今後のドル円はサミット次第!?
今週18日に我が国の1-3月期GDP速報値が発表されますが、ここを一つの転機にして為替市場が大きく動くことになるかもしれません。GDP速報値の市場予想は前期比年率+0.28%と前期からの改善が見込まれるものの、2/29の「うるう年」の影響が数値を押し上げているとされており、実質的には2四半期連続のマイナスになるといわれています。
内訳を見ると設備投資が-0.8%と3四半期ぶりのマイナスに転じると予想される一方で、GDPの6割を占めるといわれる個人消費は前期比+0.3%と堅調な数値が予想されます。しかし、これも2/29の「うるう年」の影響が反映されていることから、実質的には個人消費も低迷したままの状況が続いているのが実態といった冷静な分析もあるようです。
これまで日銀は景気認識について「緩やかな回復基調が続いている」、「マイナス金利の効果が現われるまで時間がかかる」、として景況判断を据置いてきましたが、今回の結果次第ではそうした認識も修正を迫られることになりそうで、既に市場の一部からは6月の政策会合での追加緩和に対する期待が高まっており、ドル円の下値支援材料として機能しているとの見方もあります。また、5/18のGDP速報値発表の午後には国会で党首討論が予定されており、消費税増税の先送りや財政出動の規模を巡る議論が本格化する可能性があります。
ただ、そこで問題になるのが「財政出動」を巡る日本とドイツの対立かもしれません。今月初めに訪独した安倍首相がメルケル首相に財政出動の必要性を説いたものの、ドイツ側は頑なに財政の黒字化の重要性を訴えたこともあり伊勢志摩サミットの共同声明に、『財政出動』を盛り込みたい意向の安倍首相の描くシナリオが既に難しくなっているとの懸念も聞かれます。ドイツを除く欧州各国首脳も財政出動に前向きな見解を示しているものの、ドイツが反対したままの状況ではサミットの声明でも協調体制どころか、足並みの乱れが強調されることになれば金融市場の波乱要因になりかねません。
一方で米国は日本に対し財政出動を迫り、景気回復を輸出に頼ることなく内需中心の政策に移行すべきとの注文をつけています。そのため、一部からは2月末の上海G20での共同声明(以下ご参照)を踏襲した内容に留まる可能性を指摘する見方もあるようです。
上海G20での共同声明
市場の安定化に向けてあらゆる政策を総合的に用いる |
機動的な財政政策の実施 |
すべての政策手段を総合的かつ個別に用いる |
通貨の競争的切下げの回避 |
昨年ドイツは数十年ぶりに財政黒字を達成しましたが、国営・公営企業の赤字を民間に付替えたに過ぎず、実態は財政赤字のままといった見方もあります。日米間が親密さを増しているのに対して英・独・仏がともに反米姿勢をとっている構図は、中国のAIIB(アジア開発投資銀行)への出資を巡る時期にも明らかになりましたが、今回の伊勢志摩サミットでも「財政出動」を巡って同様に対峙する構図が繰り返されることになるのか注目です。日本は単独でも財政出動を推し進めるのか、議長国としての立場という足かせがある中で、ドイツに押し切られてしまえば、政策期待が一転失望に転じ市場の混乱を招きかねません。
GDP発表以降に相場が大きく動き出す可能性があるだけにサミット終了までは要人の発言に注意する必要がありそうです。また、伊勢志摩サミットを前に5/20-21には仙台でG7財務相・中央銀行総裁会議が開催されます。今月5/9、麻生財務相は円高進行に対する牽制トーンを強め、それまでの「必要に応じて対応する」との表現から「介入の用意がある」「一方的に偏った動きが続けば介入は当然」とアクセルを一段踏み込んだ発言に変更しています。これに対し、ルー米財務長官は5/13のワシントンでの講演の中で「通貨安競争につながりかねない為替介入には否定的である」として麻生財務相の発言を牽制したのではとの声も聞かれました。
米財務相が仙台G7財務相・中央銀行総裁会議で顔を合わせることになるだけに、日米双方の対立が深まるのか、妥協を見出すべく努めるのか注目されます。はたして、一連の動きが市場の失望を誘い円高が再燃するのか、あるいは期待値の押上げにつながるのか今週を皮切りに来月の日米双方の金融政策会合までの道筋が最大の注目となりそうです。