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“CESの投資視点(エッジAIと省電力半導体)と銀行決算”
“CESの投資視点(エッジAIと省電力半導体)と銀行決算”
2024/1/16
提供:フィリップ証券株式会社
リサーチ部:笹木 和弘
“CESの投資視点(エッジAIと省電力半導体)と銀行決算”
- 世界最大のテクノロジー見本市「CES」が9-12日に米ラスベガスで開催された。今年は、あらゆる業界の企業経営者が昨年急速に浸透した生成AI(人工知能)とどのように向き合うかが問われる年だろう。
- CESに生成AI向け半導体を出展した半導体大手クアルコム(QCOM)は、スマホやノートPCで大規模言語モデル(LLM)を実行できる半導体の新製品を開発したほか、IoT(モノのインターネット)端末向けにも独自LLMの提供を始めた。更に、開発環境も整備するなど、AIをデバイスに直接搭載しそのデバイスで処理を行う「エッジAI」のプラットフォーマーとして存在感を示し始めた。それは、エヌビディア(NVDA)がクラウドコンピューティング上で学習・推論を行う「クラウドAI」の領域で、AI向けにGPU(画像処理半導体)やソフトウエア、開発環境を整備して急成長したことを彷彿とさせるものだ。また、クアルコム傘下企業の車載用半導体SoC(システム・オン・チップ)は、電気自動車(EV)の開発を進めるソニー・ホンダモビリティのAD(自動運転)/ADAS(先進運転支援システム)のセンサーとAIで採用されている。
- エッジAIは、車やスマホ、ノートPCなどに組み込まれることから、クラウドAIと異なり消費電力を抑えることが求められる。その意味では低電力消費の半導体設計を特徴とするアーム・ホールディングス(ARM)の存在感が増し、スマホに続き他の領域でもシェアを伸ばしていくことが期待される。
- 米ウォルマート(WMT)はCESの基調講演で、利用者が文章を書き込んで要望を伝えるとAIが商品を提案してくれる新たな生成AI検索システムの開発を発表。また、フランスの化粧品大手ロレアル社は「テクノロジーが美容パフォーマンスを向上させる」として「ビューティーテック」戦略について説明。スマホを利用して肌の写真を撮ることで肌の状況をAIが判定し、最適な化粧品をユーザーに提案する機能が紹介された。生成AI活用が小売企業や消費財メーカーの生産性を高める可能性を示唆するものとして注目に値しよう。
- 大手商業銀行4行が12日、2023年10-12月期決算を発表。本業の融資は金利上昇で好調も、不良債権処理費用が増加傾向となった。今後は利下げ転換後の逆風、およびカードローン延滞や商業用不動産の価値下落などに係る損失への備えが問われそうだ。S&P500構成銘柄の内、金融商品を開発・提供する企業株全体の動向を示す「ファイナンシャル・セレクト・セクター指数」は昨年10月下旬から反転上昇。地銀破綻が相次いだ昨年3月以前の水準を上回っているのは買われ過ぎの可能性もある。Direxion デイリー米国金融株ベア3倍ETF(FAZ)も商品性に注意の上で活用も検討される。(笹木)
- 1/16号では、ARM Holdings PLC(ARM) 、ガーミン(GRMN)、キーサイト・テクノロジーズ(KEYS)、モンゴDB(MDB)、オン・セミコンダクター(ON)、アルタ・ビューティ(ULTA)を取り上げた。
S&P500業種別およびダウ平均構成銘柄騰落率(1/12現在)
1月16日(火) | ゴールドマン・サックスG、モルガン・スタンレー、PNCファイナンシャル・サービシズG |
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1月17日(水) | ディスカバー・ファイナンシャル・サービシズ、キンダー・モルガン、シチズンズ・フィナンシャルG、チャールズ・シュワブ、プロロジス、USバンコープ |
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1月18日(木) | JBハント・トランスポート・サービシズ、PPGインダストリーズ、ファスナル、キーコープ、M&Tバンク、トゥルイスト・ファイナンシャル、ノーザン・トラスト |
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1月19日(金) | ステート・ストリート、SLB、フィフス・サード・バンコープ、コメリカ、リージョンズ・ファイナンシャル、ハンチントン・バンクシェアーズ(オハイオ州)、トラベラーズ |
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1月22日(月) | ZBナショナル・アソシエーション、ブラウン・アンド・ブラウン、ユナイテッド・エアラインズHD |
1月15日(月) | - 米キング牧師生誕記念日で祝日、株式・債券市場は休場、 米アイオワ州で共和党の党員集会および大統領選挙の予備選・党員集会スタート、世界経済フォーラム(WEF)年次総会(スイス・ダボス、19日まで)
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1月16日(火) | - 米ウォラーFRB理事の講演
- 米ニューヨーク連銀製造業景況指数 (1月)
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1月17日(水) | - 米地区連銀経済報告(ベージュブック)公表、米ニューヨーク連銀総裁の講演、北大西洋条約機構(NATO)国防相会合(ブリュッセル、18日まで)、OPEC月報、米20年債入札、韓国サムスン電子のイベント(米カリフォルニア州サンノゼ)
- 米輸入物価指数(12月)、米小売売上高 (12月)、米鉱工業生産(12月)、米NAHB住宅市場指数(1月)、米企業在庫(11月)
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1月18日(木) | - 米アトランタ連銀総裁が2カ所で講演、米大統領選共和党候補の討論会(ニューハンプシャー州)、ECB議事要旨(12月会合)、米10年インフレ連動債入札
- 米新規失業保険申請件数 (13日終了週)、米住宅着工件数 (12月)、米フィラデルフィア連銀製造業景況指数(1月)
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1月19日(金) | - 米サンフランシスコ連銀総裁が座談会に参加、米つなぎ予算一部失効期限
- 米中古住宅販売件数(12月)、米ミシガン大学消費者マインド指数・速報値(1月)、対米証券投資(11月)
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1月22日(月) | |
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- 1990年設立の英企業でソフトバンクG傘下。世界の半導体企業向けに高性能・低コスト・高エネルギー効率のCPU製品と関連技術を設計・開発し、ライセンスを供与。スマホ向けは世界市場独占。
- 11/8発表の2024/3期2Q(7-9月)は、売上高が前年同期比27.9%増の8.06億USD、非GAAPの調整後EPSが同2.1倍の0.36USD、調整後フリーキャッシュフローが同5.1倍の1.69億USD。受注残を意味する残存履行義務(RPO)は、同38%増の24.14億USDと拡大。前四半期比でも44%増だった。
- 通期会社計画は、売上高が前期比11-15%増の29.6-30.8億USD、調整後EPSが同56-72%増の1.00-1.10USD。同社半導体設計製品の世界シェア(2022年)は、モバイルが99%と独占のほか、IoT(モノのインターネット)が65%、車載向けが41%、クラウドコンピューティングが10%を占める。生成AI(人工知能)対応でIoTや車載向けでも省電力が強く求めらる中で同社製品の優位性が高まろう。
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ガーミン(GRMN)市場:NYSE・・・2024/2/22に2023/12期4Q(10-12月)の決算発表を予定
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- 1989年に米国で設立。現在はスイス本拠でGPS活用ナビゲーション・通信・情報デバイスの設計・開発・製造・販売を行う。フィットネス、アウトドア、航空、海洋、自動車の5事業セグメントを展開。
- 11/1発表の2023/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比12.0%増の12.77億USD、非GAAPの調整後EPSが同13.7%増の1.41USD。自動車OEMが59%増収、フィットネスが同26%増収と業績を牽引のほかアウトドアと航空も増収と堅調。それを受けてフリーキャッシュフローが同3.0倍の3.11億USD。
- 通期会社計画を上方修正。売上高を前期比約6%増の51.5億USD(従来計画50.5億USD)、調整後EPSを同2%増の5.25USD(同:5.15USD)。同社ブランドは、スマートウォッチ市場がアップルのApple Watch一強の様相のなか競技ごとに製品が細分化されアスリート向け高級ブランドとして独自の地位を築いている。Apple Watch新製品が特許侵害訴訟で販売動向不安があることも追い風だろう。
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- ヒューレット・パッカードから独立したアジレント・テクノロジー(A)の電子計測事業を2014年に引き継ぐ。無線通信、航空・宇宙・防衛、半導体の各市場向けに電子計測プラットフォームなどを提供。
- 11/20発表の2023/10期4Q(8-10月)は、売上高が前年同期比9.1%減の13.11億USD、非GAAPの調整後EPSが同7.0%減の1.99USD。受注額が同15.5%減に対し、フリーキャッシュフローが同横ばい。航空宇宙・防衛・政府関連が同4%増収の一方、商業通信が同17%減収、電機・産業が同7%減収。
- 2024/10期1Q(11-1月)会社計画は、売上高が前年同期比11-9%減の12.35-12.55億USD、調整後EPSが同24-21%減の1.53-1.59USD。半導体・製造業顧客の支出縮小が続く見通し。他方、9-12日にラスベガスで開催のハイテク見本市CESで展示の電気自動車(EV)向け電子部品開発環境は、ソフトウェアにAI(人工知能)と機械学習ベースの最新技術搭載。自動車向けの業績牽引が期待される。
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モンゴDB(MDB)市場:NASDAQ・・・2024/3/8に2024/1期4Q(11-1月)の決算発表を予定
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- 2007年設立。汎用目的のデータベース・プラットフォームの開発を行う。同社のクラウドサービスを通じて、企業はオープンソースのデータベース(DB)を迅速かつ低コストで導入・開発・運営できる。
- 12/5発表の2024/1期3Q(8-10月)は、売上高が前年同期比29.8%増の4.18億USD、非GAAPの調整後EPSが同4.2倍の0.96USD。調整後粗利益率が同3ポイント上昇し、フリーキャッシュフローが前年同期▲8百万USDから35百万USDへ黒字転換。前四半期比も調整後EPSが3.2%増、有償顧客数が3.1%増。
- 通期会社計画を上方修正。売上高を前期比29-30%増の16.54-16.68億USD(従来計画15.96-16.08億USD)、調整後EPSを同4.2-4.3倍の2.89-2.91USD(同:2.27-2.35USD)とした。同社のドキュメント指向データベースは複雑なデータの扱いやすさの他、負荷水平分散による規模拡大やデータ同期による耐障害性の強さから生成AI(人工知能)活用に必要な大量のデータ分析に有効だろう。
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- 1999年設立の半導体ソリューション企業。電力ソリューション(PSG)、先端ソリューション(ASG)、インテリジェント・センシング(ISG)の3事業グループを営む。センサーほか包括的ポートフォリオを提供。
- 10/30発表の2023/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比0.5%減の21.80億USD、非GAAPの調整後EPSが同0.4%減の1.39USD。車載向けのPSGが同10%増と堅調も、ISGが同4%、ASGが同15%減収。全体の前四半期比では、売上高が4.1%増、調整後EPSが4.5%増と、2Qに続き回復基調。
- 2023/12期4Q(10-12月)会社計画は、売上高が前年同期比7-3%減の19.50-20.50億USD、調整後EPSが同14-4%減の1.13-1.27USD。前四半期比での改善が期待される。同社は約45%の世界首位を占める車載イメージセンサーでサイバーセキュリティ対策強化、世界2位のSiC(シリコンカーバイド)パワー半導体で生産能力引き上げの両輪で、売上比率約5割を占める自動車向け拡大に注力。
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(注)日足の始値と終値をローソク足で表示。「始値>終値(陰線)」なら緑、「始値<終値(陽線)」なら赤。
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- 1990年設立の米国最大の美容専門小売店。化粧品、香水、スキンケア・ヘアケア製品、サロンサービスなど提供。一流ブランドから新興ブランドまで扱う。米国内で1374店舗を展開(23年8月末)。
- 11/30発表の2024/1期3Q(8-10月)は、売上高が前年同期比6.4%増の24.88億USD、EPSが同5.1%減の5.07USD。Eコマース含む既存店売上高は、客単価低下も購買件数増により同4.5%増。他方、粗利益率が同1.3ポイント、売上高販管費率が同1.1ポイント悪化。在庫調整や人件費増が響いた。
- 通期会社計画を上方修正。既存店売上高伸び率を前期比5.0-5.5%(従来計画4.5-5.5%)、EPSを同5-7%増の25.20-25.60USD(同:25.10-25.60USD)とした。9-12日にラスベガスで開催のハイテク見本市CESで「ビューティーテック」が注目されるなか、同社はパーソナライゼーションへ注力するため2019年にAI企業のQMサイエンティフィック買収以降、美容業界でのAI(人工知能)活用で先行。
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- (※)決算発表の予定は1/12現在であり、変更される可能性があります。
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