米5月雇用統計の要点
(1)就業者数の伸びが3.8万人に鈍化、2010年9月以来5年8ヶ月ぶりの低水準
(2)失業率は4.7%とリーマンショック前の2007年11月以来の低水準まで改善
(3)完全雇用に近い状態で就業者数の伸び悩みは必然
(4)労働参加率は62.6%と昨年12月以来の水準へ低下
(5)時間給賃金は前月比+0.2%、前月は+0.4%、前年比+2.5%は4月と変わらず
(6)平均失業期間も27.7週から26.7週へ改善
(7)通信大手ベライゾンのストライキ(3.5万人)が電気通信分野の減少に影響
米雇用統計非農業部門 就業者数
先週末に発表された、米国の5月雇用統計は、非農業部門就業者数が3.8万人増と2010年9月以来の水準へ低下したことで、時間給賃金や失業率の改善は材料視されず、FRBの早期利上げ観測が大きく後退しました。
イエレン議長はフィラデルフィアでの(経済見通しと金融政策)の講演の中で『条件が整えば緩やかな利上げが適切になる可能性がある』として、5月27日のハーバード大での討論会で示した『米国経済は改善しており、数カ月以内に利上げするのが適切である』との発言とは対照的に利上げ時期の具体的な言及を明示せず、早期利上げに慎重な姿勢を示しました。
イエレン議長は今回の雇用統計に関し『失望したものの、単月のデータを過度に重視すべきではない』として緩やかな利上げ姿勢の継続を想定し、『前向きな景気見通しがマイナス要因を上回っている』とも述べています。
一方で先週末にブレイナードFRB理事が『非自発的パートタイマーの増加と労働参加率の低下が失業率の低下の要因であり、雇用環境は減速した』と発言した内容と比べ、今回のイエレン発言は鈍化した雇用統計による米国経済への先行き懸念を沈静化するよう、慎重に言葉を選んで発言することで、債券・株式市場に配慮したためではないでしょうか。
米失業率(%)
失業率が4.7%と2007年11月以来の低水準に改善する一方で、「就業者数の伸びの鈍化は雇用回復の成熟期に見られる現象で完全雇用下では就業者数が増加しづらい」と、特定こそしませんでしたが、こうした点も考慮した上での発言だったかもしれません。
米時間給賃金 前日比(%)
さらに時間給賃金も決して悲観するような数値ではないだけに、今回の雇用統計とイエレン議長の発言を受けた市場の一般的な解釈は『利上げサイクルは継続されるものの次期利上げのタイミングがやや後退』といったところかもしれません。
いずれにしても今後の米経済指標や6月23日の英国のEU離脱の是非を問う国民投票などの外的要因も踏まえ、次期利上げについては慎重に判断していくと考えられます。
こうした状況下でドル/円は5月3日の105円55銭が当面の下値メドとして意識されるものの、110円台回復の実現には日銀の政策会合の行方や政府による財政出動などの具体的政策の実行に委ねられるのかもしれません。