中国人民銀行は12/6に預金準備率(RRR)の引き下げを発表し、金融緩和へかじを切りました。翌12/7、政府系証券紙は代表的な政策金利であるローンプライムレート(LPR)の引き下げの可能性を示唆しました。一連の動きからすると、中国は不動産市場や経済の鈍化に対応するため、2022年は一段の金融緩和を実施する可能性があります。金融緩和が続く場合、中国経済や中国株にとってプラス材料で、2022年は中国株の見通しに期待ができそうです。
図表1 主な言及銘柄
銘柄 | 株価(12/7) | 52週高値 | 52週安値 |
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iS CSI300(02846) | 39.22香港ドル | 46.56香港ドル | 36.64香港ドル |
iS FTSE A50(02823) | 18.79香港ドル | 23.70香港ドル | 16.79香港ドル |
Tracker Fund香港(02800) | 24.14香港ドル | 31.34香港ドル | 23.30香港ドル |
iS MSCIチャイナ(02801) | 27.52香港ドル | 41.56香港ドル | 26.68香港ドル |
iシェアーズ 中国大型株 ETF(FXI) | 38.18米ドル | 54.53米ドル | 37.13米ドル |
ヴァンエック チャイネクスト ETF(CNXT) | 53.75米ドル | 58.76米ドル | 43.32米ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
中国人民銀行(中央銀行)は12/6に、大半の銀行を対象に預金準備率(RRR)を0.5%引き下げると発表しました(実施は12/15)。それにより、およそ1.2兆元の流動性が供給されます。RRRの引き下げについて中国人民銀行は、「通常の金融政策の操作にあたるもので、穏健な金融政策に変わりはない」としました。緩和局面の始まりとの見方(市場の期待)をけん制した格好です。
しかしながら、中国人民銀行が発表した「第3四半期の金融政策実施報告書」(以下、報告書)の内容と照らし合わせて考えると、中国は今後、さらなる金融緩和を実施する可能性があります。それを示唆するものとして、今回の報告書の特徴(従来と異なる点2つ)を確認したいと思います。
1)「マネーサプライの“水門”をうまく制御する」の一文が削除されました。
2)「我を主とする」が強調されました。
1)「マネーサプライの“水門”をうまく制御する」を削除
中国はここ数年、レバレッジ(過剰な借り入れ)抑制を続けており、市場への大量な資金供給を躊躇(“水門”を制御)してきました。しかし、ここにきてレバレッジの抑制は行き過ぎた可能性が出てきました。きっかけは今年9月、不動産大手の中国恒大(03333)にデフォルトリスクが浮上したことです。
振り返ってみると、中国は2020年3月に新型コロナの感染急拡大が生じたときも、大規模な金融緩和を躊躇しました。中国経済が依然として、過剰債務を解消する過程にあったからです。そして、新型コロナから脱却しつつあることを確認すると、2020年末から中国当局は不動産市場に対し、金融面での抑制を強化しました。それを受け、不動産企業のなかで最も負債比率の高い中国恒大が資金難に陥りました。
9月に表面化した中国恒大の問題を受け、不動産市場はここ数ヶ月、販売が鈍化しました。不動産市場のハードランディングや中国経済全体への影響が懸念されるなか、11月に発表した報告書では”水門制御”の一文が削除されました。不動産市場の鈍化や経済減速への対応策として、”水門”を開けることもあり得ることを示唆しました。
2)「我を主とする」を強調
これは明らかに米国の利上げ観測を意識したものとみられます。過去の経験からすると、米国が利上げを実施する際、多くの新興国は資金流出への懸念から金利を引き上げるケースが多いです。中国も過去にホットマネーの流出を警戒し、米国の利上げに追随したことが数回ありました。
しかし今回、米国が2022年に利上げすることがほぼ確実視されているこのタイミングで、中国人民銀行は「我を主とする」を強調しました。「我を主とする」は、言い換えれば、「世界情勢ではなく、主に我が国の状況に鑑みて金融政策を実施する」ことです。中国の現状を考えると、米国のようにインフレ懸念が高いわけでもなく、むしろ不動産市場の鈍化を背景に経済減速の懸念が強まっています。つまり、中国は「利上げ」よりも「利下げ」の余地が大きいです。したがって、「我を主とする」は、たとえ米国が2022年に利上げを実施したとしても、中国は追随しないことへの伏線といえます。
12/7の政府系証券紙は、中国人民銀行が近くローンプライムレート(LPR)を引き下げる可能性があると、報じました。LPRは最優遇貸出金利として、通常の貸出金利(中国が過去に金融政策の調整時に用いた政策金利)やRRRよりも重要な政策金利となっています。LPRが引き下げられた場合、いわば「利下げ」に該当し、本格的な金融緩和を示します。
図表2 中国の主要政策金利の推移(%)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
もし、中国が本格的に金融緩和を実施すれば、中国経済や中国株にとってプラス材料となります。過去の経験からすると(図表3)、株価上昇の始まりは金融緩和を実施した直後、もしくは一段の緩和を確認してからといったタイミングの差はありますが、金融緩和を背景に株価上昇が続いたことが確認できます。したがって、中長期投資の観点からすると、金融緩和を実際する際は、投資チャンスといえます。ただ、中国本土市場の場合は短期的に急上昇した場合、その後の急反落には警戒が必要です。
全般的にみて、今年の中国株の重しとなったネット大手への規制強化が、足元で緩む兆しをみせていることも合わせて考えると、2022年は中国株に対する見直しが進む可能性があります。
図表3 ハンセン指数と上海・深セン300(CSI300)指数の推移
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
2022年の中国経済や中国株のリスクを考える際、恒大問題をきっかけとした不動産市場のハードランディング懸念が挙げられます。しかし、恒大問題の進展と不動産市場の動向を確認してみると、不動産市場はソフトランディングへ向かうシナリオが想定されます。
12/7、中国恒大が実質的にデフォルトになった可能性が出ました。12/6期限の米ドル建て債の利払いについて、複数の債券保有者はクーポンを受け取っていないと、海外メディアが報じました。今のところ利払いについて、中国恒大からの公式コメントはありません。
しかし、12/7の香港市場は上昇しました。中国人民銀行の預金準備率(RRR)の引き下げが投資家センチメントを支えました。中国恒大をはじめとする不動産株も、12/7は持ち直しました。背景には、中国当局が恒大問題の対処に乗り出し、不動産市場に対する締め付けの緩和を示唆したからです。
12/6、中国恒大は経営危機に対処するため「リスク管理委員会」を設置すると発表しました。同委員会のメンバーには、政府系会社の幹部も入っていました。中国恒大の債務再編をめぐり、中国政府が関与することが示されました(これまでは主に水面下での関与でした)。政府の関与は、中国恒大の救済を意味するものではありません。ただし、不動産市場全体へ及ぼしかねない悪影響を防ぐため、中国当局が“裏から表へ”に出始めていることを意味します。
また、12/6に開催された中央政治局会議では、「合理的な住宅需要をよりよく満たすため、住宅市場を支援する」と表明しました。会議の発表文では、不動産政策をめぐる表現で必ずあった「住宅は住むためのものであり、投機の対象でない」一文が削除されました。不動産市場に対する締め付けの緩和を示唆したことになります。したがって、不動産市場に対する締め付けの最悪期は脱しつつある可能性が高いとみられます。
不動産市場に対する締め付けが緩めば、住宅販売も持ち直す可能性があります。中国恒大のデフォルト懸念を受け、住宅販売はここ数ヶ月鈍化しました。ただ足元の販売状況からすると、大都市を中心に販売鈍化に歯止めがかかった可能性が出てきています。
中国指数研究院のデータによると、北京や上海など大都市を含む主要15都市の住宅販売は10月まで前月比で下落基調が続きましたが、11月は11%増に転じました。回復の主因について現地紙は、住宅ローンの獲得が容易になったことを挙げました。実際、中国当局は10月に大手銀行に対し、住宅ローンを増やすよう”指導”しました。中国当局はまた11月に、一部の大手銀行に対し、不動産企業向けの融資も拡大するよう指示しました。
12/6の中央政治局会議で、住宅市場を支援すると表明したことを考えると、中国当局は今後、不動産市場に対する締め付けを一段と緩める可能性があります。そうなると、住宅市場の持ち直しは続く可能性があり、不動産デベロッパーの資金繰りも改善するとみられます。したがって、中国恒大がデフォルトもしくは破綻したとしても、不動産市場全体に与える影響は限定的となる可能性があります。
振り返ってみると、ネット大手と不動産市場に対する締め付けの強化は、いずれも今年の中国株のパフォーマンスを抑える要因となりました。その結果、中国株のバリュエーションは大きく低下し、世界主要株式と比べても低水準にあります。しかし、足元で規制強化に緩む兆しが出ていることや、金融緩和の可能性が高まったことを考えると、2022年は中国株への見直しが進む可能性があります。中国株に連動するETFは、投資妙味が増していると考えます。
図表4 SBI証券で取り扱っている中国株に連動するETF一覧
ティッカー | 市場 | 名称 | 連動指標 | 備考 |
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02800 | 香港 | Tracker Fund香港ETF | ハンセン指数 | 香港のハンセン指数と連動する投資成果を目指す。 |
02801 | 香港 | iS MSCIチャイナETF | MSCI中国指数 | MSCI中国指数と同等水準の投資成果を目指す。 |
02823 | 香港 | iS FTSE A50ETF | FTSE中国A50指数 | FTSE中国A50指数により測定される中国市場のA株の実績に概ね対応する投資成果をあげることを目指す。 |
02828 | 香港 | ハンセンH株指数ETF | ハンセンH株指数 | ハンセンH株指数を構成する全銘柄に投資し、同指数に連動する。 |
02838 | 香港 | ハンセン FTSEチャイナ50 ETF | FTSE中国50指数 | FTSE中国50指数を構成する全銘柄に投資し、同指数に連動する。 |
02846 | 香港 | iS CSI300ETF | CSI300指数 | CSI300指数の実績に概ね対応する投資成果をあげることを目指す |
03040 | 香港 | Global X MSCI 中国ETF | MSCI中国指数 | MSCI中国指数の運用成績に概ね連動する投資成果を目指す。 |
03110 | 香港 | Global X 高配当利回りETF | ハンセン高配当利回り指数 | ハンセン高配当利回り指数の運用成績に概ね連動する投資成果を目指す。 |
ティッカー | 市場 | 名称 | 連動指標 | 備考 |
CHAD | NYSE Arca | Direxion デイリー CSI 300 中国A株 ベア ETF | CSI300指数 | CSI300指数のパフォーマンスの-1倍(マイナス1倍)となる投資成果を目指す。 |
CHAU | NYSE Arca | Direxion デイリー CSI 300 中国A株 ブル2倍 ETF | CSI300指数 | CSI300指数の200%のパフォーマンスに連動した投資成果を目指す。 |
CNXT | NYSE Arca | ヴァンエック ベクトル 中国AMC中小企業・創業板ETF | 中国の中小・創業企業100指数 | 中国の中小・創業企業100指数に連動した投資成果を目指す。 |
CXSE | NASDAQ | ウィズダムツリー 中国株ニューエコノミーファンド | ウィズダムツリー・チャイナ・エックスステートオウンド・エンタープライズ・インデックス | 国有企業を除く中国企業へ投資することを目的とし、ウィズダムツリー・チャイナ・エックスステートオウンド・エンタープライズ・インデックスの価格及び利回りのパフォーマンスに連動する投資成果を追及する。 |
FXI | NYSE Arca | iシェアーズ 中国大型株 ETF | FTSE中国50指数 | FTSE中国50指数によって測定される証券の価格および利回り実績と同等水準の投資成果を目指す。 |
YANG | NYSE Arca | Direxion デイリー FTSE中国株 ベア 3倍 ETF | FTSE中国50指数 | FTSE中国50指数の運用実績の逆数の3倍(300%)に連動する日次投資成果を目指す。 |
YINN | NYSE Arca | Direxion デイリー FTSE中国株 ブル 3倍 ETF | FTSE中国50指数 | FTSE中国50指数の運用実績の3倍(300%)の日次投資成果を目指す。 |
- (注)投資成果は手数料・報酬および経費控除前です。
- ※当社WEBサイトのETF一覧表を通じてSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。