米国株式市場はFRBの金融引き締め前倒し観測を受けて不安定な状態が続いていますが、中期的に成長が期待できるEV関連銘柄には押し目買いの好機となっている可能性もありそうです。今回は相場環境を考慮して、売上・利益が出ている銘柄に絞ってご紹介いたします。なお、注目銘柄として取り上げたうちの2社、テスラとTEコネクティビティが本日1/26(水)に10-12月期決算を発表する予定です。
図表1 注目銘柄
銘柄 | 株価(1/25) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
テスラ(TSLA) | 918.40ドル | 1243.49ドル | 539.49ドル |
フォード モーター(F) | 19.98ドル | 25.87ドル | 10.36ドル |
ゼネラル モーターズ(GM) | 51.90ドル | 67.21ドル | 47.07ドル |
アプティブ(APTV) | 135.93ドル | 180.81ドル | 127.21ドル |
TE コネクティビティ(TEL) | 149.20ドル | 166.44ドル | 116.87ドル |
アルベマール(ALB) | 206.01ドル | 291.48ドル | 133.82ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回はEV関連銘柄についてご報告します。
EVについては、2021年3月10日付の外国株式特集レポート「テスラなどEV専業が株価調整の一方、GM、フォードがEV関連として注目集める!?」で取り上げており、そのフォローアップになります。
ただし、相場環境の変化で利益が出ていないスタートアップ企業に対する株式市場の評価が厳しくなっているため、今回は足もとで利益を出している米国上場の企業に絞って関連銘柄をご紹介いたします。
第1節でEVを生産する完成車メーカー、第2節で自動車部品メーカー、第3節でEV用バッテリーの素材を提供する企業についてご報告いたします。
EVの世界販売は2020年の半ばから立ち上がり、パンデミックや半導体不足の影響を受けてデコボコはあるものの、急速な拡大基調が維持されていると言え、引き続き注目できる市場と考えられます(図表2)。
まず、完成車メーカーですが、米国上場企業は図表2の通り9社があります。このうち、売上が立って利益も出ている銘柄は3銘柄です。EV最大手のテスラ、また、最近はEVでも注目されるようになった、フォードとGMを取り上げます。
【業績好調、株価はアナリスト目標株価まで調整】
新興EVメーカーからEV世界最大手に成長、2020年12月期に黒字化を達成しました。 同社の「モデル3」は2020年に世界EV販売ランキングで1位、最大市場の中国でも1位を確保しています。現在、米テキサスと独ベルリンに新工場を建設中であり、米中欧の3極生産体制で2030 年までに全世界で年間2,000万台(2020年は50万台)のEV販売を目指しています。
2021年は4-6月期、7-9月期とも業績は市場予想を大きく上回って、順調な拡大となっています。10-12月期の決算は、売上が前年同期比54%増、EPSが同7.0倍と業績拡大のモメンタムが維持される見通しです。本日1/26(水)に決算発表の予定です。
予想PERは2022年12月期予想EPSに対して96.5倍と高く、市場でPERが高い銘柄が敬遠される中では、買われにくい面がありそうです。しかし、直近の株価調整によって、1/25(火)の株価は918.40ドルとBloomberg集計によるアナリストの目標株価平均の953.61ドルを久しぶりに下回っています。
【EV版大型ピックアップトラック「F-150 ライトニング」が注目を集める】
米国で2位、世界6位の自動車メーカーで、「フォード」ブランドの大型車、SUV、ピックアップトラック、「リンカーン」ブランドの高級セダンを展開しています。EV全体については、今後2年以内にグローバルで年間60万台のEV生産能力を確保、2030年までに欧州の全乗用車をEVにする計画です。
足もとで大型ピックアップトラック「F-150」のEV版である、「F-150 ライトニング」が市場の注目を集めています。現在15万台以上の予約を獲得して顧客の需要が良好であることから、年初に年間生産能力を当初計画のほぼ2倍となる15万台に引き上げ、今春から発売予定です。「F-150」は同社の米国内売上の半分近くを占める主力車種です。
なお、1/19(水)に株価が急落していますが、同日保有するリビアン株の評価益の額を公表しています。これが利益ガイダンスの実質下方修正と捉えられたようです。10-12月期の決算は、2/3(木)に発表予定です。
【独自開発のEVバッテリー「アルティウム」を擁する】
米国最大、世界3位の自動車メーカーで、キャデラック、シボレー、ビュイック、GMCブランドの中・大型車、SUV、トラックを展開します。2035年までにすべての乗用車モデルをEVにするとして、大手自動車メーカーの中でEVに対する積極姿勢が注目されています。2025年までに270億ドルを投じて全世界で30モデルのEVを投入する計画で、2025年に年間100万台のEVを販売する計画です。
注目点は、LGエネルギーソリューションズとの合弁会社Ultium CellsによるEVバッテリーです。パウチ型セルは車両のデザインに応じてレイアウトできる柔軟さがあり、投入予定のすべてのEV車に採用することができます。また、バッテリーの電子回路がモジュール内に組み込まれているため、バッテリーパックの配線が90%削減されていることも競争力の源泉とみられます。第1工場は2022年に量産開始の予定(生産能力40ギガワット)、第2工場は2024年までに40ギガワット以上の生産能力を確保する計画です。
一方、足もとの業績はサプライチェーン問題の影響を受けて生産台数が低迷、7-9月期実績、10-12月期予想とも前年同期比減収減益の見通しです。10-12月期の決算発表は、2/1(火)に発表予定です。
図表2 EVの世界販売台数(月次)
- 注:バッテリー車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車を含んだ数字です。最後のデータは2021年9月です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3 米国の完成車メーカー
銘柄名(ティッカー) | 時価総額 (億ドル) |
予想売上 (22年12月期) (百万ドル) |
予想純利益 (22年12月期) (百万ドル) |
---|---|---|---|
テスラ(TSLA) | 9,340 | 76,697 | 10,236 |
フォード モーター(F) | 815 | 146,185 | 8,232 |
ゼネラル モーターズ(GM) | 764 | 149,706 | 10,219 |
ルシード グループ A(LCID) | 622 | 2,227 | -1,809 |
リビアン オートモーティブ(RIVN) | 575 | 3,528 | -4,805 |
フィスカー(FSR) | 35 | 235 | -406 |
ニコラ(NKLA) | 30 | 144 | -518 |
カヌー(GOEV) | 13 | 145 | -456 |
ローズタウン モーターズ(RIDE) | 5 | 139 | -344 |
- 注:時価総額は1/24(月)時点です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
米国市場に上場する自動車部品メーカー(自動車部品の売上構成比が80%以上で、時価総額が50億ドル以上の銘柄)は、図表4の通りです。
このうちEVの普及によって恩恵が大きいと考えられる企業として、ワイヤーハーネスなど電装品を主力事業とするアプティブ(APTV)があげられます。
また、EVの請負製造を行っているマグナ インターナショナル(MGA)も関連銘柄と言えるでしょう。ただし、同事業の売上構成比は13%、営業利益構成比は16%と、まだ全体をけん引するには規模が小さいと言えるでしょう。
また、業種分類は自動車部品になりませんが、EVへのエクスポージャーが高い電子部品メーカーのTE コネクティビティ(TEL)がありますので、ご紹介いたします。
なお、EVで最も重要な部品はバッテリーですが、残念ながら米国市場を主要市場として上場している銘柄はありません。同市場は中国の寧徳時代新能源科技(CATL)、韓国のLGエネルギー・ソリューション(※)、日本のパナソニック、中国のBYDが世界市場の4分の3のシェアを占めています(2020年)。
※韓国のLGエネルギー・ソリューションはLG化学からリチウムイオン電池事業を分離した会社で、1/27(木)に韓国市場に上場予定です。SBI証券では1/28(金)から取り扱い開始の予定です。
【電装品主体の自動車部品メーカー】
GMの自動車部品部門を母体とするデルファイ・オートモーティブが2017年末にパワートレイン部門を分離して社名変更した会社です。EV車の普及に伴って需要が縮小するパワートレイン部門を分離して、ワイヤーハーネスやコネクター、制御システムなど電装品に集中し、自動車のEV化や電装化のトレンドに乗る事業内容を構築しています。2020年12月期の売上は、シグナル&パワーソリューション(ワイヤーハーネスや各種部品)が73%、アドバンストセーフティ&ユーザー・エクスペリエンス(アクティブ・セーフティ、情報システム、通信・セキュリティ)が27%を占め、それぞれ自動車販売台数の増加率に対して前者は4〜6%ポイント、後者は約10%ポイント上回ることを中期的な目標としています。
7-9月期決算は、サプライチェーン問題で自動車生産が減少したことから、売上は前年同期比1%減、粗利率が悪化して営業利益が41%減と低調でした。10-12月期も自動車生産が低迷していることから、減収減益が続く見通しです。2022年12月期については、自動車生産の計画、サプライチェーン問題の影響などが不透明要因として残るものの、EVやADAS(先進運転支援システム)の普及によって自動車部品市場全体を上回る成長が期待できるとしています。10-12月期の決算発表は、2/3(木)に発表予定です。
【自動車の電動化、EV化から恩恵を受ける】
スイスに本社を置くコネクターとセンサーを主力とする電子部品メーカーで、コネクターでは世界最大手です。2007年にコングロマリットのタイコから独立した企業が前身です。売上の約6割を運輸関連(乗用車と商用車)が占めます。自動車の電装化が進み、EV車の比率が高まっていることから、1台の自動車に搭載される同社製品の金額が中長期に高まると期待されることから成長が期待されます。
2021年9月期はパンデミックの反動に加え、EV化、データセンターの増加、工場の自動化などが同社製品の需要増につながり、売上が前年比23%増、調整後EPSが同50%増と回復しました。7-9月期は売上が前年同期比17%増、受注が同24%増と好調でした。10-12月期の業績ガイダンスは、売上が前年同期比5%増、調整後EPSが同9%増の見通しです。同期には半導体不足の影響で自動車の生産台数が減少すると見込まれていますが、それを考慮しても増収増益が期待できるようです。10-12月期の決算発表は、1/26(水)に発表予定です。
図表4 米国の自動車部品メーカー
銘柄(コード) | 事業内容 | 時価総額 (億ドル) |
---|---|---|
アプティブ(APTV) | ワイヤーハーネスなど電装品主体。 | 378 |
マグナ インターナショナル(MGA) | ボディ、シャーシ、シートなど。EVの請負製造も。 | 297 |
ボルグワーナー(BWA) | トランスミッションなど駆動系中心。バッテリーパックの子会社も。 | 106 |
リアー コープ(LEA) | 座席と電力管理システム。 | 104 |
ジェンテックス(GNTX) | リアビューミラーとカメラベースの補助機能。 | 77 |
グッドイヤー タイヤ アンド ラバー(GT) | 世界第4位のタイヤメーカー。 | 62 |
- 注:自動車部品の売上構成比が80%以上で、時価総額が50億ドル以上の銘柄です。時価総額は1/24(月)時点です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
前節で述べたように米国市場にはEVバッテリーを製造している主要メーカーは上場していませんが、EVバッテリー向けに使用される主要材料を提供している企業がありますので、ご紹介いたします。
現在のEV向けバッテリーでは、リチウムイオンバッテリーが主力となっています。同バッテリーは、リチウムの化学的性質によってエネルギー密度が高く、航続距離が重要になるEV向けでは引き続き中心的なバッテリーになると期待されます。
このため、リチウムの使用量はEVの普及とともに大きく増加していくと見込まれています(図表5)。アルベマールの予想によると、2020年実績比で2025年には7倍、2030年には22倍に増加すると見込まれています。
一方、価格は非常に値動きの荒い展開を経てきました(図表6)。EVの普及が見込まれるということで15年〜17年に価格は上昇しました。しかし、需要拡大を見込んだ設備投資増強によって需給が悪化、18年〜20年には大幅に反落しました。20年からEVの販売が増えたことで需給が均衡して、価格は急速に回復しています。
リチウムを生産している米国上場の企業として、アルベマール(ALB)とチリの会社でADRで上場している ソシエダードキミカイミネラデチリ ADR(SQM)があります。米国企業のアルベマール(ALB)をご紹介いたします。
【リチウム生産の世界的大手】
特殊化学品の老舗で、2020年12月期の売上はリチウムイオン電池などに使用されるリチウムが37%、難燃剤などに使用される臭素化学品が31%、触媒事業が26%を占めます。リチウム生産では世界的大手で、チリのアタカマ塩湖、オーストラリアのグリーンパッシズ鉱山、米国のネバダ州塩湖などで生産しています。
EVバッテリー向けリチウムの需要拡大に対応するため、2022年の年間生産能力17.5万トンに対して今後3〜5年で20.0万トンを上乗せする計画です。2021年にオーストラリア、チリ、中国でリチウムの生産設備を拡大して、リチウムの販売量、同価格の上昇による業績拡大が期待されます。2022年12月期の業績は、2021年12月期予想比で売上が前年比19%増、EPSが同49%増の予想です。7-9月期決算は、リチウムの売上が前年同期比35%増とけん引して、全体の売上は同11%増、調整後EBITDA(税金、利払い、償却前利益)は同1%増でした。10-12月期決算は2/16(水)に発表の予定です。
図表5 リチウムの用途別需要見通し
- 注:予想はアルベマールによります。
- ※会社資料をもとにSBI証券が作成
図表6 炭酸リチウムの価格推移
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。