中国株の代表格の一つであるアリババ(BABA)が、「アント事件」以降初めて決算発表後に株価が上昇しました。それをきっかけに、中国のネット大手株がそろって反発しました。足元では、中国当局による滴滴出行ADR(DIDI)の調査終了観測やゲームの認可が好材料となり、ネット大手に対する見直し買いが続いています。今回は、一連の動きとネット大手の決算動向を確認します。
図表1 主な言及銘柄
銘柄 | 株価(6/7) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
ピン多多 ADR(PDD) | 53.75米ドル | 133.81米ドル | 23.21米ドル |
綱易(09999) | 160.80香港ドル | 188.90香港ドル | 108.30香港ドル |
美団(03690) | 199.00香港ドル | 338.00香港ドル | 103.50香港ドル |
百度(09888) | 143.40香港ドル | 200.00香港ドル | 99.00香港ドル |
快手(01024) | 85.00香港ドル | 214.60香港ドル | 53.15香港ドル |
アリババ(09988) | 98.80香港ドル | 225.00香港ドル | 71.00香港ドル |
JDドットコム(09618) | 238.80香港ドル | 356.50香港ドル | 156.37香港ドル |
テンセント(00700) | 367.60香港ドル | 593.52香港ドル | 297.00香港ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
アリババ傘下のアント・フィナンシャルが2019年11月に上場延期となってから、中国当局はネット大手に対する規制を強化してきました。2021年4月にはアリババに対し、独占禁止法違反で巨大な罰金を課しました。規制強化の影響もあり、アリババは業績不振が続き、決算発表を行うたびに株価が下落しました(図表2)。株価収益率(PER)も低下傾向が続きました。しかし、5/26(米国市場寄り前)に決算を発表した後、アリババの株価は急反発しました(図表2の赤い点線で囲んでいる部分)。1-3月期の売上高や調整後EPS(一株当たり純利益)が市場予想を上回り、ポジティブ・サプライズとなりました。
図表2 アリババ(BABA)の決算発表後の株価変化率、調整後EPSサプライズ、PERの推移
(横軸は決算発表日、調整後EPSは各四半期、サプライズは対市場予想比)
※Bloombergおよび各種資料をもとにSBI証券が作成
アリババが決算発表を行った後の最初の取引日に、米国市場と香港市場ではアリババだけでなく中国のネット大手がそろって反発しました。アリババと同日に決算を発表した百度の1-3月期売上高も市場予想を上回ったこともあり、ネット大手全般に対する見直し買いがみられました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は7.6%上昇、香港上場の中国ハイテク株で構成されるハンセンテック指数は3.8%上昇しました(注:いずれもアリババが決算発表を行った後の最初の取引日の騰落率です)。
図表3 HXC指数とアリババ(BABA)と、ハンセンテック指数とアリババ(09988)の推移(年初来)
※Bloombergおよび各種資料をもとにSBI証券が作成
その後も、両指数は続伸しました。中国当局による一連の経済支援と上海のロックダウン解除が株高を支えました。また、ネット大手への締め付けの終了を示唆する出来事も、投資家センチメントの好転につながりました。6/6のウォール・ストリート・ジャーナルは、「中国当局は滴滴出行ADR(DIDI)に対する調査を終了し、今週中にも同社のアプリをアプリストアに戻す準備をしている」と報じました。滴滴出行はアリババに次いで規制強化の“重点対象”として認識されているだけに、上記の報道でネット大手への締め付け終了に対する期待につながりました。さらに、中国当局は6/7(引け後)に4月に続き、今年2度目のゲーム認可を発表しました。一連の動きからすると、ネット大手の重石となっている「規制強化リスク」はかなり低下したと言えそうです。
年初来のHXC指数とハンセンテック指数の推移を確認してみると(図表3)、ウクライナ危機や米中対立、中国ADRの上場廃止リスクなどが相まって、両指数はいずれも3月中旬に大幅安となりました。その後、中国ADRの上場廃止リスクに対する過剰反応が修正され、両指数は一旦反発しましたが、5月中旬に「2番底」を試す展開となりました。しかし、中国当局がネット大手に対する締め付けの「早期終了」を示唆し、同時に一連の経済支援策を打ち出すと、両指数は再び上昇に転じました。その後、利益確定売りによる戻り売り局面を経て、5/26以降はアリババや百度の決算をきっかけに反発しました。
主要ネット大手の1-3月期決算の対市場予想比は、下記の通りです。
図表4 1-3月期の売上高と純利益(調整後)サプライズ(対市場予想比、%)
主力分野 | 売上高サプライズ | 調整後純利益サプライズ | |
---|---|---|---|
ピン多多 ADR(PDD) | EC | 15% | 59% |
綱易(09999) | ゲーム | 4% | 7% |
美団(03690) | フードデリバリー | 2% | 22% |
百度(09888) | 検索エンジン | 2% | 119% |
快手(01024) | ショート動画 | 2% | 13% |
アリババ(09988) | EC、クラウド | 2% | 16% |
JDドットコム(09618) | EC、物流 | 1% | 56% |
テンセント(00700) | ゲーム、フィンテック | -4% | -4% |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
全般的にみて、ネット大手の1-3月期の売上高と純利益(調整後)はほとんどが市場予想を上回りました。中国経済の減速やネット大手に対する中国当局の締め付けを背景に、ネット大手の業績予想をめぐり、大幅に下方修正されてきたことが背景と考えられます。つまり、市場はネット大手に対し、過度に悲観的な予想を行った可能性があります。
市場の一部ではネット大手の業績の最悪期は過ぎたのか、との議論も出てきています。上海のロックダウンが4-6月期の企業業績に大きな影響を与えた可能性が高いことを考えると、業績が最悪期を脱したと判断するのは無理があるかもしれません。しかしながら、今回の決算発表後の株価反応からすると、ネット大手に対するセンチメントの転換があったことは事実と言えそうです。「アント事件」以降、HXC指数とハンセンテック指数がともに高値から6割下落し、株価収益率(PER)も大幅に低下したことを踏まえると、ネット大手および「アント事件」の影響を受けた中国株に対する見直し買いは続く可能性があります。
図表5 HXC指数とハンセンテック指数の主要構成銘柄の株価変化率
HXC指数の主要構成銘柄(構成銘柄93のうち時価総額上位15銘柄、2021年末時点) | |||
---|---|---|---|
銘柄コード | 銘柄名(Bloomberg) | アリババ決算発表後 -6/7の株価変化率 |
2021年の株価変化率 |
PDD | ピン多多[ピンドゥオドゥオ] | 55% | -70% |
BILI | ビリビリ | 45% | -76% |
NIO | 蔚来汽車[ニオ] | 34% | -46% |
BEKE | KE Holdings Inc | 34% | -78% |
LI | 理想汽車[リーオート] | 33% | 3% |
XPEV | 小鵬汽車[シャオペン] | 27% | -24% |
BABA | アリババグループ・ホールディング | 27% | -52% |
BIDU | 百度[バイドゥ] | 26% | -39% |
JD | JDドットコム | 23% | -31% |
TCOM | 携程旅行網[トリップドットコムグループ] | 19% | -42% |
ZTO | ZTOエクスプレス | 9% | -14% |
LFC | 中国人寿保険 [チャイナ・ライフ・インシュアランス] | 8% | -27% |
PTR | 中国石油天然気 [ペトロチャイナ] | 7% | 40% |
NTES | 網易[ネットイース] | 6% | -13% |
SNP | 中国石油化工 [シノペック] | 4% | -6% |
ハンセンテック指数の主要構成銘柄(構成銘柄30のうち時価総額上位10銘柄、2021年末時点) | |||
銘柄コード | 銘柄名(Bloomberg) | アリババ決算発表後 -6/7の株価変化率 |
2021年の株価変化率 |
03690 | 美団[メイトゥアン] | 25% | -48% |
01024 | 快手科技 | 25% | -73% |
09888 | 百度[バイドゥ] | 24% | -34% |
09988 | アリババグループ・ホールディング | 22% | -49% |
09618 | JDドットコム | 21% | -27% |
00700 | 騰訊控股[テンセント・ホールディングス] | 10% | -37% |
01810 | 小米集団[シャオミ] | 7% | -46% |
02382 | 舜宇光学科技[サニーオプチカル・テクノロジー] | 7% | -29% |
09999 | 網易[ネットイース] | 3% | -9% |
06690 | 海爾智家[ハイアールスマートホーム] | 3% | -18% |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。