IoT(モノのインターネット)、株式市場での物色は意外に早く始まる可能性がありそうです。ここ2年ほど耳にはするものの、身近なサービスとしてどのようなものになるかまだ漠然としています。しかし、IoTが成立するために必要なハードの機能(機器・部品)は既にはっきりしています。IoTで注目できる企業のお話をしたいと思います。
結論となる注目銘柄は、テキサス インスツルメンツ(TXN)、ブロードコム(BRCM)、村田製作所(6981)、ルネサス エレクトロニクス(6723)、ARM ホールディングス(ARMH)、です。
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モノのインターネットって? |
モノが情報端末を介してインターネットに繋がることで、離れたモノの状態や周囲の情報を得たり、インターネット経由で離れたモノの操作を行えるようになることを指します。
実際に、インターネットに繋がるモノは増えています。身近な日本の事例を取りますと、最も有名なのは、象印の「みまもりほっとライン i-pot」でしょう。これは、離れて住む親を見守ることができる通信機能がついたポットです。電源のオン、給湯、保温中などの使用状況がインターネットを通じてスマホやパソコンで見ることができるサービスです。
産業界では、コマツの「KOMTRAX」が有名です。これは当社の建機に車両の状態や稼働状況をチェックするセンサーやGPS装置を取り付けて情報収集するシステムです。このデータを分析することにより、顧客への各種提案、製品の需要予測、盗難防止などで効果を挙げたと言われています。
図表1: モノのインターネットの概念図

- ※各種資料よりSBI証券作成
これはほんの一例ですが、モノがネットに繋がることで生活を便利にしたり事業を効率化する動きが、家庭内、事務所、工場、公共施設などあらゆる場面で、それもグローバルに広がっていくことが見込まれています。
調査会社のガートナーは14年11月に発表したリリースで、2015年にインターネットに繋がるモノは約49億個となり、これが2020年には250億個まで増えると予想しています。ここからの5年間で爆発的に増える見通しです。
図表2: インターネットに接続されるモノの個数(分野別)

- ※ガートナー14年11月11日リリースよりSBI証券作成。
調査会社の予想だけでなく、モノのインターネットが社会全体を巻き込んだ重要な動きであることは、世界的な大企業が積極的な取り組みを行っていることからも窺えます。例えば、グーグルは、サーモスタット(温度調節装置)を司令塔にして家庭内の機器をコントロールするスマートホームのプロジェクトを立ち上げています。半導体大手のインテルは、アニュアルレポートで14年から「IoTグループ」を独立した部門として開示し始めました。IBMは、IoTサービス向けのプラットフォーム構築に、今後4年間で30億ドル投資する方針を発表といった具合です。
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なかなか身近にならないのはなぜ? |
しかし、このような積極的な取り組みの割りに、なかなかわれわれの身近に感じないのはなぜでしょうか?
それは、「モノのインターネット」では、あらゆるモノを対象にしようとしているため関わる業界も広範で、さらに情報のやり取りのレベルも引き上げようとしているため、幅広い関係者の間で通信方法の標準化が必要であるから、と考えられます。図表3の通り、関係グローバル企業を中心にいくつもの普及推進団体が設立されています。
ポットによる見守りは単独企業の取り組みでしたので、すぐに実現しました。しかし、スマートホームの分野に限っても家電、照明、調理機器、住設機器を巻き込もうとすると時間がかかるというわけです。
このため、IoTのサービスが具体的にどのようなものになるか、どの事業者がリードしそうかについては、依然混沌とした状態と言えるでしょう。
図表3: モノのインターネットの普及推進団体
団体名 |
中心メンバー |
主な対象 |
---|---|---|
インダストリアル・インターネット・コンソーシアム |
インテル、シスコ・システムズ、IBM、GE、AT&T |
産業向け |
インダストリー4.0 |
シーメンス、ダイムラー、ボッシュ、SAP、インフィニオンなど |
|
オープン・インターコネクト・コンソーシアム |
インテル、シスコ・システムズ、サムスン電子、GE、メディアテック |
家庭向け |
スレッド・グループ |
ネスト(グーグル)、ARM、フリースケール、サムスン電子 |
|
オールシーン・アライアンス |
クアルコム、マイクロソフト、パナソニック、ソニー、LG、ハイアール |
- ※各種報道よりSBI証券作成
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IoTの成立に必要なハードの機能ははっきりしている |
一方で、IoTに関連して需要拡大がはっきりしている分野もあります。サービスがどのような形を取ろうとも、また、どの事業者が活躍しようとも、モノの側で必要となる機能は図表4の通りで変わらないからです。
センサー機能、計算機能、無線通信機能が必須で、これに関わる半導体・電子部品は、接続するモノ個数に比例して需要が拡大するはずです。先のガートナーの市場予測が正しいとすれば、これらの需要は15年から20年にかけて5倍になるということです。
センサーについては、何を測るかによって需要は分散されそうですが、アナログ半導体、マイコン、コネクティビティ半導体などは需要増加の恩恵を確実に受けると期待されます。ここに投資のチャンスがありそうです。
図表4: IoTの「モノ」の側に必要となる機能
センサー機能 |
・音声、温度、圧力、加速度、光、などの情報を測る機能 |
---|---|
計算機能 |
・センサーからの情報をデジタル化する機能(アナログ半導体) |
通信機能 |
・近距離無線通信機能(コネクティビティ半導体) |
- ※各種資料よりSBI証券作成
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半導体のIoT物色はもう始まっている!? |
そこで、世界の半導体業界の売上ランキングを見たのが、図表5です。IoTとの関連で注目できるのは、ランキングの下半分にある、アナログ半導体、マイコン、コネクティビティ半導体を主力事業としている企業群と考えられます。
図表5: 世界の半導体メーカー売上ランキング(単位:百万ドル)
|
14年売上高 |
主力事業 |
国 |
---|---|---|---|
インテル |
50,840 |
パソコン、サーバーのCPU |
米国 |
サムスン電子 |
35,275 |
半導体メモリー |
韓国 |
クアルコム |
19,194 |
スマホ向けCPU |
米国 |
マイクロン・テクノロジーズ |
16,800 |
半導体メモリー |
米国 |
SKハイニックス |
15,915 |
半導体メモリー |
韓国 |
東芝 |
11,589 |
半導体メモリー |
日本 |
テキサス・インスツルメンツ |
11,539 |
アナログ半導体、マイコン |
米国 |
ブロードコム |
8,360 |
有線・無線通信半導体 |
米国 |
STマイクロエレクトロニクス |
7,371 |
マイコン、センサー |
オランダ |
ルネサスエレクトロニクス |
7,249 |
マイコン |
日本 |
- ※ガートナーのリリースよりSBI証券作成
株価には、これらの企業を物色する傾向が現われているようです。図表6は、ランキングの上位6社と下位4社の株価をそれぞれ合成して比較したものです。上位6社はパソコン需要の停滞やスマートフォンの成長鈍化を見越したものか、株価は14年半ばから伸び悩んでいます。一方、下位4社の合成株価は、14年以降も堅調な上昇基調を維持しています。
IoTをテーマとして物色する流れがすでに存在している可能性があるでしょう。これから通信手法の標準化で合意が進み、具体的なサービスや対応する機器が発表されるにつれ、この傾向は強まっていくのではないでしょうか。
IoTはこれから、5年、10年という単位で広がっていく動きと考えられています。もし既に物色が始まっていたとしても、まだまだ先があると考えられるでしょう。
図表6: ランキング上位6社と下位4社の株価の動向

- 注:各社の株価を2010年第1週を100として指数化。各グループの単純平均をとったもの。
データは週次で最後のデータは15年5月15日。
ブルームバーグよりSBI証券作成
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IoTの注目企業はコレ!? |
では、注目できる銘柄はどんなものがあるでしょうか?先に注目できるとしたアナログ半導体、コネクティビティ半導体、マイコン(車載用)の分野からそれぞれ業界トップの企業を選んでいます。このほか、村田製作所は、Wi-FiやBluetoothなど無線中心の通信モジュールの売上構成比が3割に達するため、関連度合いの高さから注目できるでしょう。
さらに、半導体のメーカーではありませんが、そこに基本設計図を提供している英国企業のARMホールディングスは、IoT関連銘柄をグローバルに考えた場合、中心的な銘柄と考えられます。ただし、馴染みのない企業でもありますので、表の下に補足を加えています。
銘柄コード | TXN | ![]() |
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銘柄名 | ||
ポイント |
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銘柄コード | BRCM | ![]() |
---|---|---|
銘柄名 | ||
ポイント |
|
銘柄コード | 6981 | ![]() |
---|---|---|
銘柄名 | ||
ポイント |
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銘柄コード | 6723 | ![]() |
---|---|---|
銘柄名 | ||
ポイント |
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銘柄コード | ARMH | ![]() |
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銘柄名 | ||
ポイント |
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ARMホールディングスは、半導体業界では重要な企業として知られていますが、消費者の目に触れない業態のため補足の説明をします。当社は1990年に英国のエイコーン・コンピュータ、アップルコンピュータ、VLSIテクノロジーのジョイントベンチャーとして創業した会社で、概要は上表の通りです。
IoTとの関連で当社が注目できるのは、以下の2つの理由です。
(1)当社の設計基本図による半導体は低消費電力に特長があるため、IoT向けの半導体でも使用されやすい。
(2)IoTは幅広いモノに半導体が入るため、世界の半導体メーカー300社に850以上のプロセッサをライセンスした実績がある当社の優位性は維持される。
(1)は、やや専門的なお話になりますが、コンピュータのCPU(中央演算処理装置)を動かすための命令セットに複雑なCISC(Complex Instruction Set Computer)とこれを簡略化したRISC(Reduced Instruction Set Computer)がありますが、当社の半導体設計図はRISCによります(RISCタイプのプロセッサを開発するために設立されたのが当社です)。
パソコンやサーバーのCPUには、CISCで設計されたCPUが使われています。一方、消費電力に制約が多い、携帯機器や家電等に入るCPUには、RISCの半導体が使われることが多いのです。スマホのCPUでARMホールディングスのシェアが95%であるのは、このような背景があります。消費電力への制約が強いIoTでは、優位性を保持すると考えられます。
- ※株価日足チャートは、2015年5月19日時点のものです。