世界的に新型コロナウイルスの感染拡大がピークアウトしつつあるうえ、米追加経済対策が成立。NYダウが再び過去最高値を更新してきたことから、日経平均株価の動きも落ち着きを取り戻してきました。
日経平均株価は3/16(火)のザラ場ベースで3万円を回復してきましたが、その後も上昇するでしょうか。
こうした折、上場企業の来期純利益が大幅増益の見通しであることも報道されていますが、「死角」はないのでしょうか。
日経平均株価の3月第2週(3/8〜3/12)終値は29,717円83銭となり、前週末(3/5)比853円51銭(3.0%)高となりました。週足ベースでは、2月第3週(2/15〜2/19)の1.7 %高以来の反発となりました。
工作機械受注の上昇を受けて、設備投資関連株が買われた他、米追加経済対策の成立を見込んだ景気回復期待から鉄鋼など景気敏感株が幅広く買われる展開となりました。
こうした中、米追加経済対策は3/10(水)に下院で再審議を終え、予定よりも1日早い3/11(木)に成立しました。なお、1.9兆ドル規模の追加経済対策は「アメリカ救済計画」とも呼ばれ、国民一人当たり最大で1,400ドルの現金給付の他、新型コロナウイルスの検査拡大や、ワクチン供給などにも支出されます。
NYダウの3月第2週(3/8〜3/12)終値は前週末比4.1%高で、週足ベースで続伸となりました。米追加経済対策の成立による経済正常化期待から、3/12(金)の終値ベースで6日続伸、3日続けて過去最高値を更新。S&P500は4日続伸、連日で過去最高値を更新しています。
一方、米長期金利は3/12(金)に発表された2月生産者物価指数が前年比2.8%増となり、前月の同1.7%増から大きく上昇したことを受けて再び1.64%台まで上昇。しかし、株価への影響は限定的で、金利上昇に対する株式市場の“耐性”は高まる傾向にあるようです。NYダウは3/15(月)に再び過去最高値を更新。それを受け、日経平均株価も3/16(火)にザラ場ベースで3万円を回復しました。
気になるトピックス
3/17(水)開催予定のFOMC(米連邦公開市場委員会)で公表される“FOMCメンバーによるFF金利見通しを示すドットチャート”に注目が集まります。米追加経済対策の成立などを受け、上方修正されることが見込まれる中、これらFOMCの結果を受けた米長期金利の動向が気になるところです。
現在、2023年末の米政策金利(上限)について、17人のFOMCメンバーのうち12人が0.25%の予想ですが、この人数が増えると米長期金利上昇につながる可能性があります。
なお、3/19(金)には日銀金融政策決定会合が予定されており、こちらも注目でしょう。
図表1 日経平均株価の値動きとその背景(2021/3/9〜2021/3/16)
日経平均株価 | 日米株式市場等の動き | ||
終値 | 前日比 | ||
3/9(火) | 29027.94 | +284.69 | 4日ぶりに反発。米追加経済対策が週内に成立見通しとなり、景気回復期待感。 |
3/10(水) | 29,036.56 | +8.62 | 続伸も値下がり銘柄数が過半。SOX指数の上昇を受けて、半導体関連株が総じて高い。 |
3/11(木) | 29,211.64 | +175.08 | 米株高を追い風に上昇。海運株が高い。アナリストが海運3社の利益予想を上方修正。 |
3/12(金) | 29,717.83 | +506.19 | 先物主導で上げ幅を拡大。SQ算出日で売買代金が膨らむ。楽天が郵政と資本提携と報道で上昇。 |
3/15(月) | 29,766.97 | +49.14 | 5日続伸。約2週間半ぶりの高値。米株高を追い風に上昇し、景気敏感株が買われる。 |
3/16(火) | 29,921.09 | +154.12 | 日経平均株価はザラ場中に一時3万円台回復も、FOMCを控え様子見ムードから上値は重い展開。 |
- ※日経平均株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図表2 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとに作成。データは2021/3/16取引時間中。
図表3 NYダウ(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとに作成。データは2021/3/16。
図表4 ドル・円相場(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとに作成。データは2021/3/16。
図表5 当面の重要スケジュール
月日 | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
3/17(水) | 日本 | 2月貿易統計 | |
アメリカ | FOMC結果発表〜パウエルFRB議長会見(経済見通し発表) | 会見後のドットチャートの変動に注目 | |
2月住宅着工件数 | |||
2月建設許可件数 | |||
3/18(木) | 日本 | 日銀金融政策決定会合(〜19日) | |
2月首都圏新規マンション発売 | |||
アメリカ | 3月フィラデルフィア連銀製造業景況感指数 | ||
★決算発表 | ナイキ、フェデックス、アクセンチュア、ダラーゼネラル | ||
3/19(金) | 日本 | 黒田日銀総裁会見 | ETF買い入れ額等の変動にも注意 |
日銀、金融政策の点検結果公表 | |||
2月消費者物価 | |||
3/22(月) | アメリカ | シカゴ連銀全米活動指数 | |
2月中古住宅販売件数 | |||
3/23(火) | アメリカ | 10-12月期経営収支 | |
2月新築住宅販売件数 | |||
★決算発表 | アドビ | ||
3/24(水) | 日本 | 1/20・21開催の日銀金融政策決定会合議事要旨 | |
2月企業向けサービス価格指数 | |||
アメリカ | 2月耐久財受注 | ||
3/25(木) | 日本 | 東京五輪の聖火リレーが福島からスタート予定 | |
アメリカ | 10-12月期実質GDP | ||
EU | EU首脳会議(〜26日) | ||
3/26(金) | アメリカ | 2月個人所得・個人支出 | |
2月PCEコアデフレーター | |||
ドイツ | 3月IFO景況感指数 |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2021年 | |
日銀金融政策決定会合 | 3/19(金)、4/27(火)、6/18(金)、7/16(金)、9/22(水)、10/28(木)、12/17(金) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 3/17(水)、4/28(水)、6/16(水)、7/28(水)、9/22(水)、11/3(水)、12/15(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 4/22(木)、7/22(木)、9/9(木)、10/28(木)、12/16(木) |
- ※日米欧中銀WEBサイトを基にSBI証券が作成。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。
なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しています。日付は日本時間(ただし、ECBの結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
今後、日経平均株価は上昇するのでしょうか、下落するのでしょうか。
そこで重要になるのは、(A)日経平均株価自体への理解と、(B)日経平均採用銘柄の業績推移になります。
(A)「日経平均株価」の計算方法とは
株式の額面制度は2001年の商法改正で廃止されている(日経平均はこの方法を採用しているが)ため、
日経平均株価は原則的に、「50円額面に換算後の全銘柄の合計を除数(27.769)で割る」ことによって求めることができます。
ここで、多くの銘柄は単純に合算していけば良いのですが、50円額面に換算するため、「修正株数」のある銘柄については修正倍率をかける必要があります。
では、図表7をもとに確認してみましょう。
ファーストリテイリング(9983)は「修正株数」が1のため、そのまま足しますが、ソフトバンクグループ(9984)は「修正株数」が6のため、6をかけた後に足していくことになります。
3/12(金)時点、日経平均採用銘柄合計の修正株価(修正株価合計)は825,234円と計算され、それを除数(27.769)で割って求められた金額29,717円83銭が、この日の日経平均株価です。
また、図表7の「ウエイト」に記載の通り、ファーストリテイリング(9983)の株価(94,700円)は修正株価合計の11.5%を占めることが分かります。
なお、図表に掲載した20銘柄は、日経平均株価のウエイトが高い上位の20銘柄となり、日経平均株価変動に大きく影響することから“高寄与度銘柄”と表現されることがあります。
ちなみに、3/12(金)の日経平均株価は約506円高、東京エレクトロン(8035)は1810円高でした。
この日の東京エレクトロンの日経平均株価への寄与度を算出するには、東京エレクトロンの変動幅1810円高に対し、除数(27.769)で割ることで求められます。
1,810円÷27.769=65.1806円
日経平均株価の変動(506円高)に対し、東京エレクトロンの上昇が約65円寄与したことが分かります。
(B)日経平均採用銘柄の業績推移とは
日経平均採用銘柄の業績が拡大傾向ならば、日経平均株価は上昇しやすく、その業績が縮小傾向ならば、株価は下落しやすいと考えられます。
日経平均採用銘柄の業績見通しを表す予想EPS(1株利益)は2019/7/25に1,794円(加重平均ベース・以下同じ)ありましたが、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大によって企業の業績予想は悪化し、2020/5/18に548円まで減少しました。
しかし、世界的な金融緩和と経済対策等により、2021/3/12(金)には1,304円まで回復しています。日経平均株価は2020/3/19に安値16,552円を付け、2021/2/16高値30,467円まで約84%も上昇しました。
日経平均株価の予想EPSは上記したように2020/5/18の底値548円から2021/3/12(金)の1,304円まで、約2.3倍にもなっているため、株価は素直に業績の回復を織り込んできたことが考えられます。
こうした中、3/15(月)の日本経済新聞では、上場企業458社の2022/3期は純利益が約35%増える見通し(市場コンセンサス)であることが報じられました。上場企業の純利益は2021/3期まで3期連続で減益になる予想ですが、2022/3期は増益となり、2019/3期並みの利益水準を回復する見込みです。「225の『ココがPOINT!』」による計算でも、日経平均採用銘柄の「来期」の純利益は3割超の増益予想(市場予想)になっています。したがって、日経平均株価の予想EPS(加重平均)は増加が期待されます。
ただ、問題は5月中旬に3月決算企業(日経平均採用銘柄の約84%)の決算発表が出揃った時、今期に続き、業績予想を見送る銘柄が多く出る可能性があることです。
そもそも、日本企業は保守的な傾向が強く、新型コロナウイルスの影響がなかった年についても、期初の会社予想増益率は高く出ない傾向があります。
さらに気になるのは、「日経平均高寄与度銘柄」の業績見通しです。
特にソフトバンクグループ(9984)の純損益は前期9,616億円の赤字から今期は2.2兆円超の黒字へと3兆円超改善すると予想(市場コンセンサス)され、来期は1.6兆円程度反動減となる予想になっています。この他、ソニー(6758)なども来期は反動減となる予想(同)です。
日経平均の予想PERや予想EPSの考え方については、上記の「加重平均ベース」に対し、修正株数を意識した「指数ベース」の方が「実力」に近いという見方があります。日経平均株価を計算する時に、銘柄によっては「修正株数」をかけた後に合算するのだから、業績を集計する時も修正株数を勘案するのが妥当と考えられるためです。
高寄与度銘柄の一角が今期大幅増益の後、来期は反動減となる可能性があり、その影響で、3月決算企業の決算発表一巡後、日経平均の予想EPS(指数ベース)が伸び悩む、または下落する可能性もあります。
株式市場がそのリスクを織り込んだ場合、今年は文字通りの「Sell in May」になる可能性があります。
図表7 日経平均株価とその‘高寄与度銘柄’
コード | 修正株数(A) | 株価(B) | 修正株価(A)×(B) | ウエイト | 今期予想増益額(億円) | 来期予想増益額(億円) | |
9983 | ファーストリテイリング | 1 | 94,700 | 94,700 | 11.5% | 857 | 398 |
9984 | ソフトバンクグループ | 6 | 10,635 | 63,810 | 7.7% | 32,124 | -16,205 |
8035 | 東京エレクトロン | 1 | 42,220 | 42,220 | 5.1% | 461 | 500 |
6954 | ファナック | 1 | 27,230 | 27,230 | 3.3% | 108 | 468 |
6367 | ダイキン工業 | 1 | 22,975 | 22,975 | 2.8% | -110 | 394 |
9433 | KDDI | 6 | 3,479 | 20,874 | 2.5% | 128 | 74 |
2413 | エムスリー | 2 | 7,727 | 18,545 | 2.2% | 140 | 110 |
4063 | 信越化学工業 | 1 | 18,425 | 18,425 | 2.2% | -143 | 480 |
6857 | アドバンテスト | 2 | 8,710 | 17,420 | 2.1% | 31 | 65 |
4543 | テルモ | 4 | 4,164 | 16,656 | 2.0% | -102 | 174 |
6762 | TDK | 1 | 15,410 | 15,410 | 1.9% | 261 | 330 |
6098 | リクルートホールディングス | 3 | 5,075 | 15,225 | 1.8% | -522 | 488 |
6971 | 京セラ | 2 | 7,442 | 14,884 | 1.8% | -190 | 366 |
4519 | 中外製薬 | 3 | 4,517 | 13,551 | 1.6% | 368 | -145 |
6758 | ソニー | 1 | 11,330 | 11,330 | 1.4% | 4,605 | -3,301 |
4568 | 第一三共 | 3 | 3,223 | 9,669 | 1.2% | -688 | 199 |
9735 | セコム | 1 | 9,605 | 9,605 | 1.2% | -87 | 144 |
7733 | オリンパス | 4 | 2,396 | 9,584 | 1.2% | -323 | 684 |
6988 | 日東電工 | 1 | 9,540 | 9,540 | 1.2% | 156 | 84 |
4503 | アステラス製薬 | 5 | 1,813 | 9,065 | 1.1% | -223 | 422 |
他の205銘柄 | - | - | - | - | - | ||
日経平均採用銘柄合計(C) | 825,234 | 100.0% | 26,588 | 64,432 | |||
除数(D) | 27.769 | ||||||
日経平均株価:3/12(金)終値 | (C)÷(D) | 29717.83 |
- ※BloombergデータをもとのSBI証券が作成。データはすべて3/12(金)現在です。