原油価格の下落基調が続いています。12/4のOPEC(石油輸出国機構)総会後にWTI価格は40ドルを割り込み、一時リーマンショック後の安値近くまで下落しました。12/23のWTI価格は予想外の在庫減少で大幅な反発となりましたが、先行きの下値不安は依然として強いようです。商品には株式や債券のような「妥当な価格」がないため、極端な価格が付く可能性があり、注意が必要でしょう。原油価格の考えうる底値としては、シェールオイル生産の現金コストである1バレル20ドルが目安となります。
一方、時間をかければ原油需給の均衡は可能で、中期的には原油価格は戻していくことが見込まれます。30ドル台後半の現在の水準も歴史的な安値にあると考えられます。ただし、原油価格の上昇にベットする場合も、目先は供給過剰が続くため一段安の可能性があること、また、一時的でも20ドル近くの価格が付く可能性があることを踏まえて行う必要があるでしょう。
図表1:原油関連商品
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コード | 銘柄 |
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VDE | バンガード 米国エネルギーセクター ETF |
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原油価格はなぜこんなに下がるのか? |
原油価格の下落基調が続いています。12/4のOPEC総会後にWTI価格は40ドルを割り込み、一時リーマンショック後の安値近くまで下落しました(図表2)。12/23は予想外の在庫減少で大幅な反発となりましたが、先行きの下値不安は依然として強いようです。
なぜ原油価格の下落が続いているかというと、非常に単純な話ですが、14年4-6月期以降原油の供給が需要を上回り続けているからです(図表3)。15年7-9月期には日量95.3百万バレルの世界需要に対して96.9百万バレルが供給され、毎日平均して1.6百万バレルの原油が生産過剰となって在庫が積み上がった計算です。
なぜこのような状態が続いているかというと、サウジアラビアが米国のシェール革命による増産に危機感をもち、供給過剰下でも生産量を維持して価格を下げ(価格を支えず)、シェアを維持しようとしているためです。
しかし、米国のシェールオイルの生産は想定外に底堅く(図表4)、世界的な供給過剰の状態が長期化しています。なぜシェールオイルの生産がなかなか落ちないかというと、生産効率の高い油井で集中的に生産を増やすことで、稼動リグの減少を補ったためです。
一方、サウジアラビアはシェールオイルの生産の減少幅に満足せず、12/4のOPEC(石油輸出国機構)総会でも減産合意に向けて積極的に動かなかったとされ、OPECは実効性のある生産枠に合意できませんでした。
このため、供給過剰の状態は今後も続くとの懸念が高まり、OPEC総会後に原油価格は一段安となりました。
図表2:リーマンショック後のレベルまで下落しているWTI原油価格
- ※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表3:1年以上にわたり供給過剰が続く世界の原油市場
- ※BloombergデータよりSBI証券が作成
図表4:想定外に底堅い米国の原油生産
- ※BloombergデータよりSBI証券が作成
原油価格の底値は20ドル!? |
供給過剰が続いて下値不安が大きい原油価格ですが、では、どこまで下がる可能性があるのでしょうか?
ここ10年来金融商品のひとつとして扱われることも増えた原油・銅・農産物などのコモディティ(一次産品)ですが、株や債券と基本的な性質が異なることに注意が必要でしょう。
というのは、そもそも原油などのコモディティには「妥当な価格」がないためです。株式や債券は将来のキャッシュフローの予測に基づいて値段が付くため「妥当な価格」のレンジが存在します。
しかし、コモディティには利息が付きませんし、保有にコストはかかってもキャッシュフローを生むことはないため、株式や債券に比較できるような「妥当な価格」がありません。その時々の需要と供給によって価格が形成されるため、一時的ではあっても極端な価格がつくことがあり得ます。
原油価格の考えうる底値は、ゴールドマン・サックスのアナリストがターゲットとしている1バレル20ドルになります。これはシェールオイル生産者の現金コスト(資本コストや減価償却費を含まない生産に必要な直接コストです)に相当します。この水準を下回ると生産するたびに損失が出るために、シェールオイルの生産者の多くが生産をやめるという水準です。
ただ、20ドルに到達する前にシェールオイルの生産業者は壊滅的な打撃を受けるでしょうし、金融機関もシェール事業者への資金提供をやめるでしょう。そうなると、サウジアラビアはシェール潰しの成功に満足して、減産をリードして値戻しに動く可能性があります。
ですから、実際には20ドルに到達することはないと考えられますが、可能性のある水準として心得ておく必要があるでしょう。
中期的には歴史的な安値 |
当面原油価格の下値不安は強く、1バレル20ドルを下限としてどこまで下がるかは言いがたいものがありますが、現在の30ドル台後半でも歴史的な安値であることに違いなく、中期的には原油価格は戻っていくと見られます。
今後の原油価格を見る上でのプラス材料とマイナス材料を整理してみます。
【プラス材料】
◯米国の原油生産は減少見込み(図表5)。
EIA(米エネルギー情報局)による見通しで、1年以上かけて100万バレル程度とゆっくりとした減少を見込んでいます。
◯中東の産油国も我慢している。
中東の主要産油国の生産コストは、1バレル数ドルと言われ、現在の価格でも採算面からの問題はありません。しかし、財政収支は既に赤字となっている国が多く、数年は耐えられても長期に放置できる価格水準ではないと考えられます。
◯価格下落は原油需要を刺激する。
米国でガソリン消費の多い大型車が売れたり、運転距離が伸びているというのは、このような動きのひとつでしょう。ただし、需要拡大は時間をかけて起こると考えられ、目先の需要には大きな影響はないかもしれません。
【マイナス材料】
◯イランの増産。
経済制裁が解除された場合、日量100万バレルの増産意向とされます。OPEC諸国の11月の生産量は3,200万バレル(うちイランは280万バレル)で、OPEC内での調整がつかないと3,300万バレルに増える計算です(図表6)。EIAでは、予想の前提として16年4-6月期の輸出再開を見込んでいます。
これらの材料を踏まえて1年後の原油需給を考えてみましょう。
世界の原油需要は年率1.5%程度で増加しています。15年7-9月期を基準にすると、日量95.3百万バレルの需要は1年後には96.7百万バレルに増加する見通しです。イランが目指す100万バレルの増産は米国の生産減少でほぼ相殺されるとすると、1年後の供給も15年7-9月期と同じ96.9百万バレルとなります。1年後にはほぼ供給過剰が解消して需給が均衡すると見込まれ、価格は戻っていくことが期待されます。
また、現在の価格水準はOPEC諸国の財政を長期に維持することはできないため、シェールオイル生産が十分な打撃を受けて少々価格が戻っても生産量は戻らないと判断した時点で値戻しに動くと期待されます。
ご参考に12/23の原油先物市場で成立した将来限月の先物の価格をご紹介しておくと、16年末にかけて40ドル台半ばまで戻るというのが、12/23時点の情報による市場のコンセンサスとなっています(図表7)。
当面注目されるのは、OPEC総会後の原油価格の一段安や米国でのハイイールド債の問題がシェールオイルの生産にどのような影響を与えているかということでしょう。図表5のEIA見通しは12/8に掲載されたもので、このような展開は反映されていないと考えられます。16年1/12発表の次回号で変化が見られるかどうか注目されます。
結論としては、原油価格は歴史的な安値にあり、中期的には戻りが期待できる水準と考えられます。しかし、目先は供給過剰の状態が続くと見込まれるため下値不安は強く、原油価格の上昇にベットする場合も引きつけて買う、そして、20ドル近くに下がる可能性を踏まえた上で買うということが必要と考えられます。
図表5:米国の原油生産推移(白抜きはEIAの予想)
- ※EIA(米エネルギー情報局)の「短期エネルギー見通し(15年12月)」よりSBI証券が作成
図表6:OPEC、サウジアラビア、イランの原油生産推移
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表7:原油先物の価格カーブ(12/23)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。