米国株式市場は、比較的高いPER、足元のEPSの伸び悩みを背景に過去半年にわたりもみ合いを続けています。今回、そのような相場の中でも上昇トレンドを維持する銘柄群を株価騰落率のスクリーニングで抽出してみました。リストアップされた銘柄には、米国を代表するような高成長企業が多く含まれていました。市場全体の利益成長が停滞する中、「安定的に高い利益成長を遂げている企業」の魅力が相対的に高まってきた結果と解釈できそうです。このような銘柄群から、今後も上昇トレンドが継続しそうな5銘柄をピックアップしています。
銘柄 |
株価(7/17) |
52週高値 |
52週安値 |
---|---|---|---|
69.29ドル |
70.42ドル |
47.54ドル |
|
18.10ドル |
18.21ドル |
14.84ドル |
|
672.93ドル |
674.46ドル |
486.22ドル |
|
118.86ドル |
119.15ドル |
78.54ドル |
|
70.88ドル |
70.96ドル |
48.79ドル |
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米株式市場はレンジ内でのもみ合いが続く |
S&P500指数は、年初来狭いレンジでの保ち合い相場が続いています(図表1)。上昇トレンドを維持している個別株を見る前に、市場全体がどのような状況にあるか確認しておきましょう。
株価は、EPS(企業が1株当りいくら稼いでいるか)とPER(EPSの何倍まで評価するか)に分解できますので、それぞれの状況を見てみましょう。
株価 = EPS × PER
まず、PERからです。図表2の通り、2000年のIT相場期前後を除いた過去レンジの上限である18倍近くまで上昇してきました。投資環境や技術革新などに大きな変化がなければ、これ以上、上がりにくい水準まできていると言えそうです。
一方、EPSは図表3の通り、14年7-9月期をピークに2四半期連続で減少しました。現在発表が進んでいる15年4-6月期決算も停滞となる見込みですが、コンセンサスでは、15年4-6月期を底に年末に向け回復すると予想されています。
PERが比較的高い水準にあることから、株式市場は決して企業の先行きに悲観的ではなく積極的に評価しようというスタンスにあると言えるでしょう。ただ、足元のEPSが伸び悩んでいるために、これ以上買い進みにくく、結果として保ち合い相場になっているようです。現状は、将来のEPS回復に対してより確信が持てるような証拠を探しながら、EPSの上昇を待っている状況と言えそうです。
図表1: S&P500指数のチャート

- 注:2015/7/15時点
- ※各種報道よりSBI証券が作成
図表2: S&P500指数の予想PER推移

- ※ブルームバーグのデータをもとにSBI証券が作成
図表3: S&P500指数四半期EPS(白抜きは予想を示します)

- ※ブルームバーグのデータをもとにSBI証券が作成
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保ち合い相場の中でも上昇トレンドを維持する銘柄群 |
経済成長や企業業績の足踏みを背景とした保ち合い相場の中でも、個別には株価の上昇基調を維持している銘柄も多くあります。今回はこのような銘柄をスクリーニングで探し、背景にどのようなことがあるのかを確認した上で、投資の可否を検討しています。
当社WEBサイトの「米国株スクリーナー」を使って、株価が上昇基調にある銘柄をスクリーニングしました。継続的に上昇している銘柄を抽出するため、以下の条件を満たすものとしました。
【1】過去6ヵ月の値上り率が10%以上(同期間のS&P500指数の値上り率は、5.8%でした)
【2】過去3ヵ月の値上り率が5%以上(同期間のS&P500指数の値上り率は、0.0%でした)
【3】過去20日間の値上り率が0%以上(同期間のS&P500指数の値上り率は、0.5%でした)
【4】S&P500採用銘柄で時価総額500億ドル以上(スクリーニング時点で95銘柄でした)
スクリーニングの結果が図表4で、株価が上昇基調にある背景と考えられる点についてコメントを付けました。尚、スクリーニングを実施した時点(7/15の株価)から、決算発表等で株価が大きく動いたものも含まれますので、ご注意ください。
業種別に見ると、景気動向への感応度が低く安定成長が期待される医薬品・ヘルスケア、金利上昇が恩恵になると期待される金融、ネット関連、メディア、電子決済などがまとまって抽出されました。
全体を見渡して気がつくのは、銀行・保険の銘柄を除いて予想PERの高いものが多く含まれていることです。米国の代表的な高成長企業群が多く入っています。(1)で見たように市場全体のEPSが伸び悩む中で、予想PERが高い、つまり、EPSの成長率が高い銘柄の魅力が相対的に高まり、さらに高く評価されたものと解釈できます。
市場全体のEPSが伸び悩む状況が続くと、このような傾向が続く可能性がありそうです。その場合、PERの絶対水準が高いものでも、業績のモメンタムが強まれば、さらに高く買い進まれる可能性があると言えそうです。
ここにリストアップされた銘柄から、株価の上昇トレンドが継続すると期待されるものを5銘柄ピックアップして、ポイントをコメントします。
図表4:株価が上昇基調にある銘柄群(株価上昇率によるスクリーニング)
業種 |
銘柄名(コード) |
事業 |
現在値 |
予想PER |
値上り率 |
値上り率 |
値上り率 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
医薬品 |
バイオ医薬品 |
69.8 |
18.0 |
10.9 |
12.5 |
4.5 |
|
C型肝炎治療薬ヴィキラへの期待 |
|||||||
バイオ医薬品 |
131.4 |
35.5 |
11.1 |
11.1 |
18.3 |
||
バイオ医薬品のレセプトス社買収(7/15発表)による収益拡大期待 |
|||||||
医薬品 |
49.3 |
24.0 |
12.2 |
5.3 |
1.7 |
||
個別に特に目立った材料は見当たらず、医薬品への全般的な物色か |
|||||||
医薬品 |
69.3 |
46.8 |
12.4 |
9.2 |
5.0 |
||
がん免疫治療薬オプジーボが肺がん治療への適応拡大(3/4発表) |
|||||||
医薬品 |
320.1 |
39.5 |
21.4 |
7.1 |
7.4 |
||
積極的な買収戦略が評価される |
|||||||
医薬品 |
86.4 |
36.3 |
23.9 |
17.2 |
1.9 |
||
個別に特に目立った材料は見当たらず、医薬品への全般的な物色か |
|||||||
医薬品 |
543.4 |
128.1 |
36.8 |
19.7 |
8.3 |
||
個別に特に目立った材料は見当たらず、医薬品への全般的な物色か |
|||||||
ヘルスケア |
ドラッグストア |
109.9 |
22.4 |
13.1 |
8.0 |
6.5 |
|
大手量販店ターゲット社店舗内薬局の買収(6/15発表)による収益貢献期待 |
|||||||
ヘルスケア |
125.9 |
20.0 |
20.5 |
7.3 |
3.6 |
||
オバマケアによる医療保険加入者増から恩恵 |
|||||||
銀行 |
銀行 |
57.8 |
13.8 |
13.9 |
5.4 |
1.0 |
|
金利上昇による利鞘拡大に対する期待、新築住宅市場回復による住宅ローン組成の増加 |
|||||||
銀行 |
17.7 |
12.8 |
16.3 |
13.0 |
0.7 |
||
金利上昇による利鞘拡大に対する期待、新築住宅市場回復による住宅ローン組成の増加 |
|||||||
銀行 |
69.2 |
11.9 |
25.8 |
7.8 |
1.2 |
||
金利上昇による利鞘拡大に対する期待、ゼネラル・エレクトリック事業売却での案件獲得期待 |
|||||||
保険 |
保険 |
57.5 |
9.4 |
19.8 |
13.0 |
2.0 |
|
金利上昇による資産運用環境の改善期待 |
|||||||
保険 |
64.0 |
11.7 |
27.0 |
9.9 |
3.3 |
||
金利上昇による資産運用環境の改善期待 |
|||||||
ネット関連 |
ネット広告 |
584.0 |
25.8 |
15.9 |
7.9 |
7.2 |
|
ネット調査会社のレポートで、同社が検索件数シェアをYahoo!/Bingから奪い返したと発表(7/9) |
|||||||
ネット通販 |
63.4 |
28.3 |
19.7 |
11.3 |
4.8 |
||
高成長が期待される電子決済部門ペイパルの分離上場(ペイパルは7/20上場) |
|||||||
SNS |
89.8 |
88.5 |
21.2 |
8.5 |
10.7 |
||
1-3月期決算の好調、ネット広告市場でのシェア拡大傾向 |
|||||||
ネット通販 |
461.2 |
927.1 |
60.7 |
20.3 |
7.9 |
||
1-3月期決算で開示したアマゾン・ウェブ・サービス事業に対する評価、月次売上堅調 |
|||||||
メディア |
ケーブルTV |
63.8 |
19.0 |
13.8 |
6.4 |
8.3 |
|
「ジュラシック・ワールド」等映画の大ヒット、1-3月期決算堅調、買収断念による不透明感払拭 |
|||||||
メディア |
118.3 |
23.3 |
25.4 |
10.6 |
6.5 |
||
上海ディズニーランド開業(16年春)およびスターウォーズ最新作公開(15年12月)への期待 |
|||||||
ケーブルTV |
186 |
25.2 |
29.7 |
17.0 |
4.9 |
||
米ケーブルTVのチャーター社による買収提案(5/20) |
|||||||
電子決済 |
決済ネットワーク |
70.0 |
27.3 |
10.7 |
6.6 |
1.5 |
|
中国の電子決済市場開放(6月から実施)による中期的成長見通しの上方修正 |
|||||||
決済ネットワーク |
95.2 |
27.8 |
15.8 |
6.7 |
1.2 |
||
中国の電子決済市場開放(6月から実施)による中期的成長見通しの上方修正 |
|||||||
消費関連 |
アパレル |
111.9 |
27.1 |
20.6 |
12.1 |
7.0 |
|
新製品によるシェア拡大などで市場予想を大きく上回る3-5月期決算(6/25) |
|||||||
レストラン |
55.3 |
31.7 |
39.1 |
15.0 |
4.5 |
||
1-3月期決算の好調、来店前に注文できるモバイルオーダーの3,400店への拡大(6/16発表) |
|||||||
食品 |
食品 |
41.3 |
26.5 |
13.1 |
10.1 |
1.5 |
|
ハインツ社によるクラフト社買収(3/25)がパッケージ食品業界のバリュエーションを刺激 |
|||||||
ITサービス |
コンサルティング |
100.0 |
21.3 |
13.4 |
6.2 |
3.4 |
|
14年12-15年2月期決算、15年3-5月期決算(6/25発表)ともに好調 |
- ※当社WEBサイト、各種報道に基づいてSBI証券が作成