許したものの、Google独自開発の特定用途向け集積回路(ASIC)の半導体プロセッサである「TPU」は機械学習の高速化で強みを有する。Google開発で試験運用中の生成AI「Bard」は、ChatGPTが5/15現在で2021年までの情報に基づく制約があるのに対して最新情報もカバー。
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- ペイパル共同創業者で起業家のピーター・ティール氏らが2003年に設立 。ビッグデータ解析プラットフォームを開発・提供。米諜報機関が対テロ分析で活用するほか、ヘッジファンドなども利用。
- 5/8発表の2023/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比17.7%増の5.25億USD、非GAAPの調整後EPSが同2.5倍の0.05USD。民間商業向け売上高が同15%増の2.36億USD、政府機関向け売上高が同20%増の2.89億USD。3月末顧客数が同41%増、12月末比で7%増。米国売上比率は64%。
- 通期会社計画を上方修正。売上高を前期比14.7-17.3%増の21.85-22.35億USD(従来計画21.80-22.30億USD)、調整後営業利益を同20.5-32.4%増の5.06-5.56億USD(同4.81-5.31億USD)とした。同社のAI (人工知能)対応データ解析プラットフォームの「ゴッサム」はウクライナ軍の対ロシア戦でも軍事作戦立案を支援。あらゆる情報を分析してどうすべきかの判断までアドバイスできるとされる。
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(注)日足の始値と終値をローソク足で表示。「始値>終値(陰線)」なら緑、「始値<終値(陽線)」なら赤。
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- 2006年設立のイスラエルの太陽光発電システム・プロバイダー。費用を抑えつつ安全で効率的な太陽光発電を可能にさせるインバータおよびクラウドベースの監視プラットフォームで構成される。
- 5/3発表の2023/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比44.1%増の9.43億USD、非GAAPの調整後EPSが同2.4倍の3.10USD。調整後粗利益率が同4.2ポイント上昇の32.6%。出荷インバータ容量は同69%増、前四半期比でも15%増。前四半期比では売上高が6.0%増、調整後EPSが8.4%増。
- 2023/12期2Q(4-6月)の会社計画は、売上高が前年同期比33-39%増の9.70-10.10億USD、調整後粗利益率が同5.3-8.3ポイント上昇の32-35%。昨年8月成立の米インフレ抑制法により米国内での太陽光発電の設備投資への税額控除が延長・拡充されたのに続き、欧州も今年2月に「グリーン・ディール産業計画」を公表。太陽光発電が「ネットゼロ産業」として規制緩和と資金支援の対象とされた。
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- (※)決算発表の予定は5/12現在であり、変更される可能性があります。
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