1月の世界株式市場は、米利上げをめぐる不透明感を背景に、波乱の展開となりました。1/21まで上昇トレンドを続けたハンセン指数も、1/25-1/26の米FOMC前後は利益確定売りに押されました。なお、月間ベースでは、世界主要株価指数がそろって下落するなか、1.7%上昇しました。
今回は、1月の相場動向を受け、米FOMC後および旧正月連休後の中国株の注目点を確認してみたいと思います。
図表1 主な言及銘柄
銘柄 | 株価(1/31) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
長江和記(00001) | 55.20香港ドル | 65.80香港ドル | 48.80香港ドル |
HSBC(00005) | 55.15香港ドル | 55.75香港ドル | 38.30香港ドル |
青島ビール(00168) | 70.00香港ドル | 93.55香港ドル | 57.30香港ドル |
テンセント(00700) | 472.00香港ドル | 752.70香港ドル | 400.08香港ドル |
ペトロチャイナ(00857) | 3.87香港ドル | 4.20香港ドル | 2.32香港ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
1月の世界株式市場は、米利上げをめぐる不透明感を背景に、波乱の展開となりました。世界主要株価指数の月間騰落率を確認してみると、S&P500指数が5.3%下落、ユーロストックス50指数が2.9%下落、日経平均株価指数が6.0%下落と、そろって調整が目立ちました。一方、ハンセン指数は1.7%上昇し、逆行高となりました。
図表2 世界主要株価指数の騰落率(2022年1月と2021年通年)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
一方、2021年通年の騰落率を確認してみると(図表2の下段)、S&P500指数を筆頭に世界主要株価指数は上昇しましたが、ハンセン指数は14.1%下落しました。米国を主導に世界主要国が新型コロナへの対応策として金融緩和を続けた一方で、中国はロックダウンなど厳格な新型コロナ防疫措置とともに、不動産市場やネット大手に対する締め付けを強化したからです。
しかしながら、2022年に入ってからは、「米中の政策逆転」の構図が鮮明になっています。つまり、2022年は「米国が利上げ、中国は利下げ」を実施する可能性が高いです。特に1月の米中金融政策の動向は、それを一層際立たせました。
1/25-1/26に、米国では金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)が開催されました。FOMCの声明文の内容は、おおむね市場予想通りでしたが、FOMC後の記者会見でパウエル議長は「タカ派」寄りの姿勢を示しました。パウエル議長は今後、毎回の会合で利上げを決定する可能性を排除しないとし、前回の利上げ時より早いペースで行動する必要があるとの認識を示しました。「FRBがインフレ高進を抑制するために政策を性急にシフトする」という市場の懸念に対し、パウエル議長は否定しなかったと解釈できます。
一方、中国は米FOMC前の1/20に、重要な政策金利の一つであるローンプライムレート(LPR)を引き下げました。市場で特に注目したのは、住宅ローン金利の指標となる5年物LPRです。なぜならば、5年物LPRの引き下げは、中国当局の方向転換と解釈できるからです。中国当局は2021年に経済の中長期的な構造転換を図るべく、不動産市場やネット大手に対して締め付けを強化しました。しかし、2022年は景気鈍化に対応するため、金融緩和へかじを切り、締め付けを緩める可能性が高まっています。
1月にハンセン指数が逆行高となったのは、上記の「米中の政策逆転」見通しが背景にあると考えられます。したがって、「米中の政策逆転」が続くのであれば、ハンセン指数に対する見直しも続く可能性がありそうです。
ハンセン指数は1月に月間ベースでは上昇しましたが、1/25-1/26の米FOMC前後は、利益確定売りに押されました。パウエル議長の「タカ派」姿勢を受けたリスク回避の動きが、香港市場にも波及しました。また香港市場は、翌週に旧正月連休を控えていたため、利益確定やポジション調整で売りが出やすい時期でもありました。一部の投資家が香港休場中(1/31(後場)-2/3)に世界株式市場が“荒れ模様”になることを警戒しました。
図表3 ハンセン指数の推移
- ※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
特記すべきことは、中国本土投資家による取引が、旧正月連休の関係で1/27-2/4に取引停止となっています。中国本土投資家は、通称「南行きストックコネクト」といわれる中国本土と香港市場の相互取引制度を通じて香港上場株を売買できます。「南行きストックコネクト」の取引は、香港市場全体の売買代金のおよそ1/4を占めており、中国本土投資家は欧米投資家と同様に存在感が高いといえます。
香港市場は旧正月連休明け後、まずは連休期間中の世界株式市場の動きに左右されることとなりそうです。加えて、「南行きストックコネクト」が再開される2/7以降は、中国本土投資家の売買による影響も受けると想定されます。中国本土投資家のこれまでの売買動向や買い越し・売り越し銘柄の詳細については、「中国株 ココがPOINT! 〜旧正月連休後の相場の注目点〜」をご参照願います。
他方、香港市場は1月に米FOMCと中国の利下げ(「米中の政策逆転」見直し)を同時に経験したことを考えると、2022年の縮図として考察する価値がありそうです。時系列でみた場合、ハンセン指数は1月に、主に以下4つの区間で動きが変わりました。
1)年初-1/4:世界主要株価指数が米国の早期利上げ懸念で小幅調整。香港市場は2021年12月中旬から上昇した(中国の金融緩和期待が背景)こともあり、利益確定売りに押された。
2)1/5-1/21:世界主要株価指数が米国の早期利上げ懸念で調整が続いた。香港市場は再び中国の利下げ期待で買われた。主に2021年に大きく調整した業種や銘柄を中心に見直し買いが入った。
3)1/24/-1/28:米FOMC前後に米利上げをめぐる不透明感から世界株式市場が波乱。世界的にリスク回避の動きが強まるなか、旧正月連休を控えた香港市場は2)の時期に上昇した銘柄を中心に利益確定売りに押された。
4)1/31:米利上げをめぐる不透明感は残るものの、世界株式市場で押し目買いの動きがみられた。香港市場はネット大手に対する中国当局の前向きな声明も報じられ、ネット大手株を中心に買い戻された。旧正月連休明け後の中国株は上昇する可能性があると現地紙が報じたことも、投資家センチメントを支えたもよう。
このようにみると、ハンセン指数は中国の利下げ期待で上昇した後、利益確定売りに押され、調整が一巡した後は再び上昇トレンドを取り戻しました。しかしながら、世界的にリスク回避の動きが強まる時は、大きく調整しました。ただし、調整時(上記の3)の時期)は旧正月連休を控え、換金売りが出やすい時期でもありました。
なお、足元で2022年の「米中の政策逆転」見通しに同調する世界的な大手証券会社が増えています。特に1月の世界株式市場の混乱を経て、香港市場の底堅さが注目を集めています。1月のハンセン指数の動きからすると、香港市場は米国の利上げの影響をまったく受けないとは限りません。しかしながら、昨年の大幅調整を経て割安になっていることに加えて、中国の金融緩和を支えにバリュエーションの修正は続く可能性があります。2022年は世界株式市場で不透明感が増していることからすると、リスク分散という意味でも、中国株に連動するETF、たとえばハンセン指数に連動するTracker Fund香港(02800)などをポートフォリオに組み入れることも考えられるでしょう。
一方、個別銘柄を考える際、2022年は世界的に金利が上昇する可能性が高いことからすると、株価収益率(PER)が高い銘柄や赤字企業などには注意が必要かもしれません。なぜならば、金利が上昇すると、企業が将来的に生み出す収益の現在価値は目減りし、投資家のリスク許容度も低下しかねません。したがって、高PER銘柄は“成長ストーリー”だけで投資家を惹きつけることが難しくなり、それなりの業績を上げる必要があります。つまり、投資家はこれまで以上に企業の決算内容(実績と見通し)に対して厳しく評価することになります。
なお、中国企業の決算発表は、米国や日本より遅く、決算シーズンは3月となる予定です。決算発表のピークは3月下旬となるため、旧正月連休明け後から3月中旬までは、決算以外の材料が相場動向を左右することとなりそうです。その際、1月の相場動向が参考になるかもしれません。
1月の香港市場の上昇をけん引した銘柄群を確認してみると、2つの特徴がありました。
1)2021年に中国当局の規制強化で大きく下落した銘柄に、見直し買いが入った。
2)比較的PERが低い銘柄が買われた。
1)は、主に中国の金融緩和が背景と思われます。詳細は、「≪香港市場が年初から反発≫ 〜とりあえず押さえておきたい中国株ETF〜」の【1】の部分をご参照願います。2)については、米国の利上げ観測を背景に、投資家のリスク許容度が低下したことが背景と考えられます。2022年は世界的に金利上昇の可能性があることを考えると、香港市場でも低PER銘柄への注目は続く可能性があります。
図表4は、以下の条件(*)を基に抽出した銘柄群です。(*予想はブルームバーグの集計です)
1)ハンセン総合指数の構成銘柄のうち、SBI証券で取り扱っている銘柄
(ハンセン総合指数は香港メインボードに上場する企業株の時価総額の約95%をカバー)
2)時価総額が300億香港ドル以上
3)予想PERが30倍以下で、かつ過去5年平均PERを下回る
4)予想EPS長期(3-5年)成長率が10%以上
5)一株当たりのフリーキャッシュフロー(FCF)がプラス
図表4 上記の抽出条件に該当する銘柄群(銘柄コード順、1/31時点)
銘柄コート | 銘柄名 | 予想PER | 過去5年 平均PER |
予想EPS 長期成長率 |
21.12期予想 EPS成長率 |
株価 (1/31) |
52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
(倍) | (倍) | (%) | (%) | (香港ドル) | (香港ドル) | (香港ドル) | ||
00001 | 長江和記 | 6.2 | 8.6 | 10.3 | 18.2 | 55.20 | 65.80 | 48.80 |
00005 | HSBC | 9.9 | 40.8 | 53.0 | 137.0 | 55.15 | 55.75 | 38.30 |
00017 | 新世界発展 | 10.7 | 39.5 | 15.8 | 219.0 | 31.70 | 43.00 | 29.30 |
00023 | 東亜銀行 | 8.2 | 19.2 | 21.5 | 67.5 | 13.28 | 19.50 | 10.88 |
00135 | クンルンエナジー | 11.3 | 25.9 | 16.5 | -17.2 | 8.04 | 9.00 | 4.83 |
00144 | 招商局港口 | 6.9 | 8.1 | 10.6 | 75.3 | 14.36 | 15.28 | 10.38 |
00168 | 青島ビール | 27.0 | 42.3 | 17.1 | 30.0 | 70.00 | 93.55 | 57.30 |
00220 | 統一企業 | 17.6 | 25.5 | 13.0 | -9.4 | 7.35 | 10.46 | 6.14 |
00288 | 万洲国際 | 8.0 | 12.5 | 17.5 | 52.1 | 5.20 | 7.55 | 4.66 |
00386 | シノペック | 5.4 | 10.7 | 21.0 | 127.5 | 4.08 | 4.69 | 3.40 |
00522 | ASMパシフィク | 10.7 | 36.4 | 13.8 | 82.4 | 77.40 | 127.30 | 76.05 |
00700 | テンセント | 28.1 | 35.7 | 10.7 | 8.1 | 472.00 | 752.70 | 400.08 |
00762 | チャイナユニコム | 6.8 | 88.8 | 12.5 | 20.5 | 4.11 | 5.50 | 3.82 |
00857 | ペトロチャイナ | 6.3 | 43.2 | 41.4 | 796.6 | 3.87 | 4.20 | 2.34 |
00868 | 信義ガラス | 7.3 | 9.7 | 22.6 | 78.0 | 20.55 | 34.20 | 17.10 |
01093 | 石薬集団 | 16.4 | 29.4 | 11.8 | 14.8 | 9.45 | 12.68 | 7.73 |
01177 | 中国生物製薬 | 7.9 | 35.4 | 23.1 | 233.7 | 5.36 | 9.69 | 5.21 |
01299 | AIA グループ | 19.4 | 23.3 | 11.2 | 7.2 | 80.65 | 106.20 | 77.40 |
01929 | 周大福珠宝 | 19.3 | 20.5 | 18.8 | 13.1 | 13.64 | 18.25 | 9.21 |
02600 | 中国アルミ | 8.5 | 81.7 | 73.0 | 1307.1 | 4.11 | 7.49 | 2.45 |
03998 | 波司登 | 14.5 | 15.1 | 20.4 | 33.3 | 3.79 | 6.93 | 2.99 |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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